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効き過ぎちゃって…… その2

 天界からやってきて、スアに『勝手に神界に出入りしないでね』ってお願いしに来たマルン。
 渋々とはいえ、スアがそれを了承しましたのでもうお仕事は終わったはずなんですけど、なんかですね、スアの机の上を見つめながら固まっているんですよね。
 
 で、

 そんなマルンに業を煮やしたスアはですね、
「……用事済んだ、よね? なら、帰って……即」
 そう言うと、マルンの背中に向かって右手を向けたんですが、一瞬その手の前に魔法陣が出現したと思った次の瞬間
「うわぁ!?」
 って、マルンが悲鳴を上げながら転移ゲートの向こうに吹っ飛んでいきました。
 で、スアがそのまま手をグッと握るのと同時に、マルンが発生させていた転移ゲートが一瞬にして消え去ってしまいました。
「……え?……い、いいの、これ?」
 僕は、目の前で起こった光景を思い出しながら額に冷や汗を浮かべていました。
 い、いや、だってですよ……よくわかりませんけど……相手、なんか神界がどうのこうの言ってましたよ?
 あんた神様ですかい?
 とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ……の、あの神様なんじゃないんですかね?
 ……と、僕が頭の中でぐるんぐるん考えを巡らせているとですね、
「……旦那様は気にしなくていい、の」
 スアがそう言いながら僕に抱きついて来ました。
「……それよりも、ね」
 そう言って僕に向かって目を閉じるスア。

 ベッドの上×スアのおねだり顔=はい、もう我慢出来るはずがありません。

 と、いうわけで、ここからはいつものように黙秘させていただきますね。

◇◇

 と、まぁ、珍客があったものの、無事いたすことに成功した僕とスアは、いつものように寝室のベッドに戻って、子供達と一緒に眠りにつきました。
 めでたし、めでたし。

「なぁにがめでたしめでたしですか!」
 翌朝、僕はマルンの怒鳴り声で目を覚ましました。
 僕の体には、最近のお約束どおりパラナミオが抱きついたまま寝息をたてています。
 で、僕はマルンに向かって、右手の人差し指を立てて、静かに!って意思表示を行いました。
 するとマルンは、慌てて自分の口を押さえてですね『申し訳ありません』とばかりに頭を何度も下げてきました……どうやら、悪い人ではないようですね。
 で、マルンは声を潜めながら僕に向かって言いました。
「ひどいじゃないですか! まだ話が終わっていませんでしたのにいきなり神界に送り返したばかりか、勝手にゲートまで閉鎖しちゃうなんて! あのゲートって、一度閉じちゃうともう一回作るまでに数時間かかっちゃうんですよ!」
「……いや、確かにあれは申し訳ないことをしたと思うけどさ……でも、君もちょっと非常識じゃないか?」
「わ、私がですか?」
「そう。だってさ、これから僕とスアがいたそうとしている寸前に、その寝室に現れたんだよ? さすがにそれはちょっとどうかと思わないか?」
「い、一応お子様は寝静まるまで待たせて頂きはしたのですが……」
 マルンはそう言うと、首をかしげました。
「……すいません、その……『いたそうとしている』って、何をなさろうとしていたのですか?」
 そう言うマルンを、僕は真正面から見つめました。
 どうもマルンは、真顔のようです……本気で、あの場で僕とスアが何をしようとしていたのかわかっていないようです。
 で、僕はですね、周囲に子供達も寝ていますので、マルンの耳元に口を寄せて、英語三文字片仮名4文字のあの言葉をはっきり伝えていきました。
 すると、マルンはしばしその場で呆けていたのですが、
「へ?……せ、セック……」
「それ以上はいけない」
 僕は大慌てでマルンの口を押さえました。
 っていうか、せっかくこっそり話したっていうのに、なんで口に出していっちゃうかなぁ……
 僕がそんなことを考えながら眉をしかめていると、どうやらマルンってば、ようやくその言葉の意味がわかってきたみたいで、半分幼女の方の顔を真っ赤にしてですね、
「そ、そ、そ、それはとんだ失礼をば~」
 って、言いながら、いきなり土下座をしていきました。
 ……まさか、素でわかってなかったとは驚きでしたけど……その行為に対してここまで大袈裟に反応するって、神界の人って結構ウブなんですかね?
 で、真っ赤になって慌てふためきまくっているマルンはですね、
「ほ、ほ、ほ、本当にすいませんでしたぁ」
 って、何度も何度も頭を下げながら、今度は自分からゲーヲをくぐって神界に帰っていってしまったんですよね。
 ゲートもかき消えましたので……これでまた数時間これなくなるわけでしょう。
 ……しかし、マルンってば、なんでまたやってきたんだろう?
 僕は、腕組みしながら考え込んでいきました。

 で

 その謎が解けたのは夕方になってからでした。
 この日の仕事を終えた僕にスアが教えてくれました。
「……マルンは、ね……この粉薬を譲ってほしいって言いに来たんだと思う、わ」
 スアによりますと、スアが乳鉢ですり下ろしていた厄災魔獣の肉ってですね、なんかすごい効能を有しているそうなんですよ。
 赤ちゃんがすごく早く産まれたり、アルトがいきなり自我を持ってて思念波を使えて転移も出来やってるみたいに、確かに思い当たる節がありあまっているんですけどね。
 これって、スアが厄災魔獣の肉から精製した粉薬を
「……赤ちゃんの体にもいいはず、よ」
 って言いながら服用してたからに他ならないわけです。
 で、簡単そうに厄災魔獣の肉をすり下ろしていたスアなんですけど、すっごい魔力を放出しながらその作業をしていたそうなんですよ。
 逆を言えば、スアのような伝説の魔女が、すさまじい魔力を駆使しないと精製することが出来ないってことですよ。
 で、なんでも
「……この粉薬はね、神界人でも作成出来ない、の」
 って、スアは言いました。
「じゃ、何かい? 神界人も欲しがるほどの薬なの?これって?」
「……うん、そうみたい、ね」
 スアの研究室の中、その机上の乳鉢を指さしている僕に、スアはそう言うとコクンと頷きました。
 で、僕とスアがそんな会話をしているとですね、不意に部屋の中央に転移ゲートが出現しまして、
「そうなんですよぉ」
 って言いながら、三度マルンが出現してきました。
 で、マルンは、なんか僕とスアが研究室の中で2人だけなもんだからか、慌てた様子になりながら、
「あ、あの……ご、ご主人、今は、その……よ、よかったのかしら?」
 って、僕とスアがこれからいたそうとしていたのではないかと思ったらしく、しどろもどろになっていきました。
 で、まぁ、ここでさらにからかうのはさすがに可哀想過ぎるかと思いまして、
「うん、今は大丈夫だよ」
 そう返答しました。
 するとマルンは安堵のため息をもらし、
「よ、よかったです……」
 そう言ってマルンは、心の底から安堵したようです。

 で、マルンはですね、
「ステルアムさんが申されましたとおり、その粉薬は神界人でも精製出来ない貴重な薬なのです。よかったらお譲り頂けると嬉しいのですが……」
 満面の笑みを浮かべながら、揉み手までしつつボクとスアにすり寄ってきました。

 端から見たらすごい光景でしょうね。
 どう見ても、天使か悪魔にしか見えないマルンが、へこへこしながら僕とスアに揉み手をしながらすり寄ってきてるんですからねぇ。

「で、まぁ、卸売りしてほしいってことなんだよね、これって……」
 僕が腕組みしながらそう言うと、
「卸売りとお聞きしましたので参上いたしましたわ」
 と、店にある転移ドアの方から、おもてなし商会ティーケー海岸店のファラさんがすごい勢いで駆けてくるではありませんか。
「どなたですか? あちらは?」
「あぁ、コンビニおもてなしの仕入と卸売りの担当をしてくれているファラさんだよ」
 僕がそうマルンにそう説明すると、マルンはその目を輝かせました。
「と、いうことは、彼女を説得すればあの粉薬を私に譲って頂けるわけですね?」
 と、元気に言ったマルンなんですけど……

 相手……ファラさんですよ?

 あの、百戦錬磨のドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコを相手に回して今まで一度も値段交渉で負けたことがないファラさんですよ?

 結局マルンは、ですね、
「そ、その額になると、私の一存では準備出来ません……同等品もしかりでございます……」
 なんか、涙を流しまくりながら、一度上司と相談してくると言って三度神界に帰って行ってしまいました。
 で、そんなマルンが消えていったゲートを見つめながらファラさんは不服そうな表情を浮かべていました。
「情けないですねぇ……こんだけ譲歩してあげましたのに、そんな権限も持ち合わせていないなんて……」

 ……い、いったい、ファラさんってば、どんな条件を出したんでしょうねぇ……

 僕は、そんなことを考えながら、乾いた笑い浮かべるのがやっとだったわけです、はい。

 ちなみに、この粉薬ですけど、効果が強すぎるってことで今のところ市販予定はないんですけどね。

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