効き過ぎちゃって…… その1
コンビニおもてなしの主力商品の1つに、スアの魔法薬があります。
この薬は、擦り傷なんかを治すための軽度な治癒薬から、大物になると体の欠損を修復したり死者を蘇生させることが出来る大物まであったりします。
まぁ、死者の蘇生といいましても限界はあるそうです。
例えば老衰で亡くなった方には効き目がありません。
これは、蘇生させても魂が宿るべき肉体がすでに役目を終えているためなんだとか。
欠損にしても、欠損してから時間が経ちすぎていると症状固定になってしまって効き目がなくなってしまうんだとか。
当然、こんな超強力な効能を有する魔法薬なんで、コンビニおもてなしでも相応の値段で販売されています。
ですから、こういった高額商品は、薬瓶を使用しようとしている死者や、欠損している患部に近づけるだけで効果があるかどうか見極めることが出来るようになっています。
具体的に言いますと、効果がある場合は薬瓶が青く光り、効果がない場合は薬瓶が赤く光ります。
で、買って帰って効果がないと判定されたお客さんには、薬の返品を受け付けています。
そこまでアフターケアをしているおかげで、コンビニおもてなしで販売している魔法薬は大好評でして高額な薬も飛ぶように売れているんです。
で、魔法薬はですね、コンビニおもてなし3号店があります魔法使い集落に住んでいる魔法使いの皆さんが作成したものを買い取って、それの販売もしています。
この薬は、スアが品質をしっかりチェックした上でお店に並べていますし、チェック済みの証としてスアが使用している特殊な薬瓶に移し替えて販売しているんです。
で、そのことは商店街組合のエレエを通じて王都をはじめとした各地の商店街組合に周知済みです。
ですから、どこかの上級魔法使いが『コンビニおもてなしで認可されてる薬なのよぉ』って偽って販売しようとしてもすぐにバレる仕組みになっています……そういえば、あのオーッホッホッホなおばさま達、最近見かけないけど、生きてるのかな?
で、そんな薬を作成しているスアですけど、時々
「……じゃ、薬草をとってくる、ね」
と言ってふらっと出かけることがたまにあります。
まぁ、いつも数時間で戻って来ますので特に心配はしていないんですけどね。
で、いつもは肩出しミニスカな服を着てローブで羽織っているスアなんですが、この時は尖り帽子と外套で完全武装してお出かけしていきます。
で、帰ってくると、よく尖り帽子にいっぱい薬草をぶら下げて帰ってくるんですけど、スア曰く
「……薬草を干してる、の」
だ、そうなんですよね。
そんなこんなで、あちこちから薬草を入手してきては、コンビニおもてなしで販売するための薬を調合・作成してくれているスアなんです。
で
ここまでが、前置きになります。
ここからが今日の本題です。
今は夜。
子供達はすでに寝室のベッドの上で寝ていまして、ボクとスアはいつものようにスアの研究室に移動してですね、そこにある簡易ベッドで子作りに励もうとしていたのですが、そこに先客がいました。
その人……っていうか、人じゃないですね……
スアの研究室の中……その空中に浮かんでいたのは……体の半分が幼女で、もう半分が骸骨の姿をしていて、服は着ていません。
その体にボロボロの外套を羽織っていて、手にはでっかい鎌を持っています。
僕の脳裏には即座に『死神』の文字が浮かんだのも、しょうがないと思いませんか?
で、そいつはですね、
「ステルアムさん……」
スアへ視線を向けてそう言ったかと思うと、
「あのね、ステルアムさん、前からいつも言っているでしょ? 神界に来るなとは言いませんから、せめて事前の申請は欠かさないでくださいって……下部世界の住人が勝手に神界に出入り出来るなんて、本来あり得ないことなんですから……こんな勝手なことを何度もされちゃったらですね、このマルン、ほんっとに困るんですって、いつも言ってるじゃないですか」
……なんかですね、見た目とは裏腹に、妙に低姿勢でへこへこしながらスアに向かって何度も頭を下げてきたんですよ……
「……スア……こ、この人、知り合い?」
僕が呆気にとられながら聞くと、スアは
「……あのね、天界のね、世界統治官とかいう、下っ端役人」
そう言いました。
で、それを聞いたマルンって名乗った人なんですけど、ガクっと崩れ落ちまして
「あ、あの……た、確かに下っ端役人ですけど……そう面と向かって言われるとですね……」
なんか、困惑仕切りの様子になっちゃったわけです、はい。
で、まぁ、話を詳しく聞いたところによりますと……
スアはですね、いろんなところに薬草を採取しに行っているそうです。
それは、この世界のどこかだけではなく、異世界にもちょこちょこ出向いているそうです。
で、その行き先のひとつに、神界の下部世界であるドゴログマって世界があるそうなんですけど……
「本来ですね、下部世界の住人の方がですね、神界の下部世界であるドゴログマに自力で転移出来るはずがないんです……結界が張られていますし、複雑な転移魔法を使用する必要がありますし……」
マルンは、額に手をあてながらそう言うと、
「ところがですね、アナタの奥さまは、独学でそのドゴログマへ転移する魔法を開発したばかりか、結界をもあっさり無効化してですね、しょっちゅうドゴログマに不法侵入しては薬草を採って帰っているのですよ」
「え? そうなの?」
僕が唖然としながらスアへ視線を向けると、スアはですね、なんか胸を張ってドヤ顔をしています。
これはあれです、間違いありません。
『どう? すごいでしょ? 褒めて褒めて』
って、言ってる顔です。
で、僕はそんなスアをですね、
「うん、すごいすごい」
そう言いながら頭を撫でていきました。
するとマルンはそんな僕とスアを見つめながらですね、
「……あの、確かにすごいのですが……神界の沽券に関わりますので、必ず事前に許可を取った上で……もちろん秘密裏にですけど……その上でドゴログマに入ってくださいと何度も何度もお願いしているのですが……ステルアムさんはですね、いつもひょこっと出没してはひょこっといなくなるもんですから、ここを管轄している者達がみんな困惑しまくっているんです……」
そう言って、大きなため息をつきました。
「スア、なんで事前に許可とらないの?」
僕がそう聞くと、スアは露骨に嫌そうな顔をしてですね、
「……だって、申請してから許可出るまで、遅い、の……お役所仕事、嫌い」
そう言いました。
うん、それには僕も激しく賛同します。
で、僕がスアに向かってうんうんと頷いていると。
「だ、旦那さんも納得しないでくだい! ステルアムさんの案件を秘密裏に任されている私の身にもなってくださいってば」
なんか、泣きそうな顔をしながらそう言ってきた次第です。
で、その後ですね、喧々囂々話合いが続いた結果、
「……はいはい、申請します、よ」
スアは、不満そうな表情をうかべながらも、ようやくそう言いました。
で、その言葉を聞いてようやくマルンも安堵のため息をもらした次第です。
「とにかく、少しでも早く認可がおりるよう配慮しますから」
マルンは、そう言うと鎌を一振りしました。
すると、マルンの目の前に大きな転移ゲートが出現しまして、
「では、私はこれで……」
マルンはそう言って転移ゲートに手をかけたんです……が
「あら?」
マルンは、ゲートに手を掛けたまま、空中で固まりました。
なんか、スアの研究机の方を見つめて固まっています。
スアの机の上には、乳鉢が置かれているんですけど……はて? 何かあったんですかね?
で、スアはスアで、
『……早く帰ってくれないと、旦那様といたせないじゃない、の』
って、顔をしながら僕に抱きついているわけでして……