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欲望の対価

 効果は直ぐに表れる。
 近くに居たエイビス経由で魔物避けの香のレシピやその効能、ついでに注意事項を人々に伝えさせると、実際に魔物避けの香が完成するまであまり時間は掛からなかった。
 それからその魔物避けの香が使用され効果を確かめられたところで、早速地下迷宮の攻略に使用されることになる。
 魔物避けの香が本格的に導入された頃には既に町近くの地下迷宮は五層目を攻略中であったが、未だにポータルが見つかっていなかったのでとても歓迎された。
 その最前線の攻略組は、魔物避けの香を導入した探索で一気に八階層目まで潜ることに成功する。それにポータルも見つけたので、今後は攻略速度が増していくことだろう。
 別の地下迷宮の攻略も同様に一気に進んだらしく、更なる増産が求められた。地上を探索している者達も、魔物に教われる回数が激減したということで、今までよりも遠くに足を伸ばすことが出来たらしい。その先で新たな地下迷宮を見つけたらしいが。
 もっとも、地下迷宮は物資を豊富に運んでくれる場所として魅力もあるので、新しい地下迷宮に期待を膨らます者達も居たようだが。
 そういった結果から、エイビスは薬神としての信仰も向けられるようになる。
「………………」
 ただその効果にれいは満足したものの、その副産物と言えばいいのか、町近くに在る地下迷宮に関しては、地下迷宮の核であるダンジョンクリエーターの討伐が禁止されてしまった。物資供給のためにもっとも近い場所は残しておきたくなったらしい。
 これは地下迷宮の攻略が容易になったと勘違いした上の者達の総意なのだろう。今のところはれいが抑えているので、地下迷宮からの脅威は中に入らない限りは起こっていないのも原因かもしれない。
 れいはその地域におけるダンジョンクリエーターの制限を一斉に解除する。地下迷宮を殺すかどうかはその場所に住まう者達が決めればいいと判断したので、そのことについては別にいいのだが、魔物避けの香が導入されたので問題なく地下迷宮の最下層に到達出来るだろうという判断を下しただけ。
 ハードゥスでのダンジョンクリエーターの成長はかなり早いのだが、それでも今なら問題なく最下層に到達出来るし、ダンジョンクリエーター自身もそこまで育っていないので強くはない。
 最下層まで辿り着くのに必要な手段を与え、攻略者の強さも確かめたので、地下迷宮を攻略するのは問題ないだろうと判断したというわけ。
 それに、れいとしてもダンジョンクリエーターに制限を設けていたのは不本意でしかなかったので丁度良かったのだ。
 ちなみに、その間にもダンジョンクリエーターの在庫は少しずつ増えていた。攻略する側がなかなか増えないのが、れいの目下の悩みである。
 現状を確認しながら、そういった微調整を加えていく。今のところハードゥス最初の町が在る地域だけはれいとしても満足のいく環境なので、それをモデルに他の地域でも頑張ってもらいたいところ。
 それでも、まだ北の森にまで到達出来ていないので、そちらはそちらで課題はあるのだが。
 可能な限り漂着したモノだけで構成されている世界を目指しているので、現状はやはりなんとももどかしい。最初の頃は何だかんだで上手く回っていたので、それが余計にもどかしさを助長する。
 次はどうしようかとれいが考えていると、懐かしい感覚を捉えた。
「………………ふむ。これは誕生までいきそうですね」
 それはペット候補の誕生。現在は外の力が薄くなっているのでそれほど強力な存在は生まれないだろうが、それはれいが成長するように弄れば問題ないだろう。
 どんな存在が生まれるのだろうかと、れいは今から楽しみにする。生まれる存在の力が弱い分、誕生までそれほど時間は掛からないだろう。
 漂着物を集めた一角がかなり拡張されたとはいえ、ペット区画の広さは比べるのも馬鹿らしいほどに広いので、何が来ても飼うのは問題ない。
「………………名付けが大変そうですね」
 どんな名前にするかはまだ誕生もしていないので何とも言えないが、それでもまた悩むのは確実だろう。だが、それはそれで楽しみであった。
「………………さて、そうなると近いうちにラオーネ達に伝えておかなければなりませんね。まぁ、気づいているとは思いますが」
 れいはペットを受け入れる段取りを頭の中で組んでいく。次はどんな姿をしているのだろうかと思い、モンシューアよりも大きかったらどうしようか、などと想いを馳せながら楽しげにあれやこれやと準備を進めていく。
 ペット候補が誕生した時にペット候補の許に移動するのは、主人を教えるためにもハードゥスの管理者をしているれい本人でなければならないので、同時に僅かな間とはいえ、ハードゥスを離れる準備も進めておかなければならなかった。

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