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クルちゃんと惑星ジェルダ Fractal.1

 
挿絵


「ふぅん? 今回の目的地は、アレ(・・)?」
「そう……アレが〈惑星ジェルダ〉」
 リンちゃんとクルちゃんは、徐々に大きくなってくる緑の惑星へと見入っとった。
 ツェレークのブリッジや。
 次空座標は、2(フラクタル)\1(ブレーン)次元(ディメンション)やて。
 何や?
 今回は〝お隣さん〟やんね?
 それぐらいウチでも(わか)るよ?
 えへへ ♪  ウチ〝(かしこ)さん〟や ♪
「んで? どんな惑星よ?」
「豊かな自然に恵まれた惑星……種々様々な原生生物が共生している」
「ふ~ん? つまりは〈惑星テネンス〉のような?」
「大別的には同類型。ただし、微々たる差も()る」
「例えば?」
「文明レベルは低く、高度知性体も存在しない。加えて、原生生物の種類は雑多。危険レベルも高い」
「要するに?」
「もっと原始的」
「なるほど」
「あ、そういえば……クルちゃん? あんな? 〈ネクラナミコン〉って、全部で何個あるん?」
「あ、そういえばそうよね。いままで漠然と集めてたけど……」
「全部で六つ」
「って事は、現状アタシらが持っているのは三つだから……あと三つか。丁度、半分じゃん?」
「天条リン、そうではない。ドクロイガーが、ひとつ所有しているので、あと(ふた)つ」
「アンニャロー! しれっと持ってたか!」
 簡潔な補足説明を紡ぎ終えると、クルちゃんはジッと惑星へ見入った。
 いつもと同じ無感情やけど、ウチにはそう見えたねん。
 何や感傷的に浸っとるような……。
「天条リン、()(さき)モモカ……」ややあって振り向いたクルちゃんは、ウチとリンちゃんに静かなる決心を告げた。「今回は、私一人(ひとり)で行く」




「ザケんなッつーの!」 
 惑星降下しての第一声が、リンちゃんの憤慨(ふんがい)やった。
 深い森林に〈宇宙航行艇(コスモクルーザー)〉を着陸させると、ウチとリンちゃんは緑草の浅瀬に脚を沈める。
 結構、乱雑に生い茂っとるねぇ?
 この辺、説明通りや。
 ハッちゃんの故郷〈惑星テネンス〉が〝拓けた自然〟やとしたら、此処〈惑星ジェルダ〉は〝未開のジャングル〟いう感じやった。
 見渡す限りの樹々は巨大に育ち、蛇を思わせる(つた)が洩れなくブラ下がっとる。南国植物のように厚い葉がカーテンのように日照を邪魔立てて、森の中は少々薄暗い。
 一番イヤなんは、地熱が隠って蒸し暑い事やった。
 せやから、ウチとリンちゃんはベルトバックルに据えたパモカを操作して〈PHW〉の『体感温度調整機能』をオンにする。
 これで常時快適や ♪  えへへ ♪
「ったく! 何が『今回は、私一人(ひとり)で行く』だ! ワンマンプレイにも(ほど)があるッつーの!」
「えへへ ♪ 」
「な……何よ?」
「リンちゃん、やっぱり優しいねぇ?」
「はぁぁ?」
「クルちゃんの事、心配やんね? せやから追って来たんやもん ♪ 」
「ち……ちちち違うッつーの! 別に、あんなんがどーなっても、アタシには関係無いし!」
「せやの?」
「そうよ!」
「せやったら、何で?」
「う……」リンちゃん、目ぇ(そむ)けて(つぶや)いた。「で……でっかいマンゴー食いたかった」
「ギュウゥゥ ♪ 」
「アダダダダーーーーッ?」
 ハグや★
 仲良しハグやねん★
「リンちゃん、照れ屋さんや★」
「イダッ……違っ……イダダダダッ?」
「ギュウゥゥゥ……御褒美に、もっとギュウゥゥゥや★」
「イダダダ……って、それ以前に暑苦しいわァァァーーーーッ!」
「ぎゃん?」
 叩かれたよ?
 パモカハリセンで後頭部スパーーン叩かれたよ?
「ぅぅ……リンちゃん、痛いよ?」
潤々(うるうる)ヘタリ座って『痛いよ?』じゃないッつーの! せっかくの『体感温度調整機能』が無意味になるわ!」
 と、ガサガサと(しげ)みの草が動く気配!
 誰か(・・)が来た!
 すかさず〈ヘリウム(ガン)〉を引き抜いて、警戒に身構えるリンちゃん!
「モモ、気を付けなさいよ……どんな危険なヤツか(わか)んないから」
「危険?」
「クルの説明だと、この惑星に〝高度知性体〟はいない……とすれば、原生生物よ!」
「せやの?」
 ウチ、(しげ)みをジッと眺めた。
 あ、ガサガサ揺れんのが大きくなってきたねぇ?
 もうすぐ出て来るよ?
「ウホォォォーーーーッ!」
 誇らしげな咆哮(ほうこう)に姿を現したんは〝六本腕のゴリラ〟やった!
 大きい!
 2メートルは越えとる!
「こんにちは★」
「ウホ?」
「って、モモーーーーッ?」
 ウチ、テクテク近付いて挨拶したった。
「あんな? ウチ〝()(さき)モモカ〟言うねんよ?」
「ウホ……」
「ほんでな? クルちゃん知らへん?」
「ウホォ?」
(ちゃ)うねん。小さい女の子やねん」
「ウホォ……ウホ?」
「せやの?」
「ウホ!」
「うん、分かった! ありがとねぇ? ほんなら、バイバ~イ ♪ 」
「ウホホーーィ★」
 六本腕に手を振られて、トテテテとリンちゃんの下へ駆け戻る。
「リンちゃ~ん、知らへんって~ ♪ 」
「何で会話が成立してんだっッつーーのォォォッ!」
「ぎゃん!」
 後頭部スパーーン言うたよ?
 パモカハリセン、連続二発目やよ?
「ぅぅ……リンちゃん、痛いよ?」
「黙れ! この〝脳味噌ターザン娘〟!」




「ほんでな? ウチ、いっばいっぱいやってん」
「ウホ?」
(ちゃ)うねん。そういう事やないねん」
「ウホホ? ウホ!」
「せやよ? ウチは、そっちがええねんよ?」
「ウホォ……ウホウホ」
「あ、わかる?」
「ウホ!」
「アハハハハハ★」
「ウホホホホホ★」
「いや……まぁ、何っつーかさぁ」
 ウチとゴリラさんの会話を聞き流し、リンちゃんはウンザリ顔やった。
 何で?
 見た事もない植物が雑多に(しげ)る深緑を、ウチとリンちゃんはゴリラさんに肩担(かたかつ)ぎされて進む。右肩にウチ、左肩にリンちゃん。六本腕やから安定感バツグンや。
「ウホホ、ウホ」
「う~ん? どうなんやろ? あ、リンちゃんはどう思う?」
「知るかッ!」
 何で?
「ええやん! 答えてあげたったら、ええやん!」
「ウホォ……」
「ほらぁ! ロッポちゃん、落ち込んでもうたやん!」
「そもそも何を言ってるのか(わか)らないッつーの! ってか〝ロッポ〟って誰だ!」
「えへへ、この子や ♪  腕が六本あるから〝ロッポちゃん〟やねん★」
「アンタ、ネーミングセンスをどうにか……いや、もういいわ……うん」リンちゃんは深い()(いき)に沈むと、気持ちを切り替えた。「んで? 何でアンタは、コイツの言葉が(わか)んのよ?」
(わか)らへんよ?」
「はぁぁ?」
「ほんでもな? 何か、こう……言いたい事は(わか)んねん ♪  (つた)わんねん★」
「〝可能性(・・・)〟にも、(ほど)があるわッ!」
 怒られた……。
 何で?
「ったく……で? その〝ロッポゴリラ〟の質問って何よ?」
「ウホ! ウホウホ!」
「〝ロッポゴリラ〟(ちゃ)う! 〝ロッポちゃん〟やねん!」
「どっちでもいいッつーの!」
「ウホ!」
「黙れゴリラ! アンタなんか、本来〝ゲテモノゴリラゴリラゴリラ〟で充分なんだからね! それをわざわざ〝ロッポ〟って付けてやってんだから! それも、このアタシ(・・・・・)が! モモに(めん)じて! 感謝しなさいよね!」
「ゥ……ウッホ……ゥゥ……ウホホホホ……ウホ~ン! ウホ~ン!」
「メソメソ泣くな! ()いた手で顔を(おお)って! どんだけシュールな絵面(えづら)だ! 両肩に美少女(かつ)いだ六本腕ゴリラがメソメソ乙女泣きするジャングルって!」
「リンちゃん! 意地悪アカン!」
「いいのよ、ゴリラだし」
「女の子に、そないなキツイ事を言うたらアカン!」
「女の子だったーーッ! まさかの〝女の子〟だったーーッ! そこは何かゴメーーン!」
 せやから、ウチ〝ロッポちゃん(・・・)〟言うてたやんな?



 泣き止んだロッポちゃんは、気を取り直して歩き出した。
 のっそのっそ……両肩にウチとリンちゃん担いで、のっそのっそや ♪
 これ、楽しいね?
 えへへ★
「んで? ゴリ……ロッポ? アンタ、アタシ達を何処へ連れて行こうっての?」
「ウホ!」
 リンちゃん、困惑顔をウチへ向けた。
 あ、あの目……(すが)っとる。
「モモ、通訳」
「知らへんよ?」
「肝心なトコでぇぇぇーーッ?」
「せやから、会話やないねん。フィーリングやねん」
「さっき会話してたじゃん!」
(ちゃ)うねん。何となく『好き嫌い』とか『コッチがいいアッチがいい』みたいなんは感じんねん。せやけど言葉は(わか)らへんねん」
「クルの事を()いてたじゃん! アレ、会話だったじゃん!」
「あん時は分かったねん ♪ 」
「そのフィーリングを、もう一度ォォォーーッ!」
 リンちゃん、うるさいよ?
 周りの樹からカラフルな鳥さんが、いっせいに飛び立ったよ?
 と、急にロッポちゃんが歩くのを()めた。
 何や一転して雰囲気が凄味を帯びとるねぇ?
 そんでもって、ウチとリンちゃんを静かに降ろすと、この場所を指差した。
「……ウホ」
「うん、わかった」
「ウホ」
「リンちゃん、危ないから此処から動くなって」
「……いや、いま会話」
 何?
 そして、ロッポちゃんは目の前の樹林へと向き直ると、六本腕で胸を叩き乱した!
「ウホホホホホホーーーーッ!」
 ドラミングや!
 ドラミングの乱打や!
「ウホホホホホホーーーーッ! ウホホホホ! ウホ! ウホホホホホホーーーー──ゲホゲホ!」
 ……()せた。
 そりゃそうやんな?
 叩き過ぎや。
 それも六本腕の高速乱打やもん。
 息継ぐ(ひま)なんて、あらへんもん。
 威嚇(いかく)に呼応するかのように、見据える(しげ)みがガサゴソ動いた!
 そこから出て来たんは、不思議な生き物やった!
 プヨプヨプルプルのゼリーや!
 ピンク色の水饅頭(みずまんじゅう)や!
 せやけど、大きい!
 ウチとリンちゃんの腰丈ぐらいはある!
「イチゴゼリーや!」
「〈ブロブ〉だ!」
「せやの? リンちゃん?」
「あんなデッカいイチゴゼリーがあるか! しかも、密林に! ってか、そもそも生きてるか!」
「リンちゃん、たくさん言うたねぇ? (かしこ)さんや ♪ 」
「うっさい! ホワホワ笑ってんな! この非常事態に!」
「あんな? リンちゃん?」
「何だッつーの!」
「その〈ブロブ〉って、何?」
 あ、引っくり返った……。
「アンタ、ホントに銀暦(ぎんれき)世代か!」
「せやかて、知らへんモンは知らへんもん」
「ったく……要するに〈ブロブ〉ッつーのは、宇宙単細胞生物よ! 生態や特徴も〈アメーバ〉に酷似しているけど、見ての通り人間サイズに巨大。厄介なのは、捕食本能が貪欲って事。そして、切っても殴っても効果が無いって事。つまり──」
「こんちは★ あんな? ウチ〝()(さき)モモカ〟言うねんよ?」
「──って、モモーーーーッ?」「ウホーーーーッ?」
 えへへ★
 ウチ、テクテク近付いて〈ブロブはん〉に挨拶したった ♪


 ウチ、捕まった……。

しおり