リンちゃんと惑星レトロナ Fractal.8
「んじゃ、コレが〈ネクラナミコン〉だったの?」
「そう」
夕日に萌える格納庫で、リンちゃんはクルちゃんが見つけた物に
無理もあらへん。
ウチかて同じ心境や。
ハッちゃんは軽い好奇心だけを注いどったけど。
クルちゃんが探し出した〈ネクラナミコン〉は……博士の〝
「
「……ああ、アレ『アル中の幻覚症状』じゃないんだ」
「奇怪な現象ではあるけど、これが〈ネクラナミコンの擬態〉ならば納得はできる」
できへんよ?
「ふむ? 理には叶っておるな?」
叶ってへんよ?
「ま、何にせよ目的は達成したし滞在リミットもドンピシャ……そろそろ〈ツェレーク〉へと帰りますか」と、リンちゃんは伸びに砕ける。
ウチ……やっぱり凹んだ。
なんや空元気に見えた。
「あんな? リンちゃん?」
「うん? 何よ? 神妙な顔しちゃって?」
「ゴメンね?」
「……はぁ?」
「ウチのせいで、リンちゃんの恋愛を台無しにしてもうた」
「…………」
「あんな? ウチな? リンちゃんと一緒がええねん! ずっと一緒がええねん! せやけど……そのせいで、リンちゃんにイヤな思いさせた」
「……………………」
「ウチ……ウチ……ごめんなさい! ふぐっ……ウチ……ふぇ……リンちゃ……リンちゃんに嫌われた……ない……ふぇぇ……」
「えい★」
「ふぐぅ!」
ほっぺムニされたよッ?
いきなり両手で、ほっぺ引っ張られたよッ?
「ふひぃ……フィンふぁん? ふぁひひほんほ?」
「アハハハハハ★ 面白ーい ♪ 大福顔ー ♪ 」
リンちゃん、
心の底から大笑いしとった。
何で?
「別にアンタのせいじゃないっての! 笑っとけ笑っとけ★」
「リンちゃん? でも……」
「アンタは笑ってりゃいいのよ。いつもみたいにフワフワトロトロのパータリンぶりで ♪ 」
「リンちゃん! あんまりや!」
「アハハハハハ★」
「そう……事の発端は、天条リンの尻軽にある」
「黙れ! クル!」
ギンッと
そのワンクッションの後、リンちゃんはウチに向かってボソボソ
「んでもって、アタシの
「……ええの?」
「いいに決まってるでしょ!」
「せやけど、また迷惑かけてまうかもしれへん……」
「フッ……アタシを誰だと思ってるの?」いつもと変わらない自信が、ファサとロングポニーを
「うむ、頼もしい事よ。では、今後も世話になるぞ?」
「いや……アンタは
あ、本気でゲンナリしとる。
せやけど、なんやいつも通りの雰囲気なった。
せやから、ウチ嬉しゅうなって「えへへ」と
「ギュウゥゥ ♪ 」
「アダダダダーーーーッ? コラ! 痛いっての! モモ! 放せ!」
ハグやねん。
ギュッとしたら、もっと仲良うなれるよ?
「リンちゃん ♪ 大好きや ♪ ギュウ ♪ 」
「アダダダダダダダーーーーーーッ?」
「あ」
「ふぇ? どないしたん? クルちゃん?」
「
「せやの?」
「頑張れ、
「うん! ウチ、頑張る! せーの!」
「何が『せーの!』だぁぁぁーーーーッ!」
「ふぐぅ!」
後頭部ハリセンスパーン来たよ?
リンちゃん、血相変えて振りほどいたよ?
「ぅぅ……リンちゃん、痛いよ?」
「
「やれやれ、相変わらずの仲の良さだな?」
ケインはんや。
軽くデジャヴやね?
「ケイン……」
リンちゃん、さすがにバツ悪そうやった……。
せやね。
そう簡単に割り切れへんよね。
さっきのリンちゃんの言葉は、嘘やあらへんやろうけど……。
「オレの安直な身勝手さで、いろいろと迷惑を掛けちまったな……リン」
「迷惑って……そんな……」
「……ほら」
差し出された手を
「でも、ゴメンね? やっぱアタシに〈レトロナ
「だな」と、ケインはんはウチを覗き見た。「君には君の居場所がある……それが一番だ」
「……うん」
「フッ……いいムードのところを邪魔するが、オレにも別れの見送りをさせてもらえるかぃ?」
今度は聞き慣れた斜に構えた口調が聞こえた。
ジョニーはんやね?
コツリコツリと靴音が近付いて来る。
そして、姿を
ウェスタンスタイルの金髪ボインのお姉さんや!
「え? 誰?」
リンちゃんが戸惑う
「ジョニー!」
「「ジョニィィィーーーーーッ?」」
驚愕するウチとリンちゃん!
「ジョ……ジョジョジョ……ジョニーって、女だったのッ?」
リンちゃんの混乱に、ジョニーはんの眉尻がピクリと不快を示した。
「歯を喰いしばれぇぇぇーーーーッ!」
「ごふぅ!」
殴られた!
いきなり殴られた!
ケインはんが!
質問したの、リンちゃんやのに!
「〝ジョニー〟が女の名前で何が悪いんだ! オレは女だよ!」
「ああ、判ってる! ジョニー!」と、爽快サムズアップ。
……何なん? このやりとり?
「だが、その調子なら、もう大丈夫そうだな?」
「フッ……いつまでも
せやね?
普通、寝込みはせぇへんね?
「えっと……ちょっと待って? つまりジョニーは、最初から〝女〟で? レトロナ
リンちゃん、軽くパニックや。
「あんな? 二人は恋人同士やの?」
「……ぁ」「……ぅ」
目ぇ
恥じらいながら、目ぇ
それ、答になっとるよ?
「ガッデーーーームッ!」
叫んだ!
リンちゃん、
ラブロマンス御破算になった!
いろんな要素で!
「神谷ケイン……
「ああ、有難う! クルロリくん! 今回の実戦経験は、実に貴重な体験となった! 初戦は必ず勝利してみせるさ!」
……うん?
いま、変な事を言わへんかった?
「あんな? ちょっとええ?」
「何だい? モモカくん?」
「確か〈レトロナ
「ああ、そうだよ?」
「これまで何回戦ったん?」
「ハハハ……まだ戦ってないさ」
「ふぇ?」「は?」「…………」
「だが、ヤツラは必ず攻めて来る! 恐るべき軍団を率いて! その時は……必ず野望を砕いてみせる! 俺達〈レトロナ
グッと拳を握り締め、まっすぐな正義感を夕陽へと投げるケインはん。
無言の同調に「フッ」と
いや、何言うてんの?
ええ感じに
「神谷ケイン、ひとつ
「決まってるじゃないか、博士だよ」
「あンのヤロォォォーーーーーーッッッ!」
リンちゃん、猛ダッシュや!
大爆走で基地内へ駆け戻っていった!
アカン!
早く止めんと恐ろしい惨劇が起こる!
この作品〈SF〉やなくて〈スプラッタホラー〉なってまう!
「ギィィィャアアアアアァァァァァーーーーーーッッッ!」
……遅かった。
少しづつ惑星レトロナが小さなっていく。
大宇宙の海原を、イルカとシャチとエイが仲良う帰路に泳いだ。
あ、せやね?
モササウルスもや ♪
『にしても──』軽い回想に
「な……何よアンタ!」
「言ったはずだ……我が名は〈ニョロロトテップ〉と」
「まさか〈クラゲ〉の正体?」
「先刻までの戦闘で使っていた形態は、言うなれば〝擬態候補〟のひとつに過ぎない」
「擬態?」
「この形態も、そうだ。だが、貴様達が示してくれた──その〈可能性〉とやらを。
「姿形を〝女子〟にしたところで備わるかッ! ってか! そもそも目的は何だッつーの! 何故〝人類の活動領域〟を縮小させようとしてンのよ! わざわざ〈フラクタルブレーン〉を股に掛けてまで!」
「……貴様達程度には理解出来まい」
「こ……ンの!」
「今日のところは引き下がるが、次に会えば容赦はしない。今回の件で、貴様達は〈危険分子〉と確信した」
「あ! ちょっと待て! 逃げんなッつーの!」
『アイツ……結局、何者なのかしら?』
「あの後、何もせぇへんと帰りはったねぇ?」
『また来るでしょうよ……因縁、出来ちゃったしね』
「えへへへへ ♪ 」
『何よ? 急にニヤけて?』
「あんな? リンちゃん? そしたら、ウチ〝友達〟なってええ?」
『はぁぁッ?』
「ウチ、ニョロちゃんと〝友達〟なりたいねん ♪ 」
『この脳味噌キクラゲ娘! なれるか!』
「イヤや! なりたいねん!」
『まったく、もぅ…………クスッ ♪ 』
「どないしたん? リンちゃん?」
『いや、
「?」
『可能性……か』
「???」
天条リン達からの報告を受け、マリー・ハウゼンは〈宇宙クラゲ〉に関するデータを更新した。
薄暗くも雑多に散らかった自室に、キーパンチの音がカタカタと鳴り続ける。
「ニョロロトテップ……か」
とりあえず更新を一気に済ませると、
「宇宙クラゲ……ニョロロトテップ……ネクラナミコン……クルロリ……」
感慨も無く羅列していくキーワード。
此処に来て、総ての異端要素が因果関係を
持て余す〝非現実的現実〟を直視し、脳内整理に務める。
そして、誰に言うとでもなく洩らすのであった。
「……私、この作品に必要かしら?」
ゴメン! マリー!
もうちょっと……もうちょっと待って!
どうにか出番を増やすから!
「お掃除や ♪ キレイキレイや ♪ 」
「何をそんなに浮かれてんだッつーの?」
並んで
「えへへ ♪ せやかて、今日は『キレイキレイの日』やもん ♪ あの子達、喜ぶよ? 〈イザーナ〉も〈ミヴィーク〉も喜ぶよ? それ想像したら、ウチも何か嬉しいねん ♪ 」
せやねん。
今日は月一回〈
難しいのは
「ま、惑星レトロナでは〈ミヴィーク〉を不安にさせちゃったし……今日は念入りに洗ってやるか」
「うん★ 〈ミヴィーク〉頑張ったよ?」
そして、
……ピカピカやった。
〈イザーナ〉も〈ミヴィーク〉も、新品ばりにピカピカやった。
「ど……どういう事? コレ?」
さすがにリンちゃんも困惑する。
せやね?
こんなん初めてやんね?
「うむ、ようやく来たか? モモカにリンよ」
ハッちゃんや。
ウチ、とりあえずピカピカなった〈イザーナ〉の体を撫で……あれ?
この子、怯えとるよ?
心がカタカタ震えとるよ?
「エルダニャ? これ、アンタが?」
「フッ……礼には及ばぬぞ、リン。単に〈リヒアーク〉の整備のついでじゃ」
「〈リヒアーク〉?」
「
ああ、モササウルスや。
名前決まったんや?
よかったねぇ?
「あんな? ハッちゃん? それ、何て意味の『ハウゼン語』なん?」
「その『ハウゼン語』なるものは知らん。が、いい感じに〝いんすぴれーしょん〟が降りたのでのぅ」
「ふぇ? いいアイディアが閃いたん?」
「うむ。文字盤の上で滑るコインの連鎖で決めた」
それ『コックリさん』や!
この人『コックリさん』で名前決めはった!
「に、しても──」改めて〈ミヴィーク〉の光沢へと見入るリンちゃん。「──よく
〈ミヴィーク〉も?
おかしいねぇ?
その子、肝座っとるのにねぇ?
「フッ……
「ふぇ? せやったら?」
「さぁ、感嘆せよ! 我が〝専属整備員〟の腕前の素晴らしさを!」
オーブ飛び始めた!
ハッちゃんの周りに無数のオーブ飛び始めた!
この人、機体整備に〈幽霊〉使役しはった!
「モモカよ、リンよ、改めて紹介しよう! 此処に
「「マリー! 今日の授業、質問があるんだけどーーーーッ!」」
二人揃って猛ダッシュ!
恐々猛ダッシュで
「ふむ? 何じゃ……
「……何?」
「整備か?」
「そう」
「ふむ? では、
「
「………………」
この後、
チタン床に、いっぱい『のの字』を書いて……。