外の世界の変化と創造主
最近は管理者間での争いが増えているらしい。しかし、創造主はそれを気にすることはせず、消滅した世界の分も含めて新たに創造するばかり。
「………………迷惑なものです」
閑談をして魔木から貰った実を食べながら、れいは北の森を見て回る。
れいにとって、管理者間のいざこざは他人事である。しかし、それにより世界が消滅した際に世界と一緒に消滅せずに残ってしまったモノが外の世界を漂流してしまうのは関係があった。
そのせいで、最近漂着物が多い。自然だけでなく生き物もやたらとやってくるので、静かだった北の森にも僅かに活気が出て来たほど。
人もかなり増えたが、住居の数はまだ問題ない。少し前から後進の育成を始めていたので、各管理補佐にもまだまだ余裕があった。
ハードゥスの許容量はほぼ無限なので、そちらも問題はない。それでも。
「………………迷惑なものです」
最高峰の魔木の実を齧りながら、れいはもう一度同じ言葉を口にする。
受け入れ態勢は万全であったし、問題もないのだが、それでも急激に仕事量が増えたのは面倒であった。今行っている見回りも数日ぶり。それぐらいに流れ着くモノが多すぎたのだ。
「………………いっそ……いえ、止めておきましょう」
一瞬不穏な空気を醸したれいだったが、直ぐに我に返り浮かんだ考えを否定する。確かに世界を消滅させて大量の漂流物を生み出す事については思うところはあるが、向こう側とはほぼ縁を切っている状態なので、あまり関わりたくはなかった。それに、漂流物に関してはほとんどの管理者が知らないのだろうし。
それに何か文句を言うのであれば、それは創造主へとだろう。
「………………本当に迷惑なものです。わざわざ迂遠な方法を使って」
れいは小さくため息を吐く。若い世代の管理者がよくトラブルを起こす事について疑問に思ったれいが独自に調べてみたところ、どうもそれに創造主が関与しているようだと判明した。
それからも更に調べてみた結果、どうやら創造主はわざとそういった欠陥を持つ個体を創造しているという事実に辿り着いた。理由は、外の世界へと力を供給するため。
「………………」
創造主がどうしてそんな手段を取ったのかは不明。わざわざ管理者と世界を育てなくとも、創造主であればもっと簡単な方法での力の供給が出来たはずだった。
なので、その迂遠な手段を取ったのが気紛れなのか、気づかなかったのか、趣味の悪い娯楽のためか、それとも能力が足りなかったのか。その真相は分からないが、とにかく、れいにとっては遊んだ後の始末を押しつけられた形なので、ただただ迷惑な話でしかない。
とはいえ、そうポンポン消滅しているわけではないので、一度波を乗り切ればしばらく時間が空く。そういうわけで、今の内に片付けや整頓、休憩などをやっておかなければならないだろう。
「………………これはもしかして、管理補佐を更に増員した方がいいのでしょうか?」
今後も大量の漂着物がやって来ることがあるだろう。そうなると、いつか管理側の許容量を超えてしまうかもしれない。れいであれば問題ないが、管理補佐となると万が一があるので、念のために今の内から増員しておくべきだろうかと思い至り、れいは眉根を寄せる。
「………………増員したばかりなので、教育が間に合うかどうか」
増員自体は問題ないが、知識は与えられても教育を施さなければ、上手く回らないかもしれない。そう思うと、まだ前回の増員分の教育が修了していない内に増やすのは得策ではないだろう。そう思ったれいは、とりあえず前回の増員分の教育が終わるのを待つ事にした。
住民の数も一気に増えたが、今のところ他の管理者間のようなトラブルは起きていない。あってもちょっとした言い合い程度だ。
「………………」
れいは新しく来た住民達について思い出す。世界の消滅と共に一気にモノが流れたとはいえ、無事に辿り着けるのは極々一部のみ。自然などの容量の大きなものであればそれなりだが、それでも世界の消滅で容量を大きく削られ、漂流中に溶けて消える方が多かった。
とにかく、そうして辿り着いた人だが、一気にやって来るといっても同時にではないし、仮に同時にでもれいが小分けして漂着させていくので、漂着してくる数の方は問題ない。
だが、やはり質という問題がある。数が多ければ多いほど、アタリだけではなくハズレも多くなってしまうのだから。
漂着させる数を小分けさせるのも、それの対策でもある。愚者は群れると増長するので。
ただし、れいはそういった者達は事前に調べてある程度は把握出来ているので、度し難い者達に関しては敢えて数を集めて漂着させ、警告に違反させるように仕向けて消しているのだが。
「………………管理は楽に行いたいですからね」
他にも、度し難いというほど酷くはないが、それでもあまり歓迎したくない者達に関しては、まずは同様に警告を無視するように仕向けてみる。それでもクリアした者達に関しては、死なない程度に威圧して心を折っておいた。精神が参った者は強引に治して、狂えないし壊れないようにしておくサービス付きで。
そのれいの努力のおかげで、今のところ居住区画は平和であった。居住区画では法律とまでは言えないが、掟のような取り決めを事前に決めていたので、それを順守させている。
れいはそちらには関わらないようにしているが、この取り決めの番人はメイマネらしい。だが、実際はメイマネは名前だけで、実務の方はメイマネの補佐に送った新人管理補佐が務めているという。いずれそちらの役割は完全に任せて、メイマネは引き続き居住区画の管理に専念するのだとか。
居住区画だけではなく、各地の管理補佐も上手くやっている。新人を補佐にするなり後継者にするなり好きに教育していた。後継者と言っても、名代が務まるようにといった感じだが。管理補佐は不老なうえにもの凄く強いので、不死ではないがまず倒せないだろう。
ちなみに、れいは完全に不老不死である。というより、姿形を自由に変える事が出来るので、老いた姿にも幼い姿にも自由に成れる。それに加えて、大きさや性別どころか人以外にだって成れるので、そもそも生きているとは言えないかもしれない。なので、不老不死というよりも、不滅の存在と言った方がいいだろう。
閑話休題。
各地の森や山などに関しては、現在各所で縄張り争いが勃発している。とはいえそれも小規模だが。世界に対して生き物の数が少なすぎるので、争う必要性がほとんど無い。食べ物も大量に在るのだから。
そのまま世界に馴染んで独自の生態の一助となってくれれば言う事はない。
「………………そういえば、外に出たものが居ましたね」
れいの言う外とは、漂着物を集めた一角の外、つまりはペットのための場所である。そこにはラオーネ達が暮らしているが、それだけの場所。
少し前に森を抜けてそこに出た魔物が居たのだが、そこはラオーネ達の住処を中心にその周辺を暮らしやすい環境に構築している以外には何も無い場所で、それに加えて無限とも思える程に広いために、結局野垂れ死にしてしまった。そもそも外には特殊な力が存在していないので、魔物でも普通の動物と然して変わらない。そして、外には食べ物が存在していない。ラオーネ達は餌が要らないのだから。
つまりは当然の結果という事。それを思い出したれいは、そろそろ見回りを終えて久しぶりにラオーネ達を撫でに行くかなと思ったのだった。