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そいや、こいつの名前まだだったな。
森の中を歩いてる途中ふと、そんなことを考えた。
歩みを止めて毛玉を見ると毛玉も歩く(?)のを止めて何度かその場で飛び跳ねた。
か、かわ、可愛い……!
こいつには、とびっきりの名前を付けてやらねぇとな……どうしようか……

「お前の名前は……ん〜……よし! 決めた!」
「キュッ?」
毛玉を手のひらに乗せ、俺と目線が合う位置まで上げた。

「ーーお前の名前はキュウスケだ!」

俺が声を大にして宣言すると名付けられた毛玉は手のひらから飛び降りた。
「キューッ!」
それから何度か俺の周りをグルグル回っている。
これは喜んでる? のか?
言葉は伝わらないが、そう思う事にして毛玉の名前は“キュウスケ”と確定した。

「じゃあ、キュウスケ。改めてよろしくな」
「キュキュキューッ!」
キュウスケは高く飛び頭の上に乗ってくる。触感は違うが猫の肉球を触った時のような心地良さが頭から全身に流れる。
あー。幸せ。
俺は頭に乗せたままキュウスケを触れる。相変わらずモコモコしていて気持ちがいい。

ただーー。

「なぁ、お前が頭に乗るとアフロ見てぇになってね?」
「キュキュ?」
キュウスケは意味がわからないと言いたげな鳴き声を上げた。俺はキュウスケを頭に乗せたまま、また歩き出した。
鏡ねぇからわかんねぇけど、ぜってぇ白髪アフロ見たいになってんだろ。可愛いからいいけど。
……ん? なんだあれ?

しばらく歩いていると目の前にキュウスケと同じくらいの大きさのプヨプヨとした青くて丸い物体がいた。
恐る恐るつついてみたら、ゼリーのようにプルんと揺れる。

「か、可愛い! これはスライムか?」

俺は楽しくなってきて何回も何回もしつこくつついていたら、

「え、あれ……?」

指がスライムの身体を貫通してしまい、俺の手首までスライムを突き抜けていた。

「うわあああ!? ごめん! ごめん!」

死んじゃったか? こいつ?
俺は手を抜こうともう片方の手でスライムを押すと、スライムが反対の手に絡みつき、腕まで登ってきた。
「……ん?」
再び剥がそうとするがまた反対に絡みついてくる。
何度も何度もやるがしつこく絡みついてくる。それはもう、可愛いという思いが消え、気持ち悪いとさえ思えてくるくらい。

こいつ……俺で遊んでるのか?

これには、昔、部下がヘマやらかしてゼウスに怒られた時その部下の命ひとつで許してやるくらい寛大な心を持っている俺も少しばかりキレそうになった。

確か、あの時ゼウスがお気に入りとしてたペットの猫を面倒見ていた時にその部下が外に逃がしちゃったんだよなぁ。
それで、部下と上司である俺に怒るとか器小さすぎだろ。
でも、あの時の猫可愛かったなぁ……

そんなことを考えながら俺は右腕から炎を出すとスライムが燃え上がり、消えていった。

「うわあああああっ!? 服燃えてるっ!」

右腕から指の先まで燃やしたため、袖の部分が燃え上がっている。
俺は焦りながらも左手から水の玉を出し頭から被るとなんとか全て燃え上がらずには済んだ。

「なんで今日に限って長袖着てきたんだろ……萎える」

立派な天使兵の制服は片方袖があって片方ノースリーブの最先端を行き過ぎてしまったようなファッションになってしまった。
こりゃ、ちょっと時代の一歩先をいっちゃったな。パリコレでも出れば違和感ねぇかもだけど。

「キューッ!」

俺が自分の最先端ファッションに悲観しているとキュウスケが俺の背中に向かって何やら訴えている。
「ん? これか?」
俺は半分忘れかけていた貰った勇者の剣を背中から抜き取ると、柄の部分が光っていた。
やっぱこれ剣だったんだ。
てか、なんで光ってんの柄の部分なんだよ。
刃が光ればカッコイイのだが、柄の部分となると、しょぼい光るオモチャみたいに見えてくる。いや、今の時代の光るオモチャの方がましに見えるかもしれかい。

ーーピコンッ。

柄を強く握ると変な機械音がして空中にテレビで言うと32インチくらいの大きさのモニターのようなものが映った。

【レベルアップ】

「レベルアップ?」

俺が呟くと画面が切り替わった。


【ステータス】

名前 : サタン
種族 : ???
ジョブ : 勇者(仮)
レベル : 2
スキル : バッシヴスキル『俊足』『空中浮遊』『魔法耐性』
アクティブスキル『大剣術』『炎獄魔法』『神水魔法』『神雷魔法』
ユニークスキル『全魔法威力上昇』


改めてこうやって見ると剣士なんだろうけど、スキルは術士って……絶対剣いらん。
それと、ツッコミ所多すぎる。種族ハテナとかジョブ勇者(仮)とか曖昧だろ。

「てか、俺のレベルこんなしょぼいのかよ……レベル99になったら俺どんだけ強くなれんだろ」

たぶん初めはレベル1だと思うから、たかが1レベル上がっただけではどこが変わったのかイマイチ分からない。
新しいスキルほしいなぁ。無痛と再生と極滅魔法。

「キューッ!」
「ん?」

再びキュウスケに呼ばれ振り返るとそこにはキュウスケではなく、毛並みが真っ白な猫がいた。

「お前、キュウスケ……?」
「キューッ!」

猫は言葉が通じるようで大きく頷く。
この姿……見た目は普通の猫だが、ここは異世界。

ならーー。

「ケット・シー? だよな?」
俺が確かめるように聞くとキュウスケは足を叩いて2本足で立ち上がった。

「いかにも。ボクはケット・シーだ!」
「お前喋れるのか?」
「おう。サタンがレベルアップしてくれたおかげで喋れるようになった。ありがとう」

淡々とした口調で話してくれるが、俺のキュウスケへの理想像がぶち壊されるくらい凛々しく、内心驚いた。
だけど、これはこれでまた可愛い。好き。

「だけどよ、お前森の精じゃなかったか? ケット・シーって猫の妖精だよな?」
俺は少しでもキュウスケと目を合わせようとしゃがんで質問すると、キュウスケは腕を組んで頬を膨らませた。

「ボクもこうなるとは思わなかったんだよ! サタンのせいだ!」
え? 俺のせい?
急に怒られ意味がわからず呆然としていると、また空中の映像の画面が切り替わった。

【ご説明しましょう。こちらの森の精は勇者になると初めに必ず行く森で手に入れられる妖精です】

「勇者が絶対初めに行く森?」

となると、あの時のドワーフが連れてきた訳じゃなくて剣を貰ったらそのまま瞬間移動的な感じで飛ばされる仕組みだったのだろうか。
変に疑って悪かったな。おっさん。

【この森の精は勇者が初めてレベルアップをした時に勇者の理想としている見た目に変化するというものです】

「へぇ! すげぇな。あん時猫のこと考えてたからお前の姿が猫になったのか」
俺が手のひらに拳を乗っけて納得していると、キュウスケは可愛らしく地団駄を踏んだ。

「なんで猫のことを考えてたんだよ!? 人型とかドラゴンとか考えてろよ!」

「絶対やだね」

そんな厳ついもんよりも猫の方が1億倍可愛いし。

【それでは説明は以上です。何かありましたらこの剣の柄を強く握ってください。敵と戦っている時は剣を強く握っても私は出ませんのでご安心を】

その映像を最後に空中の画面はプツンと切れた。
俺は剣を背中についている鞘に収めると、キュウスケを抱え、立ち上がる。

「な、なにするんだよ!?」

キュウスケは嫌そうに暴れるが俺は気にせず歩き出す。

「はぁ……可愛い……」
「気持ちわりぃ! はーなーせーっ!」

ゼウス、ありがとう。今だけお前に感謝するよ。
ドラゴンとか厳つい生き物ではなく、猫を飼っていてくれたゼウスに心の底から感謝した。

「早く街に出ないかなー」
「もうすぐ行けば街だよ。だけど、サタン金持ってるのか?」
「持ってねぇよ。いざと言う時はこの剣売るから」
「それはやめて!」
兎にも角にも、話し相手が出来たのは1番嬉しいかも。

こうして俺とレベルアップしてケット・シーとなったキュウスケは共に先へと進んだ。

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