流れる時
青年が流れ着いたのを皮切りに、数年の内に一気に人がハードゥスへと流れ着いてきた。それも団体さんから単身まで様々だし、中には家ごと流されてきた一家も居たほど。
おかげで一気に居住区画が賑やかになった。それに伴い様々な取り決めが細かく決まっていき、今では村程度の人口にまで増えていた。ただ、依然として人の住んでいない家は多いが。
結婚式もあれから二度執り行われたし、葬儀も一度執り行われた。墓地は居住区画の近くに在るが、そこに並ぶ墓石はハードゥスには関係ない流れ着いた物ばかり。そこに新たに加えられた墓石は、居住区画からは離れた場所に設置していた採石場から、墓石として使える石を頼まれたれいが持ってきた物。その石の加工に関したはメイマネが行った。
赤子も何人か増えたが、そういった様々な変化がある中でも、あまり争いは起こっていない。それは住民の数が少ないというのと、衣食住が満たされているからかもしれない。
森の方は、流れ着いた者達の中に冒険者などと元の世界で呼ばれていたらしい荒事専門の何でも屋が居たりしたので、少し深いところまでは踏み入れている。おかげで収穫量は増えたが、その分だけ怪我も増えた。
装備に関しては、流れ着いた時に持っていた物や、メイマネからの支給品があるので何とかなっている。装備の修理に関しては現状ではメイマネが行っているので、各自では基本的な整備や点検ぐらい。
そのための道具は森から採取しているが、手に入れるのが難しい道具に関してはメイマネが支給している。
何はともあれ、今のところ上手く回っている。町の代表は、最初に漂着した兄妹の兄が務めているが、今のところ特に何か役目があるわけでもないらしい。
森に入る者達の最近の目標は、森の少し奥に存在する地下迷宮の入り口である神殿まで辿り着くことだとか。とはいえ、地下迷宮に挑みたいわけではなさそうではあるが。その辺りはメイマネが止めている。地下迷宮は一層目の骸骨ですらかなり強いのだから。
そうやって漂着物を集めた一角が少し回り出したので、最近のれいは見回りはほどほどにしか行っていない。慣れてきたようなので、一角の管理の大半は管理補佐達に任せることにしたのだ。
「………………そろそろ少し増やしてもいいかもしれませんね」
れいはラオーネの背に乗って風を感じながら、ふとそんなことを思った。今のところ管理補佐達にはかなり余裕があるが、漂着物はこれからもどんどん流れ着いてくるので、いずれ手が回らなくなるかもしれない。
だからといって、そうなってから慌てて創造しても、知識があっても勝手が分からない状態なので、直ぐに使えるかどうかは分からない。なので、余裕のある今の内に教育させておいた方がいいかもしれない。
そう思ったれいは、ラオーネの背から降りて、早速各管理補佐の補佐をする者達を創造していった。後は名付けと顔合わせを終えれば、またペット達と戯れる日々を送れるようになるだろう。
そういえば、居住区画でれい教とでも言えばいいのか、れいを最高神として祀った宗教が着々と根付いていた。それも知らぬ間に分厚い聖典まで創られているほど。どうやら初期の頃に流れ着いたあのシスターは、中々にやり手の活動家のようだった。