第九十七話 由来(前編)
「死神って……シンさん何したんすか?」
焔は冷ややかな目線をシンに注ぐ。
「いやいや、俺けっこう真面目に戦ったと思うし、こんな二つ名つけられる
「フッ、お前はそうかもしれんが、周りからはそうは見えなかったんだろう」
「はあ、そりゃ酷いなー。まあ、変にハクやレオみたいな厨二くさい二つ名つけられなかっただけましか」
「おいてめえ、シン」
「アハハ、剣豪だったら、まだ嬉しかったんだけどねえ」
レオ、ハクの2人はその二つ名を気に入ってないのか、シンの言葉にあまり良い反応はしなかった。だが、逆にその二つ名をカッコよく思っていた焔、サイモンの2人は厨二くさいと言われ、なんだか恥ずかしく思うのだった。
「まあまあ、良いではないか。もうすでに定着してしまったんだ。いまさら、悔いても仕方ない」
「そうなんですけどねえ」
総督の言葉にシンはいまだに納得していないのか、歯切れ悪そうに言葉を返す。
「あ、そう言えば、その二つ名って戦場で戦う姿から付けられたんですよね?」
「ああ、そうだが」
「じゃあ、何でシンさんは死神なんて言うおっかない二つ名を付けられたんですか?」
「ああ、まだ二つ名の由来について話していなかったな。せっかくだから、全員の二つ名の由来について話でもするか」
そう総督が言い放った後、明らかに教官たちの顔色が変わる。だが、そんな教官たちをしり目に総督は二つ名の由来について話始める。
「混沌とした戦場の中、最前線にて戦う5人の姿は多くの隊員によって目撃された。のちにその5人は異次元の強さを持つことから『桃源郷』と呼ばれた。もちろん、その5人とはお前らの後ろにいる教官たちだ。ま、中には知らないやつもいるみたいだし、二つ名ついでに自己紹介でもしておこうか」
そう言った後、総督は後ろに座っているハクに短くアイコンタクトを送った。その視線に気づいたハクは総督が喋り始めると同時にゆっくりと立ち上がる。
「まず一人目は『桃源郷の剣聖』こと、アースの剣術教官、
「やあどうも」
爽やかに手を振るハクに焔たちは初めてということもあり、軽く会釈だけをした。
「このなりから見てわかると思うが、ハクはいわゆる侍だ」
ハクは他の教官たちとは明らかに違った衣装を着ていた。白い羽織、そして袴と明らかに侍やら武士やらを彷彿とさせるような装いをしていた。
侍……そして、忍者……ここには普通の人間はいねえのかよ。
同じ日本人でありながら、明らかに次元が違いすぎて、思わず焔は苦笑いを浮かべる。
「ハクは刀を使って戦う。そして、その用いる剣術の流派を『|鮮紅抜剣≪せんこうばっけん》流』と言って、古来より最強の流派と謳われたそうだ。アムー戦では、この流派を用いて、死の軍全を次々に一刀両断していき、その佇まいや風貌から、ハクには剣聖という二つ名が付いた……じゃあ、ハク最後に一言」
一方的に説明を終えると、総督はハクに最後の締めを任せる。その投げやりな感じにため息を吐くが、すぐに切り替え、
「どうも、さきほど紹介にあずかりました陽炎白と言います。陽炎はちょっと恥ずかしいから、普通にハクって下の名前で呼んでね。一応、剣術教官ということで、コーネリア、ソラ、焔の3人にはこれからまた会う機会があると思うから、その時はよろしく」
焔たちも各々頭を下げ、挨拶すると、総督は次の人物の説明に入った。
「続いて2人目は、『桃源郷の武神』こと、アースの体術教官、レオ・ジャクソンだ」
「……はあ」
レオはため息を吐きながら、だるそうに立ち上がった。
「この筋肉を見ればわかると思うが、こいつはゴリゴリの武闘家だ。ほとんどの武術を学んだレオは、それをもとにオリジナルの武術を作り上げた。その武術はアムー戦でも多大なる戦果を残した。己の拳一つで、豪快に敵を屠っていきながらも、何とも洗練された動きから、レオには武神という二つ名が与えられた……じゃあ、レオ最後に一言」
「レオでいい。体術を習いたい奴はいつでもこい。そん時はたっぷりといたぶっ……可愛がってやるよ」
最後の言い間違いに、焔たちの顔は引きつり、リンリンに関しては震えていた。
「では、続いて3人目は『桃源郷の氷姫』こと、アースの銃撃教官、ヴァネッサ・オルグレン」
「どうも」
「ヴァネッサは2丁銃を用いて戦う。その射撃の腕はまさに神の領域。アムー戦では、その正確無比な射撃で、仲間の窮地を幾度となく救った。相手を一瞬で凍り付かせるような射撃とその凍り付くような目つきから、ヴァネッサには氷の姫、氷姫という二つ名がつけられた……はいヴァネッサ」
最後の振りが段々雑になってきた総督にやれやれと息をつくヴァネッサ。
「紹介にあずかりましたヴァネッサ・オルグレンです。ヴァネッサで構いません。えー、そうですね……」
すると、ヴァネッサは少し目線をずらし、
「これからビシバシ鍛えていくので、よろしくお願いします」
ヴァネッサの冷たい物言いに皆が少し気圧されている中、茜音一人だけが尋常じゃなく震えていた。
(これ絶対私一人に対して向けられた言葉じゃん!)
総督はその意図に気づいたのか、クスっと笑うと、再び話を続けた。
「4人目は『桃源郷の狂姫』こと、アースの打撃教官、ペトラ・マンハイム」
「はいはーい!」
「ペトラはこんなに小柄だが、武器は巨大ハンマーとアックスを使うんだ」
「え!!」
焔たちは声を上げ、驚きをあらわにする。それほどまでに意外だった。今、焔たちの反応に照れ笑いを浮かべているペトラの華奢な身体で、巨大なハンマーを振り回す姿など到底想像することが出来なかった。
「いやーそれほどでもー」
ペトラは焔たちのざわつきにまんざらでもない様子で照れ笑いをしていた。だが、そんな中、総督が焔たちの興味を引くような言葉を述べる。
「ただし、戦闘時のペトラはペトラであって、ペトラではないんだがな」
「……」
総督が唐突に意味の分からないことを言いだし、先ほどまでのざわつきがピタッと止んだ。
「は?」
その後、一同から出た言葉はこの一言だった。