第九十六話 二つ名
「本当ですか!? ヴァネッサさん!」
茜音も自分を推薦してくれた教官、ヴァネッサに声をかける。
「ああ、まあそういう事になっているな。だが、それはスタール人の力もあわせたら……という話だがな」
「え? それはどういう……」
茜音の疑問にヴァネッサではなく、総督が答える。
「ああ、ヴァネッサの言う通りだな。いいか、前にも言ったが、我々人間は他の宇宙人よりも身体的にはかなり劣っている。だが、そのハンデはスタール人の技術によってかなり払しょくされた。お前たちも第2試験で実際に体験しただろ?」
「確かに、かなり身体能力は補正された気がするな」
「そうネ! 体が凄く動いたヨ!」
焔が第2試験のことを思い出し、リンリンはそれに興奮気味に共感を示す。
「そう、身体能力の差をゼロ……とまではいかないが、それなりに戦えるところまでもっていけば、地球の武術、剣術、その他の戦闘に関する技術というのは宇宙でもかなりのところまで通用するんだ。ま、こいつらが少し普通ではないことも関与しているが」
「なるほど……でも、なんで5人だけがトップなんですか?」
コーネリアはそれならここにいる他の人間たちはどうなんだと、総督に問いかける。
「ああ、それにはちゃんと理由がある。なぜ、こいつらが連合のトップにいるのかにはな」
ニヤッと総督は笑うと、そのわけについて話し始める。
「この宇宙には……ある伝説の生物が存在する」
語りだしから、総督は焔たち6人全員の関心をかっさらう。総督は教壇を離れ、脇へと移動する。
「名を超獣アムー」
総督が名を口にした瞬間、前方の黒板のようなボードからある映像が映し出された。そこにはアムーという名に似つかわしくない超絶ごつい怪獣の姿があった。
「これはすごいネ!」
「ヒュー……アメイジング!」
その画像が出て、一番最初に反応を言葉にしたのはリンリンとサイモンだった。その2人とは対照的にその姿をまじまじと見た後に茜音、コーネリアは口々に反応を言葉にする。
「まさに超獣……って感じね」
「ええ……こんなもの伝説の存在じゃなかったら、星がいくつも滅びてしまうわ」
「ハハ、ひと昔前の特撮ものなら堂々主役はれるぜ、こいつは」
最後に焔がそのド迫力の見た目に苦笑いでコメントを述べると、続いて、総督がアムーの説明を始めた。
「さて、この超獣アムーだが、見てわかる通りかなり巨大だ。最低でも全長100mは軽く超える」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
何かに気づいたのか、茜音は総督の説明の手をすぐに止めた。
「ん? どうした、茜音?」
「いや、あのー……最低でも……ってことは、超獣アムーって、まあまあ観測されてるんですか?」
「ああ、されているし、コーネリアがさっき言ったように、こいつによって滅ぼされた星は数多くあるとされているらしい」
「またまた曖昧な表現ですね」
焔はその『らしい』という言葉遣いに、また何かわけがあるのではないかと探りを入れる。そんな焔の思惑に総督も気づいたらしく、フッと笑うと、
「なるほど……勘の良いところもしっかりと師匠から受け継いでいるというわけか……」
そう言い、総督は目だけを動かし、シンを一瞥する。その視線にシンは頭を掻いて答える。
「まあ、時間もあることだし、まずは超獣アムーの起源から説明していこうか。この説明を聞いていれば、おのずとお前の疑問も払しょくされるだろう」
「……了解です」
「……超獣アムー……起源は約50億年前。惑星アムーから誕生したとされているので、そこから名前を取って、アムーと名付けられた。アムーは無からいきなり超自然的に生まれたとされている。そして、たったの1週間で地球と同じ大きさほどの惑星アムーを3分の1まで壊滅させた。そして、自ら消滅。その爆発の衝撃で惑星の生態系は全て死に至ったそうだ」
「おー、こわ……でも、その話だったら、アムーはもう死んでるんですよね。だったら、どうして……」
焔がそう言いかけた時、間髪入れずに総督がその疑問に答える。
「確かにアムーは消滅した……だが、その生命力はすさまじく、細胞はまだ生きていたんだ」
「細胞?」
「そうだ。惑星アムーの大半は粉々になり、宇宙を漂うただの石塊へとなり果てた。そして、その石塊は隕石となり色んな星へと降り立った。だが、不幸にもその隕石の中にはアムーの細胞がくっついていたものがあった」
「……マジすか」
焔はその意味が分かったのか、そう口にし、半笑いになる。だが、その意味に気づいたのは焔だけではなく、全員がもうすでに総督が何を言わんとしているのか、見当がついていた。
「もしかして、その細胞から再びアムーは蘇った……ということですか?」
茜音は恐る恐る自身の解釈を口にする。すると、総督は指をパチンと鳴らすと、茜音に人差し指を向ける。
「ご名答。そう、あろうことかアムーは別の惑星にて復活を遂げた。いや、復活というよりも複製というほうが正しいかもしれない。何と言ったって、現れたのは1つの場所だけではないからな」
「……なるほど。アムーの細胞付き隕石は他にもあって、アムーが各星々にて復活。そして、すぐに消滅。だけど、また同じようなことが連鎖的に起こる。生まれてはすぐに惑星を滅ぼし、姿を消す。だから、伝説の生き物だと言われている……と」
パチン
「またまたご名答。まあ、そういうわけだ。アムーを倒そうにも、そもそも見つけることすら困難という話だ。だから、こそ伝説の生き物とされており、今もなお私たちの知らぬうちに惑星を滅ぼしているかもしれない」
そこで、焔はなぜ総督が『らしい』という、曖昧な表現を使ったのか理解した。観測はされていないが、理論的には他の惑星でアムーが復活し、破壊活動を繰り返している可能性があるから、こういう表現をしたのだと。
「……だが、長年の成果ゆえに連合は3度だけアムーと対峙することに成功した」
「対峙って……まさか戦ったんですか?」
「ああ、そうだ。しかも戦ったのはごく最近だ。1度目は500年前、2度目は20年前、そして3度目が10年前だ」
「2回目と3回目はマジで最近じゃないですか」
「そう言っただろう、焔。そして、ここでようやく話を戻すことが出来る……こいつらがなぜ宇宙連合でトップの実力を持っているのかという話だが、それは3度目の超獣アムー撃滅戦にて、こいつら5人が多大なる戦果を挙げたからだ」
焔たちはその話を聞いてもあまり驚きはしなかった。それは薄々勘づいていたからだ。
「ハハ、なんとなくそう思ってましたが……マジすか?」
焔は未だに真実味が湧かないのか、シンに苦笑いを浮かべつつ、問いかける。
「ああ、本当だよ。いやー、思い出すな~。あれは相当きつかったね」
「キツイどころじゃなかったけどね。まあ、もう生きているうちにはあんなのとは戦いたくないね」
シンとハクは昔話をするかのようなテンションでアムー戦を振り返る。
「そうだねー。私ももうやりたくないよ」
「そういうお前は一番生き生きしてたけどな」
「ムっ、レオ……今私のこと馬鹿にした?」
「いーや、別に」
レオはペトラの鋭い視線に目線をそらした。
「ま、実際私たちはアムーを倒してないけどな。アムーを倒したのは総長。私たちはその支援をしただけだから、あまり威張れることではないんだけど」
ヴァネッサが放った『総長』という謎の人物。そのワードに再び焔たちの頭にはハテナマークが鎮座する。そんな雰囲気を察したのか、その謎を総督は順に紐解いていく。
「確かにこいつらは超獣アムーを倒していない。こいつらが倒したのは超獣アムーが生まれた時に発生する副産物、『死の軍勢』と呼ばれる生命体だ」
「死の軍勢……」
そのいかにもおっかない名に皆それぞれ妄想が膨らむ。
「そうだ。死の軍勢は超獣アムーを守るために作り出された兵隊みたいなものだ。その数は時間が経つにつれ増えていくから、非常に厄介だ。しかも、やつらは最低でもランクB以上、高いものだとSランクも混じっている」
「すいません、ちょっといいですか? そのランクとは一体……」
茜音は総督の話を遮るのは少し気が引けると思いつつも、知らない単語が出てきたため、一旦話を止めた。
「ああ、そう言えば、ランクの話はまだだったな。まあ、これは普通に強さの度合いを現す用語だ。ランクは全てで5つある。ま、我々を基準に考えると、ランクDは隊員1人でもけっこう普通に勝てるレベル。ランクCは隊員1人だったら、勝てるか分からないが、複数人いれば勝てるレベル。ランクBは隊員3人以上で、互いに連携し合わないと勝てないレベル。ランクAはきちっと戦略を立てて10人以上で対処しないと簡単にやられてしまうレベル。そして、ランクSは隊員100人の犠牲でようやく1匹倒せるレベル」
「100人って……怖すぎんだろ」
「もしかして……そんなやつもこの地球に現れたりとか……」
焔が苦言を呈した後、茜音はランクSの生物が地球にも来るのか、恐る恐る総督に尋ねる。
「いや、ランクSは見たことがないな。それに、これはあくまで指標だからな。ランクの中でも個人差はある。ランクCに分類されているのに、実力はランクBに相当したり、ランクSの中でも、ありえないぐらい強くて、一個旅団を壊滅させたやつもいたりとかな」
「一個旅団って……少なくとも1000人いるよな……おっかな」
「ああ、だから、このランクはあくまで最低基準だと考えてもらって構わない。まあ、ランクが低いからと言って、油断するなということだ」
「ハハ、そうします」
「フッ……では、話を戻すが、アムーを倒すにはこの死の軍勢の攻略が絶対不可欠。アムーは外装がとんでもなく硬く、外からの攻撃では歯が立たない。それにアムーの急所は体内にあり、その体内にある急所、コアを壊さない限り、爆発は止められない。さっき、ヴァネッサが支援をしただけだと言ったのは、アムーの体内にあるコアを壊したのが宇宙連合の頭のヴェルハルト総長であるからだ」
ここで、総長という人物が宇宙連合のトップだと知り、焔たちの頭から1つ疑問が解けた。
「で、本題に戻るが、こいつらがなぜ連合でトップの実力を持つかというと、この5人だけで、死の軍勢の3分の1を屠り、総長がアムーの体内へと入る手助けをしたからだ。その戦果を称えられ、こいつらは連合内での評価が高まり、トップクラスの実力者として認められたわけだ」
「なるほど」
「すごいネ!」
「すごい……けど」
「突拍子もない話過ぎて、何か妙に現実味が……」
「うん。なさすぎて、素直に感動できねえ」
サイモン、リンリンの2人はその話に素直に感想を述べるが、茜音、コーネリア、焔の3人はあまりにも次元が違いすぎて、とても頭が付いて行かなかった。
「フッ、まあ無理もないか……ま、こいつらがすごいのはいずれわかるだろう……と、そう言えば、こいつらの二つ名について話してなかったな」
「ちょ、総督その話するんですか?」
2つ名の言葉を聞くや否や、シンがいち早く反応し、浮かない表情で、総督の話を遮る。
「別に構わないだろう。お前たちはこちらの名前の方が知れ渡っているんだからな」
焔たち6人が不思議に思っている中、教官たちは明らかに嫌そうな顔を示す。だが、その顔を見た総督は余計に言いたくなったのか、そんな教官たちを無視して話始める。
「超獣アムー撃滅戦で、こいつらには戦場で戦う姿からある二つ名がつけられたんだ」
「2つ名ですか……(何かかっけー)」
「フッ、2つ名か……(僕も欲しい)」
男2人は二つ名というワードを聞き、厨二心をくすぐられていた。
「剣聖ハク」
「んー……剣聖は恥ずかしいなー」
(やだ、カッコいい)
(クール!)
「武神レオ」
「フッ、バカみたいな2つ名つけやがって」
(あら、カッコいい)
(クール!)
「
「……はあ、ふざけた名を」
(なにそれ、カッコいい)
(クール!)
「
「ほんと! 失礼しちゃうよね! 狂ってる姫って何よ、全く」
(これまた、カッコいい)
(クール!)
「そして……死神シン」
「……アハハ……はあ」
(何か……悲しい)
(クール!!)
自分の師が死神という2つ名を付けられていたことにどこか悲しみを覚える焔、それに対し、なぜかここ一番でテンションが上がるサイモンだった。