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第7章-3 冒険とトレジャーハンティング

 風姫達に作戦を教えてきたアキトは、頭を完全に切り替えていた。歩きながら思索の赴くままに任せ、ていた。無理に纏めようとせず、様々な前提や制約、リスクなどを次々と検討し、知的活動に没頭する。
 前提は全員の生存。優先順位はない。オレを含め等しく全員で生き残る。ヘルですらも、例外にはしないぜ。
 この前提を満たした上で、トレジャーハンティングに勤しむ・・・が、制約もある。
 TheWOCもヒメジャノメ星系にいるだろう。ヒメジャノメ星系でテラフォーミングしているのは、ここ惑星ヒメジャノメのみ。ならベースは、惑星ヒメジャノメの何処かに設営するはずだ。
 TheWOCが、どのくらい惑星ヒメジャノメに戦力を投入しているか分からない。だが今のオレたち以下・・・ということはあり得ないだろうな。
 オレたちは、TheWOCに発見されないよう行動しなければならない。行動の際は、常にTheWOCの存在を意識する必要がある。中々に厳しい制約だが、大丈夫だろう・・・と考えたい。
 アキトは立ち止まり、大きくタメ息を吐いてから呟く。
「お宝屋の能力は絶対的に信用してるが、行動は全く信用できねぇーからなぁ・・・」
 1日が20時間なら、生活リズムを惑星にあわせのが一般的だ。その方が身体的にも経済的にも優しい。それに効率的でもある。
 1日が15時間の惑星で5時間の睡眠をとるとすると、活動時間は10時間になる。疲れないから眠れない。昼近くまで寝ているから、日中の活動に支障が出る。生活のリズムが乱れ、体調が崩れていく。
 ならば、その惑星の昼夜を問わず生活できるようになれば良い。惑星上に、普段の生活空間用の巨大建造物を建築するのだ。大気のない惑星や宇宙空間と異なり、気密性を担保しなくても良く。いつでも建造物の外へ、自然の大地へと出られる。宇宙空間とは比べ物にならない程の自由度を確保できる。
 しかし惑星ヒメジャノメでなら、14時間活動して6時間の睡眠をとれば、惑星の生活に順応できるからだ。
 となると・・・。TheWOCは惑星上に巨大建造物を作っていない。つまり、オレたちがTheWOCのベースを捜しだすのは、まず不可能だということだ。
 ベースの位置が分かれば対応方法は簡単だったが、分からないとなれば常に全周警戒をせねばならない。半径200キロメートルの警戒網は構築したが、どこまで有効に機能するか・・・。
 警戒システムが敵を探知したら、戦略戦術コンピューターが瞬時に戦闘モードになる。探知から接敵まで、軍用機なら5分とかからないが、迎撃準備は整う。
 だがジンがいない。
 この状況で戦闘となれば、生き残るのは難しいだろうな。
 宝船に積んである機体は、民生品?・・・とはいえルリタテハ王国の最新技術が使用されてる。敵に性能差で負けはしない。
 だが敵は、民主主義国連合の巨大軍需企業グループのTheWOC。圧倒的な物量差があんだろうな。
「TheWOCの軍は、ワープアウトしてきた船だけだった・・・。なんて都合良くはねーんだろうな。まったく、トレジャーハンターになってからトラブルだらけだぜ」
 アキトの声色は絶望色に塗られ、沈み込み、ひび割れていた。
 しかし顔には、不敵な笑みを浮かべている。そして気持ちが昂っているのか、興奮している表情であった。
「今頃、千沙は調査に没頭してんだろうな。宝船を隠せそうな場所があればイイけど・・・」
 アキトの想像通り、千沙は調査に没頭していた。ただし、風姫の正体を知る為に・・・。
「翔太には宝船を最小エナジーで、精密に移動させてもらうぜ。わざわざオレが準備してやったシミュレーションだ。苦労してろっ!」
 翔太は苦労していた。ゴウとヘルを席へと移動させるのに・・・。
「無理やり感は満載だが、ゴウの統率力には期待してるぜ。窮地を脱するには全員が一丸とならねぇーとな」
 ゴウは期待通り、統率力を発揮していた。ジン打倒の先頭に立って・・・。
「マッドが接頭辞についても、ヘルは科学者だ。多大な知識と冷静な判断をもってんだろうな」
 無駄な知識をマッドな台詞でもって、お宝屋を煽っていた。ジンがルリタテハの唯一神であると教え、ワープ航路の開拓者だと称賛した。唯一神であることも開拓者であることも事実だが、称賛するような尊敬の念は欠片もないのに・・・。
 アキトはお宝屋のオペレーションルームの扉の前に立ち、生体情報をロイヤルリングから伝達して認証を受けた。
 扉が開くと同時に、待ち構えていた千沙がアキトの胸に飛び込んだ。
「アキトくん、王都に行っちゃダメだよ~」
「おいっ、いったい何がどうしたってんだ」
 翔太はアキトに質問の答えではなく、苦情を口にする。
「遅すぎるだよ、アキト。僕はお守り役じゃないんだけどなぁー。配役には、もっと心を砕かないとさ。今度、僕が演出の何たるかを伝授してあげるよ」
 シリアスな状況を想像していたアキトには、今のオペレーションルームには驚きしかなかった・・・。

 宝船のオペレーションルームに安寧をもたらす為に、アキトは多大な努力をはらい。それが漸く実を結び、会話のできる雰囲気になった。ただし詳細の説明を求められた。
「デスホワイトがルリタテハ唯一神だと? 俺は知らなかったぞ。どういうことなんだ?」
 翔太に至っては言うだけ言って、アキトに丸投げしていた。
「風姫さんて、お姫様なの?」
 密着させた体は離さず、千沙は顔だけ動かしアキトを見上げていた。
 千沙に抱きつかれたアキトは、心地よい柔らかさと芳しい香り、可愛らしい顔を間近にして言葉を発せずにいた。
 そこに、念押しするように千沙が願望を口にする。
「アキトくんは、王都になんて行かないよね?」
 ヘルは我関せずと宝船の端末にコネクトを置き、嬉々としてサブディスプレイに魅入っている。
 未だ抱きついている千沙の背を、アキトは指先で軽く叩き、落ち着いてと伝える。名残惜しそうな千沙に、穏やかな笑顔をアキトが浮かべると、腕がゆっくりと解かれた。
 アキトは穏やかな笑顔の裏に、翔太への罵詈雑言を隠していた。
 翔太のヤツ・・・。何が「僕はお守り役じゃない」だっ! オレだってなぁ。お守り役じゃねぇーんだぜ!
 千沙は大人しく、自分の定位置である情報統括オペレーター席に座った。
 ゴウは仁王立ちになり、アキトを注視している。嘘や誤魔化しは少しも許さないと、黒い瞳で語っていた。
 オペレーションルームの扉まで移動し背を預け、ライトブラウンの髪を翔太はかきあげた。そして、ブラウンの瞳を静かに閉じた。自分の出番は終わったとばかりに・・・。
 終わらせるかよっ!
 背後に陣取る翔太へ、振り向きざまに声をかける。
「でっ、翔太。何から話せばイイ? さあぁー、訊いてくれ」
 オレは踵を返すと、空いているオペレーター席へと進む。
 新造宝船でも船の全機器を監視できる席が、オレの定位置として用意されていたのだ。オレがお宝屋に戻った時に、技術者として利用する気でいるに違いない。
 まあ、戻る気はないが・・・。
「いやいや、僕が訊きたいことはないさ。ゴウにぃと千沙の質問に答え・・・。そうそう。アキトくんと風姫さんの契約って、永続的なものなのかな?」
「おおーっと、見事な手の平返しだぜ。ゴウと千沙に譲らないのか?」
「まあまあ、重要なことだからさ。教えてくれないかな? アキト」
「あっちは永続的だと主張してるようだぜ」
 アキトは他人事のように言う。
「あれあれ。相手の所為にするのは、どうなのかなぁー? もっとはっきり訊くと、彼女との関係を教えて欲しいんだけどね」
 千沙の頬が仄かに赤くなる。
「あっちの主張だと、主人と従者らしいぜ」
「言葉遊びは好きだけどさ。肝心なことだから端的に訊くよ。アキトは王位継承順位第7位、一条風姫のフィアンセなのかい?」
「間違ってんな。王位継承順位は第8位だぜ」
「アキトくん・・・」
 これ以上答えを渋ると千沙の心臓が持ちそうにないので、アキトは真実を告げることにした。
「ルリタテハ王国王家守護職五位に任命されたんだ。ムリヤリな・・・」
 ため息を1つ吐いてから、アキトは惑星コムラサキで千沙と別れた後の顛末を簡単に説明したのだ。
 千沙は羨望の眼差しで宙を眺めている。
 きっと千沙の中では、物語として壮大な装飾が施されているのだろう。
「・・・少なくとも命懸けの貢献をするまでは、一緒にいるのがオレの責務と考えてんだ」
 その話にゴウは呆れた表情を浮かべ、正論を述べる。
「そも、そんな契約は無効だぞ。命に関わるようなリスクがあるなら、事前に告知すべきだ。それが分かっていながら契約締結時に伝えないのは、情報提供義務違反だぞ。説明責任も果たしていない。トレジャーハンティングは、常に命の危険に晒されるため、依頼者には特段の注意義務がある」
「ゴウにぃっ! お姫様なのに自分の身を省みず、命懸けでアキトくんを助けてくれたんだよ。そこは絶対に重要なのっ!」
「うむ。では、アキトが一生従者になっても良いのか? 俺は困るぞ」
「それは・・・ダメだけど・・・」
「そうそう。アキトは、お宝屋に戻るんだからさ」
「待てぇーいぃ、適当言うな。オレはお宝屋に戻る気も、従者になって一生を過ごす気なんてサラサラないぜ。テメーらの都合を混ぜて、人の生活を定義しようとすんな。ジンからは、いつでも自由になれる。今はオレのメリットになるから一緒にいるだけだぜ」
 アキトが席に腰をかけると、ゴウと千沙が問い詰めるかのように質問を投げる。
「ルリタテハ王国唯一神とか?」
「お姫様となの?」
「そうだぜ」
 ゴウの口振りからは、ジンに対して含むところがあるのを感じ取れた。
「アンドロイドとか?」
「史帆さんとなの?」
「ああ、そうだぜ」
 千沙の口振りからは、ユキヒョウの女性乗組員に対して含むところがあるのを感じ取れた。
「シュテファン・ヘルとか?」
「彩香さんとなの?」
「ああ、そうだぜってっ! くどいっ!! 時間の浪費が、後々問題になるかも知んねぇーんだぜ」
「でもね」
 まだユキヒョウの乗組員構成に口を出すのかと、アキトは視線を千沙に向けた。しかし千沙の
「一番遅かったのはアキトくんだよ。何してたの~?」
 アキトは千沙から、思いっきり顔を叛けた。首の限界点で、ゴウと視線が交錯したので、これ奇貨としアキトはゴウに問う。
「良く、ヘルを連れてこれたな」
 幸いゴウは話に乗ってきてくれた。
「簡単な事だぞ。こういう輩は、するなとか、ダメとかの否定でなく、追加のご褒美をあげれば良いのだ」
「我輩は子供か?」
 ヘルが顔も上げず、禿げ頭を向けたまま反論を口にした。しかし、その協調性のない姿は子供といっても過言ではない。
「まあまあ、大人も子供も損得で動くものさ。大人は義理と人情、契約に縛られるから、そう見えない時があるけどね」
「ああ、なるほど子供だからか。納得だぜ」
 ヘルは宝船のサブディスプレイからアキトに顔を向け再反論する。
「ちっがぁーーーうっ。貴様のように中途半端な探究心ではなく、我輩は全身全霊で宇宙の謎に挑んでいるのだ。決して・・・」
「子供みたいだよ~」
「そんで、ご褒美は何なんだ?」
「うむ、ヒヒイロカネ合金の組成情報だ」
「いいのか? それって重要機密だぜ」
「今更、変更はぁあああ、ぜっっったいに許さないのだっ。もしも約束を反故にするなら、宝船の装甲板で強度テストを実施するぅううう。し、か、もぉーっだ、分析解析テスト分析解析テスト分析解析テストを繰り返しまくって、必ずや組成情報を明らかにしてみせるのだぁああああ」
「構わんぞ。俺は約束は守る男だ。すでに許可も取ってある」
「それでぇーはっ、我輩の知識と知恵を披露してやろう。さあ、ほれ。ほれ、早く尋ねるが良い」
 ヘル、めんどくせぇー。お宝屋の倍以上の扱い難さだぜ。
 知恵も提供させるつもりでいたけど、オレが我慢できそうにない。怒りで頭のキレを鈍らせるよりは、知識だけ吐かせて、さっさと臨時研究室にでも籠もってもらおう。
「さて、と。今後のトレジャーハンティングの方針と計画について、議論を始めようか」
 アキトは会議の開始を宣言したのだった。

 宝船のメインディスプレイに周辺地形図を映し出し、重力波分析の結果を上に重ねて表示していた。
「うむ、候補地は3ケ所だな」
「いやいや。ゴウ兄、4ケ所さ。ここを忘れてるよ」
 翔太の言う通り、この場所も候補地である。
 大気圏突入時にアキトはGE計測分析機器を使用して、重力波異常の顕著な位置を探しだしたのだった。その中でも、ここは広い草原で着陸が容易だった。
「だが翔太よ。ここは、野生動物の襲撃に備えるなら絶好のポイントではあっても、TheWOCと戦火を交えるには不利だぞ」
 まず、戦闘を回避する方向で考えようぜ。
 だが、ツッコミは入れない。絶対に入れない。
 開幕されたお宝屋劇場にオレまで巻き込まれてたまるか。暫く静観してから、議論が充分に煮詰まった頃を見計らって意見をだす。そうでなければ
「まあまあ、ゴウ兄。この広い惑星ヒメジャノメで300メートルの船を見つけるのは至難の業だよ。宝船の通信装置から送信でもしない限り、ここを発見するのは無理さ。だから、戦火を交えることはないよ」
 送信はするんだよ。
 送信しないで、どうやってジン達と連絡を取るつもりなんだ?
 ジン達が迎えに来れないような場合になっていたら、ルリタテハ王国軍が出撃するだろうぜ。そん時、どうやってオレたちの無事をルリタテハ王国側に知らせるんだ?
 それにだな。昨日オレたちが警戒網構築した時、短距離通信用とはいえ盛大に無線連絡を取り合ってたろうが。
「TheWOCが物量作戦で包囲してくれば反撃は難しく、突破しての退却も無理だろうな。ここは人工衛星から偵察でもされれば、瞬時に見つかるぞ」
 だ、か、らぁ・・・。人工衛星に発見されないよう宝船の上に光学迷彩を展開してんだろって。トレジャーハンティングの何に使用するため、光学迷彩装置が宝船に搭載されいるのか知らねぇーけどなっ。
「いやいや、それは大丈夫さ。軍事用の光学迷彩装置でカモフラージュしてるしね」
「おおっ、そうだったな・・・。うむ。ならば、もうここでも良いぞ」
「待てよ、ゴウ。しっかりと検討すべきだ」
 我慢の限界に達したアキトが口を開いたのだ。そして言葉を続け、自論を展開する。
「ここより他の3ヶ所の方が、敵のレーダー索敵に引っかかり難いぜ。光学迷彩なんて、衛星の眼を誤魔化すぐらいしかできない。敵が200キロメートル圏内に入ってくれば、まず発見されるぜ。森の峡谷の近傍が安全だとオレは考えてる」
「でも、アキトくん。そこだと、暗いしジメジメしてるよ・・・」
 千沙は警戒網を使って候補地の調査をしていた。
 それが分かる発言だったが、議論のポイントを外しまくっている。
「他の3ヶ所の方が安全とは限らないぞ。移動することによって、敵の索敵システムに察知される可能性もある。わざわざリスクを冒す必要はないぞ。移動するのも面倒だ」
 流石にゴウは、しっかりと議論のポイントをついた発言をしたのだが・・・。最後の台詞で、本音をダダ漏らしていた。
 アキトは風姫達と自分自身の為にも、最善手を打っておきたい。それには、敵の情報を共有するべきと考え、さっきから一言も発していないヘルに声をかける。
「おい、ヘル・・・。ヘ、ヘル?」
 アキトは全然反応を返さないヘルに視線を向けた。
 どうやら、ゴウから手に入れたヒヒイロカネ合金の組成情報に夢中なようだ。
 顔を動かさないヘルの許までアキトは突進し、サブディスプレイに手を付いて情報を遮ったのだ。
「おいっ、シュテファン・ヘル!」
 すぐ傍で大声を出し名前を呼んたが、それでもヘルは顔を動かさない。
 サブディスプレイに表示されているヒヒイロカネ合金の組成情報は、すでにヘルの頭の中にある。今は宝船の限定人工知能量子コンピューターを相手に様々なケースを検討しているのだ。それはコネクト経由でルーラーリングで双方向通信で実施しているため、自分を外側の世界から隔離しても問題ない。むしろ隔離された方が集中でき、ヘルにとって都合が良いぐらいなのだ。
「我輩は、すでに義務を果たした。打ち合わせが終了するまで勝手にさせてもらう」
「そうだ、ヘルよ。宝船の装甲板で強度テストをしたいんだよな? ヒヒイロカネ合金の組成情報だけで満足か? ヒヒイロカネ合金を使って色々な実験をしたいんだろ。宝船には補修用の装甲版のストックがあるぞ。どうだぁあ・・・。実験したくないか? 実験したいよなぁあああ?」
「なんだとぉおぉおおおーーー。実験するに決まっているではないか。それ以外あり得ない。ぜっっったぁいに、我輩は実験をするぅううう」
「そうだな。では、交換条件だ。この会議に、今から積極的に参加しろ。そして、まずはアキトの問いに答えるのだ」
「我輩に何を望むのだ。さあぁああ、告げるが良いっ!」
「TheWOCが惑星ヒメジャノメに投入している戦力と、索敵能力をどう評価したらイイ?」
「ユキヒョウと同レベル。そう考えておけば問題はないだろうな。The
WOCは軍用品を運用してたようだが、技術力ではルリタテハ王家とでは勝負にすらならん。ルリタテハ王国のトップメーカーとだと比較にすらならん。我が輩を放逐したツケであるな」
 そう言いながらヘルは、メインディスプレイに膨大なデータを表示したのだ。ヘルの専門はダ???クマターの????のはずだが・・・。
 表示されているデータは、民主主義国連合の軍事情報に違いない。
 声に出すとヘルが勝手に盛り上がりそうなので、心の中でツッコんでおいてやる。
 いいかテメーが残ってようがいまいが、TheWOCの技術力向上には寄与しねぇーぜ。
「ふっはっはっははーーー。宝船はルリタテハ王国の最先端技術と、量産の目処すらたっていない開発したての技術で建造されたのだ。トレジャーハンティン???用恒星間宇宙船の中では、あらゆる面で間違いなく1番だぞ」
 それって実験台じゃねぇーか?
「居住性が犠牲にされてるよ~ お風呂が1つしかないもの」
「うむ、居住性の除いたあらゆる面で1番だ」
「いやいや、ゴウ兄。七福神の攻撃力は良いとしてさ。宝船の武装は火力不足だと思うよ」
 翔太は何処を目指しているんだ? 宝船を海賊船にして、貨物船相手にトレジャーハンティングをするつもりか? 
「そう1度に解決しないぞ。コツコツと実績を重ね、必要性をアピールする。そうして、宝船の攻撃力不足を理解してもらわねばな」
 いったい何の実績を、コツコツと重ねるつもりなんだ?
「我輩には、宝船の限定人工知能への強制介入権限が必要だ。今の権限では我輩の演算要求の優先度が低すぎて、量子コンピューターの性能をフルに使用できないのだ。これは由々しき事態なのだ」
 ヘルの限定人工知能量子コンピューターへのアクセス権限は、オレが設定した。ゴウが権限付与を設定する前に、オレがその話を聞きつけたからだ。
 あのままゴウに設定を任せていたらと考えると、全身に悪寒が駆けめぐるぜ。
なんせ警戒網と同等の権限を与えようとしていた。先に量子コンピューターへ命令して、リソースを確保した方の演算が実行される。つまりヘルが量子コンピューターに負荷をかけ続けていると警戒網が何かを探知した際、分析に支障をきたす。探知した何かが敵なのか、惑星の生物なのか、ジン達なのか判断できないということだ。
 さあ、必要な情報は出揃った。
 あとはゴウがオレたちを牽引するはずだ。
 オレは殺し文句を放つ。
「いい加減、決断しようぜ。オレはゴウの決定に従う。異論は唱えないぜ」
 ゴウはヘルの表示した軍事情報をサブディスプレイに移動させ、再度宝船の周辺地図をメインディスプレイに映した。そして徐にサブディスプレイの1点を指差す。
「おいっ」
 オレはゴウにツッコんだ。
 そこは、さっきオレが提案した場所だったのだ。

しおり