Documento
応接間とは違う和室にて。部屋に似つかわしくない洋風テーブル席。
そこにはキャメロン達と刃親子が食事を摂っていた。
テーブルには、青ネギがトッピングされた鹿肉のソテーとフランスパン、ワイングラスに入った水がそれぞれの前に置かれている。
射命は手を止めて、キャメロン達に"とある"話を切り出した。
「朝にも話したのだが、もし神隠し関連で調査をするならば、山林に入ってもらっても構わないよ。」
「ええ!!良いんですの?」
「ああ、住民達のためにも神隠しの真実を知りたいからね。」
「原子力発電所は行っても構わないのか?」
「まあ、良いよ。村長も早期解決をお望みだろうから。」
「少し質問するが。この村の"人口統計"と"歴史"の資料はこの家に保管されているのか?」
「もちろんある。倉庫の本棚に置かれているから是非とも。」
彼らの話している傍では、花菜は美味しそうにソテーを頬張り、オハナはそのトッピングの青ネギを盗み食い。
幸葉は食事の手を何度も止めながら、父親の話を静かに聞いていた。
すると、その様子が気になったのか、花菜は彼女に声を掛けた。
「ねえ………食べないの………?でないと…………オハナが………全部食べちゃうかも……………」
「えっ、あっ、食べますよ、もちろん。」
この二人の間に気まずい空気が漂う。二人は話すことが無いので、ただただ緊張の表情を見せ合う。
「………花菜君、食事の後にちょっと来てください。」
「うん……………」
そうして二人は一緒に食べ終えて、幸葉は父親に「花菜君と遊んでくる」と言って、彼を自分の部屋に連れて行った。もちろんオハナも付いて来ている。
幸葉は召使いに「誰も部屋に来させないように」と言伝して、襖をぴたりと閉じた。
「自分よりも年上の人に言いたくない話なので、ここに連れて来ることにしました。」
「キャメロンにも………水蓮さんにも………言いたくない話……………?幸葉さんの……お父さんは…………知っている話なの………?」
「はい。ですが、自分と歳が近い子どもと共有したいので。」
「何の………話……?」
彼女は間を置いて、こう話し始めた。
「実は私─────母親が居ないんです。」
「うせやろ!?仕事行ってるんかと思うたわ!!」
「オハナさん!!しーっ、です!!」
「そうだよ………せっかく……別の部屋に……移してくれたんだから…………大きな声……駄目………」
「あっ、すまへん!」
「それじゃあ、続きを話しますね。」
先程言いました通り、私には母親は居ません。その理由を全て話しましょう。
五年前のことです。この村にある小学校に通っていました。今は廃校にされていますが。
母と一緒に料理を作って父を驚かそうという約束をしていたので、期待しながら家に帰りました。
手も洗って母の元に行くと、彼女は電話で誰かと話していました。
『………が…………している……………ますよ!!』
その頃の私は大人の事情などは気にならず、そのまま聞き流していましたので、彼女の話している内容など分からなかったです。
『………ました。今すぐ。』
電話が切れる音がして、彼女は襖を開けました。
『あっ、幸葉。おかえり。』
『ただいま………ねえ、お母さn』
『ごめんだけど幸葉、今日はお父さんにサプライズできないかも。』
『えっ。』
『今から出掛けるから、鍵閉めたままにしておいてね。あと───』
『召使いさん達に"全ての部屋の電気を消して"って言っておいてね。』
『………うん。』
彼女が出掛けたすぐ、言われた通りに召使い達に全ての電気を消してもらいました。
実はその時、私は召使い二人に別館に付いてもらい、父が帰ってくるまで彼女達の傍で寝ていました。
今思えば、召使い達全員が何かを察したかのように行動していましたね。それが何なのかは未だに分かりませんが。
その日も次の日も、一週間経っても年が明けても、そして今でも母は帰って来ません。
「ざっとこんな話です。」
「……………ねえ、僕、話したいことが、あるんだ。」
花菜は幸葉の話を聞いて楽になったのか、ボソボソのゆっくりな声調ではなく、詰まりながらも普通の声の大きさで話すようになった。
「僕ね─────お父さんも、お母さんも、どちらも、居ないんだ。」
「えっ。じゃあ、施設育ちってことですか?」
「うん、そうだよ。事情があって、施設を、抜けたんだ。オハナを、連れてね。」
「えっと、それはキャメロンさん達には既に言っているんですか?」
「いや、言ってない、よ。だって、言ったら、連れ戻される、かも。」
「たとえ花菜君であっても、キャメロンさん達のことはまだ半信半疑なんですね。」
「そうだけど、僕の親代わりに、なってくれてるし、お兄さん、お姉さん代わりにも、なってくれてる。」
「キャメロンさんはさぞかし頼りになるんでしょうね。」
「うん、強いからね。」
そして、また部屋が静かになってしまい、お互いに顔を見合わせるだけで話さない。
しかし、その静寂に切り込んだのは───
「ねえ、幸葉さん。」
花菜だった。
「ん?どうしました?」
「こんな話、したら、混乱するかも、しれないけどね。」
「何でしょうか?言ってください。」
「──────────じゃないの、かな?」
「はっ、はいぃ?」
「花菜!あんたぁ、本気で言っとるんか!?」
花菜の言ったことは幸葉を困らせる内容であった。あのオハナでさえも驚きを隠せないくらいの。
「だってさ、"キャメロンなら"、そう考えるからって、思ったから。」
「だとしたら………!!」
「そうだよ、かなり、駄目な状況、かも。」
「だったら!父上に言っておかないと!!」
すると、花菜は眉をひそめて首を横に振る。
「駄目、だよ。まだ本当か、分からないし、これは、僕の予想だし。」
彼は顔下に向けて、しゅんとした表情を見せた。
そう、花菜の言ったことが確実とは限らない。もしかしたら勘違いという可能性もある。
「………確かにそうですね。早とちりはいけませんもんね。」
またもや静寂が部屋を奔った。
和室ではキャメロン達は既に食事を終えて、話の続きをしていた。
「原子力発電所では何も現れないのだろうか。」
「動物かな?それとも怪物とか?」
「後者だ。」
「そうだなー………僕の知る限りでは居ないとは思うけど、一応武器は持っていった方が良いと思うよ?」
「了解した。水蓮、貴様は資料を調べていろ。俺は出掛ける。」
「勝手に決めないでくださいます!?私だってあの塔を調べたいんですのよ!!」
「貴様が家に居なかったらどうする。花菜はまだ幼いから難解な内容を理解できるか分からぬし、幸葉の方も資料を入念に調べてくれる"お姉さん"が居ないと意味が無いだろう。」
「ちっ………仕方ないですわね!!頑張りますわよ!?」
「うむ、任せたぞ。」
そしてキャメロンは立ち上がって、別館から斜め掛けの鞄を取りに行って玄関に向かう。
「夕方まで帰って来るんですのよ!!」
「そんなこと、言われなくても分かってる。じゃあ、行ってくる。」
まるで妻が夫を見送るかのような、射命はそう思って微笑んだ。
玄関を出て、歩きながら周りを見渡す。刃家は村の少し奥にあるが、原子力発電所はそれよりももっと奥に存在する。
歩きながら風景を"嗜む"という訳では無いが、特に目のやり場が無いので。
田んぼ道を通って行くと、左には竹林が、右には森林が茂っている。
目的の場所に近付くにつれて住宅は見えなくなり、辺りは枯れた森林や倉庫の残骸(らしき)が見える。
しかも、その原子力発電所がある区画だけは天候が悪くなっている。今にも雨が降りそうだ。
ならば、と彼は急いで発電所の入口付近に駆け込んだ。
それに呼応して、雨が激しく降ってきた。もう少しで唯一持っている一式を濡らしてしまうところだった。
「間に合って良かった………」
建物の中に目を向けるととても暗い。天候も悪いのも原因だ。
しかし真っ暗という訳ではなく、窓のおかげで少しだけ内装が見える。
「あらかじめ懐中電灯を持ってきたから良いか。」
鞄から小さな電灯を取り出し、電源ボタンを押した。明るくなる範囲は狭いが、無いよりかはマシだろう。
周りを明るくしてみると、どうやら上と下に別れている階段がある。
「まずは下から行ってみるか。」
錆びた階段をゆっくり下りて行く。崩れ落ちている部分もあるので、気を付けないと一気に全てが崩れるような気がするのだ。
階段を下りきって灯りを周りにかざすと、部屋がやけに狭く、置かれているのは稼働装置らしき大きな機械。
「もう一つ、装置があるはずだが………上に置いてあるのか?この発電所の広さであれば、五か六ぐらいだろう。」
何か役に立つ部品がないか、装置の周りを弄ったり叩いたりするが、反応はないし何も出てこない。
「うむ、やはり上に行った方が良いか。できれば事件に関するものが見つかれば良いが。」
またゆっくりと階段を上り、今度は二階の方に向かう。二階への階段はあまり錆びておらず、少し駆け込めば、ぎしっと鈍い金属音を出すだけだ。
「ん?」
二階の部屋に入るとそこそこ広い。そして、三階に続く階段と何処かに続く廊下がある。
この部屋にあるのは、プラスチック製の植物とニス塗りのベンチだけだ。おそらくここは休憩所だったのだろう。
「まずは上に行った方が良いのか?廊下の向こう側も気になるのだが。」
しかしここで彼は考える。廊下側には"何か"秘密があるのではないのか。
何故、廊下に続くのか。例えばよくある場面だが、"陰に寄せている場所"は特に怪しい。
もしかしたら敵が現れるのかもしれないのだから、廊下側は後で見に行くことにした。
とその時、何かがふわっと彼の後ろに通った。振り向くも誰もいない。気のせいだったのだろうか。
「………次行くか。」
三階への階段は新品の鉄筋でできていた。どうもおかしい。地下や二階への階段は錆びている。何故か三階への階段は"取り替えられている"ような感じがするのだ。
(誰かがここに来ている?しかも何故、この階段だけなのだ?)
その疑問が頭の中に渦巻きながらも、彼はゆっくりと上って行く。もし上に何かしらの敵が居たら───
「ん、居ない。」
人影一つも見つからない。しかしその時、彼を驚かせる光景が広がる。それは─────
「何かが入っている………?」
大きな丸いガラス管の中に、淡い青を放つ物体が入っている。一体何なのかを知りたいので、階段近くの壁の後ろで銃を構え、物体にぶつからないように二三発撃った。
ガラスの破片が床に細かく散らばり、部屋の壁にキズを入れる。もし隠れていなければ大惨事だった。
ガラスを踏みながら近付いて行く。そこに置かれていたものというのは─────
「これは………石、なのか?」
不定形で大きめの透明度の高い石。
「どこかで見たことあるようだが。割ってみるか。」
再度、階段付近の壁に隠れて、今度は五発撃つ。すると石は青い光を放たなくなり、部屋が暗くなった。
灯りを付け、石に光を当てた。だが、そこには先程の石とは全く違う物質があった。
「は?どういう事だ。」
青く光ってたはずなのに、今度は"赤い宝石"に変わっていたのだ。そう、フリーヨ諸島で見つけた、ヒジリが隠し持っていた"アノ"宝石である。
「何でこんなところにあるんだ?しかも、さっきまで青かったはずだ。」
そこで、あの研究者の言っていたことを思い出した。
『うむ………それはちょっと教えられないな。こちらは一般人にはこなせない依頼を任されているのでね。特にこれに関してはな。』
確かにそうだった。この宝石は裏で何かしらの組織と繋がっている。研究者も関係がありそうである。
「持っていった方が良いか。俺もこれがどういうもので、どう関係するのかが知りたい。」
砕けた一部の宝石を鞄の中にしまい、入っていた装置も探ってみたが、他には何も見つからなかった。
ただ手で舞った埃が部屋中に広がっただけだった。
「ここにも宝石以外、何も無いのか………」
上に続く階段にも上ったが、ただの屋上で何も無かったので二階へと戻った。
残るは廊下の先にある場所。廊下に足を入れると、ぎしっと板が軋む音がする。
廊下は喩えるなら、木造校舎の渡り廊下のようである。
外の景色が全て見え、雨の地面を打つ音が激しく聞こえる。
曇り空は未だに晴れず、雨が止む気配が無い。
屋根から雨が染み込んで、床にぽたぽたと落ちていく。
濡れている部分、雨漏りしている部分を素早く避けて、一気に目先の建物に駆け込んだ。
「ふぅ………濡れるのは嫌だな。早く止んでくれないものか。」
服に水滴が付いていないかを入念に調べてから、建物の中に入ろうとしたが、すぐさま立ち止まった。
鉄扉の先に、何か禍々しい雰囲気が感じられるのだ。
ドアノブに手を掛け、左側にひねて内側に押してみる。
ヒュー…………ギィイ……………
扉の番が、重く高く鈍い音を発する。
隙間から奥を覗いてみると全く辺りが見えない。電灯の光を隙間に差してみる。
手すりとガラス球らしき物体が見える。もう全体を見ようと強く扉を開けた。内側のドアノブは壁に激しくぶつかる。そこにあったのは───
「これは、本体なのか?」
巨大なガラス球で作られた原子炉。その中には砕けた大きな"アノ"宝石。散らばった砕片は氷のように壁に張り付いている。
中に足を踏み入れようとすると、何かがつま先にぶつかった。下の方に目を向け、ライトをかざしてみた。
「はっ………!?」
人骨の頭部が転がっていた。その傍には細かい小さな骨も乱雑に置かれている。
「まさかっ!!」
壁のスイッチを押してみた。どうやらここだけは電気が通っているようで、回路がブォーンと鳴った。
そう"彼の想像通り"であった。
確かに大きな装置や赤い宝石、深緑色の壁、崩れかけた手すりがはっきり見えた。
しかし前文が問題ではない。問題なのは─────
「何故こんなところに大量の人骨があるのだ!?」
廊下や下り階段にびっしりと人骨が散らばっていた。その中にはまだ肉片や血が付いている骨が多数あった。
こんな悲惨な光景を水蓮や花菜に見せていたら、どうなっていたか予想できた。連れてこなくて良かったんだ。
「……………?」
また何かが後ろにスっと通る。振り返っても誰も居ない。だが、目線を前に向けようとした時、やっとその正体が分かった。
そう、幽霊が。目が無く奥が虚ろな男性が、こちらを見ていた。
(こやつ!!ずっと俺を付けていたか!?)
すると、男性はキャメロンのことに敵意を持ったのか、キッと睨んで下へ逃げた。
キャメロンは悪さをしないただの霊だと思っていたのだが、相手は何を思ってか敵と見なしていたのだ。
男性はキャメロンに危害を加えようと、下の方に行ったのだが、その目的は「赤い宝石に触れること」。
霊体であるため、ガラスを通り抜けて宝石に触れた。
キャメロンはもう用はないと、電気を消さずに帰ろうとしたが、その刹那─────
ガラス球が割れ、宝石の方に沢山の人骨が集まっていく。
人骨はそれぞれ身体の部位となっていく。短い腕に大きな爪、尻尾。いかつい獣の顔に、カギ角。目から溢れる水色の霊液、口から漏れている灰色の霊炎。
その姿はまさに禍々しい神竜である"ルティーヤー"だ。
「そうか、貴様がその気なら俺が相手してやる。」
次にどうするかを既に決めていた。ドアを閉め、電気を消した瞬間に、霊炎が竜の口から放たれた。
それを軽やかに避け、床を滑るように走る。霊炎は彼のいた部分を徐々に凍りつかせていく。
(氷系統の攻撃か。ならば、物理攻撃か炎系統の特殊攻撃しか無いな!!)
霊炎をキャメロンの方へとまたもや放たれる。その攻撃も躱し、階段の手すりから一気に下の床に飛び降りる。
上は既に鋭い氷柱が生えており、階段までも凍りついていく。
このままだとキャメロンのいる場所も、そして彼自身も霊炎の餌食になってしまう。
「くっ!!ひとまずこの部屋に!!」
階段近くの装置制御管理室。滑り込みで部屋へと入り、扉を閉めて鍵も掛けた。
霊炎は思ったよりも弱く、部屋の中まで氷は入って来なかった。
「間に合ったな。」
鞄から銃を取り出して扉の錠を外し、開けようとしたが、なかなか開かないのだ。
「外側から凍ってしまったから出られなくなってしまったな………困ったもんだ。」
外から冷気が流れてくるが、キャメロンは何とも無い。というのも、そもそも"冷温すら感じられない"特殊な人間なのだから。
錠を元に戻し、次の方法を考えた。言っておくが、今の彼が使っている金属板は普段使っているのと同じで、鞄には予備の弾が無いし、宝石を壊すための炎系統の金属板も持ってきていない。
そのため、部屋の中に金属の破片が無いか探してみる。
木箱の中、道具箱の中、麻袋の中を探して、ようやく普通よりも小さい金属板を一枚見つけた。
「これしか無いなら、一度で技を決めないといけないな。」
遊底部分を取り外し、既存の金属板を鞄に仕舞った。そして小さな金属板をそっと入れ込む。
これで準備は整った。後は引き金を引くだけ。
相手も自分が出てくるのを待っている。いや、寒さで死んでいると思っているのかもしれない。だがそう思って貰えると"有難い"。
部屋の外では竜が彼への攻撃を準備している。要は霊炎を貯め始めているのだ。
キャメロンは引き金を引いた直後─────
「ふん!!」
錠もろとも扉を強く蹴飛ばした。その扉は彼の力によって激しく折れ曲がり、ちょうど竜の口にハマった。そもそも全てが骨でできているため、可動範囲が狭く、口も大きく開けられるはずがない。
竜の隙間という隙間からは霊液が"水をかけられたドライアイス"のように溢れんばかりに漏れていく。
「戦う相手を間違えたようだな、"霊テ公"が。」
キャメロンは菊のレリーフが刻まれた紫色の銃を、竜の心臓部である赤い宝石に向ける。
竜はもう霊炎を溜め込むのに限界で、そろそろ爆発しそうである。
「もう俺に近付くんじゃねえぞ。」
彼はそう言い放って、引き金を再度引いた。銃口から出てくるのは"炎に包まれた釘"。
ピキっ………ピキピキピキっ………
釘はちょうど心臓に刺さり、徐々に亀裂が入っていく。更に炎が宝石を燃やしていく。
そのおかげか、亀裂は少しずつ早く大きくなっていく。
そして─────
バキバキっ!!
宝石が細かく砕かれ、床に飛び散った。それと同時に竜の身体も崩れていく。骨の雨が降り、霊液は霧のように消えていった。
「結局、何だったのだ………」
彼にもう一つの疑問が執着した。
その頃、刃家の別館では。水蓮は幸葉に教えてもらった資料を見ていた。
左側に歴史書、右側に人口統計資料。歴史書は大きく少し重たい。
歴史書をめくってみると、白枠のカラー写真が1ページに2枚ずつ載せられている。
住宅地が無く、田んぼばかりが写っている写真。賑やかな商店街の写真。竹林で筍を掘り出せて、嬉しそうに掲げる笑顔の少年の写真。原子力発電所の建設現場の写真。桜が綺麗に散っている写真。
どれも皆、この村の昔の光景である。それが今となっては人の出入りや外出が少なくなり、外から来る人間に顔を出さない。
「あれっ………?"この年"と"この年"から人口が減ってきている?」
水蓮が気になったのは、"原子力発電所が稼働してから三年後の年"と"原子力発電所が使われなくなってからすぐの年"である。
「確か、発電所を使わなくなってから太陽光発電を始めているみたいですわね。しかも別の会社に頼んで………」
刃家に行く時に見た住宅の屋根を思い出す。全ての家に設置されていた。もちろんこの家にも。
「気になりますわね。射命さんに聞いてみましょうか。」
花菜とオハナを置いて、射命の居る本館の応接間に行った。
「すみません!!失礼します!!」
「おう、どうしたんだい?」
「聞きたいことありまして………」
「言ってごらん。」
「この村に原子力発電所を建てると決めたのは誰なんでしょう?」
「ああ、村長だよ。あの人はいつも村の皆に親身でね。しかも資金は彼が自己負担したんだ。」
「そ、そうですのね。自己負担なんてとんだ博打のような気がしますけど………」
「僕も思ったさ。でもね、『住人の代わりに儂が全部出す!!』って頑固に言ってね。」
「はっ、はあ………」
「村長は本当に太っ腹だよ!イベントの資金も彼が出すし。あっ、でもこの頃は開催されてないな。」
「どういうことですの?」
「原子力発電の事故が起きてから全くやっていないんだよね。僕は毎年楽しみにしていたけど。まあ、住民の心を癒すためにやってないんだろうね。本当に親身な方だよ、あはは………」
「……………」
水蓮は顔を引き攣らせ、メモに言われたことを書いていた。真っ青のまま、別館に戻って行った。
「どうしたの………?水蓮さん…………顔色………悪いよ……?」
「何か食べ物でも中ったん?」
「いや、何でもないですわ……………」
急に水蓮が口数少なくなった。そして、歴史書と人口統計資料をもう一度精読する。キャメロンと同様に頭を働かせ、自分の考えている関係図と出来事を繋いでいく。
そこで彼女は大きく目を見開いた。見つけたのは─────とある会社。
そう、原子力発電所を造った会社。彼女はその名前とそれが直営している組織名を"知っていた"。
「水蓮さん………?」
彼女は本を閉じて、花菜に顔を向けてこのように言った。
「早く解決しないと、状況が悪化してしまいますわ。」
オハナは何のことかは理解していなかったが、花菜はその雰囲気で感じ取った。