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El lado oculto

都市伝説(あるいはcreepy pasta)。オカルトの中でも人々が"最も興味深く聞いてくれる"部類の内容。
使い方はかなりの広範囲で、夏のお泊まり会の雰囲気を盛り上げたり親が子どもを怖がらせたりと、一般人でも馴染み深い。
その都市伝説の中でも"とある"国では森や山に興味本位で入らないように、"神隠し"という都市伝説で村人達を言い聞かせていた。
実はこの禁索の世界でも神隠しは存在する。もちろん都市伝説も。
その神隠しの一部をここで記そう。



とある村に数百人の世帯が住んでおりました。彼らは世界共通言語を話していましたが、独自の文化や伝統・宗教を大昔から守り続けていました。
しかし外部から人の出入りが少ないので、村人達は観光客を呼び寄せるために店を多く建設し、住宅地を美しく改築しました。
お陰で村の人口が増えていき、高層ビルも少しずつ建ち並び、その範囲も広がりました。
更に電力を最大限に供給するために、都市圏の大手企業と契約し、村に子会社を設けました。
村には塔の形をした原子力発電所が建てられ、世帯の生活を豊かにしていきました。
しかし、その五年後に急激に人口が減って行きました。その多くは子どもでしたが、大人の女性男性も消えていきました。
村人達は疑問に思っていましたが、思い当たる節があったのです。
実は大昔からその村の山奥に神が一柱住んでおり、その地域一帯を守っていました。大きな祠が立てられており、人々もみな、お供え物を持って祈りを捧げていました。
しかし最近は誰も山奥には行かず、しかも森林伐採が行われているため、山の神が怒って神隠しをやっているのではないかと思っていました。
実際、神隠しは昔からありますが、みな一週間で村に戻って来るので、そこまで心配はありませんでした。
だが今回は違う。みな消えて、戻って来ない。
それ以来、住人達のほとんどは必要な限りは出掛けませんでした。
しかし、ある日。その悲劇は突然起きた。


【原子力発電所の燃料が臨界点を達し、その危険物質が放射された】のだ。


町内放送で避難勧告が出され、村人達を別の村に移動させた。
その時の死者は作業員二人(企業からの派遣社員)で、幸いにも村人数百人は怪我で済んだ。
村人は「やはり山の神がお怒りなのだ」と確信し、一時期は村へ戻ることを禁じた。
しかし帰って来ても、数千人居た住人はまた数百人に逆戻り。
建てられた高層ビルには誰も立ち入らず廃れていき、原子力発電所として使われていた塔には誰も働いていないのでもぬけの殻。残っているのは燃料を入れていた槽だけである。
村は前のように栄えなくなり、人の出入りも昔以上に無くなってしまった。
それでも一年に二回も神隠しが起きている。まだ山の神がお怒りであるのだろう。



……………と言う話なんだ。よくある話だと思うが、神が人間に呆れて災厄をもたらした。
まさに"触らぬ神に祟りなし"。恐ろしいものだ。





キャメロン達は大陸本土に戻ってからすぐに、前と同じ宿の予約を取って、街中の小さなレストランで食事をしていた。もちろん、また水蓮の奢りである。
とはいっても、食べるのは水蓮と花菜だけで、キャメロンは自分の眼鏡を拭いている。

「この後………どうするの………?」

「もう一つ依頼をこなそうと思うが。」

彼は眼鏡をもう一度掛けて、腕を組んだ。

「えー!!私は初任給で旅行に行きたいですわ!!」

「ウチも!!」

「駄目だ。今回の依頼で金が入ったとしても、もし想定より少ないのであればどうする。依頼は変動性だ。」

「まっ、まあそうですわよね!?」

「だったら我慢だ。金に余裕があれば、満足に使うことができるだろう。」

「だっ、だ、だったら仕方ないですわね!!次は近くの町の依頼にして欲しいですわ!!」

「もちろん次はそうする。毎回長旅をすれば、花菜も疲れるだろうからな。」

キャメロンは花菜の方へと顔を向けると、花菜は彼に対して少し微笑んで、「んふふ」と喜びを零しながらトマトパスタを食べていた。

「………また奇っ怪な事件に巻き込まれないといいが。」

「そうとは限らんやろ?危険が何処にでも頻繁に溢れていたら、よう出かけんわw」

実際にはあの事件以来、何の事件にも巻き込まれていない。依頼を終わらしてからも事故すら起きなかった。

「世の中、何が起きるかは分からない。あまり他人の面倒な私情に介入したくはないのだ。今回の依頼は村からの要請にするか。」

「絶対に近所の依頼にするのですのよ!!」

「はいはい分かった分かった。」

キャメロンは呆れた声でそう返事した。





食事を終わらせてから、ゆっくりと組合に向かった。建物に入ると、前来た時よりも人が少なかった。
すると、階段の方から、

「あっ!!キャメロンさん達!!」

あの受付嬢が彼らに声を掛けてきた。

「依頼者から聞きましたよ!かなりの銃の腕前だそうで!!」

彼女は肘で「このこのー!」とでも言いたそうにキャメロンを弄る。その光景に少し引いてしまったのか、後ろの水蓮は口角を少し上げる。

「別に当たり前のことをしているだけだ。」

「まったまたぁ!!それはそうと、今回も依頼を引き受けに来たんですよね?」

「そうだ。この周辺地域に依頼の申し出がないのか調べて欲しい。」

「かしこまりました!!えっと、ですね………」

彼女は目の前のパソコンや傍に充電したままのタブレット端末で検索をかけている。だが………

「あー、すみません。どうやらもう人数が埋まっているようでして。」

「やはりそうか。」

「皆さん、危険に巻き込まれたくないですからねー。最近は物騒な事件も起きているそうですから。」

「できるだけ大陸内部にしてくれ。」

「あー………分かりました。もう一度検索にかけてみますね。」

彼女はチェック欄の【大陸本土(離島除く)】【全ての依頼】をクリックして検索ボタンを押す。

「あっ!ありました!!少し変わった依頼になりますが、よろしいでしょうか?」

「構わん。そうだよな、貴様ら。」

彼は後ろの三人の方へ振り向いて、そう問い掛けた。

「うん………いいよ……………何処でも……付いて行く…………!」

花菜は嬉しそうに返事をしていたが、

「えっ、ええ!!それでいいですわよ!!」(嫌な予感しかしませんわ………)

水蓮は何だか不安そうであった。

「これでお願いしよう。」

「承知しました!!それではこちらをお渡ししますね!!」

彼女はキャメロンに黄土色の封筒を渡した。それには住所や人の名前が記載されている。

「その地域の気候はこの地域と変わらないと思いますので、そのままの格好で大丈夫ですよ!!では、良い仕事を!!」

キャメロン達は用を済んでから、そのまま宿に戻り、部屋で準備を始めた。

「その封筒を早く開けて欲しいですの!!」

「待て、最初に俺が開封する。」

「えー………勝手に決めないでくださいな!!」

水蓮はキャメロンの鞄から封筒を奪い取って、勝手に手紙の内容を読み出した。


【Señores miembros del Grupo de investigadores, mi nombre es Yotsuha Yaiba, me dirijo a ustedes para agradecer su valiosa colaboracion a la investigacion de la desaparicion de personas de todas las edades, incluyendo niños, que se han suscitado desde mucho tiempo atras el pueblo "Mar Oriental".

Deseo informarles que para la libre locomocion de los investigadores y mejor desempeño de su trabajo se ha derribado la pared de ladrillos que cerraba el acceso a la pueblo a traves de un tunel.】

《依頼を引き受けてくださった組合員の皆さま、はじめまして。私は刃 幸葉(ヤイバ ヨツハ)と申します。実は私の住んでいる"マール・オリエンタル村"についてお願いがございます。
実はこの村では昔から神隠しが起きているのですが、その全員が必ず生きて帰って来ます。しかし、近年は戻って来なくなり、村の人口も少なくなってきました。
そこで皆さんにお願いしてもらいたいのは、村の山奥の調査です。詳しいことは訪問していただいてからお話致します。また調査は丸二日かかるかもしれませんので、私が部屋をご用意します。

追伸:村への入り口であるトンネルに置いてあったレンガは取り除いてありますので、自由に出入りできます。》



「へえ、依頼の内容は村に着いてから言うのですのね……………何でですの?」

「知らん。手紙では言いたくない話もあるだろう。」

「怪しいですわね!絶対にこの依頼者はやましい事を隠しているのですのよ!!絶対に!!」

「とはいえ、せっかく依頼を引き受けたのだから放棄するのは勿体ない。貴様だって稼いで旅行に行きたい、依頼者は問題を解決してもらいたい。その相互の希望を叶える上の"この仕事"だ。貴様だって反対の立場になれば分かるだろう?」

「まあ………そうですわね。相手の立場に立たないと行けないですわね………」

水蓮は手紙を封筒に入れ、キャメロンの鞄の中に戻した。
何も話すことが無いと気まずく思った水蓮は、遂に彼の服装について文句を言い始めた。

「あの、シャツの上に着物を羽織るのは疲れないですの?」

「ん?別に何とも無いが。何だ暑苦しく見えるのか?」

「着物じゃあ動きにくいですわ!!もっとラフな服装で戦わないと!!それに………」

「それに何だ。」

「な、なな、何でも無いですわよ!!とにかく!!今回は着物は羽織らないでくださいまし!!」(直接的に臭いとは言いたくないですわね………)

「分かった。だが、手袋だけは外さないからな。それだけは勘弁してくれ。」

彼は白い手袋を水蓮に見せつける。それは彼の手首を隠すようにぴったりと嵌められている。飾りもレースも見当たらない。

「何でずっと嵌めているんですの?寝ている間もですのよね?」

「……………それは、だな。」

「あっ、人に言いたくないのでしたら良いですのよ!!無理しなくてもいいですわ。」

何故かまた気まずくなってしまった。花菜は昼寝をしてしまい、とうのオハナは既に何処かに出かけてしまっている。
キャメロンはそれに耐えきれなくなってしまったのか、黙って外に出て行ってしまった。
すると、彼にすれ違ったオハナが部屋に戻って来た。

「あん?どうしたん、水蓮?顔を真っ赤にして。」

「男性と話すのって難しいですわね………」

キャメロンが帰ってくるまでは水蓮はゆっくり落ち着いてられなかった。





次の早朝、彼らはマニャーナ村まで迎えに来た馬車に乗って、マール・オリエンタル村へと向かった。

「あー、お客さん。確か組合の方達でしたっけ?」

「ええ、そうですわ。それがどうしたんですの?」

運転手は言葉を溜めてから、このように言った。

「今から行く村は呪われている村なんだ。」

「呪われた村とは何でだ。」

「あの村ではな、よく奇妙な噂を聞くんだ。」

「神隠しのことか?」

「それだけじゃないんだよ、兄ちゃん。あの村に続くトンネルに瓦礫が何故置かれているのか知っているか?」

「はあ、知らんが。」

すると、運転手は少し彼らの方に向いてこう言った。

「あの事件が起きてから、村内では殺し合いが行われているんじゃないかって。」

「な、何ですの?」

「風の噂で聞いた話だから信憑性は無いが、あの村では元々は原子力発電所があってね。それ関係の事件は人為的だの神の祟りだのと言い争って、意見に同意しない奴らを足止めするために瓦礫を置いて、殺し合いをしたとか………」

「怖い……ね………」

「そんな馬鹿な。」

「単なる噂だよ、噂。事実はその目で確かめな。」

運転手の話を余所に、キャメロンは馬車の窓から風景を眺めた。
広く整備された道路に落葉広葉樹林が並び立つ。運転手が交差点を右に曲がると、その先にも道が続いていて、先程の景色とは一変して、枯れ木と枯れ草だらけである。
考えてみると、急に荒れた景色が見えるのはかなり不気味である。やはり先程の原子力発電所の事件に関係があるのだろうか。

「あっ、見えてきましたわよ!!」

水蓮は目の前の景色に指を差す。そこにはあの手紙に書かれていたトンネルが見える。瓦礫は既に取り除かれているが、そこら辺にその破片が散らばっている。

「村の入り口まで送って貰えるか?」

「本気なのか、兄ちゃん。まあ仕事で来ているから仕方ないか。」

トンネルを通ると電球は見当たらず、真っ暗でまるで"何かが現れて来そう"な雰囲気が漂う。
抜けて行くと、さっきの荒廃と違って商店街らしき場所が見えてきた。何故か看板がその入口付近に立てられており、書かれていたのは─────



【El Pueblo Mar Oriental es el lugar mas peligroso del continente!】(マール・オリエンタル村は大陸一の危険区域!!)

【"No"! a la reanudacion de las plantas nucleares!】(原発再稼働反対!!)

【No permitiremos que vuelvan a destruir este pueblo!!】(またこの村を潰すつもりか!!)

【Seguiremos en la lucha para proteger esta tierra! Fuera las companias que planean seguir con la produccion de plantas nucleares!】(村人も財産も守れ!!大企業は撤退しろ!!)



何と言えばいいのか。これはこの村の人間が書いたのか、あるいは他村の人間が無断で立てたのか分からない。
だが、無作為に立てられている看板を見たら分かる。とにかく深刻な問題であることが。

「ここからが入り口だ。兄ちゃん達、気をつけろな。お仕事頑張るんだぞ。」

「ありがとう………ございます………」

「運転手さんも気をつけてなー!」

運転手はキャメロン達に手を振って、馬車を走らせた。
そして彼らは古びた商店街の方に立ち直る。

「よし、行くぞ。」

キャメロンを単独先頭に、水蓮は花菜と手を繋いで歩いた。
中を通ってみると、冷たい風が上の方から流れてくる。上を向いてみると、白い布製の屋根が破れている。
店のショーウィンドウには散乱した服やマネキン、何かが入っている箱がある。ガラスの破片も地面に散らばっている。
しかし、奇妙なことに周りに青い光が漂っている。まるで発光ダイオードである。

(不思議な場所だな………誰もいないはずなのだが、人の気配が感じられる。)

すると、目の前にフワァと白い何かが通り過ぎる。女性らしき"何か"が"何か"を抱いているような気がした。

「ひぃ!!」

水蓮が咄嗟にキャメロンの腕を強く引っ張り、彼の後ろに隠れる。

「水蓮、貴様はくっつくな。」

「だっ、だだだ、だって!!幽霊がいるんですのよ!?」

「………そうか、怖いのか。」

「こっ、怖くないですわよ!!?」

彼女は彼の腕を離し、また花菜と手を繋いだ。

「水蓮さん………手汗、凄いよ……?それに……痛いよ………?」

「えぇえ!?」

どうやら彼女は心霊現象がとても苦手なようで、つい花菜の手を強く握ってしまっていたようだ。

「あはははは!!ほんまは怖いんやな!!」

「う、うるさいですわね!!早く行きますわよ!!」

と、顔を赤くして、恥ずかしそうになりながら、花菜の手を引っ張った。
彼らはもう少し先に進むと、何やらケーキらしき塊が店のディスプレイから垂れ落ちていたり、打製型の大きな岩が店にぴったりと嵌っている光景を目にした。

「本当に酷い荒れ様だな。終末を見ているかのようだ。」

「岩はどこから来たのでしょうか?村人が大勢で運んで潰したのでしょうか?だとしたら、店員は無事なのでしょうか………?」

「だといいよね………」

「あっ!!光が見えるで!!」

「やっと出口に来たか。ここから先が村の中心部となるのか。」

商店街を抜けると、先程の世紀末のような光景とは打って変わっていた。
見えてきたのは─────広い道に彼岸桜の並木が、ずらりと生えている光景。
その道の先には、巫女服を来た黒いショートヘアの少女が、木にもたれかかって腰掛けていた。

「まさか、あんなところにいる女が依頼者なのか。」

「きっとそうですわよ!!早く行きましょうよ!!」

桜の花びらが散る綺麗な"花街道"。少し肌寒いが、温かな太陽がそれを中和させる。
キャメロンは空を見上げて、手で陰りをつくり、懐かしそうにその太陽を眺めた。

「何してるんですの!!早く来てくださいな!!」

「ああ、今行く。」

彼はすぐに水蓮達に追いつき、一緒にその少女の傍に近づいて行く。
すると、少女はその気配に気づいたのか、立ち上がって土を払い、両手を前に重ねて彼らを待った。

「組合の方々でしょうか………?」

少女は控えめに彼らに質問する。その黄色の目は何とも人を信用できないようにも見えた。

「そうだ、貴様らの依頼を承った。」

「お待ちしておりました。詳しいことは私の家でお話します。」

やっと村へ入って行くと、先程の桜並木が嘘だったかのように、木造の一軒家や鉄骨造のアパート・ビルが建ち並んでいる区画に入ったのだ。店は見当たらないが、その後ろには田園風景がずらりと広がっている。
建物の中からは住人がこっそりと彼らを覗いている。また何か、村に厄災を振り撒くと考え怯えているのだろうか。彼らは血眼にも見えていた。

(だいぶ精神がやられているみたいだな。危害は加えてこないのか?)

顔を前の方に向けると、遠くに崩れかけの塔が見える。あれが、運転手の言っていた原子力発電所なのか?

「醜いと思いませんか、あの剥き出しの塔。現代的な建物が並んでいるというのに、古代伊人が建てたかのような古典的様式で。"遺産"として残そうとしていたのでしょうか、しかしそれが失敗だったんですよ。」

彼女の静かな怒りが言葉にのって、ひしひしと伝わってくる。この人もあの塔が憎くて堪らないのだろう。
歩いて行くと、徐々に住宅がちらほらと点在し始め、段々畑が見えてきた。
都会から田舎へ。この村は気味悪いほどに"変化が多すぎる"。
もう少し先に行くと、築100年を感じさせるような木造豪邸が見えてきた。

「ここが私の家です。家族には既にキャメロンさん達が来るのを知っていますので、ご安心を。どうぞ、お入りください。スリッパもご用意しております。」

「失礼する。」

「失礼しますわ!」

「お邪魔………します………」

「邪魔するで!!」

それぞれ靴を脱ぎ、用意されたスリッパを履く。(ここで靴に関しての補足を書くが、水連と花菜はかかと部分を壁側に寄せているのに対して、キャメロンはつま先部分を玄関に向けている。)
彼女に案内され、広く長い廊下を渡る。部屋が数え切れないほどある。召使いも山ほど居る。

(まさかとは思うが、この村の長の家なのだろうか。)

(メイドの人数が多過ぎますわ!?それに比べて、私の家は………)

通されたのは、最奥の大きな襖の部屋。二人の召使いに開けてもらい通してもらった。

「失礼します、父上。」

部屋の奥に居たのは、黒の蓬髪で目が赤色の若い男性。革製の一人用ソファーに座っている。

「連れて来たか。ご苦労さん。お前さんは僕の横に座ってなさい。」

彼女はキャメロン達を空いている大人数用ソファーに掛けさせて、父親らしき男性の傍に座った。

「ようこそ、いらっしゃいました。僕は刃 射命(ヤイバ シャメイ)と申します。そして、こちらが………」

「娘の刃 幸葉(ヤイバ ヨツハ)です。名を申し上げるのが遅くなり、申し訳ありませんでした。」

二人揃って、キャメロン達にお辞儀をした。

「俺はキャメロンという。」

「私は水蓮と申しますわ!!」

「花菜………です……このぬいぐるみは……………オハナっていいます………」

「よろしゅうお願いします。」

それぞれが自分の名を名乗り、射命は満足げな表情を浮かばせた。

「それでは本題に入るのですが、よろしいでしょうかな?」

「ああ、構わない。」

「幸葉が書いた手紙を見て分かると思いますが、この村では神隠しが頻繁に起きている。それでも、その全員が必ず帰ってくるのが普通でした。しかし………」

「最近になって誰も戻らなくなった、と。」

「そうですな。主に子供が居なくなっているんですが、時々大人の男女も消えてしまう。」

「頻度はどれくらいですの?」

「昔は年一回に一人でしたが、最近では月一回に五人も神隠しに遭ってしまった。村長に対策を求めるように申し上げたが、神の祟りだの人為的だのと論争している住人達を諌めているから無理だ、と言われた。」

「ふむ………そういえば聞きたいことがあるのだが。」

「何でしょう?」

「ここに送迎してもらった運転手が言うには、村にある塔は原子力発電所である、と。あの建物は酷く崩れているようだが、何が起きたのだ?」

「ああ………臨界点に達したんですよ、物質の。青い光が塔から溢れて、その後に建物が何かに耐えきれなかったのか爆発したんですよ。しかも、核物質が少しずつ漏れ出てしまって。住人達は隣町に避難して村を一時閉鎖させました。その間に企業が調査に入ったんですがね………」

「村長はどこに住んでいるのだ。」

「ああ、彼は祠が置かれている山林近くに住んでいらっしゃいますよ。」

(俺の予想ではこやつが村長かと思っていたが、違ったか。だが、こやつから話を"切り出して"くれて良かった。)

「僕が村長だと勘違いされたのかもしれませんが、この村の唯一豪族といいますか、まあ単なる住人です。」

はははっ、と射命は苦笑いでそう答えた。

「話をするのもなんですから、お部屋にご案内致しましょう。幸葉。」

「はい、こちらへどうぞ。」

部屋を出て、通り抜けるのは側にある狭い廊下。大きな庭が見え、池に住む鯉は心地よく泳ぎ、小鳥の泣き声がよく聞こえる。
廊下と繋がっている建物は二階建てのようで、扉を開けてもらい、中に入ってみると───

「かなりの家具が揃っているな。」

「はい、来賓のために数十年前から取り入れているそうです。」

「わあ〜!!広いですわね!!流石は大豪邸ですわね!!」

「えへへ………それでは昼食になりましたらお呼びしますので。これで失礼します。」

扉が閉められた後、彼らは自由に行動した。水蓮は一階のソファーで寝転がって本を読み、その側のソファーでは花菜がオハナを抱き締めながら何やらボーっと考えていた。
キャメロンはというと、二階の部屋で珍しく寝ていた。この前の長旅の疲れが出ていたのか、すぐに眠りに就いてしまった。





誰かの声が聞こえる。幼い少女の声。身体を揺さぶられているような気がする。意識が朦朧としていて、目を開けようともボヤけてる。
だが、その意識がはっきりとする瞬間が突然来た。何故ならば─────

『ねえ、お兄さん。顔色悪いよ?大丈夫?』

少女の顔が黒鉛筆で塗りたくられたかのように見えなかったのだ。
白のワンピースに黒色のおかっぱ頭、土で汚れた小さな足、俺のシャツを引っ張る幼げな手。
何故か鳥肌が立つ。顔の分からない少女に心配されている、それが"怖い"のだ。
普段は何かに対しては冷静に装う彼なのだが、こればかりは落ち着いていられなかった。

『あっ、ああ、あああっ、ああああああああぁぁぁ!!』

すぐさま立ち上がり、少女の家(だと思われる)の庭を走り抜けて出て行く。

『お、お兄さん!?』

そんな少女の言葉にも目もくれず、必死に逃げて、丘を駆け下ったのだが───

『えっ?』

瞬時に景色が切り替わった。先程の陽炎漂う田舎ではなく、閑静で涼しい都会のような場所に飛ばされた。
端に白い高級住宅一軒、その駐車場に黒い車が停められている。
建物はそれだけで、小さな広場の真ん中に桜の木が植えられている。
後ろを振り向いてもレンガの壁があり、出られない状態だ。
彼は何が起きているか分からず、狼狽えているばかりであったが、そんな彼がふと気になったことがあった。
桜の木の向こうに地下へと繋がる入口が見えるのだ。
彼は落ち着いてから、その入口付近に駆け寄り、固唾を呑む。
暗い入口からは冷たい風が流れてくる。暗いとはいっても、古い電球が付いていて、ある程度の範囲は見える。
手すりを頼りに、ゆっくりと階段を下りて行く。



コツ………コツ……コツ……………コツ……



ブーツがコンクリート製の階段にぶつかる鈍い音が聞こえる。
目先には狭い踊り場と地下二階(らしき場所)へと続く階段が見える。
しかし、どうしても順番に廻りたいので、地下一階の部屋に入ろうとする。
扉自体が無いため、壁から覗かないといけない。心臓の鼓動が徐々に激しく鳴っていく。
恐る恐る部屋を覗いて見た。そこには───

『は?』

明かりの点いていない部屋に、人のような"何か"が立っている。
その"何か"は彼の方に背中を向けているようだ。

(こちらに気づいていないようだ………びっくりした………)

その刹那─────"何か"は彼の方に振り向いて、このように言った。



『死ぬんじゃねえぞ、***?』



女性の声が雑音のように聞こえ、そこで意識が途切れた。





「うーん……………」

「キャメロン!!早く起きてくださいな!!昼食が冷めますわよ!!」

「ん………あ?」

キャメロンは薄ら目で水蓮を見つめるが、意識がまだ朦朧としていて、目の前の人物が水蓮だと分からない。
彼女は彼の態度に腹が立ったのか、彼のシャツの襟元を引っ張って、

「お!!き!!ろ"!!」

耳元で大きな声を出した。

「!?」

その声が効いたのか、キャメロンは飛び上がって目を大きく見開いた。

「………何だ、水蓮か。」

「もうお昼ですわよ!!ほら、早く!!」

「分かったよ………」

少し寝ぼけたキャメロンは、水蓮に腕を引っ張られながら本館に向かう。
彼はすっかり悪夢のことを忘れていた。

しおり