一つ目の無機物からは、
ただならぬ圧迫感が漏れ出てくる。
思わず後ずさる僕の腰元に、
小さな何かが触れるのを感じた。
振り向くと少女が腰元で僕を見上げていた。
無言の一時。
無機質な音声が沈黙を破った。
「警告!
あなた方の行為は、
鉄道法111条に抵触しています。
ただちに室内から退出して下さい」
僕は少女の顔を見つめ、
改まって現状の卑猥さに顔を赤らめた。
少女はそんな僕の手を無言で掴むとそのまま、
ぽっかりと空いた穴に僕の手を持っていった。
切り取られた空間に添えられた手。
そこから信じられない感触が伝わる。
切り取られた筈の穴に阻まれ、
硬質な感触が掌から伝わってきたのだ。
金属に近い冷たさ。
そこには壁が存在していた。
「警告。市民ID解析中。
ただちに室内から退出して下さい」
壁の外では相変わらずコープが警告を発していた。
『もうすぐ転移が始まる』
少女は唐突に話始めた。
『監視者は入ってこれない』
監視者とはコープの事か?
コープは壁に阻まれ、
入って来れないと言う意味だろうか?
『大丈夫、すぐに終わる』
そう言い終わる前に少女の被ったメットが、
着信でも拾った様に明滅をし始めた。
少女は咎める様に窓際に振り返り口を開く。
『問題ない。 心配しすぎ』
見ると少女の愛玩ロボが、
モールス信号の様に無音で額を点灯させていた。
それに合わせた様に、
少女の被ったバイザーも明滅を繰り返す。
目元の大半を隠したバイザーが、
少女のコールブルーの瞳をより濃く見せていた。
しおり