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仕方(しかた)ないよ。
 初めてのケースだけど』

無論(むろん)、金属製のお(とも)は、
ピッピッピッと鳴いているだけなのだが。

少女は仕切(しき)りに(あい)づちをうっていた。

『問題ないと思う。
 大丈夫(だいじょうぷ)心配(しんぱい)ないよ』

それはまるでペットと会話しているかのようだ。

いやペットの場合は感情があるが、
少女が話しているのは無機質(むきしつ)なロボットで、
無機物(むきぶつ)と会話している。

大丈夫(だいじょうぶ)警戒(けいかい)しすぎ。
 それより始まる』

その言葉を最後にロボは口をつぐむ。

口と言うものがあればだが。

とにかく音を(はっ)しなくなった。

意地悪(いじわる)

少女も一(ひとこと)そう(はっ)すると(だま)りこんだ。

時間だけが(なが)く感じられた。

完全に話しかける()(のが)していた。

だが(だま)ったままなのも()がもたない。

僕はおずおずと少女に話しかけて見た。

「あの~ごめん。

 いやごめんって言うかなんか、
 質問とかない・・・ですか?」

少女は一瞬こちらを一瞥(いちべつ)すると、
またすぐに窓の方に向き直っていた。

「あの、怒ってる?
 本当にごめん・・・なさい。
 そんなつもりはなかったと言うか・・・
 不可抗力(ふかこうりょく)と言うか・・・

 本当にたまたまなんだよ」

(ふたた)び重い沈黙(ちんもく)が場を包む。

まるでそれが答えと言うように。

「本当ごめん。
 こんなつもりじゃなかったんだ」

つもりじゃ・・・

「あっ! 僕はソウヤ」

「アスカ・ソウヤって言うんだけど」

少女は(こま)った(よう)に僕を見ると、
シーと僕の口元に指を押し当てた。

ディープブルーの瞳が、深海(しんかい)奥底(おくそこ)()らめく
燐炎(りんか)の様な光沢(こうたく)(はな)っていた。

意外(いがい)にもそこからは警戒(けいかい)の色は見てとれなかった。

気まずく静まりかえった室内に、
羽音の様な地鳴(ぢな)りだけがこだましていた。

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