12話 災いを引き寄せる体質なのか?
「何が食べたい?」
2人で徒歩で街中へ出る。デートっぽいが、私は相変わらずのジャージ。元いた世界は田舎に住んでいたからか気にならなかったけど、都会だとおしゃれな人が多すぎる。そのまま出てこないで着替えてくればよかったと後悔している。
「美味しいものならなんでもいいです……って言わない方がいいですかね?」
女性のなんでもいいはなんでもよくないと言われているが、私は美味しければ本当になんでもいい。変な食べ物でなければ特に好き嫌いもないし。
「いや、別に良いぞ。美味しいところに連れて行ってやる」
「ありがとうございます」
こうして連れてこられたのはおしゃれなカフェ。高校生と思われる人もちらほらいる。ジャージの自分が恥ずかしい。……今度、おしゃれな服買おう。
「どうする? 何食べる?」
そう言って渚さんは私にメニューを渡してくる。
「おすすめってありますか?」
「どれも美味しいが……そうだな、グラタンとかどうだ? 後、飲み物はどうする?」
寒いしちょうどいい。ここは私が住んでいたところより寒いから、温かい物が食べたいと思っていたところだ。
「じゃあそれでお願いします。飲み物は……コーヒーで」
「コーヒー飲めるのか」
「はい」
意外そうな顔をしつつも、店員さんを呼んで注文する。渚さんの注文も私と同じものだった。飲み物のコーヒーもだ。意外そうな顔をしたから飲めないと思っていたけど、渚さんも飲めるのか。
「お、お客様!? きゃあっ!」
「どうして……どうしてなんだよおお!?」
突然、入り口の方で叫び声がした。そちらを見ると、男は銃を持って店員の女性に近づいている。……これってまさか。
「渚さん……2日連続ですよ? 私、災いを引き寄せる体質でも持っているんですか?」
「安心しろ。紅の月ではなさそうだ」
そう言われてよく見ると、男はその店員の女性にしか興味がないのか、こちらには目を向けてすらいない。逃げようと思えば裏口でもあればそこから逃げられるだろう。……女性を除いては。
「安心しろ。沙月が俺たちの未来を見ていたなら、これも見えているだろ」
つまり、安心しろと言いたいのだろう。周りは怯えているのに私と渚さんだけ冷静なのが異様だ。私は渚さんの言葉と昨日のが凄すぎたせいかそこまで恐怖は感じない。
「アルフあたりが来るだろ。二日酔いでも、最適なのはあいつだ。……だが」
そう言って渚さんは立ち上がる。周りが一気に驚いたようにざわつく。何の躊躇いもなく、男の元へ向かっていく。
「それ以上動くな! こいつは僕の女だ!」
そう言って女性の肩を抱く。女性の顔を見ればよく分かるが、絶対に違う。恐怖に怯えて泣いている。女性は美人だから、恐らく勘違いした男がこうやって迫っているのだろう。ただの営業スマイルを自分のことが好きだから笑った、みたいなことだろう。
「どう見ても違うのだが」
「うるさい! 黙れ! 死ね!」
そう言うと男は銃を1発発砲し、店内では悲鳴が上がる。渚さんを狙ったようだが、誰にも当たっていない。撃った時の反動に驚いていたし、どうやら銃は初心者のようだ。……あと渚さん、かなりストレートに言いましたね。
「安心してね。僕が敵を排除するから……うらあ!」
なんて気持ち悪いセリフを吐く。さっきので銃が使えないと思ったのか、男は銃をホルスターに仕舞って、渚さんの顔を殴る。渚さんは吹っ飛んで壁にぶつかって倒れる。口からは血が若干出ていた。そしてまた銃を取り出す。また取り出したのは、その方がかっこいいとでも思ったからだろう。
「はは……僕は空手をやっていたんだよ! ねえ、見た? 僕の勇ましいところを! 君を守ったよ!」
ああ、今すぐにでも吐き出したい。こういうやつが実際にいるとはね。
女性は更に怯えて泣いている。何とかしようにも、私には無理だ。そう思った時だった。
「はーい、そこまでね」
アルフさんが男性の後ろに立っていた。男は慌てて銃を撃とうとしたが、弾が出ない。その理由を知るのは私とアルフさんくらいだろう。
「な、なんで撃てないんだ! う、うらあ!」
「はーい、遅い」
銃を捨ててアルフさんを殴ろうとするも、アルフさんはみぞおちを殴って返り討ちにした。男は女性を手放して、あっさり吹っ飛んだ。全く動かないところを見ると、気絶したらしい。
「大丈夫?」
「は、はい」
女性も他の人もあっという間のことで呆気にとられていた。驚いていないのなんて、私と渚さんくらいだろう。
「渚ー、大丈夫?」
「問題ない」
「いやいや、口から血出てるけど」
倒れて全く動いていない渚さんだったが、アルフさんにそう呼びかけられた途端に平然と起き上がり、周りが驚いていた。多分、大怪我をしたと思ったのだろう。
「全く。渚は弱いのに出しゃばりすぎるから文句を言われるんだよ?」
「ああでもしないとお前が来れないだろ」
そう。アルフさんは瞬間移動で男の後ろに現れたのだ。渚さんが殴られたことで全員の視線がそちらに向き、瞬間移動に全く気付かれなかったのだ。そして、気付かれないうちに銃にセーフティをかけて撃てないようにした。もし普通に扉を開けてきたのなら、当たっていたかは別として、気付かれて撃たれただろう。
「……気を付けなよ?」
そう渚さんに言うアルフさん。少し深刻そうな顔をしていたのは気のせいだろうか。
「お、お客様、お怪我は!?」
店員たちははっとしたように慌てて駆け寄った。
「大丈夫です」
渚さんは血が出ていたはずだけど、止血したらしい。もう血は流れていなかった。軽い怪我で良かった。
「本当に申し訳ありません。お二人にどうお礼を申し上げれば……」
「悪いのはあの男なんで、大丈夫ですよ。それに、倒したのはこいつですし」
「年上にこいつって酷くない? まあ、いつものことだからいいけどさ。俺も大したことしてないし、いいよ。……あ、用事あるから。じゃーねー」
「せ、せめて連絡先……」
そう言い切る前に逃げるように店を出て行った。多分用事じゃないな。事情聴取が面倒か超能力者とバレるのが嫌だからだろう。
「大丈夫です……か?」
入れ違いになるように、少し間を空けてから警察官が突入してくる。誰かが通報したのだろう。武装して来たようだが、何も起きていなくて呆気にとられている。
「あ、こいつ傷害罪と銃刀法違反……この国に銃刀法があるか分かりませんけど、そのあたりです。後、殺意を持って発砲したんで殺人未遂も含みますかね?」
「あ、うん。分かった」
呆気にとられたまま倒れている男を捕まえる。そして気付く。これ、私達も事情聴取を受けるんじゃね? と。
「申し訳ないんだけど、何があったかお話を伺いたいのですが」
ですよね。くっそー、アルフさんめ……逃げやがって……何時間の事情聴取になるんだ、これ。丸一日潰れたりしないよね?
「でも、注文しているんでご飯だけ食べさせてください。店員さん、騒ぎの直後で申し訳ないですけど、構いませんか?」
渚さん、救世主ですか? よくぞ言ってくれた。
「我々は構いませんが……」
「は、はい。大丈夫です。すぐにお作りします!」
こうして、本日最初の無事に食事にありつくことができた。渚さんがおすすめするくらいはある。とても美味しかった。
ただし、事情聴取は休憩時間はあったものの、夜まで続いた。結局、帰ることができたのは午後8時を過ぎてからだった。疲れた。