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結人と夜月の過去 ~小学校二年生⑥~




翌日 午後 公園


次の日。 結人は今日理玖たちと会う予定があるため、支度をして家を出る。 公園へ着くもまだ理玖たちの姿は見えず、適当にベンチに腰を下ろし彼らの到着を待っていた。
―――・・・夜月くんのこと、頑張らなくちゃ。
“僕には真宮が付いている”と信じ、心を強くする。 公園で楽しそうに遊んでいる子供たちをぼんやりと眺めていると、ふと遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「結人、会いたかったー!」
それに反応し、結人はベンチから立ち上がって彼らに向かって大きく手を振る。
「今キャンプから帰ってきたんだぁ! 早く結人と会いたくて、走ってきちゃったよ」
結人のもとへ着くなり、理玖は勢いよく抱き着いてきた。 その行為を、温かく笑って受け止めてあげる。
「うん、僕も会いたかったよ。 理玖、このお盆で凄く日焼けしたね。 ・・・夜月くんは?」
二人でそのようなことを話していると、理玖の後ろからは未来と悠斗もこちらへ駆け寄ってきた。 だが彼らの後ろには夜月の姿はなく、疑問に思って素直に尋ねてみる。
すると理玖は結人から離れ、近くのベンチに腰をかけながらつまらなさそうに返事をした。
「夜月は午後から予定があるらしくて、さっき家に着いたらすぐ別れちゃったんだよねー」
「そうなんだ・・・」
そのような答えを聞き、少し黙り込む。

―――・・・夜月くん、やっぱり僕を避けているのかな。
―――でも最近は理玖の誘いを引き受けていたし、今日は本当に予定でもあるのか・・・?

夜月のことをどうしても考えてしまう結人。 折角夜月と仲よくなろうと決心したのに、本人がこの場にいないと何も進展しない。
だがそんなことを思っている結人にはお構いなしに、この場には元気な声が響き渡った。
「聞いてくれよ結人! キャンプ、凄く楽しかったんだ!」
ベンチに座って楽しそうな顔を見せてくる理玖に、結人も微笑みながら彼の隣に腰を下ろす。
「うん。 何が楽しかったのか、僕に聞かせて?」
座ると、未来と悠斗はベンチに座っている二人の目の前に立った。
「もちろん! まずは、カレーをみんなで初めて作ったんだ。 凄く美味しかった!」
キャンプでの出来事を楽しそうに話す理玖に、目の前にいる未来は笑って突っ込みを入れる。
「理玖の包丁さばきは、見ていて危なっかしかったけどな」
「なッ、それは未来もだろ!」
「いやいや、包丁さばきに関しては理玖に負けるよ。 カレーに入っていた人参とか、形が歪だったし」
「あれは芸術だッ!」
未来が口にする言葉を、理玖は身を乗り出し必死に抵抗した。 このままだと話が進まないと思った結人は、自ら彼らの会話に割って入り続きを促す。
「それで、他には?」
「あ、キャンプ場の近くでお祭りがあってさ。 そこのお祭り、花火が凄く大きいんだ! めっちゃ綺麗だった!」
尋ねられた理玖は、すぐさま視線を結人へ戻し続きを語り出した。
「そうなんだ! お祭りも花火もあって、凄く楽しそうだね」
「おう、楽しかったぜ」
楽しそうに話す彼らの会話に、悠斗もさり気なく入ってきた。

「お祭りと言えば、迷子になったよね」

「迷子?」

上手く切り出してくれた次の話題に、理玖が食らい付く。
「あぁ、そうだな。 僕の親はキャンプ場に残って僕たち4人で行ったんだけど、途中で未来と悠斗、そして夜月と僕で分かれちゃってさ」
「それで、みんなは合流できたの?」
苦笑しながら言葉を付け足していく彼に、結人は不安そうな面持ちで問いかける。 
結論をいうと、今こうして未来と悠斗と出会っていることは、合流できたことに間違いはないのだが。
「うん、合流はできたよ。 でも僕はどうせはぐれても“いつか見つかるしいいだろ”って思っていたから、夜月と二人で遊んではしゃいでいたけどね」
そう言いながら理玖は笑い、楽しそうに先日の出来事を語り続けた。
「でもそしたら・・・一時間後くらいかな。 僕たちを呼ぶ声が聞こえてさ。 
 よく見たら未来たちで、やっと合流できたと思ったら『俺たちは一時間ずっと走って捜していたのに、二人は何遊んでんだ!』って怒られちゃったよ」
「本当だよ。 あの時、マジ走りまくって疲れたし」
溜め息交じりで呟く未来に、理玖は優しい表情で言葉をかけてあげる。
「そんなに焦らなくてもよかったのに」
「俺たちが走りまくっていた時間を返せ!」
「そんなのは無理。 結人もいつか僕たちと一緒に、キャンプへ行こうな」
未来の無茶苦茶な願いをあっさりと否定し、理玖は結人に向かってそう言葉を投げかけた。 その誘いに、小さく頷く。
「うん」
「あぁでも、静岡の友達がいるなら難しいかなぁ・・・。 僕は別に、連れてきても構わないんだけどね」

そして結局――――残りの夏休み、夜月は一度も結人の前には姿を現さなかった。 いや、結人の前だけではない。 理玖や未来、悠斗の前でさえも、姿を現さなかった。
理玖はそんな彼を心配し何度か家を訪ねたみたいだが、全て夜月からは『ただ忙しいだけだから大丈夫』と、返されるだけ。
だけど結人は、キャンプの思い出を楽しそうに話してくれる理玖の姿を見るだけで、とても嬉しかった。





同時刻 公園


理玖たちがいる大きな公園とは全然違い、子供があまり訪れなく遊具の少ない小さな公園。 ここには、今二人の影が伸びている。
子供たちの声が聞こえなく閑散とした空気の中、ある一人の少年のいたずらっぽい声が、この公園内に響き渡った。
「理玖たちと一緒に、キャンプへ行っていたんだってな。 俺がいなくても、楽しかったか?」
「・・・」
そう声をかけながらケラケラと笑う少年――――琉樹。 その目の前には、夜月がいる。 夜月はキャンプから帰った後すぐ、琉樹から呼ばれていたのだ。
毎年キャンプへ行く時は、彼も理玖の家族のため当然付いてきていた。 だけど今年は何故か、夜月がいるからなのかキャンプへは行かず家に残った。
それが本当の理由なのかは、分からないが―――― すると琉樹は笑うのを止め、突然真剣な表情になって夜月に命令を下す。
「じゃあ夜月、早速仕事だ。 さっき近くの噴水のある公園で、気に入らない奴らを見つけてさ。 気に入らないと言っても、俺の同級生でお前も知っている奴らなんだけど。
 ソイツらに、嫌がらせをしてきてよ」
嫌がらせの方法は自由だ。 考えるのが面倒なのか、やり方は全て任されていた。 とりあえず夜月は、素直に指示を従い言われた公園まで足を運ぶ。
そして噴水の目の前には、琉樹の言っていた“気に入らない奴ら”がいた。 彼らのことは、夜月は嫌でも知っている。 
何度も琉樹に命令されては、嫌でも嫌がらせをたくさんしてきたのだから。 だからいつか、彼らから仕返しを受ける覚悟はしていた。
その場所をしばらく観察していると、荷物を噴水の前に置いたまま二人が離れていくのが目に入る。 
それを機に、静かに近付いて――――彼らの荷物を、何の感情も抱かないまま噴水に向かって放り投げた。

「あッ、お前!」

だが運悪く夜月は少年二人に見つかってしまい、そのまま彼らに捕まってしまう。 それでも夜月は、何も抵抗しなかった。
―――・・・またか。
ただ、それしか思わなかった。 そして今日も――――夜月は、彼らにやられる。 
そう、最初のうちは彼らには手を出されずに済んでいたのだが、最近となっては嫌がらせが酷くなり、流石に彼らも怒り夜月に手を出すようになってしまった。
当然これも、琉樹の計画のうちだろう。 だって琉樹は――――夜月のやられている姿を見ても助けようとはせず、一人笑っていたのだから。

「最近お前、よく俺たちに嫌がらせをしてくるよな。 だからこうなるっていうこと、分かってんだろ?」
「俺たちはお前に何もしていないのに、何でこういうことをされなくちゃいけないのかな」

そう言いながら、何度も何度も殴ったり蹴ったりを繰り返す。 
夜月は痛い思いを顔には出さず、文句も何も言わず、耐え続けていたのだが――――夜月の心の中は、とっくに悲鳴を上げていた。

―――どうして・・・どうして俺だけ、こんなに苦しい思いをしないといけないんだ。
―――いつまでこの痛さに耐えたらいい?
―――いつまでこれは・・・続くんだよ。

そして夜月は、次の日も次の日も痛くて苦しい思いを味わう。

―――そうか・・・これは全て、色折のせいなんだ。
―――俺のせいじゃない。
―――色折があの時理玖の家へ行っていなければ、理玖は事故に遭わずに済んだ。
―――そして琉樹にぃにも、俺はいじめられることはなかった。
―――そう・・・色折がいなければ、全て何も起こらなかったのに!

夜月はこの時、ある決意をした。 “色折がいなければ、何も起こらなかった” 
その思いのせいで――――夜月は夏休みが終わった初日の学校で、ある行動を起こす決心をする。
結局夏休みの間は理玖とはあまり会うことができず、琉樹からのいじめは更にエスカレートしていった。


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