面接をクリアしろ!
突然、美少年からフレンチキスを浴び唖然としているM探偵こと奥葉ジン子の目の前に冴渡が現れた。
「どうした? M探偵、ボーっとして」
「いや。なんでもありません」
ジン子は顔を赤くして足早にDNタワーに向かった。
『冴渡さん以外にドキッとするなんて。……結構羞恥なんですけど……』
ジン子は心の中で考えていた。
冴渡は前を歩くジン子に向かってリモコンバイブのスイッチを入れた。
……しかし。
ジン子は気付いてないようだった。
「なんだあいつ……」
少しいつもとジン子が違うような気がする冴渡だったが、AV女優になる緊張がそうさせているのだろうと考えた。
DNNNはサイトオープンから20年目を迎える老舗のアダルトサイトだった。現会長の亀吉(かめきち)が、露天商でアクセサリーや輸入物の雑貨を売ってる時にアダルトビデオのレンタルを始めた事がきっかけだった。これをインターネットの世界で売ればもっと儲かるはずだ。
亀吉には行動力と人脈がそろっていた。
サイトを介して日本の90%のアダルトメーカーの商品を仕入れ、その全てを自サイトで売れるようにし、実際、今まで以上に彼らに利益をもたらした。
亀吉は、そのアダルトメーカーを次々に買収し、DNNNは巨大アダルトメーカーになっていった。
しかし、ここ最近その業績に暗雲が立ち込めていた。というのも、素人動画投稿サイト『FC69』が、急成長しエロサイト業界をかき乱し始めたからだった。基本的に素人が自分で撮影したエロ動画を投稿するだけのサイトであったが、本社がアメリカのラスベガスにある事から無修正動画が横行しそれが急成長の原動力になった。
FC69のオーナーは若干39歳の塚橋(つかばし)という双子らしいが、その実態は分かっていない。噂では大金持ちの子供で若い時は半グレ集団としてヤクザと関りがあったという噂だ。実際、FC69はDNNNの女優を誘惑し自サイトで無修正を撮影させアクセスをグングン伸ばしていった。
それに怒ったDNNNの会長、亀吉がFC69のサイトをサイバー攻撃したらしい。サイトは1週間にわたってダウンし、FC69は大打撃を受けたと言われている。亀吉は警察上層部と親しくそれが事件にならないように操作していたと、これもまた噂の域を出ない話であるが。
怒り狂ったFC69が、次に何をするか?
エロサイト業界は水面下で戦々恐々の時を迎えていた。
そしてトップ女優のカエデさんが殺された……。
DNNNの中でも、ひときわ人気を集めていたカエデさんの死は日本全国にニュースとなって響いていた。在籍しているその他の女優にとっては、まさに恐怖のニュースとなった。
ジン子が受付をしていると、怒り狂った女性の声が聞こえてきた。
「冗談じゃないわよ! こんな状況で撮影なんて出来る訳ないじゃない!」
「ちょっと待って! ね! 会長が新作まだかってうるさいんだよ」
「もう辞めます! 離してください!」
怒った女性はそのままスタスタ歩いていく。
あとに残った男は、スマホを出し、誰かに電話すると頭を下げて謝っている。
ジン子はその様子を見つめていると、冴渡が横に来た。
「怖いか?」
「……いえ」
「お前なら大丈夫だ」
「ぜんっぜん説得力無いんですけど……」
「俺たちでこの事件を解決するんだ……」
「冴渡さん。どうしてこの事件にそんな……」
「事件に思いも軽いもない!」
「……はい」
決して言えない。遺体となったカエデさんのアソコを見て決心したなど。
冴渡はいつになく真剣な表情だった。
DNタワーの受付嬢に案内され、豪華で近代的な外観のエレベーターの前に立つ冴渡とジン子。
ジン子は今までにない程の緊張を覚えていた。
「冴渡さん……」
「どうした?」
「ちょっと……トイレ……」
「……我慢するんだ。面接なんてすぐに終わる」
「え?」
「すぐに終わるさ」
にっこり笑う冴渡だった。
『社長室』と書いたドアの前に来た二人。
DNNNでは、新人女優希望の女性はすべて会長の亀吉の面接があった。その面接をクリアしたものでないと作品に参加できないようになっている。徹底的に亀吉は女優のクオリティを求めていた。
「どうぞ……」
ジン子は冴渡と共に社長室に入った。
「ほうぉ……なんというタイミング! 警察関係の方が女優になりたいと聞きましたよ」
亀吉の実年齢は49歳らしいが、実際はもっと若く見える。
さすがにエロ業界に君臨する男だけあるな。冴渡は亀吉のバイタリティを見抜いた。
「察しがいいな。まぁいい。言ってやる。昨夜何者かによって殺されたカエデさんの捜査の一環で俺のメス犬を捜査協力者としてここに入れたい。いや、AV女優としてだ!」
「ハハハハ!」
大きな声でゲラゲラ笑う亀吉。
「なんとバカげたことを! もちろん捜査には協力する。うちの看板女優が殺されたんだ。しかし、彼女をAV女優にしてカエデを殺した犯人が分かるというのか!? それならなぜFC69に彼女を送らない? あいつらがわたしの作品や女優を盗作し人気を上げ、ついには女優を消して行こうとしているのはみえみえだろ! 違うか!?」
「ハハハハハハ!」
冴渡は亀吉よりも大きな声で笑って見せた。
「素人はこれだから困る……そっちにはちゃんと捜査は入ってる。俺が見たいのは、このジン子が何人もの男たちの前で抱かれる姿だ!!」
……。
亀吉は次の言葉を見失った。純粋に寝取られ願望を叫ばれたからだ。男として認めざるを得ない。
「……わかった……で、彼女は何が出来る? ここの女優はみんなプロ意識を持つトップレベルだ」
「いったい何の怒鳴り声さ?」
ジン子にキスをした美少年が奥の部屋から出てきた。
少年のオーラがまぶしい。
ジン子の視線が美少年に集中する。
「あ……」
思わず声が出るジン子。
「くじら1号、すまんな。今、新人女優の面接中なんだ」
くじら1号と呼ばれたその少年は、軽い感じの金髪をサラッとかきあげ、ジン子を見た。
「君、さっきの?」
ジン子は次の言葉を探したが、ジン子が言う前に亀吉が話し出した。
「なんだ、知ってるのか? 彼はここの専属男優だ。くじら1号という名前で、今一番売れてる男優だ。これからは女性向けのAVも盛んになる。その先頭に立っているのが彼だ」
「くじら……1号……」
「ちょうどいい。お前も面接に付き合え。彼女が、えっと……」
「ジン子です。奥葉ジン子」
「へぇー。ジン子っていうんだ。かわいい名前」
きゅん。
きゅん。
きゅん。
きゅん。
ずきゅーん!
ジン子の心に突き刺さった『かわいい名前』という言葉。初めてジン子が聞いた言葉だった。
ニコニコ見ているくじら1号。
「で、何が出来るんだ? 彼女は」
亀吉が冴渡に聞いた。
冴渡はアゴを触りながらニヤリとし、
「ここで小便する」
「……なにぃ?」
ジン子は冴渡を恨んだ。ついさっき、女の子に戻ったようにきゅんしたのに、そんなわたしを無視してすぐに羞恥の関門を用意する。まさに生まれながらのSではないか。
「出来るな? ジン子」
ゆっくり。しかし、確実にうなづくジン子。
「よーし。それは面白い。見てみよう」
亀吉が少し興奮しながら言い、くじら1号を見た。
「ほんと? すごいじゃん」
くじら1号も興味深々の様子だった。
ジン子はスカートをたくし上げパンティを下ろし始めた。
次の瞬間、冴渡に仕込まれた5センチほどの卵型の遠隔ピンクバイブがパンティからこぼれ落ち、カーペットの床に転がってソファのそばで止まった。
ブーン。と、機械音だけが社長室に響く。
「なに!」
「すごいじゃん!」
たじろぐ亀吉とくじら1号。
「仕込んでたのか?!」
「俺を誰だと思ってる? さ、粗相(そそう)をするんだ」
冴渡がたっぷりのSをジン子に言う。
こんな事があっていいのか……。ジン子は、恥ずかしさと興奮で意識が朦朧とし始めた。
ジン子は足を肩幅まで広げ、スカートを少したくし上げると、一瞬、我慢しきれずに両足の間から10センチほどの黄金の水分が放出されカーペットを濡らす。
「あ……ごめんさない……」
「いいんだ。いいんだよ」
亀吉がすっかりジン子のファンになった。
くじら1号が凝視している。
「しちゃいな! ぼくが掃除するから!」
「やだ……見ないで……」
じれったいジン子の行動に、冴渡がカツを入れる。
「出すんだ!」
「あ~」
吐息交じりのジン子の声が響いた瞬間。
じょわぁぁぁぁぁ。
湯気。
湯気。
湯気。