冬の新商品ドドド…… その3
試食が好評だったモンブランを商品としてコンビニおもてなし各店へ供給すべく、今日からヤルメキスに作業してもらうことになりました。
まずは試作品の作成からです。
「せ、せ、せ、精一杯頑張るでごじゃります」
気合い満々のヤルメキスは、昨日僕が試作品を作成するのをみながら取っていたメモを確認しながら作業を初めていきました。
以前のヤルメキスは、このノート確認作業を、これでもかってくらいやっていたもんですから完成させるのに結構余分な時間を使っていました。
ですが、ここ最近のヤルメキスは、自分の頭で考えて作業を進めることが出来るようになり、確認作業に要する時間を随分少なくすることが出来るようになった気がします。
「そ、そ、そ、そうでごじゃりまするか?じ、じ、じ、自分ではどうにもよくわからないでごじゃりまする」
ヤルメキスはそう言いながらしきりに謙遜するのですが、ウチの店に来てすぐの頃のヤルメキスは劣等感の塊といいますか、とにかく自分に対して自信がないもんですから何をするにしても僕に確認してからでないと動けなかったのですが、今では自分でしっかり考えて動けていますからね。
まぁ、いまだにテンパってあわあわしながら土下座することもしばしばですけど、その件数も最近は激減しています。
……店の一部常連客の皆様からは『ごじゃるの姉ちゃんの土下座が減って寂しいなぁ』ってお声も頂戴しているんですけどね……ははは。
とにかく、ヤルメキスにはこの調子でしっかり頑張ってもらいたいものです。
あわよくば、パラランサとの間に早く子供を作って、スイーツ作成の助っ人として連れてきて欲しいなんてことも思ったりしています。
と言うのも、この世界では、亜人の血を引いている子供は幼少期の成長がすごく早いらしいからなんですよ。ですから、これも夢物語じゃない気がしてはいるのですが、それを当のヤルメキスに伝えると、
「こ、こ、こ、子供でごじゃりまするか? ぱ、ぱ、ぱ、パラランサ君との間にでごじゃりまするか……ふ、ふ、ふ、ふわぁ……」
ヤルメキスってば、体中を真っ赤にしたかと思うと脳天から湯気を噴き出しながらぶっ倒れてしまいまして……やれやれ、この調子では、パラランサとヤルメキスの子供が助っ人にやってくるのって、まだまだ当分先の話になりそうです、はい。
まぁ、それでも楽しみなのには違いないんですけどね。
ヤルメキスは、縁あってこの世界で一緒に働くようになった仲間であるとともに、僕のもう1人の子供みたいに思っていますので、どこか父親目線なところがあったりもするわけです、はい。
そうこうしているウチに、ヤルメキス作のモンブラン試作品が完成しました。
「ど、ど、ど、どうでごじゃりましょうか?」
緊張の面持ちで、僕に試作品を差し出してくるヤルメキス。
「じゃ、ちょっといただくね」
僕は、早速差し出されたモンブランを、横にしたフォークで切り分けてから、その一塊を突き刺して口に運んでいきました。
モグモグモグ……
「うん、この味なら問題ないよ。とっても美味しく出来てる」
「そ、そ、そ、そうでごじゃりまするかぁ」
僕が笑顔で親指を立てると同時に、ヤルメキスは大きなため息をつきながら笑顔でその場にへたり込んでいきました。
で、厨房にいた魔王ビナス・テンテンコウ♂・ルービアスにも試食してもらったところ、
「あらあら、上品なお味ですわね」
「……うん、うん」
「スアビールと一緒に食べるとさらに美味しく感じるはずですよ」
と、概ね皆からも好評だったわけです。
ちなみに、このモンブラン1個で
「スアビール3本はいけるですよ」
そう言ってニッコリ笑っているルービアスですが、最近は仕事後におもてなし酒場に入り浸ってイエロやセーテン達と一緒に飲み明かしているそうです。
すっかり酒飲み娘の新メンバー状態なわけです、はい。
◇◇
ヤルメキスにはこの調子でモンブランの作成を行ってもらうことにしました。
今日出来上がった品は、早速コンビニおもてなし本店で販売するつもりです。
で、ヤルメキスが作業に入ったのを確認しながら、僕は店の方に移動して開店準備を……と思ったのですが……
すると、開店前の店の入り口前に、オルモーリのおばちゃまとヤルちゃま親衛隊のおばさま達がすでに並んで開店を待っているではありませんか。
「なんかね、おばちゃまってば今日はヤルちゃまの新作スイーツが店頭に並ぶような気がしてね、やって来たのよ」
そう言ってニッコリ微笑むオルモーリのおばちゃま……こ、この人達の直感力というか察知能力ってば半端ないです、はい。
◇◇
開店と同時にヤルメキス製のモンブランを無事ゲットしたオルモーリのおばちゃまとヤルちゃま親衛隊のおばさま方は
「さすがはヤルちゃまだとおばちゃま思うの。とっても美味しそうね」
そう言うオルモーリのおばちゃまの言葉に、親衛隊のおばちゃま達は何度も頷きながら店を出て行きました。
この後、オルモーリのおばちゃまの家に集まって大試食会を開催するのでしょう。
そんな一同を見送りながらヤルメキスは
「か、か、か、帰ったら何を言われるか、今から心配でごじゃりまする」
そう言いながら緊張の面持ちだったんですけど、
「あの味なら大丈夫だ、心配する必要はまったくないぞ」
僕の言葉を聞いたヤルメキスは、嬉しそうに微笑んでいました。
さてさて、そんなヤルメキスですが、今度の25日にいよいよ結婚式本番を迎えるわけです。
先日『結婚おめでとうパーティー』はすでに済ませたヤルメキスとパラランサですが、今度は式本番なわけです。
結婚式はパラナミオが通っている学校に併設されている教会で行いまして、披露宴をおもてなし酒場を貸し切りにして行う予定になっています。
で、その披露宴の際に、ルアとオデン六世さんの披露宴も一緒に、サプライズで行う予定になっています。すでにパラランサとヤルメキスも了承済みです。今の時点で知らないのは、恐らくルア本人だけでしょう。オデン六世さんはなんとなく気付いている感じですが、あえてスルーしてくれているように思います。
で、ルアとオデン六世さんの披露宴ですが、これはルアの地元であるオトの街在住で、なおかつ彼女の親友でもあるラミアのラテスさんが中心になって行う予定になっているのですが、この披露宴に絡めて、僕もあることを密かに画策しています。
いえね……
コンビニおもてなしで販売している商品の作成作業を率先して行ってくれているスアの使い魔の森の皆様なのですが、そんな皆様に日頃の協力に感謝するための宴会を開こうと思っておりまして……
いえね、このスアの使い魔の森の皆さんですが、その大半は絶滅しかけていた種族の皆様をスアが保護するために使い魔として契約し、スアの使い魔の森で生活させてあげているんですよ。
で、普通の使い魔ってのは、主人の手足となってあれこれするのが普通なのですが……スアってば、純粋に保護のために使い魔を増やしていただけなもんですから、今まで使い魔の皆に命令することが皆無だったんですよ。
そんな中、スアの旦那である僕が
「こんなことしてもらえないかなぁ」
って、スアを通してお願いに来たもんですから、使い魔の皆さん、
「待ってました!」
「お任せください!」
とまぁ、目一杯張り切りまくって頑張ってくれているんですよ。
で、僕は報酬を支払うから、と言い続けているのですが、
「スア様の旦那様からの依頼とあらば、スア様からのご依頼も同然です」
「スア様の許可もあるのですから、これはもう使い魔としての業務の一環です」
「よって、報酬など不要ですわ」
と、全員がそう言って、報酬を受け取ってくれないんですよ。
なので、披露宴の日に、使い魔の森のみんなの慰労会もやっちゃおうと思っているわけです、はい。
この日は元々休日ですし、パラランサとヤルメキスの結婚式があるためコンビニおもてなしは全店お休みです。
使い魔の森からも、長老のタルトス爺らに披露宴に参加してもらう予定にしていますが、披露宴終了と同時に、使い魔の森へ赴いてみんなで酒盛りをしようと思っているわけです、はい。
で、そこにコンビニおもてなし全店の店員も集めて、コンビニおもてなしの忘年会も兼ねてしまおうと思っている次第です。
すでに各店の店長には打診していまして、参加希望者を取りまとめてもらっています。
さて、当日は、パラランサとヤルメキスの披露宴で使用するどでかいウェディングケーキを作らないといけませんし、コンビニおもてなし食堂エンテン亭の猿人4人娘達と一緒に料理を担当しますので、その打ち合わせもしないといけません。
予約を打ち切ったパルマ聖祭ケーキの作成も、もう一息頑張らないといけません。
そういえば、この世界にも年末年始があるそうなので、それに向けたコンビニおもてなしのイベントや新商品も考えないと……なんか、こうして考えていると、ホント忙しくて仕方ない感じです。
でも、こういった忙しさは、なんか嬉しくもあるわけです。
僕が元いた世界では、クリスマスフェアとか年末年始フェアを実施しても、どこか義務的に看板やポスターを出して、クリスマスケーキやおせちの予約を取るだけでしたからね。
しかも、それらってすべて外注でしたから、僕は受け渡しくらいしかすることはありませんでしたし……
それに比べれば、自分の手であれこれ決めてあれこれ頑張れるっていうのは、なんか嬉しいわけです、はい。
ヤルメキスの新作スイーツも完成したわけですし、さて次は栗きんとんの試作でもしてみましょうかね。