冬の新商品ドドド…… その2
ここのところのテトテ集落がすごいことになっています。
いままでお願いしている野菜類の買い取りに加えて干しカルキーンの作成とバックリンの実の収集をお願いしているのですが、朝早くから午前中に畑仕事を終わらせた集落のお年寄りの皆様は、森に入ってバックリンの実を収集しているそうです。
で、当然全員が同じ場所に行くわけではなく、あちこちに分散して行くわけです。
テトテ集落の周囲の森は、強力な魔獣がうようよしていますので当然護衛が必要になるわけですが、今のテトテ集落にはミミィさん達3人しか護衛出来る冒険者がいません。
そのため、おもてなし商会テトテ集落の店番をしてもらっているリンボアさんの元に、
「コンビニおもてなしで、テトテ集落の用心棒の募集をかけてもらうわけにはいかんじゃろうか?」
との話が舞い込んできました。
さしあたって、都市の衛兵をしてくれている猿人達を派遣しつつ、おもてなし酒場とコンビニおもてなし全店に
『テトテ集落にて用心棒をしてくださる冒険者募集中』
なる求人広告を貼りだしてみました。
効果が薄ければ組合を通じて周辺都市にも求人依頼をお願いしようかと思っていたところ、意外なところから参加希望者がやってきました。
「あの……私達みんな攻撃魔法が得意ですので、用心棒役も出来ると思うのですが……」
そう言ってやって来たのは、コンビニおもてなし3号店があります魔法使い集落で暮らしている魔法使いの皆様でした。
主に中級魔法使いの皆様で構成されている用心棒希望者は総勢で20名近く。
スアにこっそりチェックしてもらったところ、本人達の申告通り、皆さん攻撃魔法はかなりの物をもっているようです。
……しかし、魔法使いの皆さんにはそれなりに仕事を斡旋しているはずなんですが、なんでまたわざわざ用心棒なんていう危険な仕事をしようなどと思われたんだろう……斡旋している仕事の大半は魔法薬精製とかなので、すべて家で作業出来ますし危険も少ない割に報酬もいいはずなんですが……
僕がそんな疑問を投げかけると、集まっていた魔法使いのみんなは少し恥ずかしそうにうつむきました。
「……実はですね……私達、魔法薬を作るのが苦手でして……むしろ魔法の力を利用したこういったお仕事の方が向いている気がしましてですね……」
と、まぁ……聞いてみてなるほどなぁ、といった理由を口にされたわけです、はい。
魔法使いだからといって、みんながみんな魔法薬の精製が得意なわけじゃないってことか。
「……でもね、魔法使い集落に斡旋されてるお仕事レベルの魔法薬は、作れて当たり前、よ」
そう言うスアですが、
「まぁ、人には向き不向きもあるしさ、まずは自分の得意分野で頑張ってもらいながら、苦手分野の克服にも頑張ってもらうということでいいんじゃないかな?」
僕がそう言うと、スアは腕組みをしながらウンウンと頷いていきました。
「……そっか……そういう考えもある、ね」
と、いうわけで、この魔法使いの皆さんをテトテ集落へ斡旋することにしました。
報酬については、普通の用心棒用務より若干多めに報酬が支払われるようになっていて、加えてお昼ご飯の支給もあります。
あと、スアの転移ドアの使用も許可していますので魔法使いの皆さんは自宅のある魔法使い集落からテトテ集落まで通うことが可能になっています。
魔法使いなら転移魔法くらい……そんなことを思った僕ではあるのですが、転移魔法を使用出来る魔法使いとなると、魔法使い集落には数人しかいないそうなんですよね……何しろ上級魔法使いの中でも数人使えるかどうかって代物らしいんですよ、転移魔法って……
そんな魔法をドア形状にして実態化させ、しかも複数のドアを常時展開しているスアなわけです。
そんな転移ドアを初めてみた魔法使い集落の皆さんってば
「……な、なんですか、この転移ドアの数は……」
「ど、ドア化させるだけでも困難を極めるというのに……」
「それがこんなにたくさん常設化されているなんて……」
「さ、さすがは伝説の魔法使い様……」
感動するやら唖然とするやらで、皆転移ドアの前で固まっていたわけです、はい。
で、早速テトテ集落での用心棒業務を開始した魔法使いの皆さんですが、最初こそ慣れない山道の移動などに手間取っていたそうなんですが、魔獣や害獣が襲ってくると的確に攻撃魔法を展開してこれを撃退してくれているそうです。
で、ここで僕も予想していなかった事態が発生しました。
実年齢はともかく、見た目は若い魔法使いの女性陣が大挙して訪れたもんですから、集落の皆さんってば
「おうおう、めんこい女子(おなご)がわんさかじゃのぉ」
「こんな可愛い女の子達が集落にきてくれるとは、ほんにありがたいこっちゃ」
「ささ、お茶とお菓子があるわよ」
「まぁ、ゆっくりして行きなされ、なんなら晩ご飯も食べて行きなされ」
「お酒もあるわよ。なんならウチで泊めてあげるから遠慮しなくていいのよ」
とまぁ、魔法使い集落の皆さんを過剰なまでに大歓迎なさったわけなんです。
で、その結果、今回の仕事を請け負った魔法使い集落の皆さんの中にですね、
「こんなによくしていただける村の皆さんとなら、一緒に暮らしてもいいかも……」
そんな事を言われてですね、テトテ集落に移住してこの仕事を続けたいと言い出す魔法使いが何人か出てきました。
集落の長のネンドロさんにも相談してみたところ、
「それはもう、願っても無いお話ですにゃあ」
とのことで、空き住宅の提供まで申し出てくれました。
ただ、魔法使い集落の皆さんは、移動可能なプラントの木に住んでいますので住居はプラントの木ごと移動すれば済みますので問題なかったんですよね。
こうして限界集落状態だったテトテ集落の一角に、こぢんまりとした魔法使い居住区が出来ました。
ネンドロさん曰く、
「テトテ集落の人口が増加するなんて、何十年ぶりのことかにゃあ」
と、感涙しながら感慨深そうに言われていた次第です。
……まぁ、見た目は若い魔法使い集落の皆さんですが、みんな100才近い方々ですので集落の平均年齢は確実に上がっているんですけどね。
こうして、護衛が出来たことでバックリンの実の収穫を心置きなく出来るようになったテトテ集落では、おもてなし商会に持ち込まれるバックリンの実の数が一気に増加していきました。
当然、すべておもてなし商会で買い取りをしていますので集落の皆さんも潤っているわけです。
で、平行して進めていたスアの使い魔の森での、バックリンの実の渋抜き作業場の建設も無事完了しました。
なんかでっかい大鍋が3つ、森の中の空き地にド~ンと鎮座していまして、その下部で火を燃やせる構造になっています。
なんといいますか、僕が元いた世界で言うところの、重機を使って作る巨大芋煮鍋を想像してしまうような設備なわけです、はい。
この世界では重機の代わりに、スアの使い魔の巨人族の皆さんが作業にあたるんですけどね。
僕はテトテ集落から回収してきたバックリンの実が詰まっている魔法袋をタルトス爺に渡しました。
「では、皮を剥いて、渋抜きが終わったバックリンの実を店長さんにお届けしますでな」
「よろしく頼むね。あと使用し終わったタクラ酒も捨てずに別の魔法袋に回収してください」
「了解じゃ」
そんな会話を交わしたところで、いよいよバックリンの実の加工が本格的に開始されました。
使い魔の森で加工作業が終了したバックリンの実は、ヴィヴィランテスがスアビールなどを納品にやってくる際に一緒に持って来てもらうことにしました。
で、僕は店で渋抜きしたバックリンの実を使って試作品づくりに入りました。
ララコンベから入手した卵やカウドン乳、それにプラントの実で増産している砂糖などを準備しまして作業することしばし……
蒸しパン風の台座の上に、バックリンの実と砂糖とカウドン乳をハンドミキサーでつぶつぶが残っている程度にクリーム状にした物をざっくり盛り付けていきまして……
はい、バックリンモンブランの試作品の完成です。
まぁ、本格的に増産することになったら絞り袋を使って作業することになりますけど、今回は試作ですのでざっくり仕上げています。
「ふわぁ!?店長さん、このケーキすっごく不思議でごじゃりますなぁ……なんか盛り上がっているでごじゃります」
僕の手順をメモを取りながら見ていたヤルメキスも、出来上がった試作品を見ながら感動の表情を浮かべています。
で、店に残っていたルービアス、ブリリアンも加えた3人に試食してもらったところ、
「んん!? この濃厚な甘さがなんともいえないでごじゃりまする」
「うわ、これやばいですよ店長さん、私あと10個は食べれますよ!」
「バックリンの実がこんなに美味しいなんて……中のつぶつぶ感がまたたまりませんね」
と、好評だったわけですはい。
でもまぁ、コンビニおもてなしの場合、最後の試食は、あの方と決まっているわけです。
「パパ、ただいま!……あれ?なんだか甘い良い匂いがします」
いつものように元気に学校から帰ってきたパラナミオが、鼻をクンクンさせながら厨房に入ってきました。
「お帰りパラナミオ、おやつがあるけどどうだい?」
「うわぁ!食べます食べます!」
パラナミオは満面の笑みを浮かべながら僕の側に駆け寄ってきました。
僕は、試作品のモンブランを厨房の奥の机に置きまして、そこでパラナミオに試食してもらいました。
で、それを一口、口の中に入れたパラナミオは、
「パパ、これすっごい美味しいです!パラナミオ、この味すごく好きです!」
そう言いながら、最上級の笑顔をその顔に浮かべていきました。
うん、この笑顔のためならば、僕はマジで魔王も倒せるかもしれない。
「あら? 店長さん、呼びましたかぁ? ちょっと忘れ物を取りに来たんですけどぉ」
「いえ、魔王ビナスさん、なんでもありません……」
嘘です……魔王ビナスさんを倒せるかもなんて、大それたことを考えてしまって、マジですいませんでした。