進むモノ
暗闇が辺りを包み込む中、焚き火を囲んで村長を弔う葬儀が静かに行われる。
場所は、初めて雪花が村長と見た高台の近くに村人全員で埋葬し、墓石を建てた。
「本当は、高台の上にしたかったけど…地面じゃないですし、ここで我慢してください村長…」
「それじゃあ、最後にこの酒を掛けてやってくれ」
大工の長から
「これで、別れの挨拶は終わりか？」
「ああ。これで…本当に、最期だ…」
もう、彼らは村長の前で涙は流さないと決めたのだろう。
必死に堪えながら、ただ静かに頭を下げていた。
そんな様子を見守っていた雪花は、立ち上がり、皆に習って頭を下げる。
命の恩人であり、お世話になった優しき人の魂が今、旅立った。
◇◇◇◇◇
「この人を解放してください」
村長の孫娘を説得し、この監視者の決断を任せたものの、まさか親族である村長を殺した張本人を解放するとは思いもしなかった。
もちろん、反論をする者が居てもおかしくはないのだが、村人達は反論をする事無く監視者の縄を解いたのだ。
責任は全て雪花が背負う事になっている。
そのため、気負いせずに選択出来たのだろうと思う事しか出来なかった。
彼女は、何を思って決断をしたのだろうか。
雪花には聞くことが出来ない質問を答えるものは誰も居ない。
なぜなら、これは雪花が見た記憶だからだ。
既に起こった出来事を変えることは出来ない。
それが、この世の理である。
だからこそ、雪花は…。
「…さん…雪…花さん…雪花さん」
身体を何度も揺すられる感覚に意識が無くなっていた事を思い出す。
慌てて瞼を開き、身体を起こした。
「ああ。すまない。どうやら寝ていたようだ」
目が覚めて初めて見たのは、村長の孫娘だ。
「こんな所で寝ていたんですか？ 全く、壊れててもわたし達には家があるんですからね」
周囲を見渡してようやくここが、簡易テントの中に寝ていた事を理解し、怒っている彼女を宥める。
「本当にすまなかった。これからは、そうだな。君の家にお邪魔するとしよう」
村長の事を思い出させないように思っていたのだが、どうやら、さっきの言葉で思い出させてしまったらしく、表情が少し陰る。
すぐに何かを言わなければと、言葉を模索していると微笑んだ彼女が突然自分の頬を叩く。
「よし、暗い顔なんておじいちゃんが見たらきっと悲しんじゃう。だから、明るくいかなきゃ」
「そ、そうだな。それよりも、頬真っ赤に腫れてるが…大丈夫か？」
「だ、大丈夫で…す…」
ジンジンする頬を撫でて返答する彼女に笑いを誘われてつい、表情が崩れてしまった。
「あっ、笑いましたね？」
「いや、笑ってない」
すぐに表情を戻して孫娘から目線をそらす。
「嘘だって分かりますよ」
「さ、さて、今日は近隣の村に行かなくては…」
そそくさと逃げるようにテントから出て行く雪花の後ろを元気に追いかける孫娘の姿が村人達が朝早くから何人も見かけていた。
