歩き回るモノ
仲睦まじいように見えた村長の孫娘との追い掛けっこも終わり、時刻は昼になっていた。
村長の簡易テントの前には、何人もの男達が馬を引き連れて待機している。
そこへ、息を切らしてやってきた雪花が合流した。
「ようやく来たか。ところで、なんでそんな汗だくなんだ?」
「いや、気にするな。それよりも、全員で何人だ?」
「5人だ。荷運びに3人、護衛に2人だ」
「ということは、自分を入れて6人か…」
多くもなく少なくもない人数に満足した雪花は、村人に支えられながらも馬に跨がる。
「ここらで一番早い馬だからな。大事にしてくれよ」
「もちろんこんなに良い馬ならば、大事にしないわけがない」
「とりあえず、近隣の村に行くんだったよな?」
そう言って、雪花に向けて地図を丸めた物を手渡す。
「ああ。助かる」
まだ地図無しで地形を全て把握しているわけではない。
地図を覚える事も今後の雪花の課題となるだろう。
そう思いながら、丸めた地図片手に雪花達は、馬を走らせる。
いくつかの近隣の村へ。
◇◇◇◇◇
最初の村に着いたのは、日が落ち掛けている夕刻の時間だった。
だいたい昼過ぎに出てきたはずなのだが、もういつの間にか夕方になっている事に雪花は、着いた村と地図を何度も見直し、側にいた護衛の一人に質問する。
「付近の村って距離ありすぎませんか?」
「いや、普段はこのぐらい掛かるぞ。それに、今日は早かったんじゃないか?」
他の者達も頷いている事から、ここら辺の村では当たり前のことなのだろう。
「そ、そうか…さて、ここからが勝負だ」
深呼吸をし、眼前にある村の出入口用の門の扉の前に立つ。
すると、高台から見張っていた村人が上から声を掛けて来た。
「この村に何用だい?」
「重要な話をしに来た。ここの村長と話をしたい」
「どこの村だ?」
「監視者と戦った村だ」
声を張って会話をしていた雪花だったが、高台に居た者が途中で慌てて下に降りて行く。
どうやら、噂程度には知られているらしい。
少しすると階段を降りる音が聞こえ、足音が扉の前まで来ると、再び声を掛けてくる。
「なぜ、逆らった村が我々の村に来た?」
「協力関係を結びたいと思って来た」
「協力関係だと?」
「そうだ。自分達は反旗を翻したも同然の事をした。そう時間も経たない内に自分達を討伐しに来るだろう」
「だから、手を貸せと? そんな事をしてこの村に何の得が!」
「いや、自分達の責任は自分達が取る。だが、近隣の村は関係はないと例え、そう言ったとしても、奴らは聞き入れないだろう」
監視者は邪魔立てする村を蹂躙するだろう。
少しでも亡くなった村長と関わりがある者達すらも関係なく。
「…」
「だから、少しでも近隣の村達には、犠牲を出したくはない」
「ならば、ならばなぜ、そこまで巻き込みたくないと考えていながら、反旗を翻した?」
当然の疑問に、雪花は前を向いて強く答える。
「村長を救えず、力もない自分が卑怯にも村人の気持ちを利用して反旗を翻した。自分の下した決断に呆れるほどにね」
正直に思っている事を吐き出した雪花は、握りしめた拳を緩め、返答を待つ。
「雪花さん…」
護衛の一人がポツリと何かを言いたそうに呟いた。
「ああ。今のは、本音だ。情けないだろ? 」
回りを気にせず何も繕った言葉ではない。
全てが本当の事である。
自分一人だけが死ぬのならともかく、周囲を巻き込んだ結果、更に状況は悪化して行く。
そんな自分が新しい村長として導いているなんて呆れて笑えてくる。
だが、雪花の思いとは違い、付いてきた者達が真っ直ぐ雪花を見つめて頭を下げた。
「誰もあなたを情けないのだと思っていません。恨む者も居ようと、我らはあなたに救われた」
「…ありがとう」
勇気を貰った雪花へ返答の代わりに門の扉が開く。
「村長が入れって」
「助かる」
馬から降りて引き、雪花の初めて知らない村へ入る。