話すモノ
村が蹂躙されてから一夜が経ち、身も心も疲れきっている村人達へ雪花自らの口で葬儀を行う事を伝える。
まだ、現実を受け入れられない様子の村人が居たり、雪花を責める者も居た。
だが、雪花は、何も言い返す事はなくただ、無言のまま責める言葉を聞いていた。
なぜなら、この村で起こった事の全ては雪花が背負うべき罪なのだから。
そして、ようやく最後の村人に葬儀の事を伝えに村長の家へやって来たのだ。
「……っ…」
家の側で掃き掃除をしている村長の孫娘に何て声を掛ければ良いのか分からず、開きかけた口を閉ざす。
普通に声を掛けるべきか、相手から話し掛けてくるまで待つか。
雪花には、どう話していいのか分からなくなっていた。
しかし、何時までもこのまま何も告げないわけにもいかず、意を決して声を掛けようとしたその時だった。
掃き掃除を終えた村長の孫娘と目が合う。
「「あっ…」」
二人して声が重なり、何かを言いたそうに口を開けたり閉じたりしている。
「「あの…」」
また奇跡的に声が重なり、どうしていいか分からなくなった雪花は、孫娘と顔を合わせず、俯いたまま話し出す。
「村長の葬儀を行いたいと思っている」
「…それは、いつ頃ですか?」
「今夜…明日には、自分達が近隣の村へ協力を関係を結びに行こうと思っている。そのために、だから、その…」
詰まった話し方をする雪花の手を添えるように握り、精一杯の作り笑いを浮かべて視線を向けさせる。
「わたしは…大丈夫です。それに、わたしの事よりも、他の人達に話さなくて良いのですか?」
あんなに暖かかった笑顔に比べたら、孫娘の今の笑顔が大丈夫なようには見えない。
「村の皆には、伝えた。急な事で動揺はあったけど、了承して貰えたよ」
笑顔で答えるが、村の皆が全員了承してくれる筈などない。
それは、雪花自身が一番よく分かっている。
なぜなら、村長を死なせてしまったのは全て雪花のせいだからだ。
「そうですか。それなら、皆、笑顔で送り出さないといけませんね」
再び作り笑いが雪花の瞳に映る。
この作った笑顔を見るたびに雪花の胸は強く締め付けられる。
彼女には、雪花を責める権利があるはずなのに、一度も雪花を責めてはいない。
なぜだ、なぜ彼女は事の原因を作った雪花に何も言わない。
もしかしたら、責める価値すらも自分には存在しないのだろうか。
「…」
思考が脳内を巡り、言葉が出てこない。
そんな、雪花を見ていた孫娘が優しい口調で語り掛ける。
「雪花さんは、わたしを守ってくれました」
「守る…自分、が?」
「はい。監視者の兵士達からわたしを必死に守ってくれました。それに、おじいちゃんが認めた人を恨むなんて事しないですよ」
作り笑いではない、優しい笑顔を浮かべる彼女に、雪花は少し救われたような気がした。