敵にしてはいけないモノ
監視者とは、国を、集落の人々の数を調整する役割を持つ。
その監視者は、月に一度必ず決まった日に来るのだが、緊急な用や人員の移動の際には突然訪問する事がある。
「おやおや、今日も賑やかそうでなりより」
馬に乗ってにやけた顔をした小太りの男が後ろに数人引き連れてやってきた。
いかにも、高貴な存在を主張するように煌びやかな格好をしている。
「きょ、今日はどのような用件でしょうか?」
緊張した面持ちで対応する村長に監視者であろう小太りの男は、馬から降り、にやけた表情を崩さずに話し出す。
「ここ最近、
「そんな! この村の若者は、一人しか居りません!」
必死に懇願する村長に、更なる追い打ちをかける。
「誰が男だけと? 兵士の鋭気を休ませるためには、女も必要だと思わないか?」
そう言って何かの合図かのように指を鳴らす。
いつの間にか村を囲んでいた兵達が続々と村へ侵入して来る。
青ざめた村長が周囲を見渡し、いつでも村を蹂躙されかねない状態だった。
「お、お止めください!」
「こちらとしても止めたいんだ。しかし、これも長の命令で仕方ないことなんですよ。えーっと、この村の名簿に若い女は、4~5人っと…」
女性の居る家々を指差し、兵士を向かわせる。
家の中へ入っていった兵士のすぐ後に悲鳴が聞こえてきたが、誰も止める事が出来ない。
「なぜ、このような事を!?」
「なぜって、そりゃあ。1人無断で村に入れただろ? 長の権利もなく」
すでに権力者にバレていた事に村長は驚いたが、それよりも村長の家に入って行く兵士へ止めようと声を掛けた。
「待つんじゃあ!」
「待ちませんし、連れて行きます」
飛び出して行こうとする村長を押さえ込み、兵士を村長の家へ向かわせる。
すると、数分後にはぐったりとした雪花と気絶して抱えられている村長の孫娘が見えた。
「や、止めろ。止めてくれぇ!」
叫ぶ声も虚しく孫娘は、連れ去られて行く。
「ところで、この若者はどうしますか?」
引きずられてきた雪花を見た小太りの男は、首を横に振って答える。
「使えないでしょう。それより、村長の処罰が先です」
その言葉を最後に雪花の意識は途切れた。