地図を見るモノ
朝の幸せな食事の時間を過ごした雪花は、満たされたお腹をさすりながらふと天井を見上げた。
天井は相変わらず、藁か何かで何十にも編んである。
そんな、天井を見上げる雪花に、村長が声を掛けてきた。
「さて、雪花よ」
「何ですか?」
振り替える雪花に、何かを丸めていた物を片手にテーブルの側へやってくる。
「これを見よ」
丸めていた物をテーブルに広げて何かの形をした所の端の辺りを指す。
「これは?」
「この形に見覚えは無いか?」
形と言われてすぐにどこかの場所の地図なのだろうと察し、首を横に振って答える。
「いえ、全く覚がないです」
「なるほど。こりゃ相当だな」
額に手を当てて何度か首を左右に振って悩んだ様子の村長が、再び地図とにらみ合い、すぐに嘆息を吐き出した。
「あの~、無理に考えなくても…」
「いや、わしが何とかしよう」
何かわからない決意をした村長が、雪花の方に振り返り、静かに話し始めた。
「まず、わしらの居る集落は、地図でいう所の端の方だ」
雪花の居る集落の場所を先ほど村長が指で指したのと同じ場所に指して、村長は説明を続ける。
「そして、2つの大きな勢力がこの世界を支配している。それが、わしらの集落側にある帝都とその逆側にある王都だ」
丁度半分に線を付けてあったのは、2つの勢力が関係していたのだろうと雪花は理解した。
「ということは、今現在も帝都に自分達は支配されているという事になるんですね?」
「そうじゃよ。この世界の半分を支配出来るほどの圧倒的な力を持っておる。じゃから、下手な行動も見逃される訳ではない」
「では、必ず誰かが見ているということですか?」
「そうではない。月に一度集落を監視者と呼ばれる者達がやってきて、点呼を取る決まりじゃ」
「なるほど…」
この話を聞いて少し雪花に疑問が残る。
月に一度の点呼を取る決まりなのならば、自分がこの集落に居て良いのだろうか、と。
しかし、そんな疑問を質問する前に村長が次の話を始めてしまう。
「後は、例えば、この辺りだと集落よりも大きい国がある」
「国?」
「そうじゃ。集落同士が集まって作った国が多いからな。国の長を決めるのにも様々な事があってな…」
「無用な戦いはしたくないですね」
「で、あろう? さて、この先の帝都のことじゃが…」
村長が先の事を話そうとしたその時、全速力で走ってきた者が村長の家の扉へ飛び込んで入ってきた。
「村長ぁ! 大変だ!」
息を切らしながら入ってきたのは、若い青年だった。
「どうした? そんなに慌てて?」
すぐに心配そうに駆け寄った村長に、若い青年が、入ってきた出入口の方を指差して。
「監視者が来ちまった!」
「なんだと!」
雪花の小さな疑問の答えが後数十分で分かるのをまだ雪花は知らない。