過ごすモノ
絶景の美しい景色を見終えた雪花達は、まだ痛む身体を杖で支えながら螺旋階段に足を掛けた途端、村長が階段を慌てて降りる影を見て、笑みを浮かべた。
「どうしたんだ?」
気になって声を掛ける雪花に首を横に振る。
「いや、何でもない。さぁ、さっさと帰ろう」
先に階段を降りる村長に首を傾げながらもその後ろに付いて行く。
再び長い階段を下って行くと集落の人々の賑やかな声が聞こえてくる。
「やぁ、村長。今日もあの景色を見に?」
階段を下りきった先に居たのは、何か箱を持っている青年だった。
「そうじゃよ。朝から配達ご苦労様」
「いえいえ。動ける若者として当然ですよ。ところで、お隣の方は?」
「自分は、倒れていた所を村長に救われた者です」
「ああ、あなたが担ぎ込まれたっていう噂の」
いつの間にか噂になっていた事に驚きつつ、青年の手に持っていた物が気になる。
「それは、何を運んでいるんですか?」
「これは、
「毎朝大変ですね」
「いえいえ。これも若者の仕事ですので。それでは、僕は次の配達があるので、失礼します」
その場で荷物を持ちながら頭を下げて次の配達先へと駆け足で進んでいった。
その後ろ姿を見送った村長と雪花は、村長の家である民家まで向かう。
◇◇◇◇◇
村長の家に着くまでに何度か朝起きている人達と出会い、同じような挨拶を交わした。
そして、ようやくたどり着くと、真っ先に座り込む。
「ふぃー、長かった~」
「こんな事で音を上げていては、この先大変じゃぞ?」
「怪我人を急に動かすからでしょう?」
「良い運動にはなったじゃろ?」
「まぁ、確かに綺麗な景色も見れましたけどね」
村長と雪花が座り込んで話していると奥から少女が美味しい食べ物を運んできた。
「はい、どうぞ。朝歩いたなら、お腹も空いているはずでしょ?」
タイミング良く運んできた事に疑問を持った雪花だったが、先に食べ始めている村長を見て、深く考える事を止めた。
「自分も頂いても?」
「当たり前じゃないですか。どうぞ、食べて下さいね」
「では、頂きます」
目の前の食事に少し痛みを感じるが、箸を掴んで自分で食べられる事が嬉しくて堪らない。
「どうですか?」
「ああ。今日も美味しい」
身体に染み渡る美味しさに心が温まりながら、箸が自然と進む。
朝から美しい景色を見ることもでき、なおかつこんな美味しい料理を食べることが出来て、今日も何事もない良い日が始まろうとしていた。