一章 異世界転生の解(まとめ)
プロローグ
「あー暇。」
背もたれに背中をだるんとつかせてそう言った。
「知らねーよ!」
「いや、なんかないかなーとか思っただけ。」
「確かにこの漫研部なにもやることないからな。」
この漫研は一応、仲の良い4人で作った、なんとなくの部だ。
「てか、漫研に来てまで勉強することないと思うけどなー。」
急に前に座っていた女子がペンを振りながら言った。
「 いくら勉強しても後悔することはありませーん♪」
「急に入ってくんなー。」
座りながら少し前のめりになって言った。
「いいじゃん暇だし、二人が楽そうに話しているから入りたくなったの!」
「相変わらずお前当たり強いな。」
胸に手を当て言った。
「それが俺だ!」
「うわーきっぱり認めやがったー。」
「だねー。」
「・・・なんか冷めきってない?」
「冗談だよ!」
「ならよかった。」
彼の名前は谷野 隆史。この物語の主人公だ。
谷野隆史:高校一年生の男子。成績は中の下、少しサボり癖がある。好きな食べ物は板チョコだ。
TU.ピュアエンド:異世界の扉
部活時間が終わり、続々と生徒が門の外に出始めていた。漫研部は部員が4人しかいないため、3階の暫く使われてない教室が部室になっている。勿論この漫研部は、学校内の部活カーストの中でも最下層にいる。簡単に言えば帰宅部と同等ということだ。このカーストで下だったら何があるか?モテない!これ大事!
あと、このカーストのせいで、いじめが絶えないことだ。これは、許されないと思う。絶対・・・。
「・・・。」
「見つけた。」
こんなこと言うのはどうかと思うが、幸せだった。
あんなことがなければ・・・。
一章 異世界転生の解
部室の鍵を返して門を出ようとしていた。すると、
「おーい谷野ー。」
女子が少し小走りで向かって来た。
城山 奈穂
谷野のクラスメイトで小学校の頃から遊んでいる仲。周りは幼なじみと言っているが、本人達は何故か認めない。谷野よりも成績が上で、友達も多い。好きな食べ物は葡萄だ。
「おーい、聞いてるー?」
「あっ、ごめん。」
「なんか今日、ボーとしていること多いな。」
「まあ、たまにはこういう時もあるだろ。」
「だね。」
城山はそう言ってにやけた。
「そういえば最近、急に寒くなったな。城山、暖かくしているか?」
「ありがと。まあ家に炬燵あるし、大丈夫だ!」
「炬燵って人ダメにするよな。」
「それな。でもわかってても入っちゃうのだよ。」
「まあな。ところで本当に寒いな。」
「薄着な・・・。谷・・野・・・。」
「な、なあ、どうした。」
「ナ、イフが・・・。
「・・・はっきり言ってくれ。」
【背中に、ナイフが刺さってる・・・。】
「ははっそんなわけ・・・。」
背中を触った谷野・・・。その手には。
「赤い・・・。」
後ろを見ると、赤い液体が点々と・・・。そして、横にいる城山を見て。・・・そこで倒れた。
(俺、死ぬのかな・・・。)
「谷野、しっかりして!」
しかし、応答はなかったーーー。
明かりが・・・。眩しい・・・。・・・。
「起きてください!」
その呼び掛けで起きた。
「・・・。おい、ここどこだ。」
谷野は目をしっかり開けた。すると、女の人が肩を掴んでいた。おそらく揺さぶって起こしたのだろう。
「起きたー!よかった!」
「ん?」
女の人は立ち上がって。
「・・・コホン、ようこそ転生の間へ。」
「転生・・・、えっ!?」
谷野は唖然した。
「死んでるのか?」
「残念ながら。」
「死んだならなぜ動けるのか?」
「んー、簡単に言えばこれからあなたは、転生できる特別の人、ということです。」
特別?谷野は更に困惑した。しかし、これだけは聞いておきたい。
「なぜ死んだんだ?」
「えっ、覚えてないんですか!?」
「覚えてないって?」
「・・・。」
「どうした?」
女の人は少し悲しそうな顔をして言った。
「実は余計なことは基本的に 言ってはいけないという規則があって。」
「規則だからといって、あまりに酷いと思うが。」
「規則なので。」
女の人の顔がどんどん暗くなる。・・・悪気はなそうだ。
「ごめん、言い過ぎた。規則がなければ、言っているはずだからな。」
「すみません・・・。」
「いいよ。」
女の人の顔に明るさが戻った。谷野はふと言った。
「ところであなたの名前は?」
女の人は明るい声で答えた。
「私はローナド・トラヤラです!気軽にヤラと呼んでください!」
谷野は右手を首にやって言った。
「まあ、よろしくなヤラ。」
ヤラは優しい笑顔で言った。
「案内だけですが、よろしくお願いいたします。」
俺とヤラは挨拶の後、階段をひたすら登っていた。
「ところで、この階段はどこに繋がってるのか?」
「この世界の神の所です。」
ふと疑問になった。
「この世界って、どんな世界なんだ?」
「あなたから見たら、『異世界』です。」
異世界?というか死んだ理由もわからない、どんな状況かよくわからない。どうするんだこれから・・・。
わからないことばかりだ。異世界に行く?というのはどういうことなのか?
「なにか分からないことがあったら言ってください。」
ヤラがいきなりそう言った。
「ん?」
「いや、谷野さん悩んでいる様子だったからです。」
「ありがとう。じゃあ1つ質問していいかな。」
「はい。」
ヤラは頷いた。
「異世界に行くってどういうことなのか?」
「そのままの意味だと思いますが。」
そのまま返されても困る。いや、俺の質問の仕方が悪かったのかもな。谷野は言い換えて質問した。
「異世界ってどんな感じなのか?」
「・・・。」
何故無言?まさか・・・。
カッ!!
「うわっ!?」
急に周りが光った。谷野は急過ぎて何も出来なかった・・・。そこで意識を失った・・・。
転生面接の間にて
「 谷野 隆史は何故来ない?」
Aが膝まずいて言った。
「何者かの奇襲にあって・・・。」
「そうか。」
Bは残念そうにそう言った。
「それで、ローナド様も・・・。」
「ローナドも巻き込まれたのか!?」
Bは強くそう言った。
「はい・・・。」
Aは膝まずきながら頷いた。
「チッ、これはまずい事になったな。」
「はい・・・。」
転生面接の結果の報告
谷野 隆史
転生面接の間の途中の階段通路にて、何者かの奇襲に会い、その際に階段から落下。転生者の為この落下は生存。面接は落下という結果になった為能力値を最低のFランクとする。
体力10 技力、攻撃力、防御力等その他パラメーターを【1】とする。なお、特殊能力については【なし】とする。
ローナド・トラヤラ
上記の谷野 隆史と同様の理由で階段通路にて落下。ローナドについては落下によって【消滅(死亡)】した。なお、この消滅については殉職と判定する。
以上 転生面積官長ホヌ(上記の会話のB)
「ルク様。このようになりました。」
「拝見したぞ。」
伝言人は呆れた顔をしてこう言った。
「ルク様が期待していた転生者なのに期待はずれでしたね。」
ルクは鋭く反論した。
「いや、そう考えるには早いと思うが。」
「・・・そうですね。」
間違いなくルクは焦っている様子だった。伝言人はそんな様子は見たことが無かったのでこれ以上の反論はしなかった。
この後、谷野がどのようになるか。それは・・・
【あなた達(読者)が思う甘いものでは無いぞ。】
落ちた俺はまた謎の空間に来ていた。何だろう、今まで感じた事のない・・・浮いている感覚だ。谷野は薄い意識の中で少しでも情報を得ようとした。でないと、この何も情報のない状況で分からないという恐怖に襲われるからだ。しかし、そんな余裕もなく谷野はまた意識を失った・・・。
現世界(こっち側)→→→異世界
起きたらそこはーーー。
「草原・・・。」
大きな草原が目の前に映っていた。少し岩肌も見えていているが本当に綺麗だった。谷野は泣きそうになった。谷野にはここまで来るまでの苦痛が大きく傷として残っていた。ただ、ここが何処か分からない以上余り長居する訳にもいかず、谷野はのろのろと少しずつ
足を進めた。
草原を結構進んだのだろう。村らしきものがあった。もう日が沈みかけていたので谷野はここで一晩を過ごそうと思った。あと、凄い空腹と眠気、頭痛に襲われていた。正直、息も切れている上、体力の限界だ。村の前に来た。村の名前らしき表札があったが読めないなかった。一体ここはどこなんだ?谷野が中に入って歩いていると村の噴水広場まで来た。すると村人らしき人がいた。村人らしき人もこちらが気になるようだったので話しかけた。
「すみません、ここは・・・。」
「・・・?」
首をかしげられた。もしかして日本語が通じないのか?どうしよう・・・。数秒黙り混んで考えた。そうだ、ジェスチャーならどうだ!谷野は下を指さして首をかしげた。それがなんとなく通じたのか手招きされたので着いていった。ジェスチャーはきちんと通じるようだった。手招きされ、着いていってる途中その人をよく見ると、若い女性で頭には猫耳・・・。
「猫耳!?」
びっくりしてつい声に出てしまった。猫耳の女性は気になってこちらを振り向いたが谷野は首を振った。猫耳の女性はまた前を向いて進み出した。よく見ると少し垂れているだけで尻尾もあるようだった。ここで谷野に1つの疑問が生じた。猫なら何故歩けるのだろう・・・。そんな考察をしていたら、猫耳の女性は急に止まった。考察をしている途中で下を向いていた谷野はぶつかりそうになったが足の爪先を使って止まった。向かった先は民家だった。どうやらその猫耳の女性の家らしい。猫耳の女性は鍵を開けて家に入ると、少し遠慮気味な谷野を見て、優しい笑顔で手招きをした。部屋に入ると猫耳の女性は、
「ごめん、ちょっと散らかっているね。」
と言って片付け始めた。谷野は遠慮気味に言った。
「そういうのはあまり気にしないので大丈夫ですよ。」
猫耳の女性は、
「気遣ってくれてありがとう。」
と言って片付けをやめて、椅子に座るように進めてくれた。谷野は椅子に腰掛けてあることが気になったので聞いた。
「あの、あなたの名前は?」
猫耳の女性は少し慌てた様子で答えた。
「あ、ごめんなさい!一応言っておきますね。私の名前は『アカネ・ハサナ』と言います。よろしくお願いします。」
谷野は自分だけ名乗らないのはいけないと思ったので名乗った。
「俺は『ヤノ タカシ』と言います。こちらこそよろしくお願いします。」
お互いの自己紹介を終えると、アカネは物入れから木のコップを出してバケツに汲んであった水を入れた。
「ヤノさんとりあえず水飲んでください。」
アカネは疲れているヤノを見てそう言った。その気遣いがとてもありがたかった。アカネは思いきった様子で言った。
「とりあえず落ち着くまでこの村にいてください。村長には私が言っておきますので。」
泊めて貰いたいのはあるが、このまで順調だと逆に怖かった。ただ、泊めて貰うほかないので今はそれに従った。ヤノはこの日、この国の言語について一通り教えてもらった。割と簡単で覚えられそうだ。
その日の夜の事だ。急に飛ばされまくった俺は、落ち着けず起きてしまった。落ち着く為に外の空気でも吸おうかと思って外に出た。すると、外にある長椅子にアカネが座っていた。俺は近づいてジェスチャーを混ぜながら言った。
「アカネ、隣座っていいか?」
アカネは座ったまま言った。
「なんだ、ヤノも眠れなかったのか。」
「まあな。」
とヤノは椅子に腰かけながら言った。ふとヤノは疑問になったので聞いた。
「アカネはなんでそんなに急に来た人に対して優しいのか?」
「あんたを見てるとなんか昔の仲間を思い出してさ、まあただの気まぐれだよ。」
アカネは意外な答えで返した。ヤノはなんだそれと思ったが、それが本当だとしても心配かけない様にする為なのかあるが、その優しい心がけに対しては関係なかった。まあ、こんなのを考えたのもただの気まぐれと変わらないのだが。アカネはヤノに質問した。
「ヤノ、この星綺麗でしょ。私は寝れない時とか、辛い事があった時とかにこうして座って見ているのだよ。ヤノは質問に答えた。
「それは羨ましいな。」
「あと、村長に相談したら今日どころか一年くらい居てもいいって言ってたよ。あの人お人好しだからそこら辺ほんとオーバーなんだよ。・・・ごめんなさいさっきからついタメ口になってしまいました。」
ヤノは慌てて答えた。
「あの、自分もタメ口にするからタメ口でいいよ。」
アカネは手を合わせて言った。
「ほんとありがとう!」
分からないことだらけだが、俺はアカネのお陰で一時の安心を得た。それでよかった。
次の日
谷野は起きて朝日でも浴びようと思った。しかし、ツンっとする匂いで立ち止まった。まさか!?扉を開けるとまただ・・・。『燃えていた』
「はーはー。」
アカネがこちらに向かってくる。
「こっちにくるな!!」
谷野は必死の声で止めた。しかし、アカネはそれを聞かなかった。するとアカネはこう言った。
「やっとできた友達を死なすわけにはいかないからね。」
アカネの目を見ればその必死さがわかった。そう言えば俺がアカネと一緒にいる時に何故か村の人がアカネを睨んでいるような気がした。アカネ村の人に嫌われているのだろうか。しかし、聞けば傷つけてしまうだろう、谷野は聞くのを拒んだ。するとアカネが構えて・・・。
『アクアシスウェーブズ!』
アクアシスウェーブズ・・・前方を扇範囲に波攻撃(初級水魔術)
そうアカネが唱えると前方の火が一瞬にして消えた。
だが火は尽きない。アカネはまた構えて。
『オーシャンラーシャラッシュ!』
オーシャンラーシャラッシュ・・・自身中心に円状に中距離水攻撃(中級水魔術)
とアカネが唱えると周囲の火が一瞬にして消えた。同時に建物が少し剥がれた。どのくらい強いの!?俺も耐えきれず吹っ飛んだ。その勢いで村の門の前まで来た。(体力10→3)
(危なー!?)
本当に危ない、死ぬところだった。ところで何だ!この体力!10って明らかに少なくないか?ビックリして谷野は単調になった。そこにアカネが駆けつけて来た。
「よかったー生きてて!」
そう言うと右手を心臓部に当ててホッとした。そうすると谷野は言った。
「とりあえず火がこっちに来るまでに村を出るぞ!」
「わかった!」
アカネがそう言うと二人は村を出た。この火事で村長が命を落とした。俺とアカネが火事の片付けをしている途中、村の人のコショコショ話が聞こえた。
《あの二人最近よくいるわよね。》
《あの男の人、アカネさんがどんな人か知らないで過ごしているのかしらね。そう思うと可哀想になってくるわ。》
谷野にそれが聞こえていて拳を強く握っていた。そう、怒っているのだ。しかもアカネが怒らない事を良いことにわざわざ聞こえる所で噂している事も谷野の怒りを増幅させた。その二人は谷野のキレ具合を察したのかその場を去った。谷野は小声でアカネに注意した。
《少しは怒ったらどうだ。このままじゃ嘗められたままだぞ。》
《じゃあ谷野は注意しないの?》
そう言われると反論できなかった。注意すると俺までそう言われるのでは、と思ってしまっていた。なんで俺は活発的な性格をして臆病なんだ・・・。そう考えているとアカネが聞いてきた。
「ねえ谷野?私と一緒に新しい町で暮らさない?」
えっ。谷野はビックリして少し離れた。
「いいでしょ?」
そう言うアカネの笑顔が少し妖艶に見えた。なんだこれは・・・?
「・・・。少し考えさせてくれ。」
谷野はそう言ってその場を離れた。
(なんだったんだあれは!一回頭を冷やそう。)
そう頭の中で会議をさせ、谷野は考えた。すると村の男性が話してきた。村長が死んでしまい、その中で村のまとめ役になっている人だ。
「あの。」
「どうしたの?旅人さん。」
「アカネの事で聞きたいことが。」
「アカネさんの事か・・・。」
「知っているのですか!?」
「知っているけど知ってしまったらまた彼女が独りになってしまう可能性があるよ?」
「それを聞いても独りにしない自信があるので聞いているのです。」
「ほう、そう言って去った旅人もいるというのに。まあ言いましょう。彼女は・・・。」
「『遊女』だったんだよ。まあこれ聞いてどうも思うか・・・。」
男性はそう言った。
「昔の事だろ、そんなの。ならいいんじゃないかで他にあるのか?」
谷野がそう言うと男性は、
「は?なんだお前。」
とビックリした様子だった。
「まあ、何もないのならいかせて貰うよ。」
そう言うと谷野は走ってその場からいなくなった。谷野はすぐさまアカネの所に行った。アカネはビックリした様子で走って向かってくる谷野を見た。
「どうしたの谷野!?」
「ゴメン!ついキレて次期村長敵に回したわ。」
谷野はそう言ってにやけた。
「なら10分で準備して!来てしまったら人溜まりもないないから。」
アカネはそう言って笑い返した。谷野は、少量の食べ物と木の水筒を物置にあったリュックにしまった。するとアカネが訪ねてきた。
「武器とかいらないの?ここら辺はモンスターいないけど、もう少し行ったらウジャウジャいるよ!」
「えっ、ここモンスターいるの!?」
谷野がビックリした様子で言うとアカネは当然の様に頷いた。谷野はあることに気がついた。
『えー!?これまるで異世界転生モノじゃないか!(歓喜)』
谷野がそう言うとダッシュで村の柵まで行って越えた。するとアカネが走って来て、
「ヤノー!武器持ってかないのーー!?」
「アカネ、大丈夫大丈夫。」
と谷野が余裕の表情で答えた。不安そうな表情をするアカネに谷野は追加で言った。
「なんせ俺は最強なんだから!!」
とガッツポーズをした。
「体力10が?」
とアカネは当然のツッコミをした。
「・・・。うん!まあな!」
と谷野はゴリ押しで返した。
異世界の解?そんなの今は分からない。ただ、少しずつ感覚と記憶が戻ってきている予感がした。それでだけで一歩ずつ進んでいるような気がした。
『二章 異世界の中の甘味と苦味』に続く!