No.39 ふぇんか。なんふぇひょう??
「おっ??」
うちは5メートルという高さから真っ逆さまに落ちていた。
その瞬間、トマスの勝ち誇ったような笑みがちらりと見える。
バーカ。
ここから何もせずに落ちるかっつーの。
そこら辺にいる令嬢と同じに認識すんなっつーの。
心の中でそう叫びながら、空中でクルリと1回転をし、きれいに地上に着地した。
「バーカ、バーカ。誰があっこから落ちて死ぬかっつーの。ベー」
トマスに向かって、挑発気味にあっかんベーをしていた。
ガキっぽい??
知るか??
うちの態度にトマスはブチっと頭に来たのか暴れだしたが、狭まるバリアで身動きが取れずバリアに剣を振るだけだった。
アリーナは盛り上がりの声とブーイングの声が響き渡っていた。
うちは悪役令嬢らしい歪んだ笑みを見せ、バリアを動かす。
「次は拳で殺り合おうぜ」
バリア内部にいるトマスに向かって、バリアから棘を生やし容赦なく串刺しにする。
設定のせいか、様々のところを刺されたトマスは血を大量に出し、そして、消えた。
えっ、グッロ。
これ本当に乙ゲーか??
ここはS〇Oのようにキレイに消えろよ。
もしくはワートリみたいに。
デュエルを終え安堵し前世のアニメの方が死に方が綺麗だったと考えながら観客席に目をやると、見ていた何人かの令嬢にはハード過ぎたのか、青い顔をしてトイレに駆け出していた。
前世でもかなり経験があり、海賊の件で気絶させるためみぞおちを殴ったとき吐いている奴がおり臭いが半端なかったので、その時より臭いがない今の方がマシと感じていた。
トマスの血はいつの間にか消えていた。
デュエルを終えたうちも自分の体に戻る。
元の体に戻り目を覚ますと、フレイが……。
「おい、お前何している??」
うちはフレイに抱かれていた。
それもきつく。
ぎゅっと抱きしめるフレイはうちの声に反応しない。
周囲を見渡すと、ルイはすねて、なぜかいるエリカは泣き、ハオランはいつも通りの冷静な様子で壁にもたれ立っていた。
はぁ……。
これはカオスだな……。
溜息をつくと、うちはフレイを引きはがそうとする。
「おい、離れんかっ!!」
「……良かった……アメリアが退学しなくて……」
え?
予想もしていなかった言葉にフリーズする。
「はぁー。僕の虫よけがいなくなると思った……」
「クソがあぁ――――――!!!」
少し動揺してしまったが、フレイを思いっ切り突き飛ばす。
彼は少しよろけたが、嬉しそうに笑う。
なんなんだよ、その笑みは。
「あーー、良かった。虫がつかない」
「うるせぇ。うちは虫よけかっ!!」
「そうだよ」
クソがっ。
舌打ちをすると、ベッドから起き上がった。
「ルイ、ゾフィーに1階のアリーナに降りてこいって言ってこい」
「はい、姉さん」
ルイに頼むと、ルイは即座に部屋を飛び出した。
アイツはやっぱりよく働くな……。
アイツに殺されることは絶対ないな。
靴を履いたうちは立ち上がると、泣くエリカのところへ近寄る。
「おい、お前何泣いてんだ」
「グスっ……だって、アメリア様が負けたらアメリア様がいなくなると思って……」
「……」
泣いている子には弱く、前世ではいじめられているやつを助けていた。
そのためどうにかしたいと考えたうちはエリカをそっと抱き寄せる。
コイツとはあんまり関わりたくないんだがな……。
内心ではそう思いながらもエリカの頭を撫でる。
「うちは勝ったし、誰があんなやつに負けるか。心配なんているもんか」
エリカはうちの言葉を聞くと、笑顔を見せた。
「そうですね。アメリア様はお強いです」
「だが、お前の友達ではない」
「なんでですかっ!!」
泣き止んだエリカを離すと、うちはすぐにドアへ歩き出す。
「ちょっくら、行ってくる」
もうアリーナの方にいるであろうトマスのところに向かった。
案の定、トマスはアリーナでうちを待っていたようだ。
あと、ルイとゾフィーも。
「では、約束どおり婚約を解消していただこうか」
「……ああ」
すると、ゾフィーは真っ先にトマスの前に行き、左手の薬指にはめていた指輪をとった。
「これはお返しします。そして、さようなら」
ゾフィーはトマスに指輪を渡すなり、すぐに背を向け去っていた。
「クソっ。女ごときに負けるなんてっ!!」
指輪を返されたトマスは跪き、自分の拳を地面に向けていた。
うちは彼の言葉が無視できず、トマスの目の前でしゃがみこんだ。
「女
女を差別するような発言をしたトマスの右頬をつねる。
「お前もガキだろうっ!!」
トマスも仕返しと言わんばかりにこちらの頬をつねる。
うちはトマスの左頬もつねり、トマスもうちの左頬をつねっていた。
傍からみると小学生のケンカ。
まあ、年相応であるが。
しかし、先ほどの戦いをしていた者には見えない。
「このイキったガキがっ!!」
「イキった?? それは悪口かっ?!」
「そうだっ!!」
「なら、お前こそ品のない女めっ!!」
「品がなくて悪かったなぁっ!! この石頭男めっ!!」
品がなく、幼稚な2人のケンカを間近でみていたルイは背後からフレイとエリカがやってきたことに気づく。
「フレイ様、あれどうにかしてください……幼稚すぎて見ていられません」
ルイは笑いをこらえていた。
「……ああ、そうだな」
笑いをこらえ真顔装備のフレイはアメリアたちに近づき、トマスに大きな声で話しかける。
「トマスっ!!!」
「
トマスはフレイの声かけにアメリアの頬をつねっていた手を止める。
「アメリアに話があるのだが……アメリアもやめてくれ」
「ん?? なんだよ」
地べたに座っていたアメリアは見上げると真面目な顔をしているフレイが目に入った。
「どうしたんだよ?? そんな堅い顔して。さっきまで気色悪い笑顔を見せていたじゃねーか」
フレイもしゃがみ込み、アメリアの超絶失礼な発言に思わずため息が出る。
「あのね……せっかく雰囲気を出してそれっぽく見せようとしていたのに……」
「なんの話だ??」
フレイの言っている意味が分からず首を傾げる。
「陛下から聞いてるでしょ??」
フレイはポケットから小さな箱を出す。
小さな箱はリングケースだった。
そのリングケースを見た瞬間、乙ゲーのことを思い出す。
これは……フレイの隠しルートだ。
時間差でうちはあることに気づく。
あれっ??
でも、この状況で指輪を貰うのはエリカのはずだぞ??
「あ゛??」
「プハっ」
困って変な声がでたうちは思わず般若のような顔をしてしまう。
本来ならロマンティックな場面でイケメンフレイを吹かせた。