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No.6 運よく木の棒

サンディと会ったあの日からうちは毎日城の外を出るようになり、サンディとよく散歩に行くようになった。
その際、まぁまぁ量のあるサンディのご飯を運んだり、走ったりしていたので、徐々に体は軽くなっていっていた。
といっても、まだお腹が出ているが。

「アメリア様、最近どこに行かれるのですか?? 結構、運動をなさっているようですが??」
「庭園を散歩しているんだ、意外とあそこ楽しい」

ウソに決まってるだろ。
確かに最初はきれいだなぁと思ったけれど、毎日見てたら飽きたわ。

「そうなんですか!! それは良かったです!! ヒラリー様もアメリア様のお体が少しづつお痩せになっていることをとても喜んでいましたわ」

満面の笑みでティナはこちらを見る。
はぁ……こっちは好きで痩せたんじゃないわよ。
やらなければならないことをしていたら、こうなっただけなんだよ。
それにしてもあの狼。
サンディ(アイツ)には銀の名前プレートがあった。
それはつまり飼い主がもともといたってこと。
ずっと、あの林にいさせる訳にはいかない。
迷子になっているのではないかと飼い主が探しているかもしれない。
そう推測したうちはサンディと飼い主を探しに行こうとしたのだが……。

「おい、お前の飼い主探しに行くぞ」
「クーン」

とサンディがとても嫌がり、林の外から出ようとしないのだ。
全くどうしてだか。
仕方なしにまずサンディ(コイツ)がどんな種類の狼なのか調べるため、ティナとともに(勝手についてきたのだが……)王立図書館に向かった。
実際、狼を飼うやつなんてそんなにいないはずだ。
物好きの貴族だろう。
図書館の2階で分厚い図鑑をペラペラとめくり3時間ほど探しているとうちが追っ払って図書館4階にいたティナが訪ねてきた。

「アメリア様、何を探していらっしゃるのですか??」
「これだ」

ティナにちらりとサンディの写真を見せる。
(この世界にもカメラはあったぞ。まぁ、魔力で動くものだが。)

「あ、あの、アメリア様。この写真はどこで手にいられたのですか……??」

ティナは訝し気な顔をする。

「あー、散歩してたらメイドが見せてくれてそのまま貰った??」

このウソも通用しろよ。
じゃないと、面倒なんだから

「そうなんですか!! はぁ…、良かった。てっきり、アメリア様ご自身で写真を撮りに行ったと思いました」

うん、それ事実。
ティナ(コイツ)はほんと騙されやすいな。
それで専属メイドを務めるってなかなかすごいな。
じゃなくて…、

「なわけないだろ、ったく。まぁ、それでこの狼がどんな種類のやつか調べているわけ」
「あぁ……なるほど。それで狼の図鑑を……。アメリア様大変申し上げにくいのですが、その写真に写る動物は狼ではございません」
























????

「なんだって、ティナ。よく聞こえなかった」

そりゃ、ないだろ。
3時間も調べたんだぜ。

「アメリア様、この写真に写る動物は狼ではございません。犬です。ムーンライトという種類の犬です」








??????
犬??
しかも、前世(あっち)では聞いたこともない種類の犬。

「ムーンライト……うち、聞いたことないんだけど」
「えぇ、希少な動物でしてあまり出回っていないんです。しかも、超大型で凶暴ですから、それなりに財産がある方でないと飼う方はいらっしゃいません」
「なるほど」
「しかしながら、ムーンライトは人気でして、その理由の一つとして、魔力持ちの動物なんです。普通の犬と違って。ですので、しっかり躾けると炎を吹いたり、飛んだりするんです」
「変な犬ね。でも、なんで王城(ここ)いないわけ?? あの姉ちゃんたちのことだから1匹いてもおかしくないと思うけど」

そう尋ねると、ティナは苦笑いをする。

「1年前ぐらいにアメリナ様が陛下にそういったご提案をなさったのですが、ヒラリー様が一刀両断に却下されましたので……」
「あー、そういうことね。光景が見えるな」

ヒラリーがほぼ権限を持ってるじゃないか。
マジでパパ頑張れよ。
あの白い狼の正体が分かったうちは犬の図鑑を手に取り、あの白い犬ムーンライトを調べる。

「これか……」

ムーンライト犬について書かれているページにはまさにサンディと同じような動物の写真があった。
うちはムーンライト犬の詳細を目に通す。

「大人になると……5メートル!? サンディ(アイツ)こんなにも大きくなるのか」
「アイツとは??」
「写真のやつだよ。なに訝し気な顔してんだよ」
「いえ、アメリア様がまるで会っているように話されますので」
「誰があうか。王城にいるのに」
「ふふっ、冗談ですよ」

そうしてムーンライトについて調べ終わるとティナにウソをついて、また、こっそりとサンディの所に餌を持って向かった。

「サンディ、ほら、餌だ」

餌をやると、サンディはお腹が空いていたのか、すぐに食らいついた。

「お前さ、あの1本の木の所いかね??」

よしよしと撫でながら、サンディに話しかけた。
すると、食べ終わったサンディがこちらの方をじっと見つめ始めた。
ん??
なんだ??
オウムのようにうちも見つめ返していると、サンディが「乗れ」と言っているかのように背中の方に首を振った。
いやいや。
うちのこと、何キロだと思ってんの??
痩せたとはいえ、まだお腹はポッコリだぜ??
サンディ(お前)の背中が折れるぞ。
なんて考えてるとサンディが体を寄せてすりすりとしてきた。
あー、もう分かったよ。
乗ればいいんだろ。
折れても知らねーぞ!
決意を決め、サンディの上にそっと乗っかった。
サンディの背中はふわふわしていて、初めて会った時よりも肉がついていた。
乗り心地は最高だけど、サンディは大丈夫か??
サンディの顔を覗くと、すんとなんともなさそうにしており、目があったとき嬉しそうな表情をしていた。
うん、大丈夫か。
そして、うちはサンディとともにあの広い丘の木の所に向かった。
サンディは人目のつく街中は走らず、できるだけ森の中をかけていった。
風が気持ちいい。
今日は天気もいいから木漏れ日もきれい。
異世界の自然を満喫しているといつの間にかあの木の場所に着いていた。

「サンディ、お前疲れたろ。ここでお昼寝をしよう」
「わん」

わんって。
やっぱ、犬なのか……。
サンディが横になると、うちもサンディにもたれて座った。
さて、どうやって飼い主を探そうか……。
うちの推測ではあるがサンディの飼い主は貴族に限定される。
だから、王女という身分を使って貴族に片っ端からあたってもいいが、ムーンライト犬を欲しがるやつであれば、平気で嘘をつくだろう。
仕方何しに鑑札といういわゆる犬の住民票みたいなもので調べようかと考えたが、サンディのプレートの裏には一切その情報がいるされていなかった。
また王女という権限をつかい逆にムーンライト犬でサンディという名の犬はいないか鑑札を管理する場所で探したのだが、それすらなかった。
サンディは野良で子どもが勝手にプレートをつけたのだろうか。
あまり考えにくいが。
サンディの身元を考えに考えていると、一人の少年がノアとは反対側の丘の方から走って来ていることに気づいた。
少年の服は多少汚れてはいるが、いかにも貴族という雰囲気の格好をしていた。
きっと貴族の子息なんだろうが。
少年の様子からするに何かに追われているように見える。
ガキ大将にでも追われてんのか??
少年の後ろを見ると、追いかけてくる多数の大人たち。
目を見張ると大人たちが悪名高いバルバロッサ海賊の人たちと分かった。

バルバロッサ海賊??
初めて見たはずなんだけど、なんでこんなこと知ってんだろ??
ありゃ??

まぁ、いっか。
でも、そのバルバロッサ海賊がなぜ1人の少年を??
よしっ!!
警戒されたらいけないから、王女モードで少年に聞いてみるか。

「ねぇ、そこの人っ!! なぜ追われているの?? お金でも盗んだの??」

王女モードを装いつつ、王女らしからぬ大声で叫んだ。

「違うっ!! 逆!! 僕らのものを奴らがいろいろ盗んで、それで僕らを奴隷にしようとしてんだっ!」

必死に走りながらも少年は答えてくれた。
海賊が貴族を奴隷にしているっ!?
はぁ??
なにしてんの??
バカなの??
海賊さん、そんなことしていたら即効捕まるぞ。

「そこのお嬢ちゃんも早く逃げて……ってアメリア様っ!?」
「ええ、アメリアですわ。どうかして??」
「王女様っ!! お早くお逃げください!! あいつらはどんなやつでも容赦なしですよ!! お金のためなら、特殊な人間を平気で捕まえて奴隷に……」
「私のことは心配しなくてよろしいですわ。お構いなく」

やはり、運よく自分の足元に木の棒があった。
以前のサンディと戦った時、ふと思ったの。
うちには前世の能力がそのまま引き継がれているのではないかと。
前世の中学生から高校生までは負けなしの女ヤンキー“ゼロの女王”という若干中二病っぽい異名を持っていた。
喧嘩には自信があったし、力は研究者になってからもジムでトレーニングしてたもんだから、衰えることはなかった。
その力がそのままアメリア(今のうち)に移った。
まぁ、不思議なことに体力がなくても、棒を振り回し相手を倒すことができた。
(実証済み。イノシシを倒すことできたんだぜっ!!)

「さぁ、下がって。私がやっつけてやる」
「アメリア様!!」

海賊たちが私たちを取り囲む。
スヤスヤと寝ていたサンディも起きていた。

「王女様か知らないが、容赦はしないぜ」

うちより約2倍の身長であろう(横幅は負けないけれど)海賊たちは徐々に近づいてくる。
やってやろうじゃないかっ!!
とヤル気満々で構えていると、海賊たちは足を止めた。

「兄さん、嬢ちゃん(コイツ)のオーラヤバいですぜ。親分と同レベじゃないですかい??」
「お前、怖気づいてんのか。なにもできないこんなデブ王女に」

なっ。
面と向かって言われると腹立つな。

「い、いや……」
「あのガキは高値で売れる。ガキたちの血はいろいろ面白いもんが入ってるからな。逃すなよ」

どいつからやっていこうか。
1人で2人を守るのは厳しいから早くしねーと。

「あっ、兄さん。あの犬、ムーンライトでっせ!!」
「なんだとっ!!」
「アイツも高値で売れまっせ。捕らえましょうぜ」
「おおっ!! 今日は大物ばかりだな!!」

海賊たちは少年とサンディの方に狙いを定め始める。
これはまずいな。
てか、なんで王女の方には目を向けないわけ??
デブとはいえ、身代金とか得やすいでしょーに。
バカなの??
バカなの?!
アメリアは徐々に違う方に怒りを感じていた。
そりゃ、元ヤンでぇー研究者でぇー、口調もすごいけどぉー、それがなにぃー?
うちだって女なんだよっ!!
捕まって、王子様に助けてもらう王道ストーリー乗ってみたいわっ!!
そんで、早く魔法の研究したいわっ!!
バカっ!!
あと、オーラがヤバいってなんだよっ!!

「あ゛あぁーーーーーーーやってやるぅっ!!」

前世の感覚を頼りに海賊たちに向かって棒を振り回す。
それもただ振り回すのではなく、海賊たちの急所を狙い確実に倒していく。
王女とは疑い深いほど強い。

「なんだ、コイツっ!! めっちゃ強いやないかっ!!」
「仕方ない。ガキとこの犬を捕まえて逃げるぞっ!! 傷はつけるなよ、価値が落ちるからな」

海賊たちは少年とサンディを捕えようとするが、2人も抵抗をする。
サンディはまだうちと同じくらいの身長であるため、大きい大人たちには勝ちにくく、すぐに口を押えられ捕まってしまった。

「サンディっ!」

サンディの名を叫んだ。
少年はその声に反応し、振り向いた瞬間、首元狙われ、気絶した。

「ガキっ!」

うち、久しぶりにマジでピンチです。







アメリアが苦戦している一方で……。
王城ではあるお客さんが来ていた。
その客は丁度トッカータ国王に謁見をしていた。

「お久しぶりです、トッカータ国王陛下」
「かしこまるんじゃない、フレイ。お前は僕の友人の息子なのだから、僕の息子同然よ。それで、今日はどうしたんだい??」

フレイは意を決した面持ちで言った。

「今日は陛下にお願いがあってきたのです」

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