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本とコンビニおもてなし その2~雨は夜更け過ぎ~に~とくらぁ

 今日もコンビニおもてなしは盛況でした。
 ここ数日、ガタコンベにしては珍しく肌寒かったせいもあってか、おでんが飛ぶように売れました。
 営業時間中に
「タクラ店長様、おでんの追加をお願いしますわ」
 と、2号店のシャルンエッセンスが転移ドアから駆け込んで来たのを皮切りに、
「店長ちゃん、おでんがデラやばいよやばいよ」
 って、4号店の店長補佐のクローコさんが、MPを吸い取られそうな踊りを踊りながら駆け込んで来て
「ご主人様、おでんが物理的になくなったのですが」
 と、3号店のエレが落ちついてるのか慌ててるのかよくわからないテンションでやってきました……まぁ、エレの場合木人形なんで仕方ないっていえば仕方ないんですけどね。

 で、おでんですけど、魔法袋に入れておけばいつまでたっても腐らないし痛まないもんですから、普段からかなりの量を作り置きして魔法袋にストックしておいたんですけど、これがごっそり無くなってしまいました。
 ついでとばかりに肉まん類も在庫全部なくなりました。
 やっぱ季節物って、はまるとすごいです。

 っていいますか、この世界って基本的に温暖なもんですから四季の移ろいが元いた世界ほどすごくないんですよね。
 夏も暑かったといえば暑かったんですけど、気温でいえば30度前後。
 しかも湿度が常に30パーセント前後と不快指数何それ? 状態だったわけです、はい。
 スアに前に聞いたところによると、この世界の冬ってのもそんなに寒くはないって話だったし、雪もこのあたりではほとんど降ったことがないっていってたしなぁ。

 元いた世界でコンビニおもてなしの営業をしていた頃なら、この時期はクリスマスセールからのおせち予約受付を絶賛やってた時期ですけど……
「そう言えばスア、この世界にクリスマスってあるの?」
 僕がそう聞くと、スアは思いっきり目を見開きながら僕に駆け寄って来ました。
「クリスマス……初めて聞いた。何それ?……新しいカガク?」
 と、まぁ、僕の質問はスアの別のスイッチを押しちゃったようです。知的探究心ってやつですね。

 まぁ、よく考えてみれば、それもそうですね。
 クリスマスって言えば、本来であれば僕の元いた世界の神様の誕生日を祝う日みたいなものだったわけですよ。それがいつのまにか家族や恋人達のイベントみたいな感じで世間に広まっていきまして、そこに企業やお店がのっかって……おいおい、こうして考えていくと、なんか商売している側としては便乗しまくってたんだなぁって今更のように思い知らされちゃいましたよ……いや、マジで。

 まぁ、こんなセールもあったんだよって感じで、魔女魔法出版から頼まれているコンビニおもてなしのお話には書き加えておこう。

 そんなことを書いていると、それを見たスアが
「……パルマ聖祭のこと?」
 って言い出しました。
「え? パルマ聖祭?」
「……うん、パルマの建国、を、祝う日、よ」
 そう言うスアなんですけど、日にちを聞くと、まさにクリスマスと同じ12月の25日です、はい。

 あ、この世界の暦は若干僕の世界の物とは違っていて、トゥエの月って言うんですよね、12月のことを。
 で、一ヶ月は30日で、1年が360日って計算になります、はい。
 東から昇ったお日様が西に沈んでますから世界その物が自転とかしてるんだろうと思いますけど、果たしてこの星の仕組みや惑星系ってどんな仕組みになってて……あ、ダメだ。そんなこと考えてたら、どっかの科学者みたいに舌を出したくなってきちゃう……あの天才科学者と違って、僕の場合は、『そんなの考えたってわかるわけないじゃん』的な意味合いですけどね。

 で、話を戻します。
「スア、そのパルマ聖祭ってどんなことをするの?」
「……みんな家で、祈りをささげる、よ」
「それだけ?みんなでご馳走を食べたりしないの?」
「……なんでご馳走を食べる必要がある、の?」
 僕の言葉に、スアはしきりと首をかしげています。
 なるほどなぁ……元の世界で言うところのクリスマスを家族で祝う的な風習はまったくないのか……

 となると……そうだな、店の売り上げは好調なんだし、ダメ元でやってみるのもいいかもしれないな。

 僕はこの日の営業が終わると、
「ヤルメキス、ちょっと新作スイーツの試作をするから付き合ってくれるかい」
 店の後片付けと、明日の仕込みをしていたヤルメキスに声をかけました。
 するとヤルメキスは目を輝かせながら振り返りまして
「は、は、は、はいでごじゃりまする! ぜひともお手伝いさせてほしいでごじゃりまする!」
 そう言いってくれました。
 その様子からして、昨日の休日、パラランサくんとのデートがうまくいったご様子……
「な、な、な、何を言ってるのでごじゃりまするかぁ!? さ、さ、さ、早く試作を始めるでごじゃりまするよぉ」
 ヤルメキスは真っ赤になりながら僕の前でワタワタしています……その様子でまぁまるわかりなんですけどね。

 このヤルメキスにしても、最初は偶然の出会いだったんですよ。 
 ブラコンベで行われた春の花祭りに参加したとき、裏通りで一生懸命つくったカップケーキを売ってたヤルメキス。
 相当モソモソだったけど、独学でここまで作れるってのはむしろすごいのでは……そう思って、いい材料を使わせてあげて、僕が少し手ほどきしてあげたら、ヤルメキスってば案の定すごい能力を発揮したんですよね。
 このヤルメキスのおかげで、コンビニおもてなしのスイーツ部門がすごい充実し続けているわけです。
 うん、このことはしっかりと本に書いておかないとな。

 で、僕はそんなヤルメキスと2人してあれこれ材料を使いながら、ある物を作り上げていきました。
 カップケーキの素材を作る要領でスポンジケーキの台座を作り、焼き上がったそれを生クリームでデコレートしていきます。

 この生クリームやバターといったお菓子作りにかかせない商品ですけど、ララコンベの組合が営業している牛もどきのカウドンを大量に飼育しているカウドン牧場で生産されていまして、それを100パーセントコンビニおもてなしが買い取らせてもらっています。
 まだまだ試験営業中のカウドン牧場なので、1日に出来上がる生クリームやバターの量が少ないからってのが主な理由なんですけどね。
 で、その生成には、当然僕が技術指導……っていうほどすごい事をしたわけでもないんですけど、あれこれ教えてあげたわけです。
 バターを作るのに遠心分離機が必要だったんですけど、それは僕が仕組みを説明したら、スアが魔法でちゃちゃっと作ってくれました。
 ……なんと言いますか、スアえもんなわけですよ。スアってばホントにすごいよな、と感心しきりな僕なんですけど、スアに言わせると
「……私には、この発想がない、の。その発想を出来る方がすごい、よ」
 そう言って笑ってくれました。
 まぁ、発想というよりも、元の世界の知識なわけなんですけどね・

 で、まぁ、このあたりの事も本に書いておこうかな、と思っているうちに、完成しました。

 クリスマスケーキ……というか、パルマ聖祭ケーキ試作品第一号です。

 元の世界でいうところのイチゴっぽい果物、イルチーゴをふんだんに使用し、ケーキの上部は生クリームであれこれデコレートしてあります。
 中は二層になっていて、間にスライスしたイルチーゴを挟み込んでいます。
「こ、こ、こ、これは見た目からして素晴らしいでおじゃりまするねぇ」
 出来上がった試作品を前にして、ヤルメキスは思わず感動の面持ちです。
 興味津々な様子で、僕とヤルメキスの作業を見学していたスアも、その出来上がりに目を丸くしています。

 ショートケーキはすでに作っていましたけど、コンビニおもてなしのショートケーキは、スポンジケーキを四角く焼き上げて、それに生クリームを塗っただけの代物です。
 正直飾りには凝っていません……まぁ、凝って無くても売れちゃうから省略しちゃったんですけどね……あはは。

 で、出来上がったこのホールサイズのパルマ聖祭ケーキの試作品。

「よし、じゃあパラナミオにまずは試食を……」
 と、我が家で最もスイーツ好きな……というか、何でも大好きなパラナミオを呼ぼうと振り返るとですね、厨房の窓の外にベチャっと顔をくっつけて中をみているおばさまの姿が……

 ってか、ヤルメキスのお菓子をいつも大量に買ってくれている、ヤルメキス大好きおばさまこと、オルモーリのおばちゃまです。
 ……捕捉しますと、ヤルメキスの彼氏、パラランサのお婆ちゃんです。
 
「ってか、オルモーリのおばちゃま……な、なんでそんなとこにいらっしゃるんで?」
「いえねぇ、ヤルちゃまの新作スイーツの予感がしたのよねぇ。おばちゃまったら、そしたらいてもたってもいられなくなっちゃってぇ」
 オルモーリのおばちゃまってば、そう言いながら招いてもいないのに厨房の中に入ってくると、
「まぁまぁこれがヤルちゃまの新作スイーツですのね、ではでは一口」
 そう言うと、誰も薦めてもいないのに、ケーキの一角を持参してきていたフォークで突き刺していきまして、それを口に運んでいきました。
 で、オルモーリのおばちゃま、しばらく口を動かしていくと、
「ん、ま~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~いわぁ!」
 とまぁ、どっかの味○様のように目と口から光線でも出しそうな勢いで感動の絶叫をしていきました。
「これはもう甘みの新規事業開拓だとおばちゃま思うのね」
 今度はどっかのグルメレポーターみたいなことを言いながら、オルモーリのおばちゃまってばドンドン試作のケーキを食べながら、嬉しそうに微笑んでいます。

 あぁ、

 なんかこの笑顔されたら、さすがに止めるのもねぇ……パラナミオ用にはあとでもう1個作ることにしようか。
 僕がそう思っていると、オルモーリのおばちゃまは言いました。
「ヤルちゃまとパラちゃまのウェディングケーキ、素晴らしい出来だとおばちゃま感動なのよね」
「ふぁ!?」
 その言葉に、ヤルメキスってば瞬時に真っ赤になって、頭から湯気を噴き出していきました。

 ま、まぁ、それはともかく、試作ケーキの試作品は大成功だったってことですね、はい。

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