第4話 ステータス確認
「エイコまずは剣をしまえ。落ち着け。大丈夫だから」
呆然とする瑛子の肩に手を乗せ宥める。俺自身混乱していたが、こんな見知らぬ森で凶暴な生物が襲ってくる状況で全員がパニックに陥れば更に状態は悪化してしまう。恐怖は心の隅へしまっておくことにする。
「……はいっス」
カチャリと音を立てて瑛子は恐る恐る剣を鞘へと納めた。
「ケガないか?」
「……まったくないっス」
口ではそう言うがまだショック状態のようだ。顔色が悪いしいつもの笑顔を見せてくれない。
俺はエイコの肩を支えながら蹲っている女の子のところへ引き返す。
ちらっと後ろを振り返る。モグラの死骸を見ると傷口から赤黒い血と白く薄く輝く煙のようなものを出していた。こんな現象見たことない。
「あんたも大丈夫か?怪我はないか?」
「は、はい……」
先ほどの女性にも声をかける。まだ呆然として座り込んでいるが見たところ怪我は無さそうだった。
遭遇時は余裕が無かったがよく見ると俺たちと同じ年くらいの女の子で俺たち同様中世欧州風の服を着ていた。
◇
俺たちは先ほどの争乱の場から少し移動して比較的見晴らしの良い岩の上で休憩を取ることにした。モグラの死骸の側じゃ落ち着いて話もできない。
「あの……お二人とも助けていただいてありがとうございます」
モグラに襲われていた女の子が俺たちに向けて深々と頭をさげる。近くでよく見ると美人さんだ。きっちりと分けられた前髪は育ちの良さを感じさせる。まだ内心動揺しているのか顔色は良くない。無理もないことだ。
そして彼女も俺たちのように中世欧州風の装いで黒っぽい布で織られたらしい服に膝まで長い白いスカートとブーツを身につけていた。
「いや……俺はなんもしてねーし。ま、礼ならこいつに言ってくれ」
俺はそう言って瑛子のほうを見る。
「へへ……こういうのはお互いさまっスから」
瑛子ははにかみながら頭をかく。少し落ち着いたかな。
「いえ…お二人がいなければどうなっていたか。本当にありがとうございます」
再び頭を下げるその様子はやはりお嬢様然としていた。
ピチチチ……と鳥が囀る音が聞こえる。なんだか見たことないような鳥が空を飛んでいた。
「……一体どうなってんだろな?まずはお互い自己紹介しねえか?えーと、俺は草薙明信クサナギアキノブ。大崖淵高校2年」
そう、まずは情報交換しないとな。俺たちはもしかすると遭難したのかもしれない。
「私は那月瑛子ナツキエイコっス。同じ学校の高1。センパイのコウハイっス」
センパイのコウハイってなんだよ。
「私は糸井真里イトイマリです。花園高校3年生です」
ああ、花園高校。今朝俺たちサッカー部がボコボコにされた近所の学校かあ。
「糸井さん、でいいかな?」
「はい、構いません。あの、少し状況を整理しませんか?このままではいつまた危険な目に遭うか…」
糸井さんはそう言って先ほどの場所を見つめる。俺たちは黙って頷いた。反対する理由はない。
「私は学校の帰り道、公園裏の林道を歩いてました。すると獣の鳴き声が聞こえたのでーー」
俺たちはこの「妙な場所」に至るまでの経緯をお互いに説明する。ほぼ同じ場所、同じ時間であのクソ猫に追われて穴に落ちたらしいところまで状況は似通っていた。
「やはりあの穴に落ちてこの場所にやって来た、ということは間違いないみたいですね」
そう、そこまでは異論なしだ。問題はーー
「……ここはどこなのでしょう?」
俺も頭の中でいろいろな可能性を考えた。ここはまだあの林の中で俺たちはまだ迷ってるだけ。いや、それはない。俺は大体公園裏の林の中を歩き尽くしてるが、さっきの変なモグラを抜きにしても今座ってる岩も無かったし地形も違いすぎる。
テレビのドッキリ番組⁈タチが悪すぎて刑事事件になるわ。もしそうだとしたら絶対に訴えてやる。
バミューダトライアングルというのがある。ある空域や海域を超えた飛行機やら艦船がふとこの世から消えてしまった、という事件だ。よくわからんがあれに近いケースなんだろう。もうなんだか俺には今の状況に理屈がつけられなかった。
「……少なくとも近所じゃ無さそうだな。神奈川ですらないかもしれん」
「えっマジっスか?」
少し高いこの岩の上から見渡してみて分かったが、この森はちぐはぐな樹木がどこまでも碧々と広がっている。大きなものから小さなものまで。その中には見知ったこともない形をした木も多数あった。
地元の県下をよく知っているわけじゃないが、こんな動植物地元で見たことないだろう。そう説明すると瑛子は納得したようだった。
「じゃあここはどこなんスか……?ウチら帰れるんスか?」
不安そうな顔で瑛子がじっと見つめてくる。そんな目で見んなよ。俺自身不安を堪えるのに一杯一杯なんだよ。
「んーなんとかなんだろ。そのうち救助とか来るんじゃね?」
ことも無げに俺はそう答える。
実際は帰るアテなんてない。バミューダトライアングルとやらで遭難した人たちは誰1人として還ってこなかったらしい……でも虚勢を張るしかなかった。
「そっか〜。うん、そっスね!」
そう言って瑛子は笑顔を見せた。ちょろいな。
しかし、モグラと戦ったときのこいつの強さはなんだったんだ?俺がちっとも歯が立たなかったモグラをたちまち真っ二つにしやがった。
加えてこの格好と武装。着替えた覚えなんかない。俺たちの身に何か常識で測れないようなことが起こっている。
「……草薙さん、那月さん、あの」
糸井さんがおずおずと俺たちに話しかけてきた。
「あのう、先ほど発見したのですが……いえね、なんだかここRPGの世界みたいだなって思って。それなら私たちに何か数値みたいなものが振り分けられてるのかな、と思ったんです」
見ると糸井さんは空中に浮いた何やら窓のようなものを弄っていた。なんだそれ?
「で、ダメ元で『ウインドウを開いてステータス画面を確認したい』と念じてみたんです。そしたら……えーと、じゃあみてください」
そう言うと俺たちにその窓のようなものを見せてくれた。
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NAME:イトイマリ
CLASS:バード
種族:人
属性:風
レベル:5
VIT【生命力】D
STR【力】E
DEF 【耐性】E
AGI【敏捷】D
INT【攻撃魔力】C
RES 【防御魔力】C
装備品
武器:マジカルフルート【笛】
頭:なし
服:布の服
体:絹のシャツ
鎧:なし
腕:マジカルリング
下半身:布のスカート
足:なし
靴:マジカルブーツ
ステータス
HP:35
MP:64
攻撃力:23
物理防御:25
魔力:58
魔法防御:54
素早さ:31
魔法:なし
技:『闘いの序曲プレリュード』『荒人への子守唄』『木霊するソナタ』
スキル:『演奏Lv.3』『危機察知Lv.2』『索敵Lv.2』
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これはなんだろうか?まるでRPGのような数値がそのウインドウの中にはびっしりと書き並べられていた。
「おお〜本当にゲームみたいっスね‼︎」
瑛子が興味深そうに糸井さんの出したゲーム画面みたいなものを覗きこんでいる。
「糸井さん、これどうやって出したの?」
「えーと……見たいと思って念じただけなんです。詳細はよくわかりません……」
糸井さんも伝えるのに苦慮していた。無理もない、こんなのは理ことわりから外れたような出来事だ。まあ、物は試し。
「俺もやってみるわ」
糸井さんが言うように俺も同じものを出そうと念じてみた。するとさほど苦もなく目の前に似たようなウインドウが出てきた。
同様に俺の「ステータス」らしきものを確認してみる。
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NAME:クサナギアキノブ
CLASS:戦士
種族:人
属性:火
レベル:6
VIT【生命力】C
STR【力】C
DEF 【耐性】C
AGI【敏捷】D
INT【攻撃魔力】D
RES 【防御魔力】D
装備品
武器:コモンソード【剣】
頭:なし
服:皮の服
体:普通のシャツ
鎧:鉄のプレートメイル
腕:なし
下半身:皮のズボン
足:コモンレギンス
靴:皮の靴
ステータス
HP:56
MP:21
攻撃力:48
物理防御:38
魔力:22
魔法防御:23
素早さ:22
魔法:なし
技:『かえんぎり』
スキル:『剣術Lv.1』『体術Lv.1』『見切りLv.1』『回避Lv.1』『会心率upLv.2』
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……たしかにRPGみたいだ。あまりやったことないけど。
この数値はいいのか悪いのかわからない。その他の項目もさっぱりだ。
まあいいや。
「軽く念じるだけで出せたぞ。エイコもやってみろよ」
「ふーん。分かったっス」
そう言うと瑛子は目を閉じて何やら唸りだした。そんなに集中しなくていいんだぞ。おっウインドウとやらが開いた。
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NAME:ナツキエイコ
CLASS:勇者
種族:人間
属性:光
レベル:30
VIT【生命力】SS
STR【力】SS
DEF 【耐性】SS
AGI【敏捷】SS
INT【攻撃魔力】SS
RES 【防御魔力】SS
装備品
武器:りゅうせいのつるぎ【剣】
頭:ブレイブティアラ
服:ブレイブジャケット
体:イノセントレオタード
鎧:さいはてのよろい
腕:ミラクルガントレット
下半身:ブレイブスカート
足:マスターレギンス
靴:パーフェクトシューズ
ステータス
HP:251
MP:185
攻撃力:203
物理防御:201
魔力:181
魔法防御:194
素早さ:191
魔法:なし
技:ライトニングスラッシュ
スキル:『剣術Lv.MAX』『体術Lv.MAX』『見切りLv.6』『回避Lv.5』『ガード強化Lv.4』『ガード性能Lv.4』『会心率upLv.3』『感覚強化Lv.4』
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……瑛子強すぎね⁈