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虫にも虫の その2 ~ヤルメキス絶叫

 甲虫人のツンツクさんに頼まれた、
『甲虫人でも美味しく食べられる物』として、昆虫ゼリーの制作に入った僕とヤルメキス。

 ヤルメキスは、まずは粉寒天をひとしきりあれこれ試していき、
「ふむふむ、だいたい理解したでごじゃりまする」
 そういいながら頷きました。

 さて、あとはこの粉寒天に何を混ぜ込むか、なわけです。

「まぁ、普通に考えれば樹液を薄めた物とか、砂糖水、はちみつなんかもいいかもしれないなぁ」

 あ、ちなみにですね、この世界では蜂蜜が普通に手に入ります。
 蜂人族という、体長5cmくらいの方々がいましてですね、花の蜜を集めては生成していて、それを市場に卸売りしています。
 純度によってS級からE級までのランク付けがされていまして、このガタコンベの市場に持ち込まれているのは主にC級と、まぁ及第点といった品でして、僕も店の料理にたまに使用したりしています。


 というわけで、まずはその3つを試作。

 ヤルメキスは、理解するまでがちょっと長いところがあるのですが、一度理解すると2度と間違うことがありません。
 なので、初めて作成する商品の時は、僕がずっとつきそうことにしています。

 そうしないと、自己流にやろうとして失敗して、慌てて転がった挙げ句に泣いて笑って一人喧嘩して……まぁ、どこの平面蛙なんだお前は!? 的になってしまうので。

「このまま、液状にして混ぜればいいでごじゃりまするか?」
「そう、それでいい。すぐ固まるから、手早くね」
「り、り、り、了解したでごじゃりまするぅ」
 まぁ、今回の品は比較的製法が簡単ってのもあって、ヤルメキスもすぐになれていきました。

 砂糖水入り
 蜂蜜水入り
 樹液水入り

 お試しにパラナミオサイダーや、スアビール、タクラ酒なんかも入れてみました……って、これ結構いい味になったな。

 あとは店で入手可能な果物の汁や、焼き肉のタレ、味噌汁のスープなどなど

 もう混ぜ込むことが可能なものは、とりあえず混ぜてしまえ的な状態でやってみました、はい。
 制作終盤は、僕もヤルメキスも妙な添書になってしまって、
「こ、こ、こ、これもいれちゃうでありますぅ」
「いいね、やっちゃおう! やっちゃおう!」
 ってな感じでワイワイやってたもんですから、最後の方に出来上がった品々のいくつかには、内容物がよく思い出せない物が混じっているわけです……い、一応食べられるものだったはずなんですよ? うん。

 さて、
 試作が一通り出来上がったので、これらを冷やしながらツンツクさんが来店するのを待ちました。

 すると、その日の閉店ちょっと前に、例によって硬貨を抱えてパラナミオサイダーを買いに来たツンツクさんを発見。
「え? もう出来たカブ?」
 と、びっくりしているツンツクさんに、早速試食をしてもらおうとしたところ
「うむ、せっかくなのでみんなの意見も聞いてみたいカブ」
 とのことで、一度森に戻って昆虫族のみなさんを呼んできたわけです。

 で、やって来たのは

 甲虫人のツンツクさんとその奥さんのパンパカさん……って、あれ? ツンツクさんの奥さんてトントコさんじゃありませんでしたっけ?
「あぁ、トントコは忙しそうだったので、7人目の嫁を連れて来ましたカブ」

 7人目ですか……そうですか。

 鍬形虫人のナガナガさん
 カナブン人のアカアカさん
 蝶族のムツムツさん

 以上の5人が集まりました。

 店の奥にある応接室の机の上に、試作の昆虫ゼリーを並べ
「さぁ、お試しください」
 僕はみんなに味見をしてもらいました。

「な、何なの? これ……なんかプルプルしてるわねぇ……」
 おっかなびっくりといった感じでゼリーの表面をつんつんしていく蝶族のムツムツさん。
 概ねみんなそんな感じです。
 
 んで、ほどなくして
「どれ、まずはこれを試してみるか」
 と、ツンツクさんが意を決してはちみつ入ゼリーの中にマイスプーンを突っ込んでいきます。
 その様子を、他の4人の虫人さん達が固唾を飲んで見守っています。
 んで、そんな視線の集まる中、ツンツクさんはモグモグすることしばし
「ほう、これはなかなか」
 そう言いながら、本格的に食べ始めました。

 その様子に他の昆虫族の皆さん
「ちょっとぉ、1人で全部食べちゃだめよぉ」
「そうよ、私もいるじゃない!」
 あれこれいいながら、こぞって試作の昆虫ゼリーに突撃し始めました。


 ちなみに、昆虫族のみなさんも、口で食事をするのですが、僕らと同じ物を食べることはないそうです。
 一番のネックはやはり大きさだそうで、米粒1個でも、昆虫族の皆さんのサイズで言えば結構でかくなるわけです。
 そのため、普段から食事は「吸う」か「舐める」のが基本のため、ちょっと固かったりすると、顎がつかれてダメなんだそうです、はい。


 んで、みなさん、思い思いのゼリーを口にしながら
「ほう、この味……胸があついな」
「これもなかなかいけるわねぇ」
「もっと食べてもいいわよね?」
 とまぁ、途中からは皆さん、一心不乱に昆虫ゼリーの試食品を食べまくっておられました。

 その光景に、僕とヤルメキスは、思わずにっこりです。

 程なくして、
 準備した結構な量の昆虫ゼリー試作品をすべて完食したツンツクさんをはじめとする昆虫族の皆さん。

 しばらく自分達だけで輪になってヒソヒソ相談していたのですが
 程なくして、おもむろに僕達の方へ向き直ると
「いや、タクラさん。私達が思っていた以上に素晴らしい物でしたカブ、この昆虫ゼリー」
 ツンツクさんは、そう言いながら満面の笑みです。

 で、個人差もあるものの、出来れば次の品を是非商品化してほしいと言われたのが

・タクラ酒
・梅もどき
・樹液水
・蜂蜜

 以上の4品。
 特にタクラ酒入りは全員一致で「これはいい!」となったそうです。

 タクラ酒入りゼリーを食べ過ぎたのか、カナブン人のアカアカさんあたりは、体中真っ赤にしながら
「わたしは……ひっく……い、一人前のれでぃなんだから……ひっく……こ、これくらいなんともないわぁ……うぃ……」
 と、明らかになんともなくない言葉を発しておられるので、しばらく店で休んでから帰って貰う事になりました。

 とにかく、昆虫族の皆さんに気に入ってもらえて何よりだったわけです、はい。

◇◇
 この結果を受けて、僕とヤルメキスは早速昆虫ゼリーの製品化に着手しました。

 せっかくなので、人相手にも販売することにして、2種類のサイズで作成することに。
 容器は、例によってルアのお店で作成を依頼。

 例の、僕の世界でいうところのアルミっぽい金属……金属なのに薄くて端も鋭利でなくて、しかも土に埋めておけば土中で溶解・同化してしまうという、自然にも優しいあれです、あれ。

 ちなみに、この容器は、コンビニおもてなしの弁当箱としても活躍してくれているのですが、この容器をまとめて土中に埋めておくと、1ヶ月もすると土中で溶解し同化していき1つの大きなアルミもどきの鉱石になるので、回収を徹底すれば鉱石の仕入をしなくてもすむんですよね。
 まぁ、仕入をしたとしても、固い鉱石しか重要視されないこの世界では、このアルミもどきは見向きもされていないため、無料でいくらでも手に入るんですけどね。

 で、このアルミもどきで、昆虫族ゼリーと普通のゼリー用の容器をルアに新たに作ってもらうように依頼。
「しっかしタクラって、ホントおもしろいな。こんなもん、普通思いつかないだろう?」
 ルアはそう言いながら僕が持参したゼリーの容器を見て感心仕切りなのですが


 そのルアが手にしているゼリーの入れ物って、もともと店の在庫で残ってた、ナンマン生活の蒟蒻の森っていうゼリーの容器をとっておいた物なんだよね。

 いやさ
 この世界にやってきてすぐに思ったのが、僕がこの世界に持ち込んだ商品のゴミとかって、めったやたらと捨てたらやばいんじゃ……とかですね、あれこれ思った結果、僕が消費した商品のゴミは全部とってあるわけです……すいません、自分、小心者なもので……

  
「まぁ、これくらいなら、型を作っちまえばすぐに大量生産出来るようになるだろ。
 なんせアルミもどきを加工するんだしな。簡単なもんさ」
 そう言って笑うルア。
 ホント頼りになる姉さんです、はい。

「しかも……美人」
 いつのまにか僕の後方に歩み寄ってたデュラハンのオデン6世さんが、小脇に抱えている顔が、頬を赤く染めながらそう言います。
 すると、ルア、
 その顔をオデン6世さん以上に真っ赤にしながら
「ぶ、ぶぁか! な、何言ってやがんだ、てめぇ! あ、ありえねぇこと行ってんじゃねぇ!」
 といいながら声を荒げてるんだけど、尻尾が嬉しそうにピコピコしてんだよねぇ。

 相変わらず夜はビアガーデンに入り浸っているルアだけど
 最近はイエロやセーテンにしこたま突っ込まれまくっているらしい。

 まぁ、この件に関しては、今後も生暖かく見守ろうと思います。

◇◇

 んで、
 
 ヤルメキスとも相談して、最初に販売する商品のラインナップを決めました。

昆虫人ゼリー
・タクラ酒味(お子様お断り
・樹液味
・はちみつ味

 あと、梅もどきに関しては、他の果物の液を混ぜ込んだ物と一緒にして

・果物味詰め合わせ

 として販売することにしました。

 で、一般用では樹液味以外をラインナップしました。

◇◇

 ゼリー販売開始当日の朝
「う、う、う、売れるでごじゃりましょうか……」
 猿人4人娘達がいなくなった関係で、開店前のお菓子作りが終了したら最近は店の方の手伝いもしているヤルメキスは、心配そうに何度も何度も、新設したばかりのゼリー売り場の前をウロウロしています。

 そんなヤルメキスに、魔王ビナスさん……えぇ、パート店員の魔王ビナスさんです。
 ヤルメキスに向かってにっこり微笑み
「そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。とてもおいしゅうございましたもの」
 そう、ヤルメキスに声をかけてくれています。
 
 ちなみに、もう1人のパート店員であるカタツムリ族のテンテンコウは
「……美味しいけど、僕はもっとこう、石灰みたいなのが好みかも……」
 って、それ、自分の殻を大きくするためなんじゃないのか?

 と、まぁ、若干の突っ込みもあった中、コンビニおもてなし本店、今日も開店しま……
「今日はなんだかヤルちゃまの新作スゥイーツが棚に並んでいる予感がして朝一番でやってまいりましたザマス」
 と、ヤルメキス製のスイーツ大好きおばさまがですね、開店と同時に店に突入してきまして
「ほら! やっぱりですわ! ヤルちゃま、がんばったわねぇ、えらいでちゅねぇ」
 と、まぁ、すごい勢いでヤルメキスを抱きしめて頬ずりしていきます。
「だ、だ、だ、誰か助けてほしいでごじゃりまするぅ」
 と、必死に声をあげるヤルメキスなんですが、

 僕どころか、魔王ビナスさんまでもが近寄ろうとしていません。
「なんといいますかぁ……私達に害はなさそうですし」
 ……ま、まぁ確かにそうなんですが……


 ちなみに、この日、
 このおばさまがヤルメキス製のゼリーを全てお買い上げになりました。
 ただ、このおばさまのありがたいところがですね、このおばさまは、ヤルメキスのお菓子を買い占めると、すぐに仲良しのおばさま達に
「ほらこれ、ヤルちゃまの新作よ、とっても美味しいの、食べて食べて」
 惜しげも無く分けて上げて紹介しまくってくれるんです。

 なので、翌日
「ヤルちゃまのゼリーはどこ!?」
「ヤルちゃまのゼリー買うわよ!」
 と、まぁ、すごい量のおばさま達が来店くださるのは、当然なわけでして……

 んで、今日は10人近いおばちゃまに囲まれているヤルメキス。

 なんか集団の中から右手だけが見えているけど……うん、きっと大丈夫だろう。


 こうして、人間や亜人の皆さんにはとても人気となったゼリーですが、
 肝心な昆虫族の皆さん相手の販売には少し問題が起きてまして……

しおり