猿人4人娘達と、料理人 その2
朝いつものように目覚めると、
右にパラナミオ
左にスアという、タクラ家サンドイッチの具として目覚めたどうも、僕です。
相変わらず朝がテラ弱いスアは僕が起きると、腰に抱きつき
「抱っこ~」
と寝ぼけながらくっつきます。
その体のどこにそんな腕力があるんだという勢いでぶら下がります。
でまぁ、それをどうにかふりほどいたあたりで、パラナミオが目覚めます。
「パパおはようございます!」
どんなに眠たそうでも、毎朝語尾に「!」付の挨拶をしてくれます。
このあと、パラナミオと一緒に川に仕掛けた罠を見に行くのが、我が家の夏の日課です。
んで、今日もウルムナギを3匹ゲットしました。
「パパやりました!」
と、罠をはずそうとして暴れていたウルムナギの一匹を右ストレートで沈黙させたパラナミオがすごく嬉しそうです。
将来、この子の旦那さんになろうと考えている人は、怒らせたら酷い目に遭うので肝に銘じておいてください……まぁ、嫁に出す気はまったくありませんが。
えぇ、嫁に出す気はまったくありませんが。
えぇ、嫁に出す気はまったくありませんが。
とても大事なことなので3回言いましたよ。
川から戻ってくると
「主殿、お疲れでござる~」
と、ちょうどビアガーデンの片付けをしているイエロが手を振ってくれていました。
僕とパラナミオが笑顔で手を振り返していると、すぐその後方にセーテンとルアが顔を出し、一緒になって手をふります。
……おそらく徹夜で飲みながらビアガーデンの世話をしていたはずですが、3人ともこの後、朝ご飯を食べたら軽く一眠りして
イエロとセーテンは狩りに
ルアは本業であるコンビニおもてなしの向かいにある攻工房の作業に行くわけです。
ホントタフといいますか、なんといいますか……
ウルムナギの血抜きなんかは罠のところで終わらせてきているので、そのまま地下の巨大冷蔵室へ保存すると、僕はコンビニおもてなしの厨房へ移動します。
「「「おはようございます」」」
僕が厨房に入ると、すでにパン焼き作業と、弁当作成作業を始めている猿人4人娘と
「お、お、お、おはようでごじゃりまするぅぅぅ」
カップケーキとロールケーキを作成中のヤルメキスが、元気に挨拶してくれます。
う~ん……このいつもの光景から、猿人4人娘が消えるとなると、戦力的にもあれですけど、やっぱ寂しい気持ちの方が大きいわけです。
この後、朝用のパンと弁当、スイーツを作り終えた僕らは、
「おっは~」
と、毎朝微妙にローテンションなハニワ馬ヴィヴィランテスが、今日のスアビール・タクラ酒・パラナミオサイダーをコンビニおもてなし本店に運んで来てくれたタイミングで、2号店・3号店へ、弁当類の運搬もお願いするわけで
「やっぱ、私がいないとこの店はまわりませんわねぇ」
とまぁ、ちょっとむかつく台詞を言うもんだからお尻のあたりにマジックで鳥居マークを書いておいたんだけど、これくらい許されるよね?
で、ヴィヴィランテス~鳥居マーク付が、荷物を運搬してくれている間……っていうか、ヴィヴィランテスって憎まれ口とかよく言うけど、頼まれた仕事はきっちりこなしてくれるんだよね……でも、鳥居は消さないけど。
で、その間に、タクラ家と、コンビニおもてなし社員寮のみんなで集まって朝食です。
先日スアに作ってもらった実の部屋~リビング用~に、皆で集まります。
今までの我が家の朝食は全部僕が作っていたんですが、この実の部屋で食事を取るようになってからは、シャルンエッセンスら、2号店のみんなが「手伝って」くれています。
コンビニおもてなしの固定メニューならだいたいこなせるようになってきた一同ですが、みんなの朝食を、となると、まだうまくいかない事の方が多いため、僕が一緒に作業します。
まぁ、シャルンエッセンスとシルメールら元メイド達の花嫁修業にもなっていいかと思いながら、毎朝教え始めているわけです。
まぁ、パラナミオは嫁に出しませんけどね。
そんなわけで、僕とシャルンエッセンスらで作った朝食を食べてる席上で皆にも、猿人4人娘達が食堂を出す方向で話を進めることになったことを伝えた。
山賊時代の元上司というか、ボスにあたるセーテンなんかは、
「大出世キ、よく頑張ったキ」
って、我が子とのように喜んでいたわけで、なんのかんのいっても、やっぱ情に厚いんだなぁ、って感心してたら、
「アタシが食べに行ったら、安くするキ」
って、お前、台無しだよ!
で、店舗探しに関しては、僕がここガタコンベと、2号店のあるブラコンベの役場に問い合わせをしておくとして、4人が抜けた後を補う人材を雇うべく求人の紙をつくりました。
「年齢成人以上・住み込み可・賄い付き・料理が出来て早朝から勤務出来る方」
だいたい条件はこんな感じで、これに基本的な時給を入れてあとは要相談ってことにした……まぁ、最後の条件「早朝から」ってのが厳しいかなぁ、と思いつつも、とりあえず今日から各店舗にこれをはってもらうようお願いした。
早く候補者が見つかれば、猿人4人娘達から直接引き継ぎをしてもらえるしなぁ、と思っているわけです。
◇◇
いつものように朝の時間は客でごった返します。
ただ、朝の時間って、売れる品物の8割が弁当とパンですし、最近はスア製の魔道レジスターSUA001も導入していますので、かなり楽にこなせるようになっています。
ほどなくして朝の客ラッシュが一段落したので
「じゃ、僕はちょっと役場へいって空き店舗の相談をしてくるよ」
副店長のブリリアンにそう伝え、店を出ようとしたのですが、
そこで、自動ドアが開き、1人の女性が入って来ました。
「まぁまぁ、ここの扉は魔力を使っていないのに一人で開くのですわねぇ」
と、自動ドアに興味津々な様子ですが、ここで「カガク!?」と言いだしてないので、おそらく魔法使いさんではないと思われます。
まぁ、この世界の人達に太陽光発電による電気製品ってのを理解してもらう方が難しいというわけです。
で、この女性
なんか、えらく和装と言いますか、僕が元いた世界で言うところの着物に近い服を着ています。
ただ……この女の人が普通の人ではないのは、魔力を持っていない僕でもしっかりわかります。
何しろこの人、頭に角が生えてんですもん。
ただ、よくわからないのが、この人、頭に角が2つあるんだけど、1つは根元近くでばっさり切り落とされた形跡のままなんだよね……んで、もう1本は立派ににょっきりと……
体が小柄なもんだから、角でかいなぁ、なんて思わずまじまじと見ていると
「あの……こちらの店で調理の出来る者を探しているとお聞きして参ったのですが……」
その女性、そう言いながら僕に向かってニッコリ微笑みます。
あら
も、もうですか?
求人の紙をコンビニおもてなし全店に貼り出したのって今朝なんだし、えらく早いな、と、思わずびっくりしながらも、僕は彼女を店の応接室へとお通しします。
この女性、下駄みたいな物も履いてて、歩きながらカラコロ懐かしい音を響かせているんですよね。
で、応接室に入ったところで
「私、外で働くのは初めてなのですが、一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします」
そう言いながら微笑む女性。
うん、物腰柔らかで、とても感じの良い人です。
あとで料理を実践してもらって、大きな問題が無ければ雇ってもいいかなと、思えています。
……若干、角は気になっていますけど。
「では、すいませんが、この用紙に記入をお願い出来ますか?」
僕は笑顔でそう言いながら履歴書を彼女に手渡します。
これ、この世界の履歴書を、僕の世界の履歴書をベースにして改造したものです。
まぁそんなにめんどくさいことはないんですけどね。
で、この女性、この書類にすらすらと綺麗な文字で記入していき、
「とりあえずこれでよろしいかどうか確認願えますか?」
そう言いながら、僕にその書類を手渡しました。
フンフン……お名前はビナスさん
え~、×1さんですか……大変ですね……あ、でも同居人ありですか、はいはい
お子さんが1人……で、別居ってことは、もう働かれているのかな?
ンで、以前やっていた職業が魔王……と……
……え? 魔王?
若干唖然としてる僕の前で、その女性
「……何か問題ありました?」
そう心配そうに聞いてきます。
……なんていますか
僕の頭の中で魔王と言いますと
「ワシの仲間になったら世界を半分やろう! がっはっは」
とか言ってるいかつくて怖ーいイメージしかないんだけど……この人からはそんな気配全然感じないんだよね。
……っていうかまぁ
魔王でも仕事出来るんならいいか
そう結論した僕は、
「じゃ、ちょっと料理の腕を見せてもらえますか?」
そう言いながら、コンビニおもてなしの厨房へ移動。
レジで忙しくしていたブリリアンが、目で
「早く接客に戻ってくださいよ」
と訴えてきてたんだけど、面接中だから……すまないね。
んで、厨房です。
お菓子作りを継続しているヤルメキスと、
追加用のパンを作っている猿人娘が1人残っていた。
他の猿人娘は皆接客に出払っている。
で、僕は魔石コンロに移動し
「いつもやっている弁当を1つ作って見せますので、あとで同じようにやってみてください」
そう言うと、彼女の目の前でいつもやっている調理を開始。
これを見ている様子とかを判断基準にしようとしているわけですが
ビナスさん、なんか僕の方を見てるのか、猿人娘の方を見てるのか、いまいち判断出来かねる顔の位置でジッとしてたんですよね。
……これでちゃんと見えてるのかな?
と、僕が思っている間に、調理が終了。
僕の横には、コンビニおもてなしの主力商品「タテガミライオン肉の炒め弁当」が鎮座しております。「じゃ、ビナスさん、やってみてくださいますか」
「わかりました、ではお邪魔いたします」
ビナスさんはそう言うと、いわゆるたすき掛けをして着物の袖を上げ、白い割烹着を身につけていきます。
……なんでしょうか、この圧倒的なホーム感
なんか、故郷に帰ってきたぞ!的な気持ちがふわぁっと沸き上がる僕はやっぱり日本生まれだなと、実感したわけです。
で、まぁ、ビナスさん。
やっぱり半身の状態で調理を開始。
「あの、危ないですから……」
思わず僕がそう言ったんだけど、ビナスさんはニッコリ笑って
「大丈夫ですわ。どちらもしっかり見えていますので」
って……え? どっちも?
僕がそう困惑してる中、ビナスさんは見事なまでに僕と同じように調理をこなしていきます。
小柄なのに、僕がルアに頼んで作って貰った特性中華鍋を片手で軽々振り回しながら、あっという間にタテガミライオン肉の炒め弁当を完成させてしまいました。
んで、試食してみると
うん、味も問題無いし、焼き加減もばっちりだ……タレの量も、指示してなかったのに僕が投入した量をちゃんと踏まえている……
まぁ、わかりやすく言えば、
大合格です。
で、試食をしている僕の横で、ビナスさんは、いまだに半身の体勢。
いったい何を見ているのかなと、思っていると、猿人娘がパンをこね終えて、生地を発酵させ始めると
「店長様、あそこまでの作業も覚えました。やってみましょうか?」
って、え?
まさかビナスさん……僕の料理の手順を見ながら、猿人娘のパンの手順まで同時に見てたのかい?
「あの粉の物も「ベントウ」というものではなかったのですか? 見たことがない物でしたのでてっきりそうかと思いまして、私一緒に覚えていたのですが……」
……あぁ、つまりアレですか
僕が弁当を作ってみせるから見ててねって言われたので、
この部屋の中で弁当らしき物を作っている人の手元を全部見てたのね……
ってか、それで、一発で覚えちゃうって……
何、このバイト希望の魔王さん、なんかすごい!?