陰毛金(スーパーなサイヤっぽい女になりますっ!)
深夜の路上に救急車とパトカーが数台止まっている。
数人の野次馬が、寝巻き姿で事の成り行きを見守っている。
警官に連行される男が、異常に大きな声で叫んだ。
やめろ!
やめてくれ!
傘を貸してくれ!
チン毛がずっと降ってるんだ!
男の目は恐怖に脅えて、何も無い空中を泳いでいた。
地面には切り落とされた男性の陰部が血まみれで落ちていた。
ある日、M探偵のマンションに一枚のチラシが入っていた。
「深夜の健康診断」のご案内。
町はずれの寂れた病院で、深夜の1時から健康診断を行い、場合によっては薬を配るとある。
これは怪しい。探偵でなくても怪しいと感じる。
そこで、われらがM探偵こと、奥葉ジン子はさっそく警視庁の敏腕ドS刑事、冴渡にそのチラシを見せた。
「う~ん。これは、引っ掛かるなぁ。実はな、最近、街中で幻覚症状を見た犯罪者が増えてるんだ」
「この、薬ってのが何かひっかかりますね」
「よし、早速、その『深夜の健康診断』とやらに行ってみるか」
夜、サイゼリアで待ち合わせしたジン子と冴渡は、車で町外れの病院まで向かった。
道中、1時間ほどかかるため、冴渡は運転しながらでも出来る羞恥をしてあげようと、家から洗濯ばさみを持ってきた。嫁から何に使うのと、多少怪しまれたが、羞恥への好奇心に勝てなかった。
乳首を出してみろ
え? 今……ですか?
当たり前だ……
おれはジン子の風呂上りのシャンプーの臭いを感じながら、信号待ちの間に剥き出しになったジン子の右の乳首に、家から持ってきた洗濯ばさみをはさんだ。
やん……
なんとも言えないセリフを吐くジン子。
信号が青になり、おれはアクセルを踏んだ。
うっそうとした森の中の道を抜けると、廃墟のような病院が見えた。一説には戦争中に出来た病院だと言われているが、今は閉鎖されている。
正面入り口の前に車を止めた冴渡が、病院の方を見ると深夜にもかかわらず数人の若者が並んでいた。どの若者も、嬉しそうに周りの友達と喋っている。
「よし、行くぞ」
「はい」
ジン子と冴渡は列の最後尾に並んだ。
1時になり、看護婦らしき格好をした黒人の女性が奥から姿を現した。
「ミナサン、コンバンワ。ワタシハ、カンゴフノ、クリスチャン・イノウエデス。コレカラ、インチョウノシンサツ、ハジメルケド、ソノマエニ、ゼンインニ、コレ、ノンデモラウネ」
クリスチャンと名乗ったその黒人女性は、瓶に入った錠剤を見せた。
「全員に飲ます? どういうことだ?」
「危険ですね……」
「ああ、M探偵、絶対飲むなよ。持って帰って鑑定してもらう」
「わかりました」
クリスチャンが、一人一粒づつ配っている。
配られた若者は、嬉しそうに飲み込んでいる。
冴渡の番になった。
「オマエ、ハジメテ?」
「ああ」
「キックゾー。コノクスリ」
オレンジの錠剤をもらう冴渡。
ジン子の前にも来る。
「オマエモハジメテダナ」
「はい」
「スグニノムンダ」
ジン子は貰った錠剤を、すぐに口に入れて飲み込んだ。
驚く冴渡。
「バカかお前!」
クリスチャンが振り返って、
「ハ?」
「……いや、なんでもない」
冴渡は声をひそめて、
「どうして飲んだんだ?」
「命令されるとつい……すいません」
ドクンッ!!
ジン子の瞳孔が開いた。
「何……これは……」
「どうした? 何か見えるのか?」
「私の中で何かが……」
「なんなんだ。この薬は……」
オレンジの錠剤を見つめる冴渡。
すぐに、「冴渡さん」と呼ぶ声が聞こえてくる。
冴渡とジン子は、一緒に診察室に入った。
院長と察する男は、デスクチェアに座ったまま振り返ると、
「どうぞそこに座って。院長のヤンです」
肌黒く四角い顔のその男は、やけにニヤニヤしていて気持ちが悪い。
「薬は飲みましたか?」
「はい……」二人とも、答えると、
「では、服を全部脱いで下さい」
「全部ですか?」
冴渡が聞くと、
「もちろんです」
冴渡が、ふとジン子を見るとジン子はすでに全裸になっている。
道中でつけた洗濯ばさみはまだジン子の右乳首に揺れている。
「ほぉ。これは素晴らしい」
ヤンと名乗る男は、ジン子の裸を見て興奮し始めているようだった。
冴渡がカッターシャツを脱ぐと、胸に大きく「警視庁捜査一課」とプリントされたTシャツが現れる。
「君は、何か、警察の人?」
「いや。違います」
「そんな……Tシャツ……おかしいじゃないか」
ヤンが狼狽えると、黒人の看護婦クリスチャンが突然、出てきて冴渡を羽交い絞めにする!
「アウトネ。アナタ」
「やめろ!」
抵抗する冴渡だったが、クリスチャンの力は相当で身動きが取れない。
ジン子はまるで何かにとりつかれたようにぼーっつとしている。
「ハハハ! 刑事がのこのこと何の用だ!?」
ヤンは勝ち誇ったように、冴渡の髪の毛を掴んで顔を上げさせる。
その時、冴渡の手からオレンジの錠剤が転がる。
「お前、飲んでないな……」
「この薬は何だ!」
「ハ! 冥途の土産に教えてやろう。これは、強烈に幻覚症状を出して、誰かを殺したくなる欲望を増幅させる薬だ。いや、まだ、実験段階といえるがな……数人の被験者は実際に事件を起こしているようだよ」
「なにぃ……!」
「さて、話は終わりだ。お前が知ってももう遅い。このクリスチャンが生かしておかないだろう」
と、ジン子は突然立ち上がり、乳首に挟んだ洗濯ばさみを自分でさらに力強くつまみ出す。
「なんだこのM女!」
わたしの、すべての力が……
ここに集まる……
ジン子がブツブツと一人で話している。
「クリスチャン、こいつも……」
ヤンがそう言いかけて、言葉を失った。
ジン子の陰毛が、金色に輝きだし、同時に逆立っていく。
「オラ……もっと陵辱されてぇ」
「何?」
「オラ?」
冴渡は、ジン子の隠されたパワーが出てきたと確信していた。
「スーパーサイヤ人だ……。いや、スーパーサイヤジン子だ!」
「うぉぉぉぉぉ!」
物凄い形相のジン子だが、金色に輝いているのは陰毛だけだ。
ヤンがデスクの引き出しから拳銃を取り出す。
「し、死ね!」
拳銃を撃とうとするヤンを、秒速でぶっ飛ばすジン子。
「遅い……」
「ち……」
クリスチャンが冴渡を離して逃げようとした、その時だった。
ジン子はすでに、クリスチャンの背後に回っていた。
「あなたがボスだな。全部見える」
「ワ、ワタシハ……」
「丸見えにして見せる」
ジン子の陰毛がさらに輝く。まるで、この世の元気が全てそこに集まっていくかのようだ。
すると、クリスチャンが苦しみだした。
顔を両手で覆って、
「ホット! ホット! ベリホッッッツ!」
クリスチャンの顔の皮膚がみるみる溶けて行く。
そこには、普通の黒人男性が、看護婦の格好をして立っている。
「なぜ分かった……わたしは、黒人21センチ……世界をまたにかける犯罪者だ」
冴渡が動揺する。
「何! あの国際指名手配されている黒人21センチだと言うのか!」
「マタ、ドコカデアイマショウ!」
「待て!」
黒人21センチは、病室の大きな窓からジャンプする。
満月の夜の中、黒人21センチは、コナンに出てくる怪盗キッドのように、パラグライダーを広げてコウモリのように夜空を飛び立っていく。
「サラバダ!」
しかし、その横を普通に飛ぶスーパーサイヤジン子がいた。