【web版】異世界酒場のおっさんと美女　～元傭兵のおっさんが若い奥さんと一緒に酒場を切り盛りするお話

　チンピラ達を店の裏に放り投げ終わったリグドは、改めてカララへ向き直った。
「っつうわけで、だ。約束どおりチンピラ共は退治したんで……酒場で雇ってもらえますかね？」
　ニカッと笑うリグド。

　しかし、そんなリグドの前で、カララは困惑した表情をうかべた。
「……あの……そうさせて頂きたいのは山々なのですけど……商店街組合でもお話いたしましたように。私、ほとんどお金をもっておりません……ですので、お2人をお雇いしようにも、その……」
「あぁ、それなら心配いりませんぜ」
「え？」
「俺とクレアの給料はいらねぇ。
　その代わり、酒場は俺たちの好きなように営業させてもらいたい。
　で、酒場の売り上げから、仕入れにかかった金を引いて残った金の半分を俺たちが、残りの半分をカララさんが受け取るってことでどうでしょう？」
「そ、そんな……酒場の経営をお任せして、その上で半分もいただくなんて……」
「じゃあ、そうだな……2階の空き部屋をどこか貸してもらって、住み込みにさせてもらってもいいっすか？　その部屋代と、あとはカララさんの体調のいい日には店を手伝ってもらうことにして、その給料も込み込みってことで……どうです？」
「あ……は、はい、それでしたら……あの、私、一生懸命働きますので」
　そう言うと、カララは深々と頭を下げた。
　そんなカララに対し、リグドは思わず声をあげて笑った。
「おいおいカララさん。雇ってもらったのは俺たちの方だぜ？　その挨拶はちとおかしくないか？」
「あ、そ、そうですね……」
　リグドに釣られて、カララも思わず笑顔になっていく。
「じゃ、改めてよろしくなカララさん」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします、リグドさん」
　2人は言葉を交わし合うと、握手を交わしていった。

◇◇

　半日後……

「さて、こんなもんか」
　店の看板を見上げながら、リグドは満足そうに笑みを浮かべていた。

　正式にこの酒場で働くことになったリグドとクレアは酒場の大掃除を行っていた。
　カララは、今までの心労が出たらしく、めまいを起こしてしまったため2階の自室で横になっている。

　酒場の中には空になった酒瓶や食い散らかされた食べカスなどが散乱していたものの、建物が破損している箇所は少なかった。
　そのため、2人がゴミを一掃し、雑巾掛けを行っただけで店は十分に営業再開出来そうな状態になっていた。

「店の方はこれでどうにかなりそうだが……」
　
　リグドは視線を店内のテーブルの方へ向けた。
　客用のテーブルや椅子は、チンピラ達が相当ぞんざいに扱っていたとみえ、どれも痛みがひどかった。

「……ふぅむ、こっちはちと修理が必要のようだな」
　腕組みしているリグド。

「自分、やりましょうか？」
　その後方にクレアが歩み寄った。
　
　ランニングに、運動用のスェットズボンを着用しているクレア。

　そちらへ視線を向けたリグドは、思わず目を丸くしてしまった。

　傭兵団にいた頃、常に軽鎧を身につけていたクレア。
　そのため、上半身がランニングだけという超軽装のクレアの姿をリグドははじめてみたのだが……

　……こ、こいつ、この格好したらすっげぇ胸が目立つんだな……

　そう
　リグドは、クレアの胸元に思わず視線を奪われていたのである。

「どうしたんすか？」
　そんなリグドの眼前にクレアが歩み寄る。

　一歩ごとにクレアの胸が揺れていく。

「あ、あぁ……なんでもねぇ、と、とりあえず家具の修理は俺がしとくから、お前は少し休んどけ」
　クレアの胸元からやっとの思いで視線をはずしたリグドは、その場にしゃがみ込んでテーブルの修理をはじめた。

　ぽよん

「……んあ！？」
　そんなリグドの後頭部に、何やらやわらかい感触が伝わってきた。

「自分も手伝うっすよ」
　そう言いながら、リグドに向かって前傾姿勢のクレア。

　前屈みになったことで、その豊満な胸がリグドの後頭部に押し当てられていたのである。

　……こいつ、わざとやってるんじゃ


　リグドは、頬を少し赤くしながらクレアを見上げた。

　しかし

　視線の先のクレアは、真剣なことこの上ない様子でリグドの手元を見つめている。

　……そうだよな……こいつがそこまで計算して動けるはずがねぇか　

　そう思い直したリグドは、オールオーバーのズボンのポケットに突っ込んでいたカナヅチを取り出し、それでテーブルを修理していく。

「……さすがリグドさん、手際いいっす」
　その作業光景を、真剣に見つめ続けているクレア。
　相変わらず、その胸はリグドの後頭部にあたったままだった。

　しばらく、その状態のまま作業が続いていった。
　室内に、リグドのカナヅチの音だけが響いていく。

　すると

「……駄目だ」
「え？」
「もう、我慢出来ねぇ」
　すっくと立ち上がるリグド。
「どうしたんすか？　リグドさん」
　怪訝そうな表情を浮かべるクレア。
「わりぃ……ちょっと付き合ってくれ」
「はい？　いいっすよ」
　リグドは、首をかしげているクレアの手を引くと、2階へと上がっていった。

　2階も、すでに片付けと拭き掃除は終わっている。

　その1室。
　カララと話し合い、2人が自室として使うことになっている部屋の中へと入っていった。

◇◇

　リグドとクレアの部屋の前に、カララがやってきた。

　2人が自室に戻った気配を察したカララは、2人に一休みしてもらおうと紅茶を入れて来たのであった。

　……だが

　カララは、2人の部屋をノックしようとしたところで固まっていた。

　そんなカララの視線の先。
　扉の向こうからは……クレアのあられもない声が聞こえていた。

　同じ階にカララがいるため、その声を抑えようしている様子のクレア。
　しかし、リグドが激しく動く度に、その口から嬌声が漏れている様子だった。

　そう……
　先ほど、クレアのタンクトップ姿に思わず興奮し、さらに後頭部に押し当てられた胸によって触発されてしまったリグドは、まだ日が高いにもかかわらず、クレアを部屋に連れ込んで抱いてたのであった。

　……駄目……こ、こんなところで盗み聞きなんてしちゃあ

　一度はその場から立ち去ろうとしたカララ。

　……で、でも……わぁ……す、すごい……

　いつしか、漏れ聞こえてくる声に聞き入ってしまい、その場からまったく動けなくなっていたのであった。

◇◇

　リグドとクレアが部屋から出て来たのは、1時間ほど経ってからだった。

　すでにカララは部屋の前から立ち去っていた。
　自室に戻り、横になっていたのだが……2人の声を思い出しながら、悶々とし続けていた。

　リグドとクレアは、改めて一階におりると、テーブルの修理を再開した。
「……あの、リグドさん」
「どうしたクレア？」
「自分なんかに欲情してくださってありがとうございました。自分、すっごく嬉しかったっす」
「……あらたまって言うなって……こっ恥ずかしいじゃねぇか」
「うっす」
　そんな会話を交わしながら、

　リグドを真っすぐ見つめながら作業を行っているクレア。
　その瞳はハート型になっていた。

　だが、照れくさいらしく、そっぽを向いて作業を行っているリグドは、そのことに気付いていなかった。