プロローグ
片翼のキメラ傭兵団。
騎士グランドが設立したこの傭兵団は、この世界最強の傭兵団として知らない者はいない存在だった。
どんなに困難な依頼でも達成率は常に100%を誇り、彼らを名指しした仕事の依頼が後を絶たなかった。
そんな日々が21年続いたある日……グランドが死んだ。
それはあっけない幕切れだった。
いつものように依頼された仕事をこなすために山岳地帯の奥地へ向かっていたグランド率いる傭兵団の一行。
その道が崩落したのである。
多くの人々に愛されていたグランドの葬儀は盛大に行われた。
それだけ、彼が残した功績は多大なものだったといえた。
グランド亡き後の傭兵団を引き継いだのはベラント。
グランドの実の息子である。
偉大なグランドの、その長男として将来を期待されていたベラント。
だが……
グランドの後を継いだベラントは焦っていた。
一日でも早く父を追い越し、史上最強の傭兵の名を我がものとし、片翼のキメラ傭兵団の後継者としてふさわしいことを世間に証明しようと躍起になっていた。
そのため、無謀な依頼を次々と受諾し休む間もなく傭兵団を酷使していった。
そんなベラントに、口を挟んだのがリグドだった。
人熊(ワーベア)族の重騎士である彼は、グランドの片腕として彼の脇を固める存在だった。
あの崩落事故の際もグランドに同行しており、左腕に大怪我を負っていた。
それでも片翼のキメラ傭兵団のために、彼は常に最前線で皆を守り続けていた。
だからこそ、リグドは言った。
「なぁ、ベラント。焦る気持ちはわかるんだが……もう少し気楽に行こうぜ」
ベラントをおもいやっての
疲弊仕切っている傭兵団のメンバーを思いやっての一言
だが、これを受けたベラントの返答は
「爺さんにはきついみたいだね。いいよ、辞めてくれて」
その一言だった。
それでも、
「おいおい大将、何馬鹿なことを言ってんだよ」
そう言っては若いベラントをたてようとしていたリグド。
だが
次の日、傭兵団の本拠地であるギルドへ出向いた彼が見たものは、仕事に出かけて誰もいない建物だった。
この日、仕事に向かうことをリグドは知らされていなかった。
「……大将に見限られちまったってことか……はは、ざまぁねぇな」
落胆したリグドは、この日、定宿にしていた場末の宿から姿を消した。
そして……その日以降、リグドの姿を街で見かけた者は誰もいなかった。