パルマの夏、ガタコンベの夏祭り その5
夏祭りの人手を舐めていたわけではない。
実際、役場のエレエからも
「夏祭りは、三大祭りの中でも一番の人手ですので」
と聞いていたので、しっかり覚悟はしておいた。
それでも
僕の目の前の状況は、想像を遙かに超えていたわけで……
コンビニおもてなしの出店では
店の売れ筋商品である、弁当とパン、それにスアビールを中心に
各種の調味料の実や、出来たてのタクラ酒にパラナミオサイダー
冷却魔石や、スアの薬、に加えて一応、廉価版の魔法冷蔵庫なんかも並べ
結構な品揃えになっている、
そんな中
この日も暑くなっていることもあって、まずはスアビールとパラナミオサイダーが爆発的に売れている。
特にパラナミオサイダーは
「何!? このジュース、すっごくシュワシュワしてる!?」
「すっごく冷たいわぁ」
と、すさまじい人だかりが出来、
あっという間に今日用にと準備していた分は完売してしまった。
この世界には、炭酸飲料というものが存在しなかった。
あわせて、飲み物を冷やして飲むという習慣もあまりなかったらしい。
ルアに聞いたところだと
「酒は常温が当たり前だし、ジュースにしたって、果物を搾っただけってのしかなかったからな
絞りたてを飲む以外、まぁ他にすることは無かったなぁ」
とのことだった。
それもあってか
このキンキンに冷えた状態で提供していたパラナミオサイダーは、大好評になったようであった。
なんとか補充したいんだけど……さて、どうしたもんか……そう思っている僕の脳内に、不意にスアの言葉が割り込んできて、
「今、バルンカッスにお願いして、大至急パラナミオサイダーの増産をするようお願いした、よ」
とのこと
思念波であれこれ連絡をとってくれたのだろう。
ホントに、役に立つ奥さんです、スアってば
どっかの上級魔法使い共に爪の垢でも……いや、それすらもったいないか、奴らには……
んで
スアの思念波での連絡を受けたらしい、ハニワ馬と言っても全く怒らなくなったヴィヴィランテスが、その背に大量のパラナミオサイダーを乗せて本店から歩いてきてくれた。
ヴィヴィランテスの場合
茶色いハニワの外見をしているため
「な、なんだあの馬は!?」
「い、生きてんのか? 死霊系かなにかか!?」
と、まぁ、
大人には、皆、怖がられてたというか、不気味がられてたんだけど
これが、女性や子供相手になりますと
「キャ~かわいい!」
「すっごくキュ~ト!」
になってしまうらしく、出店で荷下ろししていると、あっという間に女性子供に囲まれていたわけです。
すると、ヴィヴィランテス、
「ごめんなさいねぇ、お仕事中なんですよぉ」
と、割と大人な対応に終始していたんですが、
「……どうせなら、マッチョでイカしたお兄様方に囲まれたいのよねぇ」
と、ぼそり……
さすがはオネエ馬です、はい。
んで、
このパラナミオサイダーに負けず劣らず売れているのが、スアビールです。
これに関してはすでに、ちょっと前からコンビニおもてなし全店で取り扱いしてますし、
このスアビールをメインとしたビアガーデンも行っていますので、すでに知る人ぞ知る逸品になっています。
そのため、出店では、『1人5本まで』との本数制限を設けているんですが
「娘を合わせて、ここに3人、あと、リバティに戻ったらあと21人いるでありますから……」
と、ちょっと無茶を言うお客様もいたりして、対応に苦慮しながらも、どうにか、スアビールも問題無く売れています、はい。
この、パラナミオサイダーとスアビールの好調な売れ行きに呼応して売れているのが、
冷蔵魔石です。
パラナミオサイダーやスアビールを冷やすのに
「これを使うと便利ですよ」
とお勧めしてたところ、
「この店で、何でも冷たくしちゃう魔石を売ってる」
的に、周囲に噂が広まっていったんですけど
ま、まぁ間違いじゃないし……
なんて思ってましたら、この魔石にも長蛇の列が出来たわけです、はい。
この魔石に関しては、
スアビールやパラナミオサイダーを買って帰るお客さんが一緒に、ってのに加えて、
各地で飲食店を経営している経営者の皆さんも、結構な数を買って行かれてまして
「この時期は、生鮮食品がすぐ傷むから、これは重宝するよ」
と
さっそく定期購入したいと打診してくる店長さんも、少なくありません。
さすがに出店の出店中に、そのことで相談するだけの時間的余裕はないので、
「定期購入に関しては閉店後に改めてさせてもらえたら……」
と、いうことにさせて貰った。
この盛況ぶりに加え
常に盛況に売れている弁当やパン類も、普通に大量に売れていて、まだ昼間で1時間近くある時点で、ほぼ売り切れてしまいました。
ここで僕は
実演販売用に、と、準備しておいたウルムナギを店頭で蒲焼きにしていきました。
バーベキューセットの上で焼かれていくウルムナギ。
当初は
「なんだウルムナギか……」
「あのウルムナギなんでしょ?」
と、まぁ、魚の名前を聞いただけで、皆引いてたんですけど
途端に、周囲に漂っていく、蒲焼きにされていくウルムナギの、香ばしい匂いを前に
それまで、この肉を「ウルムナギだから」という理由だけで遠巻きにしていた人々が、おずおずと集まってきます。
そこで僕は、
ウルムナギの実を細かく切って、爪楊枝をさした物がのっかってる試食皿をパラナミオに託し
「パラナミオ、皆さんにこれを食べて貰ってね」
そう伝えたところ
「わかりました! 1切れいくらで売ればいいですか?」
と、パラナミオ……
そういえば、この世界では、『試食』ってのがあまり一般的でないんだよな……
僕はパラナミオに
「無料でいいけど、1人の人には1つで配ってね」
そう言うと、
パラナミオは、気合い満々の表情で
「わかりました!」
そう言い、皿を持って出店前に出て行きます、
「試食です。いかがですか!?」
と、
ウルムナギの蒲焼きの匂いにつられてやってきてたお客さん達、
このパラナミオの試食にわらわらと群がっていき
パラナミオから手渡されたそれをぱくりと口に……
で
「何? これ!? すごく美味しい!?」
「これがあのウルムナギなのか!?」
と、一斉にびっくり仰天な声があがっていきます。
そんな皆の声に、パラナミオは
「パパの自信作です」
って、嬉しそうに言ってくれてます。
なんか、もう、
後でめちゃくちゃ抱きしめちゃうからね!
てなわけで
この蒲焼きを、ご飯の上にのせて、タレをかけ、出来たてを販売していったところ
「おい、こっちにくれ!」
「ちょっと、こっちも待ってるのよ!?」
とまぁ、出来上がった端から売れていったわけです、はい。
結局、この初日は
パラナミオサイダーや、スアビール
これに、冷蔵魔石
弁当やパンといった食べ物類は、午前中にほぼすべてが売り切れる事態に……
その後も、
追加した端から端から売れていくのと
その追加を待つ人々とで、
初日のコンビニおもてなしの出店前は、夏祭りの初日終了まで人の列が途切れることがありませんでした。
この後、本店の方では、通常通り、店の裏の河原でビアガーデンが通常営業していたのですが
ここに、夏祭りのお客さん達が軒並み殺到してきまして
「こ、これはいつもの倍どころの騒ぎではありませんな!?」
との、酔っ払い娘48達の神3の1人、イエロもびっくりな状態です。
いつもは、猿人の調理人だけで、肉を焼いて販売しているこのビアガーデンなんですけど
急遽僕もここの調理に加わった次第です。
で
このビアガーデンですけど、
気がつけば、ここで宴会をやった際によくある、朝まで飲んだくれるパターンにドンドンはまっていってるもんだから、ある程度のところで、猿人の女の子達には
「後は、僕がやるから、今日はしまっていいよ」
と、告げたんだけど
「店長さんだけに任せるのは申し訳ないキ」
と、猿人の女の子達
そんな皆に、僕は
「その分、明日しっかり頼むよ」
と告げ、どうにか納得してもらった次第です。
で
予想通りと言いますか
このビアガーデンは、いつしか、いつもの宴会モードへと移行していき、
夏祭りのお客さんまで巻き込んで、いつまでもワイワイ賑やかに続いていきます。
僕ですが
不思議と夜半を過ぎてもそんなに疲れを感じていません。
なんか、妙に元気だな、と
不思議に思っていたら
よく見ると、
いつのまにか僕の後方に、スアが隠れている木箱がやってきていました。
おそらく
あの中から僕に回復魔法とか、疲労回復魔法をかけてくれてるようで
箱が、なんかパァって光る度に、僕は、疲れが取れていくのを感じます。
スアにしても
こんな時間まで起きているのは
僕とのアレがついつい盛り上がっちゃって第4ラウげふんげふん……
とにかく
木箱に歩み寄った僕は
「スア、ありがとう」
って告げた。
すると、木箱の上がぱかっとあいて、中からスアが顔を出したかと思うと
「……お疲れ様、だよ」
そう言いながら、スアは僕の顔を抱きしめて優しくキスしてくれたわけです。
一瞬、別な元気が沸いてきてしまったんですけど。
このおかげで、しっかり朝まで、ビアガーデンの世話も終えることが出来ました。
……っていうか、結局徹夜で、そのまま2日目の弁当作りに突入する羽目になったんですけどね
さぁ、というわけで
本日、夏祭り2日目にして、最終日です。