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パルマの夏、ガタコンベの‎夏祭り その4

 いよいよガタコンベでの夏祭りが始まった。
 今日明日は学校も休みのため、パラナミオも朝から元気満々です。
 僕が夜明け前から販売用の弁当の作成を行っていると
「パパ! 今日は大漁です」
 と、ウルムナギを3匹ドタドタと運び込んできました。
「罠にかかっていました! パパすごいです」
 って、もう興奮しっぱなし状態だったのですが、

 このパラナミオが言う罠って
 僕が元いた世界で、夏、川によく仕掛けてたヤツを模したヤツなんです
 木の杭に荒縄をくくりつけ、その先に釣り針をつける。
 その釣り針に餌をつけておいて、僕の世界でいえば鰻がいそうな場所に設置しておくと、翌朝、良くて鰻、外れでも鯰かギギあたりがよくかかっていたんです。

 で
 昨夜

「パパはな、これでウルムナギをとってたんだぞ」
 と、
 スアとパラナミオと一緒に、川に罠を仕掛けてきたわけです。

 そいて、3箇所中3箇所にウルムナギ。

 なんといいますか、父親の面目躍如と言いますか
 内心ちょっとドキドキな部分もあったので、かかってくれていて何よりだったわけです。

 さて、
 ウルムナギに関してはちょっと考えがあるので、とりあえず1匹だけさばき、残りの2匹は血抜きだけして巨木の家の地下冷蔵倉庫へ。
 
 しかし、
 元の世界にいた頃に、店を継ぐなら、弁当店で作らなきゃならないんだしってことで、調理師専門学校に通っててホント良かったと思う。
 おかげで、パラナミオが取ってくるウルムナギや、たまに酔っ払い娘48達の神3の1人、猫人のルアが「うにゃ!」っと、仕留めてくる川魚なんかを難なく捌けてますんでね。

*酔っ払いの川遊びは厳禁です。みんなは真似しちゃダメだぞ!

 んで
 店売りと、3号店で販売する用の弁当やパンの準備が出来たところで、
 順次、それを区分けしていきます。

 3号店からは、転移ドアから店長のエレがすでに受け取りに来てくれているので、出来た端から渡していき、店売り分は、先に調理作業が終わっている猫人達にピストン輸送してもらいます。
 んで、中央広場へは、水晶一角獣(クリスタルユニコーン)族のヴィヴィランテス……って、な、なんで正しい名前で呼んでやったのに、嫌そうな目で見られなきゃなんないんだよ!?
「この姿の折は、ハニワ馬と呼んで欲しいものよぉ」
 って、ブツブツいうヴィヴィランテスなんですけど
 まぁ、どうこういいながらも、本店から中央広場の屋台までの輸送を受け持ってくれています。

 でもまぁ
 考えようではあります。
 ヴィヴィランテスが本来の姿である、水晶一角獣(クリスタルユニコーン)族の姿で闊歩してたら、その角目当てで、何かしらよからぬことを企む輩が出てこないとも限らないわけです。

 ……実際、それが原因で乱獲され、ほぼ絶滅しているわけですから、ヴィヴィランテスの種族は

 ひょっとしたら、ヴィヴィランテスが
 スアにハニワ馬姿に変えられて以、元の姿に戻ろうとしないのって、それを見越して……

「いえ? 純粋にこの姿が気に入っただけですわよ?」
……やっぱ、その姿を気に入ってたのかよ、この野郎!

 まったく、とんだオネエ馬だよ、ホント。


 いつもならこの後、店のみんなも一緒に朝ご飯を食べてから開店なんだけど
 今日は、夏祭りの初日のため、本店は即開店します。

 と、いうのも
 商店街も、この祭りの期間は通常より店を早く開ける上に、
 出店も出してる店が多いため、家の事をしている暇が、皆ないわけです。
 そのため、朝ご飯から、コンビニおもてなしの弁当類で済ませようってお客様が殺到してたんですよね。

「悪いけど、今日はお店の物ですませてね」
 って、スア達みんなに告げたところ、

 スアは
「……私はこれで」 
 と、店頭で販売している具だくさん豚汁を1杯。

 これ、
 寸胴一杯作って置いておいて
 セルフサービスで、備え付けの使い捨て容器に入れて貰ってるんですけど、
 暑くなった今も、よく売れています。
 夏でも熱いスープ類を普通に食べる習慣があるこの世界ならではだよなぁ、と思うわけです、はい。

 パラナミオは
「パパ、これいいですか?」
 と、自分が取ってきたウルムナギの蒲焼き弁当を。

 これ、
 先日から売り出してまして、
 最初は
「げ? あ、あのウルムナギかい?・・・」
 ってな具合で、皆、食わず嫌い状態だったんですけど。
 まぁ、この世界でのウルムナギの調理方法ってのがぶつ切りにして煮込んで食べるしかなかったって言うんですから、そりゃあねぇ……
 ただ
 たまに店頭での、実演販売~バーベキューセットを持ち出して、その網の上でタレをつけて焼いていくってのを、試食込みでやってたところ、徐々にコレが浸透してまして、今では人気商品になっているわけです、はい。

 ちなみに
 パラナミオには、骨を素揚げしたうなぎボーンもおまけでつけてあげました。

 昔、川で鰻を捕って帰ったら、婆ちゃんがよくこれをやってくれてたんですよね。

 で、
 パラナミオ
「パパ、これ、ぱりぱりしてて美味しいです!」
 と、渡された橋から食べてたんですけど、
 その食べる様があまりにも可愛く、あまりにも美味しそうだったためか
「お、おいタクラさん、そのパラナミオちゃんが食べてるの、俺にも売ってくれよ」
「私もほしいわ!」
 と、なんか、皆からワイのワイのと注文が入り出した始末ですて。

 んで
 注目の的になってしまったパラナミオは
 自分の分を狙われてると思ったらしく、弁当片手にすっごい勢いで店の奥、スアのいるリビングに向かって走って行きました。

 ブリリアンをはじめとした、店の皆には、好きな弁当を食べてもらい
 食事が済んだ者から店に出てもらいます。

 んで、猿人4人全員が店に出たところで、僕は
「んじゃ、今日は出店の方に行ってるから」
 と、本店を後にしました。

 あ、この際に
「お、お、お、おまたせしたでごじゃりまするぅ」
 と、ヤルメキスがドタバタしながらも焼き上げに成功した新商品、「ろおるけえき」を出店に持って行こうと……

「まぁ!? ヤルちゃまの新商品!? 買うわ! 全部買わせてぇ!!」
 と、
 最近、ヤルメキスの追っかけと化している、ご近所の喫茶店のママさんに即座に全品お買い上げされてしまいましたとさ。

 でも
 目の前で買ってもらえたのと
 目の前で一口食べたママさんが
「ヤルちゃま! これさいっこう!」
 って、満面の笑顔をくれたことが、ヤルメキスもすっごく嬉しかったみたいです。

 ……でもまぁ、号泣はほどほどにして、店の手伝いに復帰してくれると嬉しいなぁ

 そんなこんなで店を出た僕は中央広場へ向かって駆け出しました。

 街道は、まだ朝早いと言うのに、すでに結構な人が往来しています。
 まだ正式には夏祭りは始まっていませんが
 すでに昨夜のウチに、ガタコンベ入りしている人が多く、そういった皆さんが、早くからウロウロしているわけです、はい。

「ほらグーグス、急ぐであります! 昨日買い損ねたスアビールを買いに行くんであります」
「ちょっと待てって、リルポップ、まだグーポップが寝てんだから」
 なんか、眠っている女の子を背負ったコボルトと、小柄な女性とすれ違ったんですけど
 会話の内容からして、コンビニおもてなしにスアビールを買いに行ってくれてんだなぁ、と、内心でお辞儀をしておきました。

 んで

 中央広場に到着して、僕、絶句……


 いえね
 中央広場が、すでに人でごった返しているのは想定内だったんですけど
 その大半のお客さんが、ウチの出店に集中してたんですよね。
「あぁ!? て、店長さん、早くはいってくださぁい」
 って、すでにパニック寸前だった、2号店からヘルプに来てるメイドさんが、安堵の表情を浮かべてます。
 その横で、3号店からのヘルプ要員、ワザンがもくもくと接客をしてるんですけど……
 やはり、小型木人形といいますか、木人形の廉価版シリーズのため、エレやスシスといった本当の木人形ほど愛想がよくないためか、いまいち客の受けがよくない感じです。
 
 まぁ、そこは想定してたわけですので、
「おまたせいしましたぁ、さぁこちらでお聞きしますよぉ」
 と、
 ワザンの分まで、僕が満面の笑みでの接客を開始し、混雑が一気に解消していったことで、どうにか、店頭に流れかけていた不穏な空気も払拭されていきました。

 すると
 客の流れが一段落したところで、2人が揃って
「申し訳ありませんでした……うまくさばけなくって」
 と、僕に謝罪をしてきたんですけど
「何言ってるんだい。
 君らが頑張ってくれたからあの程度ですんだんじゃないか、ホントにありがとね」
 そう言って、2人の肩を叩いてあげたんだけど
 なんか、2人とも、というか、1人と1体は、喜んでくれてたわけです、はい。

 その後
 出店販売用の薬を持ったスアが転移魔法で到着し、すぐアナザーボディ4体を使役し始めたので、出店の混雑は、これでほぼ解消された感じになったんですが、

 スア、一体どこに転移してきたんだ?
 と、思いながらキョロキョロしていると
 店の一角に見慣れない木箱が1つ……

 スア、木箱ごと転移してきてました、はい……まぁ、重度の対人恐怖症ゆえに、仕方ないとは言え、
 ちょうどその木箱が、スアビール置き場に、ちょこんとあったもんだから、
 下手したらスアビールごと売られていった可能性が……

 そんなことを思ってると、スアの入っている木箱、
 僕の目の前で転移し、僕の足下に……

 で
 その後は、僕が移動する度に、その後を木箱ごとごとごとついて来ます……
 なんか、それが無性に可愛かったんですけどね。

 朝の大混雑を抜けると、
 客もあちこちの屋台を見て回り始め、その頃合いで、広場に花火が上がりました。

 まぁ、花火といっても、空でポンポン言うだけのやつでして、しかもこっちの人達はこれのことを「合図」と呼んでるらしく、花火って言ってるのは、まぁ僕だけなんですけどね
 それでも、ま、こうして合図がでるとやっぱ盛り上がるわけです、はい。

 これで、いよいよ夏祭りが正式に始まりました。

「パパ! お手伝いに来ました!」
 と、パラナミオもエプロンを着けた格好でやってきました。
 ちなみに、僕とおそろいです。
 僕はパラナミオに
「じゃあ、今日は頑張って売ろうな!」
 と言って右手を下にして差し出します。
 するとパラナミオ、その上に手を重ね
「はい! パパ!」
 そう言って、満面の笑みです。

 するとここで、
 ゴトゴトと、木箱ごと近寄って来たスアが、その木箱の中から手を伸ばしてきて、パラナミオの手の上にこれを重ねます。

 さらに、ワザンとメイドもやってきて
 さらに、スアのアナザーボディ4体まで

 最終的に、4人と5体が手を重ね
「お~!」
 と気合いを入れたところで、コンビニおもてなし出店、営業再開です。

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