パルマの夏、ガタコンベの夏祭り その2
すでにガタコンベの中央広場には、出店が出て営業を始めています。
そのほとんどは、近隣の街からやってきた出店でして、朝早くから広場に元気な声を響かせています。
そういえば、春の花祭りの時
ぼくも出店を出してああやって頑張ってたなぁ……
元猿人盗賊団の面々は、商店街組合に雇われる形で、自警団を続けているんだけど、
とにかくきっちり仕事をこなしているので、街の中でもすごく評判がいい。
「姉さんに恥をかかせるわけにはいきませんキ」
そう言って笑う自警団の猿人達なんだけど……ホント、セーテンといい、こいつらといい、なんで盗賊団なんかやってたんだろうって、疑問に思ってしまうわけです、はい。
この話をすると
「……あの頃は、食うに困ってたキ」
そう言って遠い目をするセーテン。
いつもは、イエロと仲良くじゃれ合いながらワイワイしている彼女なんだけど
やっぱ、色々大変な思いをしていたんだろうな……その横顔を見るとそう思うわけで……
なんて思っていると
「そう思うキ? じゃ、慰めてキ! その胸で根眠らせて欲しいキ」
そう言いながら僕に抱きつき、顔をスリスリしてくるセーテンなわけで……
ちなみに、この1分後
「……このクソザル」
スアがそう、ぼそっと呟く中、
地面にめりこまされたセーテンなわけでして……お~い、生きてるか~
◇◇
今回の出店スペースは、すべて組合のエレエが中心になって仕切っています。
エレエに限らず、ホント、蟻人ってみんなよく働きます。
昨日も遅くまで中央広場であくせく働きまくっていたと思ったら
今朝は今朝で、僕が朝販売用の弁当の制作に取りかかる時間には、もう中央広場であくせく動き回っていましたから。
辺境5都市とその周辺の町や村の住民が大挙して訪れるというこの祭りは
春夏秋と計3回行われるこのあたり一帯の一大行事でもあるらしく、参加する方も受け入れる方もてんやわんやなわけです、はい。
この日、
2号店のメイドと、3号店の木人形ワザンが店にやってきた……といっても、スアが常時接続している転移ドアを通ってやって来たわけなので、実質移動時間ゼロなんですけどね。
現在、
コンビニおもてなしは、本店の店員休憩所の中に扉が2つあり
その1つが2号店
もう1つが3号店と常時つながっている。
ちなみに、巨木の家には、スアの使い魔の森と常時つながっている扉があって
そこを通ってハニワ馬族のヴィヴィランテス
「水晶一角獣(クリスタルユニコーン)族よ! ハニワ馬じゃないわよ!」
……だってお前、一向にその姿をハニワ馬の形から戻そうとしないんだし
もう、ハニワ馬族でいいだろう?
「いいえ! そこにはとても越えることの出来ない大きな一線があるんです」
とまぁ、頑なにそう言い張るヴィヴィランテスが、使い魔の森で製造し続けているスアビールを地下の巨大冷蔵室へ、せっせと輸送してくれています。
これとは別に
コンビニおもてなし3号店にも、魔石採掘場と常時つながっている転移扉が1つあるわけで
このコンビニおもてなしには、
スアの手による、どこでもド……もとい、転移扉が4つ、常時設置されています。
このことを話題にすると
すぐに、事情スアの一番弟子こと、ブリリアンがドヤ顔で寄ってきまして。
「いいですか、タクラ殿。
この転移扉を常時常設しておくというのはですね、いかに魔力を安定した状態でその場に展開しておくか、またそれに加えて……」
とにかく、すごく難しくて大変なことを、スアはあっさりやってのけているんだということを
延々20分以上かけて懇切丁寧に説明してくれるのですが、皆だいたい、この話の開始3分でいなくなるんですよね……まぁ、それでもブリリアンは最後までドヤ顔で話しきるんですけど……ほぼ毎回……
ただ、この転移扉
以前、夜中にトイレにいったパラナミオが寝ぼけて使い魔の森に迷い込んじゃって、大慌てしたことがあったんですよね。
パラナミオが、トイレの戸と間違ってあけた所に、たまたま夜行性のドデカマンティコアっていう、見た目結構いかつい魔獣と出くわしちゃって、
「パパ! それ以上はダメです! それ以上は恥ずかしいのです!」
え~、パラナミオが真っ赤な顔をして僕の口を押さえに来たので、この話はここまでで……
で
とりあえず、メイドと木人形ワザンの2人と一緒に、僕は中央広場へ移動すると、早速コンビニおもてなしの出店ブースを作成しました。
とりあえず、テントを張って、調理場所と販売スペースを確保しておけば、あとはいつでも営業開始出来るしね。
で、
何もないのもあれなので、
とりあえず、弁当とパン、それにスアビールを販売してみたんだけど、
どれもあっと言う間に売り切れてしまいました。
んで
「このビールを冷やしてる箱って、どういう仕組みになってるんだ?」
と、使い捨て用の小型冷蔵魔石に、皆さん興味津々になられたわけでして。
んで、
「これ、冷蔵用の小型魔石を使用しているんですよ。コンビニおもてなしで販売していますよ」
そう紹介すると、皆さん、すごい勢いでコンビニおもてなし本店に駆け込んで行かれまして
「冷蔵魔石くれ!」
「こっちもだ!」
もう、押すな押すなの大盛況になり、魔石があっと言う間に売り切れてしまったわけです。
こりゃ、大変だ、と
僕は転移扉を通ってコンビニおもてなし3号店へ出向くと
魔法使い集落の地区長さん達を集めて、魔石の増産をお願いしました。
祭り期間中だけは、買い取り値を倍にするからとお願いしたところ
魔法使いの皆さん、すっごく頑張って冷蔵魔石を作ってくれはじめました。
この冷蔵魔石に加工するための、空状態の魔石を、
「スア様の使い魔の1人、宝玉ミノタウロスのミノスコ、頑張って魔石を荷馬車に乗せてまっす!」
「同じく、スア様の使い魔の1人、荷馬車魔人のシンシュール、頑張って輸送してまっす!」
いきなり僕の前に現れて自己紹介かつ、ポージングまで決めてくれたこの2人が、しっかり頑張って、魔石採掘場から、コンビニおもてなし3号店まで運んでくれています。
ちなみに、この2人にもお給料を支払おうとしたんですけど
「我ら、スア様の使い魔です」
「スア様のお力になれるのでしたら、それで十分です」
そう言って頑なに拒否されるんですよね。
これは、この2人に限ったことじゃなくて
スアの使い魔皆に言えます。
実際、ヴィヴィランテスも金品は絶対に受け取ってくれませんし
スアビール作りをしてくれている酒の妖精バルンカッスや、トルタス爺、キキキリンリン達も同様です
なので、みんなには
「スアビールを好きなだけ飲んでいいよ」
ってことにしています。
元々使い魔の皆は、酒が好きだったみたいで
「お金じゃないのなら……」
「まぁ、このお酒でしたら」
そう言って、皆、これなら受領してくれたわけです、はい。
巨木の家にスアビールを運搬してきているヴィヴィランテスなんかは、たまに、イエロ・セーテン・ルアの、酒飲み娘48内神3の飲み会に、いそいそと加わって、よくへべれけに酔っ払っているんですけど、ハニワ馬が、その顔を真っ赤にしていびきかいて寝ている姿は、結構シュールだったりします……とりあえず額に「肉」の文字を書いておいたんですけどね。
そんな中
酒の妖精バルンカッスが行っていた、日本酒の生成が成功しました。
もっとも、元の世界で言うところの清酒とは少し違っていて、濁り酒風に、少し白い色がついているんですけど、飲み口がすっごく柔らかくて飲みやすい……それでいて、口に含むと、ふわぁっと酒の甘みが口一杯に広がって、飲み干すとこれが後味すっきりなんですよ。
で、この酒なんですが、バルンカッスが
「ビールが、スアビールですから、この酒は『タクラ酒』にしましょう」
そう言ったもんだから、そうなってしまいました。
最初、「バルンカッス酒」でいいじゃないかって言おうと思ったら、もう酒の樽に貼る紙まで作ってたんですよねぇ……どこで外堀を埋める戦法を覚えてきたんだか……
というわけで
現在、出店では
スアビールと、出来たてのタクラ酒
冷蔵魔石
弁当やパン
こういった品々が販売されていまして、ヴィヴィランテスが、酒を運んできたついでに、コンビニおもてなしから、出店まで荷物を運んでくれています。
本番は明後日からですけど
コンビニおもてなしは、すでに準備万端なわけです、はい。
そんな中、ヴィヴィランテスが血相を変えてコンビニおもてなし本店に駆け込んできました。
「た、た、た、タクラ殿ぉ!? み、み、み、見てください! わた、わた、わたしのこの美しい額に、変な文字が刻まれていたのですよ!」
……あぁ、ほんとだねぇ、大変だねぇ、じゃあ僕が消してあげようねぇ(棒読み