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バトコンベの大武闘大会 その2

 スアに魔法加力くわえられたつねり攻撃をくらった背中をさすりながら、
 スアの転移魔法で、ガタコンベのコンビニおもてなし本店から屋台やら何やらを運び込んでくる僕。

 事前にイエロが許可をもらってくれていた会場の一角にそれらを運び込んでいく。

 この日は、本店がお休みの日だったので
 いつも料理をしてくれている猿人娘4人組と、蛙人ヤルメキスが手伝ってくれてたんだけど

 ヤルメキス
「こ、こ、こ、ここがあのバトコンベでごじゃりまするかぁ!?」
 って、大声上げたかと思うと、いきなりその場で土下座したわけで……最近本店でしなくなってたけど
 やっぱ本質はわかってなかったか……

 とはいえ、
 僕が予備に行くまでずっと作っていたらしい、カップケーキをよっこらよっこら運び込んでいると
「何じゃそれは? 何やらうまそうじゃな?」
 って、客席の一角に陣取ってた女の人が手を伸ばして

 ひょい、ぱく

「おひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
 そ、そ、そ、それは売り物でごじゃりまするぅ!?」
 いきなりつまみ食いされ、大パニック状態のヤルメキスだったんだけど

「つまみ食いしたのはわるかった。許せ。
 しかし、お主、これはほんにうまいのぉ。よし、それを全部買おうではないか」
 そう言いながら、その女の人、財布を取り出したんだけど、

「あ、ずるい! それ、私も狙ってたのに!」
「そうだぞ、俺も目をつけてたんだ! 買い占めはやめてくれ」

 なんか、途端に周囲からブーイングが。

 そんな周囲の声に根負けしたその女の人は、
「わかったわかった。では、半分でいいから売ってくれ」
 苦笑しながらそう言ったわけで

 なんか、
 販売開始前から、ヤルメキスのカップケーキは完売したわけです。

「す、す、す、すぐ追加を焼いてきまするでおじゃりまするぅ!」
 そう言いながら、スアの魔法陣を通っておもてなし本店に猛ダッシュしていったヤルメキス。
 
 ヤルメキスには悪いけど
 なんか、微笑ましい光景だよなぁ

 その後
 屋台が完成し、そこに弁当を並べていくと、

「なんかすごいいい匂いが……」
「なんだ、この店の弁当は……えらく変わってるなぁ」

 そんな声をあげながら、あっという間にひとだかりが出来ていったわけです。


 コンビニおもてなしのお弁当は
 元の世界でいうところの、アルミみたいな板で作った箱の中におかずとご飯が詰まっていて、
 同じ、アルミの蓋をしています。
  この世界では、このアルミもどきはほとんど利用されてないらしく、タダでドンドン手に入るので、ルアの金物工房で弁当箱に加工してもらってます。
 元の世界のアルミと違い、このアルミもどきは、仮にポイ捨てされても、ものの1週間で土に帰っていくので、非常に便利なんですよね


 で、
 そんな弁当に、料理をいれて販売してますけど

 辺境の土地ゆえに、その近隣に存在しまくっている害獣
 特に、サーベルライオンや、狂乱熊といった害獣のくせにやたら肉が美味しいヤツの肉をふんだんに使ってるのに加えて、この世界には存在しない焼き肉のタレのような調味料を駆使して味付けしているんだけど、その味付けがなかなか好評なわけです。
 この焼き肉のタレ
 すでに、元の世界から持って来ていた市販品はあらかた使い切っちゃってるんだけど市場に通いまくって手に入れた野菜なんかを使用して、どうにか自家製で作成することに成功していまして、今は、それを使っています。

 こういうとき、
 1人でも生きていけるように、って思って、調理師専門学校行ってて良かったと、つくづく思うわけです、はい。


 さて、
 そんなわけで、この弁当ですが、

「うわ! なんだこれ!? すごいうまいぞ!」
「おい、こっちのあと20くれ」
「馬鹿野郎買い占めすんじゃねぇ! こっちには5個くれ」

 とまぁ、
 販売開始直後から、押すな押すなの行列になったわけで
 急遽、売り子として来てもらってた猿人4人娘に、コンビニおもてなし本店へ戻って、追加の弁当を作成してもらうことにしたんだけど、一行にこの行列、途切れる気配がなかったわけです、はい。


 そうこうしているウチに
 会場では、主催都市であるバトコンベの領主、ゲルターによる開会宣言。

 ちなみに、
 コンビニおもてなしの屋台は、その間も盛況だったんですけど

 挨拶の合間に、ゲルターさん、こっちチラ目してたよなぁ……
 絶対あれ、怒ってたよなぁ……

 その後、
 会場では早速予選が開始になりました。


 この大武闘大会は
 3人一組で参加するんだけど

 その中に1人リーダーを決めておく。

 戦闘は10分1本勝負で
 ・相手のリーダーを気絶させるか、降参させるか、で1本勝ち

 ・10分戦ってリーダーがともに健在の場合
  ・他の2名のうち、より多くが残っている方が勝ち
 ・残っている者の数も同数だった場合
  ・代表1名での決着戦を、5分1本勝負で行う。
  ・5分で決着が付かなかった場合、審判団が優劣を決め、勝者を決める。

 簡単に言えば、こんなルールで行われる。

 魔法は基本フリーなんだけど、召喚魔法に関しては制限が設けられているらしい。
 要は、使い魔や魔獣を召喚する場合は、それも1人に換算されるので、最初から1名として届け出ておかないと使用出来ないとか。
 仲間がやられたからといって召喚で追加ってのはNGなわけです。


 そんな中、

 我がバトコンベ代表ってことで参加してます

 鬼人イエロ
 猿人セーテン
 猫人ルア

 の武闘派3人組は、予選A組
 開会式直後、いきなり出番です。


 会場を見渡せる位置で出店をやってる僕が、客対応しながら応援する中、
 3人はすごい勢いで勝ち進んでいきます。

 元々、傭兵10人がかりでやっと退治出来るような、でかい害獣なんかを
 店で使う肉用に、と、1人で難なく狩ってくるイエロの強さは、まぁ、感覚としては理解してたんだけど、

 元盗賊団のボスだったセーテンと、
 元傭兵だったルアが
 まさかここまで強いとは……

「キー!」
 って言いながら会場の宙を自在に飛び跳ね回るセーテンが、相手を混乱させ
 そこに、
「うらぁ!」
 ルアが、スピードののった、重剣を繰り出していく。

 このコンボをかろうじて凌いだところに
 僕の世界で言うところの、日本刀的な武器で、イエロが音も無く斬りかかっていき、これを倒していく。
「……安心するでござる……峰打ちでござる」
 っていうのが、イエロのお決まりなんだけど、
 これ、僕が持ってる時代劇のDVDを見まくって覚えたんだよねぇ。
 元々、妙に和テイストが強いイエロなんだけど、一体、どこで覚えたんだろうねぇ。


 とにかく
 3人は、連戦連勝、1度も負けること無く予選をこなしていきます。

 このあたりの人にはまったく馴染みのない、超辺境の都市の
 まったく無名の戦士達の快進撃に、会場でも、

「……お、おい、あいつら、なんかすごいんじゃないか?」
「……あぁ、よく見ておかないと、下手したら決勝トーナメントで台風の目になりかねないぞ」

 とまぁ、一戦終えるごとに注目度が増していて
 戦いが始まる度に、ギャラリーが増えて言ってます。

 予選は、会場内8箇所を使って同時に開催されてるんだけど
 イエロ達が試合する場所だけ、目に見えて客が増えてるもんなぁ

「あのガタコンベのチームの服に書かれてる、『コンビニおもてなし』ってのは、この出店のことなのかい?」
 って、なんか年配風のおじさんが尋ねてきたりもしたんだけど、
「えぇ、そうなんです。
 あのイエロって剣士がウチの店員でして……」
 そう応えながら、そのおじさんに視線を向けると

 あれ?
 なんかこの人、見覚えが……

「なるほどねぇ……っていうか、この弁当、マジうまいね。
 そりゃ、俺の挨拶そっちのけで、みんな買いにくるわけだ」
 って、そのおじさん、買ったばかりの弁当頬張りながら高笑い。

……ちょっと、この人
 さっき開会の挨拶してた、この街の街長ゲルターさんじゃないの!?

「あんまりみんながうまそうに、ここの弁当食ってるからさ
 つい来ちまったんだ」
 そう、悪戯っぽく笑うゲルターは

 その後
 探しにやってきたメイド服を着た側近の人達に連れられて帰って行ったんだけど

 帰りながら、めっちゃ怒られてたなぁ
「勝手に貴賓席を抜け出されては困ります!」

 ……やっぱ、勝手に抜け出してきてたのか……

 そんなゲルターは、弁当を20個買っていってくれたんだけど
 
 なんか、このおじさん、嫌いじゃないな。

◇◇

 そんなこんなで、予選も大詰め

 1チームがすでに決勝トーナメント進出を決めている中
 イエロ達も、この最終戦に勝てば決勝トーナメント進出です。

 間に、魔法銃とか言うヤツをぶっ放しまくる女の子のチーム相手に引き分けた分、半歩遅れをとった形になってるけど、ここまで全勝なのには変わりがないわけで

 で

 対戦相手は
『上級魔道使いのお茶会倶楽部選抜チーム』

……ちょっと待て
 どっかで聞いたぞ、その名前

「コンビニおもてなしの皆様、よくぞここまで生き残ったものですわね」
 お~ほっほっほっほ

 って、あれ
 こないだ、スアに吹っ飛ばされた、あの、デブの魔法使いのおばはんとその取り巻きじゃねぇか?

「誰がデブですか! 誰が!」
 なんか、耳ざとく僕の言葉に突っ込みをいれてくる、その上級魔法使いのリーダーっぽいおばさん。
 あの、偽物の指輪を大事に抱えてた、あのおばさんです、はい。
「誰がおばさんですか! 誰が」
 いちいち突っ込んでくる魔法使いのおばさん達ですけど

 まぁ、その魔法の力はある程度は本物だったようで
 その魔法を駆使して、ここまで、イエロ達と同じく1引き分けのみの負け無しらしい。

「見ましたこと? 私達がちょっと本気を出せばこんなもんですわ」
 お~ほっほっほっほ

 ……あのさ、会場と、観客席の出店で、なんで会話が成り立ってんのか、すっごい疑問なんだけど
 まぁ、とにかく、この勝負に勝った方が決勝トーナメント進出なわけだ。

「よろしいですか? そこな店長。
 我々が、親切心といいますか、親心といいますか、貴方方のためを思って、何度も和解案を提示してあげておりますのに、その全てを無視していますわよね? ホントいい度胸なさっていますこと」
 お~ほっほっほっほ

 っていうか
 もう、絶縁でいいから
 もう、関わらなくていいから
 もう、ノーサンキュー

「いいえ、そうはいきません。
 この戦いに私達が勝ったら、おとなしく、あの和解勧告を受け入れて貰いますわよ。
 しかる後、あなたの奥方であられます、本物の伝説の魔法使い、ステル=アム先生と、ぜひお近づきに……」

 ……それが本音か!?
 今まで、何度無視しても、しつこく和解手紙送ってきてたのは……

 あぁ、なんか、どっと疲れがでたよ、まったく

 で、まぁ
 このやりとりを聞いてた会場のイエロ
「貴様らこそ、我らに負けたら、2度とわがご主人殿の店の敷居を跨ぐでないぞ!」
 日本刀を向けて、啖呵を切っていく。

 いいぞ! イエロ! もっとやって!

「え~い、うるさい! まずは貴様達3人から血祭りにあげてさしあげますわ」
 お~ほっほっほっほ

 っと、上級魔法使いのリーダーのおばはん
 悪役がやるテンプレ台詞吐いたわけですけど

 そんな中、試合開始

「キ!」
 と、セーテンがいままで通りに宙に舞う

「甘いですわ!」
 お~ほっほっほっほ

 と、そこに魔法使いのおばさんが、魔法を展開
 空中のセーテンに、魔法の弾丸みたいなのを10発近く打ち込んでいく。

 げ
 これやばいんじゃないの!?

 セーテンは空中なんだし、足場がないから逃げようがないんでは……

 って思ってたら、
「かわすこともないキ」
 って、セーテン、空中で、迫ってきた魔法弾を素手でぶん殴ってる!?

 魔法使いのおばさん達も
「な、なんで魔法の弾を素手で殴れますの!?」
 って混乱してる

 あれ?
 よく見たらセーテン
 なんかでかい指輪を両手にはめてる……
 さっきまで、あんな指輪してなかったはずだよね……

 そんな僕の横に、スアがそそっと寄ってきた。
「……魔法攻撃に、……物理的攻撃を加えられる指輪を、作って渡して置いた、よ」
 そう告げ、右手の親指をグッと立てるスア。

 うん、さすが僕の奥さん。
 いい仕事してます。

 そのワンピースも最高です。

 そう言うと、スア、顔を真っ赤にしながら
 瞬時に転移魔法で消えていったわけで


 で、まぁ試合ですが
 3人が、このスア作成・魔法攻撃に物理攻撃を加えられる指輪をはめてるイエロチーム。

 これにより
 唯一の攻撃方法をほぼ封じられた形になった魔法使いのおばさんチームには
 残された手段がなかったわけで……

 
『勝者、ガタコンベチーム』
 ってなアナウンスが会場に流れるのに、1分もかからなかったわけです。

 でも
 スアの指輪があったとはいえ、
 あのすごい量の魔法弾の嵐を
 ことごとく打ち落としていった3人の技量は、やっぱすごいよなぁって、感心しきりだったわけです。

 これで最後が、
「今日はこのくらいにしておいてあげますわ~」
 ってな、敵前逃亡でなければ、なおよかったんだけどねぇ……

 そんなわけで、
 イエロチーム、見事予選を通過したわけです、はい。


 この後
 予定通り決勝トーナメントを辞退した3人。
 運営からはすっごい勢いで考え直すようにって言われてたけど、まぁ、最初からそうするって言ってたしね、

 で、
 本来なら上級魔法使いのおばさん達が繰り上がるはずだったんだけど
 この人達、試合が終わるやいなや、全員トンズラしたらしく行方不明になってたわけで

 結局他のチームが繰り上がってたなぁ。

「ご主人殿、やりましたぞ!」
 満面の笑顔で出店に戻ってくる3人、
「ダーリン、見ててくれたキ? このセーテンの雄志」
 そう言いながら、僕に飛びついて抱きつ

どご~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん

 こうとして、
 転移魔法で瞬時に現れたスアの爆裂魔法で吹っ飛ばされていくセーテン。

 うん
 こうなるの、わかってたろうに……懲りないと言うか、めげないというか……

 まぁ、僕としては、
 再度スアのワンピース姿が見れたので満足なんですけど

「……もう!」

 そんな僕の思考を読み取ってか
 その顔を真っ赤にしながら、再度転移魔法で逃げだしていったスアだったわけです

しおり