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土地とお屋敷と木人形と蜥蜴もどき その5

 屋敷のプラントの方も、どうにか順調に育ってくれているのに安堵した僕達は
 屋敷の木人形・エレに屋敷の周囲を案内して貰いながらこの日の夕刻までこの地に滞在した。

 屋敷自体は
 こんな辺鄙な場所に立っている割には非常に凝った作りで、部屋数も多い。
 商店街のみんなを呼んで、宴会するにはもってこいだなぁ、なんて思えなくもないんだけど
 問題は、この立地だよなぁ……

 何しろ、電気自動車おもてなし1号が限界これる場所から、徒歩でしか進めない道を片道3時間歩く必要があるだけに、気軽に皆を誘う気にはなれないわけで……

 夕刻までこの地に滞在した僕は
 屋敷と、プラントの木の世話を改めてエレに頼み、この地を後にした。

 スアと結婚してからの僕は
 休みと言えば、2人で朝まで

 っと
 この内容は黙秘させていただきます。

 とまぁ、そんな感じでのんべんだらりんと怠惰に過ごすことが多かったんだけど、

 この屋敷を手に入れたおかげで、
 パラナミオを家族同然の存在として迎えることが出来たんだし

 こうして、週1で、みんなでピクニック気分で遊びに行ける場所も出来たんだし

 まぁ、あくまで結果論だけど
 この土地の恩賞は、僕にとっては、なんかいいもらい物だったなぁ、と思えなくもなかったわけです、はい。

 
 別荘的存在になっているお屋敷から戻って数日、
 店の閉店作業を終えて、巨木の家に戻ると、

 スアが、パラナミオに魔法を教えていた。
 先日から、パラナミオに、食事や人と接する際のマナーといった社会一般常識を教えていたスアだったんだけど

 ……いや、ちょっと待て
 スアが、「人と接する際のマナー」だって?
 思わず、スアへ視線を向ける僕
 即座にそっぽを向くスア

 って、奥さん! 何その態度は!?

 とまぁ、僕の疑問を無理矢理明後日の方向にぶん投げたスアは
「サラマンダー……魔法……素質が……アル……場合……多……パラナミオも……

 え~、翻訳しますと

 スア曰く、
 サラマンダーは得てして魔法能力が高く、しっかり訓練すれば、召喚魔法を始め、いろんな魔法を使えるようになる可能性が高いらしく、パラナミオもその素質を十分備えているのだそうだ。
 スアによると、
 数十年昔に、どこかの火山の洞窟に住んでいたサラマンダーが、大量の骨人間(スケルトン)を召喚しているのを見たことがあるらしい。

 で

 パラナミオの、そっち方面の素質もしっかり伸ばしてあげようという、スアの母心らしい

……あれ? どうした、スア、なんか真っ赤になって固まってるけど

「……母?」
 そう言いながら、僕・パラナミオ・そして自分自身を指さすスア。
 うん、そのつもりで言ったけど、なんかまずかったかな?

 困惑する僕の前で、スアは、その顔を真っ赤にしながら

 ニヘラァって笑っていた。

 ……あぁ、喜んでいたっていうか、照れてたのね。

 っていうか
 スアのこんな表情を見ることが出来るようになったのって、パラナミオが我が家に来てからだよなぁ。

 それまでのスアは、もっと表情が乏しかったし
 何より、僕以外の人と、ほとんど接することが出来なかったわけです、はい。

 そんなスアが
 こんなに表情豊かになり
 こうして、パラナミオのことを娘的に可愛がっている。

 なんていうのかな、
 これって『勝ち組』ってことでいいのかな?

 もとの世界では
 彼女いない歴=年齢だった僕の幸せって、こんな異世界にあったんだなぁ……

 普通、見つかるわけないだろ、おい(一人ボケ突っ込み


 で
 そんなことを思っている僕の前で、

 スアは召喚魔法の仕方をパラナミオに実践して見せていた。

 軽く詠唱し、その右手の先に魔法陣を展開させたスアは、その先に小さな羽妖精を出現させた。
 スアは、これを手本として軽々とこなしているんだけど
 これって、相当上級の魔法になるらしい。


 先日、自称スアの弟子・ブリリアンに、スアに転移魔法を使って貰った事を話したところ
「タクラ様、そう簡単に転移魔法といわれますが、
 転移魔法は、相当上位の魔力を持つ者でないと使用出来ないのですよ……もっと感謝し、感動すべきだと、私は思います」
 そう言いながらにじり寄られたわけです、はい。


 で
 その手本を見たパラナミオは

「ママ、頑張ります」
 そう言いながら、パラナミオも右手を前に出して、教えて貰ったばかりの魔法を詠唱し始めた。

 魔法に疎い僕が聞いても
 スアのよどみない詠唱に比べて、非常にたどたどしい詠唱なわけで、
 なんていうか、思わず拳を握って
「頑張れパラナミオ! パパがついてるぞ!」
 って応援したくなるような、そんな感じなわけでして……

「パパありがとう! パラナミオ頑張ります」
 ……あれ?
 僕、心の中で叫んだつもりが
 思いっきり声に出ていたらしく、パラナミオが笑顔で返答してくれたわけで……

 なんか、邪魔しちゃったみたいで申しわけなかったな……
 なんて思っている僕の目の前で、パラナミオの魔法陣から、何かがぼろっと転がり落ちた。

 なんだ?

 駆け寄ってみると、
 僕とスア、そしてパラナミオの前には、なんか骨のかけら?
 コンビニのフライドチキンを食べた後に残る、あんな骨みたいなのが数本転がっていた。

 それを見たパラナミオは、涙目になりながら
「ママ、ごめんなさい……ダメだったのです」
 そう言い、がっくり肩を落とした。

 僕が、そのあまりの落胆ぶりに、励まそうとすると
 スアがスゴイ勢いで、パラナミオの両肩を掴んだ。

 スアが、なんかもうすっごく興奮しながら、パラナミオを抱きしめていまして……

 スア曰く
 初めての詠唱で、骨人間の骨の一部を召喚出来たっていうのは相当すごい事らしく、
 普通なら、こんな骨のかけらを召喚出来るようになるまでに、5年や10年かかってもおかしくないのだそうだ。

 ってことは
 パラナミオは、相当すごいってこと?

 そう言う僕に、スアは、興奮気味に何度も頷きながらパラナミオを抱きしめていた。

 パラナミオは、パラナミオで、スアを抱きしめ返しながら
「よかったママ、パラナミオ、頑張れたみたいでよかったですぅ」
 そう言いながら、ワンワン泣いているわけで

 なんかもう、事あるごとに感動し、涙を流すパラナミオ。
 ある意味、すごく感受性が強いんだろうなって思う。
 そんな、ある意味純粋な子供を、ちゃんと育ててあげないとな、スアと2人で

 そう思っていたところ

 僕の視線の前でスアは、また真っ赤になっていた。

……どうも僕、最近思ったことを口走ってるみたいで、
 さっき思った内容が、スアにダダ漏れだったらしい。

 でも
 スアは真っ赤になって照れながらも
「一緒……に……がんばろ……2人なら……出来る……と……思う」
 そう言ってこっくりうなずいてくれた。


 こうして、
 昼間はコンビニの営業

 夜は、夫婦揃ってパラナミオとの時間を過ごすのが最近のパターンになってきた。

「さぁパラナミオ、拙者も遊んであげるでござる」
 と、イエロも頻繁に巨木の家にやってきてはパラナミオと一緒に遊んでくれているんだけど

 先日
「ほら、高い高いでござる」
 そう言いながら、パラナミオを思い切り放り上げ、
 天井にめりこませた前科一犯のイエロには、現在『高い高い禁止令』が発令されているのですが

 そんなひどい目にあいながらも、パラナミオは
「イエロおばさん、今日は何をして遊んでくれますか?」
 そう言いながら、イエロへ嬉しそうに駆け寄っていく。

 そんな様子に、さすがのイエロもデレンデレンなんだよなぁ。

 そういえば、パラナミオくらいの年齢の子供って、やっぱ学校とか行かせてあげないと行けないのかな? とりあえず、今度、組合のエレエにそういった当たりのことも詳しく聞いておこう、と、思っている僕の前で、イエロが
「さぁ、高いたか……」
 ちょっとまてイエロ! それは禁止事項だってば!

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