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暗黒大魔道士騒動 その2

 ガタコンベの街の平和と、僕のNTR……しかも奥さんの寝てる目の前という……が掛かったオセロ対決。

 白石でスタートしたダマリナッセ。
 真っ黒になったオセロ版を、腕組みしたまま、目を見開いて見つめ続けている。
「いや、まちなさい……こんなのおかしいわ……だって、どう考えても私がこんな単純なゲームで負けるはずが……」
 ダマリナッセは、ひたすら版面を見ながら、うぬぬとうめき声を上げ続けている。

 まぁ
 言うなればですね


 ダマリナッセ、チョロいっす


 オセロ素人によくある
『1枚でも多く取れる取り方をする』
 を、頑なに実行するダマリナッセ。
「このゲームの勝敗が、枚数ですもの、これが当然の戦法よねぇ」
 そう言いながら、

 四隅も、端っこも無視して、とにかく枚数を取ろうとするわけです。

 その結果、
 中盤までは優勢なんだけど、終盤になるとあっさり僕が逆転していく。


 ただ、問題なのは
「……わかった、よくわかったわよ。じゃあ、今度こそ本番いきましょう」


 ダマリナッセ、往生際悪っ!


 この『本番本番詐欺』のせいで、ゲームはすでに30回以上行われている。
 当然、すべてで僕が勝ってます。
 そのせいで、ダマリナッセは、余計にムキになってオセロを続けようとしているわけで……

 ただ、
 ここで僕の脳裏によぎった嫌な予感っていうのがあって、

 ダマリナッセにしてみれば、
 ガタコンベを襲ったのも、
 その近隣野町を襲ったのも

 全ては暇つぶしだったわけです。

 なら、このゲームに負けたからといって、おとなしく引き下がるんだろうか?

 現に今も、頑なに敗北を認めず
 本番本番詐欺を繰り返してるわけです。

 とはいえ
 だからといって、こちらには、現時点ではダマリナッセをおとなしく退散させるだけの手札がない訳なので、ひたすらゲームに付き合うしかないのが現状。

 一度でも負けたら
 おそらくダマリナッセはそれを口実に、まず僕にNTRを仕掛けてくるのは目に見えてるわけで
 そんなことを考えながら、ひたすらゲームをこなしている僕

 その視線の先のダマリナッセ
 なんだか、気のせいかだんだん不機嫌になってきてる気がしないでもない。

 僕の脳裏に
 全然礼を駆け巡るのではないかってなぐらいの警報が鳴り響き始めてる。
 そんな嫌な予感満載の僕の前で、ダマリナッセは、ボソッと言った。


「……飽きた」


 ダマリナッセは、そう言うと、オセロ版を脇に放り投げると
「もうゲームは飽きたからさ、約束通り、あんたのアレを試させて貰うよ」
 そう言いながら僕ににじり寄ってくるダマリナッセ。
 僕は大慌てで後ずさろうとしたんだけど、

 手足がしっかり縄状の何かで拘束されてる!?

 いや、まだだ
 まだ諦めないぞ!
 僕は、体を尺取り虫のように動かしながら必死に出口に向かって移動する。
「あはは、あんたおもしろいねぇ。そこまでされてまだ諦めない人間ははじめてみたよ」
 そう言いながら、僕の近くへ歩み酔ったダマリナッセは、僕の背中を踏みつけて、その場に固定していく。
 それでも僕は、なんとか体を動かし出口の方へ……


 せめて
 スアがそこに寝ているのに気がつかれないように


「おんどりゃあああああああああああ!」
「な、なんですってぇ!?」
 ダマリナッセの足を渾身の横回転で外した僕は、再度尺取前進で廊下へ逃げた。

「往生際が悪いわねぇ。でも、それも楽しくていいわぁ」
 ダマリナッセは、僕を追いかけて廊下に出てきた。

 よし、作戦通りだ。

 あとはこのまま一歩でも遠くへ……
 そう思っている僕の目の前に階段が……そうだった、あの部屋からの廊下は、この階段までしかないわけで……

「あらぁ? 逃走もそこまで? なんだぁ、つまんないわねぇ」

 階段前で躊躇している僕に、ダマリナッセがどんどん迫ってくる。
 ダマリナッセは、僕の上にのしかかると、
「さぁ、つ・か・ま・え・た」
 そう言いながら、僕のズボンを脱がしにかかる。

 こうなったらもう、いちかばちかしかない

 僕は、両足をダマリナッセの腰に巻き付けた
「あらぁ? 大胆ねぇ。ようやくその気になったのかしらぁ?」
 ダマリナッセは、そう言いながら頬を赤く染めながら僕に口づけしようと迫ってくる。

 そこで僕は、
 ダマリナッセを足で抱えたまま
「あら?」
 一気に階段を転げ落ちた。
「うわあああああああああああああああああ」
「きゃあああああああああああああああああ」
 蒲○行進曲よろしく、階段を豪快に転がり落ちる僕とダマリナッセ。

 よしんば、これでダマリナッセが致命傷でも……

「あんたぁ、やってくれたわねぇ」
 階段から落下したダマリナッセ、
 すっごい怒りながら立ち上がった。

 ……あぁ、致命傷どころか、怪我らしい怪我もしてないみたいだ
 僕は、多分、顔のどこかから出血しているらしく、右目の視界が赤くなっている。
 口の中も血液っぽいので、口の中も切ったようだ。

 ……やばいな……全員が痛くて、さすがにもう動けそうにない

 そんな僕の顔を、ダマリナッセが踏みつけた。
「もう容赦しないわよぉ、覚悟なさぁい」
 そう言いながら、ダマリナッセは、右手を僕に向けた。
 なんかその先から魔法陣みたいなのが見える……あぁ、あれで殺されるのか、僕。

 そう思った時です。


「お前が覚悟しろ。このクソ暗黒大魔道士」
 一切言いよどむことなく、しかも大きな声で言い切ったスアが、ダマリナッセの背後にいた。
「て、てめぇ、どっから沸いてきやがった!?」
 そう言いながらスアの方を振り向くダマリナッセ。
 僕は、少しでもスアの助けになるようにと、最後の力を振り絞って、目の前にあったダマリナッセの右手にかみついた。
「あだだだだだだ、な、何しやがんだ、このクソ人間がぁ」
 スアに意識がいってた分、油断があったダマリナッセは、僕にかみつかれて大慌てしている。

 ざまぁ!

 そんな大慌てしているダマリナッセに
「クソ暗黒大魔道士……また封印してほしいみたいね……」
 スアがそう冷たく言い放った……って、え? また?
「何が封印だ! アタシが勝てなかった魔法使いはね、生涯に1人しかいないんだ。
 しかもそいつが生きていたのは今から百年ばかし前だ……今もまだ生きてるわけが……」
 そこまで言ったダマリナッセは、急に押し黙った。
 スアの顔を見ながら、脂汗をダラダラ流している。
「……て、てめぇ……ステル=アム……か?……な、なんでまだ生きてんだよ……」
 そう言うダマリナッセの前で、スアはその顔を左右に振っていく。
「あ、あぁ、そうだよな、そら似だよなぁ、ありえないよな、あの伝説の魔法使いがまだ生きてるなんてさぁ」
 ダマリナッセは、見るからに安堵の表情を浮かべている。
 で
 そんなダマリナッセに、スアは
「今は結婚して、スア・タクラ。ステル=アムは、結婚前の名前……」
 そう、はっきりち言いながら、その両手に、見たことがない数の魔法陣を展開している。

 で

 一方のダマリナッセ。

 やはりスアが、ダマリナッセが言っていた魔法使いであることが確定したため、
「ご、ごめんなさい! もうしません! もうしませんから勘弁してください! ふ、封印はもう嫌ぁ……」
 その場に土下座しながら懇願してる……

 で

 スアは、そんなダマリナッセに
「封印はしない……」
 そう言った。

 その言葉に、ダマリナッセは、ぱあっと顔を明るくしていく。
「スア様! ありがとうございます! このダマリナッセ、今後は心を入れ替えて……」
 で、そこまで言ったところで、スアがその言葉を遮った。

「……コロス」
 そう言うと、その手の魔法陣をすべてダマリナッセに叩きこんで


***残酷描写が多数含まれるため割愛します***


「あな……た、大……丈夫?」
 スアが、大粒の涙をこぼしながら、僕の側にかけより、回復魔法をかけてくれていた。
「あぁ、大丈夫だよ……それより、スアは怪我はなかった?」
 僕の言葉に、その顔を左右に振るスア。
 そして、回復魔法に再び専念していく。

 階段から落下した際
 おそらく肋骨が折れるか、ヒビが入っていたと思われたんだけど
 スアの回復魔法のおかげで、あっという間にその痛みも消えていった。

 スアは、改めて僕の顔をのぞき込み
「大丈……夫? 他に……痛い……とこ……は……ない?」
 改めて聞いてくる。

 僕は、スアの顔を見ながら
 あぁ、良かった、って心から思った。

 すごく情けなくて
 すごくかっこわるくて
 すごく惨めな戦い方だったけど

 スアが僕の目の前にいる。

 それだけで、なんかもう、胸がいっぱいだった。

 僕はスアをギュッと抱きしめた。
 スアも、そんな僕にギュッと抱きついてきた。

 スアの体は小刻みに震えていた。 

「心配かけちゃったね……ごめん」
 そう言う僕に
「もう……あんな……無茶は……しない……で……お願い」
 スアは、そう言うと、
 泣きじゃくりながら僕の胸に抱きつき続けていた。

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