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こんな日常

 スアと結婚して、1週間たった。

 僕らは、店の裏手にある、スアの巨木の家で暮らしている。
 僕の部屋でもよかったのだが、何しろ僕の部屋は、皆のたまり場的な場所になってて、
 油断してると、酔っ払ったイエロが乱入してきたり、セーテンが夜這いにやってきたりと、とにかく油断も隙もないわけで……

 スアに、木の実の部屋を1つ増やしてもらうと
 僕はその中に自室の荷物を運び込んだ。

 魔法コンロなんかも設置し、ここで料理の研究なんかも出来るようにしてもらった……まぁ、一応調理し専門学校に通った経験があるとはいえ、下手の横好きレベルの僕の料理の腕前なんで、たかがしれてはいるんだけどね。

 それと、木の上部にあるスアの研究室の横に、木の実の部屋で寝室を作った。

 ここには、向かいの工房の猫人(キャットピープル)・ルアに頼んで作ってもらったセミダブルサイズのベッドを置いた。

 スアは、寝る場所にはホントに無頓着で
 結婚する前は、眠くなるまで研究したり、クスリを作ったりし、
 眠くなると、そのままハンモックに潜り込んで寝ていたそうだ。

 そんなスアも
 僕ら2人で寝るベッドが搬入されたことに、なんか嬉しそうな様子。

 搬入を終え、ルアが、搬入の手伝いに来てた職人らと帰って行くと
 早々に僕の手を引いて
「少し、寝心地……確認……しよ?」
 そう、誘ってきた。

 ってなわけで、2人してベッドに飛び乗ってみる。
 なんか、子供みたいな事をしちゃったけど、スア、なんかこれが気に入ったらしく、すごく笑顔だった。
 そんなスアの表情を見つめてると、スア、なんかその頬を赤くして、
「……いいよ」
 って言いながら


 ここから小一時間の内容は黙秘します。


「ご主人殿~、晩ご飯が出来たでござる~」
 スアとの行為の後、思わず寝入ってしまっていた僕は、巨木の家の外から聞こえてくるイエロの声で目が覚めた。
 
 以前は、僕が1人で、従業員みんなのご飯を作ってたんだけど、
 最近は、交代制でやっています。

 で、今日はイエロの担当の日

 その声を聞き、
 今日の料理当番がイエロだと気づいたスアが、なんかすごい嫌悪の表情を浮かべた。

 さもありなん……
 イエロの料理は、僕と出会ってすぐの頃から比べればかなり上達してはいるものの、

 『素材そのまま焼いたでござる!』

 が、基本なわけで、
 食が細いスアには、ある意味拷問に近いわけです、はい。


 皆のリビング代わりに解放することになった、コンビニおもてなしの2階にある僕の元部屋に集まった一同で。

「では、いただきましょう!」
 ぱぁん! と、ここで両手を合わせたイエロの合図で、皆、一斉に
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
 と声をあげていく。

 イエロの食事は予想通り、タテガミライオンの肉の丸焼きを小分けにした物がメイン。
 
 これだとスア、1口でもう、うぇってなってしまうはずだ。

 僕は、少し席を立つと、台所の残り物で簡単なスープを作り、スアへと持って行った。
 スアは、マグカップに入れたそれを、ふぅふぅ冷まし、コクンと一口、

「おい……しい……ね」
 スア、満面の笑み。

 このスープを気に入ってくれたらしく、スアは珍しく3回もおかわりをした。

「おぉ! スア殿、今日の拙者の食事、そんなにうまいでござるか?」
 そう言いながら、嬉しそうに笑うイエロ。
 晩酌の酒が入っているので、すごく陽気なのはいいんだけどさ、

 スアが口にしてるのは、僕の作ったのだからね?

 まぁ、イエロのお肉も確かに美味しいけどさ。


 ここで、改めて食卓を見回してみる、

 鬼人の剣士であり、店の用心棒のイエロ
 その弟子で、本業は駐屯地勤務である、バイト扱いのゴルアとメルア
 調理担当の猿人の女の子4人組
 お菓子担当の蛙人ヤルメキス
 自称スアの弟子で、接客担当のブリリアン

 そして、僕の横には、薬剤作成担当の、伝説の魔法使いスア

 たまに、これに猿人のセーテンが加わるのが、最近のコンビニおもてなしでの食事風景になっている。

 スアも、
 このメンバー相手なら、極度の対人恐怖症があまり出なくなった感じ。
 うん、進歩だよね


 元の世界から
 わけもわからないままに、この世界に飛ばされて
 なんか必死に店を経営していたら、
 こうして、たくさんの仲間が出来
 そして、奥さんも出来た。

 僕は、そんなことを考えながらスアへ視線を向けた。
 僕の視線に気がついたスアは、僕を見返しながら
「何?……あなた?」
 そう、言った。

「まだまだ色々あると思うけど、一緒に頑張ろうね、スア」
 僕の言葉に、スアはにっこり微笑むと
「まかせて……接客以外は」
 そう言った……はは、スアらしい。

 この日は
 食後に、いつもより多めに酒が入り、それをかぎつけた向かいの工房のルアと、警備から戻ったセーテンが加わり、ちょっとした宴会となっていった。

 イエロとルア、セーテンの3人が、オールナイトモードに切り替わる雰囲気を醸しだし始めたため、僕とスアはここで退散し、店の居住区にあるお風呂へ向かった。

 夫婦になったとはいえ
 こうして明るい場所でお互いに……っていうのは、やっぱちょっとまだ照れくさいといいますか……

「……あんまり、見ないで……ね」
 体を洗いながら恥ずかしそうにそう言うスア。

 ちゃんと僕は言われたとおり、横を向いておきました。

 え? その視線の先にでかい鏡があるじゃないかって?
 やだな、気のせいですよ
 そこに、座って体を洗っているスアが真正面からばっちり写ってるはずがないじゃなあいたたたたたた、スアさん、叩かないでってば

 お風呂からあがった僕らは、
 揃って巨木の家へ。
 
 スアが
「少し、明日……販売する……クスリ……準備して……おく」
 そう言いながら、研究室で作業を始めた、
「何か手伝えることあるかい?」
 そう言う僕に、スアは少し考えると、
 なんか無言で手招きした。

 なんだなんだ?

 慌てて駆け寄った僕に、スア

 ちゅ

 って、頬に

 自分でしておきながら、スアさん、真っ赤になってうつむいてしまう。


 ほんと、なんなんでしょうね、この可愛すぎる生き物ってば。

 その後
 瓶に詰め終わった薬品を木箱に移したり、その木箱を積み上げたりしてると
「おまたせ……こんな……もん」
 スアは、そう言いながらふぅ、とため息をつき、

 ぽふん

 と、僕の腕の中に抱きついてきた。
 なんか、もう、
 これが最近のスアの定番だなぁ

 で

 こうして抱きついてきたスアを抱きしめ返すのが、僕の定番なわけで

 しばし、そこで抱き合った僕らは
 そのまま寝室へ

 もうおわかりだと思うけど


 ここから朝までの内容はすべて黙秘します。


 で
 届いたばかりのベッドの上で
 抱き合ったまま眠っていた僕ら


 そんな巨木の家の戸が乱打されたのは
 翌朝、かなり早くだった。

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