花祭り その1
ー花祭り前日
辺境都市ブラコンベは、ガタコンベと違って木造の家屋が多い都市です。
道も、石ではなく、木の板で舗装されていて、都市によって個性があるのだなぁ、と実感。
花祭りの会場になる中央広場には、すでに各都市の出店者が集まっていて、明日からの花祭り用の出店準備に励んでいた。
区分けとしては、
一番客が多い中央広場を5区画にわけて、
大規模辺境都市の出店者が振り分けられたスペースの中で出店。
ガタコンベの出店スペースの調整は、組合のエレエがすべて仕切ってくれていて、
すでにブースの中には、細かく線が引かれて出店者ごとに区分けされており、
おのおのの場所に出店者の名前が書かれた紙が貼られていた。
僕の店の場所が、中央広場の真正面に位置している一番目立つ位置だったのに面喰ったものの、まぁ、出来ることを一生懸命するしかないか、と開き直りつつ、準備を始める。
辺境駐屯地への宅配を済ませてからやってきたため、電動自動車おもてなし1号で直接やってきたせいで
「なんだ? この乗り物は?」
と、思わぬ人だかりができて苦労したものの、どうにか机やテントの設置は完了。
当日は、弁当をガタコンベの店で作成し、ここまで運搬してくる予定ではあるものの、売り切れた場合を想定して、テントの中にも調理ができるスペースを簡易だけど設けている。
テント周辺は、元猿人盗賊団の、ガタコンベ自警団員が専属で24時間警備してくれることになっており、安心だ。
自警団の元締め的存在であるセーテンによると、結構いい儲けになったそうである。
元の世界でやってたようにコンビニおもてなしの登り旗も持って来て屋台先に設置してみたところ、この世界ではこういう旗が珍しいらしく、あっという間に人だかりができていった。
中には、うちの店でも発注したいので注文先を教えて欲しいと言ってきた店主いたものの、
僕がこれを発注した店は、当然この世界にはないわけなので、とりあえず話を濁しすことになった。
そうこうしていると、ガタコンベの馴染みの店主達も続々やってきて、僕の店の周辺で出店の準備を始めていく。
こうした、のんびりした雰囲気で祭りに参加できるというのも、なかなかいいものだなぁ、と、思う。
元の世界では、24時間営業しながら、日々の売り上げに、バイトのシフト調整に、と日々追われ続け寝る間も惜しんでいたわけだしね……
日が暮れると、広場に残っていた出店者ら全員が集まって前夜祭的な飲み会が開催された。
「この祭りでバカ騒ぎしたいがために、毎日頑張ってるようなもんだからねぇ!」
向かいの店の猫人(キャットピープル)・ルアが、木製の樽型ジョッキを飲みほす。
あちこちで、同様にジョッキを豪快にあける光景や、乾杯の声が響きわたっている。
「タクラは、この祭り初めてだったよな! しっかり楽しくやらなきゃ駄目だぜ!
お前、かなり堅物だからなぁ」
そう言いながらルアが僕の背中をバシバシ叩いてくる。
そうは言われても、堅物というか、面白みがないといわれ続けて早幾年な僕としては、苦笑を返すしか手がないわけで……
かなり夜更けになってガタコンベに戻った僕は、イエロ達が祭り用にと気合を入れて狩ってきてくれていた動物の肉を早速さばいておいた。
かなりの量があったため、結局、作業に未明までかかってしまったため、結局僕は徹夜で販売用の弁当の作成へと取り掛かった。
調理をしていると、スアが、祭りで販売するための薬剤類を大量に持って来た。
スアの薬類の評判は日に日に高まっていて、店でもしょっちゅう売り切れになっているほどの人気商品だ。最近は、医師をしていたクレリックのブリリアンが押しかけ弟子に
「……認めては……いない」
スアにジト目で抗議されたので、仮弟子として手伝っているということで……え? それもダメ?
僕が調理をしていると、なんかスアが横で手伝いを始めてくれた。
意外だったのだが、スアは肉や野菜を切り分けるのが早い。 ただ、極度の対人恐怖症のため、こういった早朝の早い時間、僕しかいない時だけしか手伝ってもらえないのが残念だ。
……なんか、スアって僕に対しては対人恐怖症が発症してない感じなんだよなぁ
なお、イエロ、ゴルア、メルア、セーテン、ブリリアンの料理の腕前は、あえてノーコメントとさせていただきたい……皆ひどかった……あ、言っちゃった。
おもてなし1号の準備をしていると、スアが僕の袖を引っ張った。
「……今日は……私も……ついていく……」
「大丈夫なのか? 人がかなり多いと思うよ?」
「……車の中に……引きこもって……いる……光の分体でお手伝いくらいなら……できると思う……し……」
そう言って、チラッと上目遣いに見てくるスア。
一件幼女なスアだけど、すでに二百才を楽に超え
「……今、失礼なこと、……考え……なかった?」
いえ……なんでもありません。
夜が明け始めると、イエロ達が起きてきた。
弁当とサンドイッチは、出来立てを車で運ぶので、僕とスアは、もっと後から出発するのだけれど、
イエロやセーテン達にはおもてなし1号に積みきれない他の販売物を荷馬車にのせて運んでもらうため、、このまますぐに出発してもらうことになる。
「ダーリーン! 向こうで待ってるキ♪」
出発する前にセーテンが僕に抱きついてくる。
「……この、クソ猿……とっとと……行けよ……」
スアが、杖でセーテンを僕から引っぺがし、すごい形相で睨んでいる。
一触即発だったものの、とりあえず朝飯用の弁当を皆に渡して気を反らし、どうにかその場は治まったのだが、最近こういうぶつかり合いが多い気がする……
先発部隊が出発してから2時間ほどして、僕とスアは、車に荷物を満載してガタコンベを出発した。
ちなみに、街の中はほぼ無人になっているものの、猿人自警団がしっかり守ってくれている。
自警団の皆には、店の弁当をよろしくねって意味合いで渡してあげておいたところ、えらく喜んでもらえた。
やはり、祭りの際の、居残りは寂しいとも言っていた。
祭りは2日あるみたいなので、明日には交代してあげられるようにセーテンにお願いしてみよう。
そんなこんなで、ブラコンベに到着して、びっくりしたのが、
すでに、僕の店のブースの前にはすごい量の人の列が出来ていて、それをイエロが必死に整理していたこと。
その奥では、ゴルアとメルア、ブリリアンが出品物の陳列に大わらわしているのだが、横からお客さんが乱入してきては
「ほう、これは珍しい……」
などと物色しはじめてしまうため、作業が思うにまかせていないようだ。
お客さんには申し訳ないと思いながらも、スアに隔離壁を作ってもらって完全にシャットアウトさせてもらった。
このおかげでようやく作業がはかどり始め、どうにかこうにか準備が整った。
「一時はどうなるかと思いました……」
「これなら、剣の訓練の方が楽ですな……」
ゴルアとメルアが、ゼェゼェと荒い息をしながら笑っていた。
そうこうしていると、広場に大きな鐘の音が鳴り響いた。
どうやら、花祭りが始まるようだ。