陰謀9
信長をまじかで見るのは初めてだ。女のように優しい顔をしているが目は鋭い。
「蘭丸、準備は出来ておるか?」
「はい。今朝信頼できる小姓5人と殿の言われていた地下室を調べました。これをご覧ください」
朱雀は隙間から覗き込んだ。地図だ。
「この部屋から地下室に降りるようになっております。古書や仏像が置かれていました。殿が和尚から聞かれていたようにその地下室に書棚がありその裏に地下道がありました」
「他の小姓は?」
「すでに地下室から出し私のみが」
「それで?」
「地下道は思ったより長く途中から手掘りのようになっていて登るのです」
「どこに通じていたのだ?」
「ここから小高い丘の山寺の墓場の土蔵に出ます。ちょっと予想できない風景でした」
「そうか。それから?」
信長は蘭丸をとくに信頼しているようだ。
「昼から小姓を連れて山寺まで行きそこから山道を馬を走らせました。御所までは馬で4半刻で着きます」
「御所か。御所なら関白を使うか」
ここではつぶやきだ。信長が何を考えているのか分からない。蘭丸がいつの間にか裸になっていて信長の閨に横たわっている。男同士のこのような姿は戦場では見慣れていた。朱雀が屋根裏から動き出した時、風が吹き抜けたような気がした。朱雀は気配を消すと影のようにその後を追う。黒装束は思わず身が軽い。軽々塀を乗り越えて半刻走り商人宿の屋根に飛び乗った。
朱雀が天井裏から覗いたときは長い髪の鋭い目の女が侍の前に座っていた。
「どうだ調べれたか?」
「信長は殿の予想した通り本能寺の抜け道を使った仕掛けを考えているようです」
「お前はしばらく京にいるのだ」
「お頭は?」
「高松城に帰る」
秀吉ではない。この殿は黒田官兵衛だ。