陰謀10
出城に付くと屋敷の手前で蝙蝠を逃げ道確保に残す。狗は戦うより逃げるに重きを置いている。徳川に寝返ってまだ半月も経たない。床下に潜る。話では柳生の師範代が城主の弟をそそのかして徳川の兵を入れたと言う。まだ武装した兵が庭や廊下にいる。どうも地下牢に城主が入れられているようだ。
地下牢に近づくのは夜がいいだろう。それで2階の天井裏に潜る。狗は一室で止まった。ここに柳生宗矩がいる。前にいるのは弟の新城主だ。
「城兵が落ち着いていないようだな?」
「残念ながら兄が城主を継いですでに10年が過ぎていますからな」
「早々に筒井の本城を攻める段取りを」
「なぜそんなに急ぐ?」
「近々また弾正が謀反を起こす。筒井は兵を大和に送る。この時に筒井を攻める」
「でもこちらの兵では?」
「その時までに徳川から2千を送る。順慶のいない筒井は」
やはりそういうことを考えていたのだ。今順慶を失ったら狗達も困ったことになる。夜になると地下牢に潜った。牢番に眠り薬をかかせる。それに前の城主に従う侍が多いようだ。密かに食事が運ばれてきている。狗は陰から城主に声をかける。
「筒井順慶の手のものです」
俯いていた城主が顔を上げる。筒井の城で見た顔だ。
「柳生にたぶらかさられたわ。弟ではこの城は守れぬ」
「どうされたいのですか?」
「ここから出してくれぬか?」
「筒井でよろしいか?」
「筒井までは誰も知らぬ抜け道がある」
狗は鍵を開けると地下牢から城主を出す。足腰はしっかりしているようだ。牢番の装束を脱がして牢に入れる。それから庭に出て蝙蝠に合図を送る。蝙蝠が逃げ道に招く。その道を1刻走ると城主が狭い沢に降りる。