反逆11
天井裏にも柘植の忍者が1人いる。狗は後ろに気配を消して近づく。首を絞めて横に寝かす。ちょうどこの下が弾正の寝所だ。隙間から覗くと布団がこんもりしている。揚羽が明智に走ってそれから熟睡したのだろう。だが布団が小刻みに震えている。また別の女を引き込んだのか?
部屋中を見渡す。柘植の忍者が潜んでいる様子はない。廊下には寝ずの番の侍が眠っている。ふわりと床に降りる。弾正の顔を見て吃驚した。涙を流して震えている。あの図太い弾正から想像がつかない。これはどういうことだろう。もしかして果心居士が弾正から抜け出した姿ではないのか?
ならば果心は?そっと隣の襖を開けた。やはりあのお棺が床に寝かされている。大和から狐たちが出てきたとき運び込んだのだろう。お棺をゆっくりと開ける。やはり白髪の老人が眠っている。弾正は果心が体から抜けるとただの男になるのだ.。果心が弾正を操っている。だが猿や揚羽のように式神ではない。
いつの間にか果心の目が開いている。狗は慌てた。金縛りにかかっている。
「お前が狗か?」
口も開かない。だが果心は狗の心を読んでいる。
「筒井順慶の犬のようだな?」
狗の報告は揚羽からされている。必死で体を動かそうとするが体中から汗が噴いてくる。
「お前も捨て子だったようだな?大きくなったら式神にはできない。残念だな」
思い切り叫ぼうとするが果心の目が狗を捕えている。殺される。
「京之助を知っているな。儂は一度柳生宗矩と京之助と戦ったことがある。剣は京之助の方が上だ。だが宗矩は明智光秀と同類の臭いがする。ここまで聞いたからには死んでもらう」
ゆっくりと白髪の老人が起き上がってくる。その時左腕に手裏剣が刺さった。狗は飛び上がるように弾き飛んだ。畳の一つが開いた。狗はとっさにその隙間に飛び込んだ。前を走る黒い影を追うように屋敷の塀を超える。
「殺されるとこだったよ」
狐だ。
「もう少し手裏剣を手加減してくれよ」