第二十七話 今後の方針
俺は4時ぴったりに昨日の喫茶店に行った。シンさんは昨日座っていた席に座っていた。
「やあ、時間ぴったりだね。取り敢えず座って何か注文しなよ」
「……はい」
俺たちは向き合うように座った。俺たちは昨日と同じ注文をした。今日はガムシロップを1つだけ入れた。
「あれ? 今日は2つ入れないんだね」
「え、えー。一つでもいけるかなーと思って」
シンさんはフッと笑うと、コーヒーに口を付けた。俺も同じくカフェラテに口を付けた……もうちょっと甘いほうが俺好みだな。
「じゃ、本題に入ろうか」
「はい」
「まずは地球外生物対策本部のことについて話をしていくね」
「お願いします」
「まず、地球外生物対策本部っていうのは文字通り地球外生物を捕縛、もしくは撃退することを生業としている組織なんだよ。でもまあ捕縛をするのは珍しいんだけどね」
「何でですか?」
焔が率直に疑問を投げかける。
「そうだねー。まず捕縛したと言っても、それを受け渡す機関もないし、その後の面倒も見切れないからね。さらに言えば、捕縛って結構難しいしね。こっちは命最優先でやってるから、無理してまで捕縛するメリットがないんだよ」
「てことは……殺すんですか?」
「嫌かい?」
シンさんは優しく聞いてきた。
殺すのか……
「やっぱり抵抗はありますね」
「でもね、やらなきゃこっちが殺されちゃうからね。それに俺たちが倒すのは地球外生物の中でも地球に害を与えてくるやつだけだからね」
ん? 待てよ。その言動から察するに、この地球には……
「え? てことは……この地球には地球に害を与えない地球外生物がいるって……ことですか?」
「そうだね。いるよ」
「本当ですか!? どこにいるんですか!?」
俺は興奮気味に食い入るように聞いた。なんたって地球外生物がいるってだけで、男心をくすぐられるのに、それが地球にいるなんて……心躍るぜ。
「んー……海底とか、あとは誰も来ないような雪山、森とかかな」
「え? それっていわゆるUMA……ってやつですか?」
「お! そんな感じそんな感じ」
「へー」
俺はもう一度大きく腰を下ろした。
マジがよ。あれって実在すんの? しかもあれって、宇宙人なんだ。へー、地球って面白い。
パン!!
シンさんが手を叩いた。その意味は俺にも容易に分かった。もうちょっと聞きたかったけど。
「さ、そろそろ話を戻すよ……で、どこまで話したっけ?」
おいおい。
「えっと、確か地球外生物対策本部は地球に害を与える宇宙人を倒すってとこまで聞きました」
「あ、そうだったね。じゃあ、次は俺たち組織の構成要素でも教えようかな」
構成要素か。昨日言ってた戦闘部隊とかのことかな?
「昨日俺とレオが自己紹介したとき、地球外生物対策本部『戦闘部隊』って言ったよね」
ビンゴ。
「はい。言いましたね」
「地球外生物対策本部には戦闘部隊、開発支援部隊、救急研究部隊、そして自立型人工知能の
最後のやつが気になるが、俺はそのまま話を聞いた。
「まず、俺たちが所属している戦闘部隊は、文字通り地球に害を与える宇宙人を撃退するための部隊。そして君が所属するであろう部隊でもある。人数は約100名程度。役職は上から順に総督、教官、隊員の3つしかない。総督とは俺たちの責任者みたいなもんかな。俺たちに命令を下したり、最終的に誰が撃退に向かうかを決めたりする役職。そして教官とは……まあそのままの意味なんだけどね。戦い方とか教えたり、訓練の指揮を執ったり、武器の扱い方を指導する役職。まあ元々武術や、剣術、銃の扱いにおいてプロ級の人たちをスカウトするから、あんまし教えることなんてないんだけどね。一応ってことで作られたもんだし」
「え? てことは俺って……」
「異例中の異例ってとこかな」
マジかよ。本当に俺なんかが……ダメだ。今日決意してきただろ。だったら俺がそのレベルまで到達すればいいことだ。うんそうだ。絶対に……うん。
「じゃ、進めるけど、教官は全員で5人。更に教官は扱う武器によって1人ひとり違う。まず、拳や蹴り主体で戦う者の教官をするのが体術教官。昨日いたレオがそうだね。そして、剣などの刃物を用いて戦う者の教官をするのが剣術教官。打撃武器を用いて戦う者の教官をするのが打撃教官。銃を用いて戦う者の教官をするのが銃撃教官。そして、最後に特殊教官の俺」
「あのー……特殊教官って何が特殊なんですか?」
「やっぱり気になるよね」
「そうですね」
「んー……ただ単に複数の武器種を使えるってだけなんだけどね。ま、あんまし特殊とかそういうのはどうでもよくて教官であることに意味があるんだよ」
「意味ですか……」
「そう。教官だけは一人で任務に当たっても良いっていうのがあるんだ。通常、任務の時は絶対にグループで行動しなくてはならないんだ。1人での任務はとてもリスクがあるし、危険だからね。だが、教官のみは一人で行動することが許されてるんだ」
「てことは、教官とそれ以外の隊員ではかなりの実力差があるってことですか?」
「そゆこと。正直言って圧倒的な差があるね。技術的にも、そして経験的に見ても」
「やっぱりシンさんはこの組織に来てからもう長いんですか?」
「そうだね。13歳ごろからだから……もう20年は経つね」
すげー。シンさんってとんでもなくすごい人なんじゃね。シンさんって何が……
「シンさんは何がきっかけでこの組織に入ったんですか?」
「……ある人に救われてね。それがきっかけかな」
そう言って、俺の顔をジーっと見てきた。俺は思わず視線をそらしてしまった。すると、シンさんは少しハッとし、コーヒーを一口飲んだ。
「じゃ、次は開発支援部隊の話に移ろうか。この部隊にいるのはスタール人と言った宇宙人でね、俺たち人間と見た目は全く変わらないが、とても高い知能を持っているんだ。あと絶対にオッドアイ」
え、カッコいい。
「文字通り、いろんなものを開発している。例えば、俺たちの武器や、戦闘に用いるための道具とか、もう本当に組織にあるもの全てこいつらが作ったと言っても過言じゃないね。流石に俺たちも生身じゃ凶悪な地球外生物に勝つことはできないからね。ここには本当にお世話になってるよ。要望があれば、戦闘に役立つものとか作ってくれるよ」
すげーカッコいい。
「次は、救急研究部隊だね。ここもスタール人が担当してるんだ。ここは俺たちがけがをした時にお世話になる場所だね。怪我に合わせて適切な処置や薬を処方してくれる。あとは薬の研究とかもしてるね。ここに行けば、切られた腕だって1週間あれば再生できるから、本当にすごいよ。昔はけっこうお世話になったよ」
凄すぎだろ。そして、シンさんの過去もすげー……
「最後に自立型人工知能のAIのことだね」
うん。気になってたやつだ。
「こいつの役割は、情報の記憶、共有、伝達、管理、そして地球外生命体の確認や察知など、あらゆることを担っている。正直こいつ1人ですべてのシステムを動かしているようなもんだね。その他には隊員一人ひとりの体調管理とか、安否確認もこいつの役割だ」
めっちゃカッコいい。
「あとこいつ自我も持ってるから、あんまし人工知能っぽくないけどね。君もこの前俺とAIが喋ってるところ聞いただろ?」
そう言えば、転送するときシンさんの耳元から女性の声が聞こえたけど、そういえば、シンさんAIって言ってたな。
「あのシンさんの耳元から聞こえたあの落ち着いた感じの女性の声のことですか?」
「そうそう。人工知能っぽくなかったでしょ」
「そうですね」
AI……超すげー。
シンさんはにっこり笑うと、コーヒーを全て飲み干し、少し目を閉じた。
「じゃ、そろそろ君の今後の方針について話そうか」
そう言って、シンさんはゆっくりと目を開けた。