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結人と夜月の過去 ~小学校一年生②~




昼休み


「結人ー!」
この学校へ来て、初めての昼休み。 早々、理玖は結人のもとへ駆け寄ってきた。 
互いの席はそんなに離れてはいなく、結人から見て左隣の列の二個斜め前に理玖の席がある。 彼は授業中静かなわけではないが、自ら挙手をしたりする積極的な少年だ。
それを見て、結人は“自分とどこか似ているな”と感じていた。
「結人、一緒に遊ぼう!」
「うん、いいよ」
その誘いを素直に受け入れる。
「何して遊びたい? というか、結人は何が好き?」
「んー・・・。 僕は運動が好きかな」
「運動? 僕も好き! じゃあ、運動するなら何が好き?」
やはり二人は似ているのか、一緒にいて心地いい。
「運動ならどれも好きだなぁ・・・」
「そっかぁ。 体育館ならバスケができるし、外ならサッカーやドッジボールもできるな!」
「そうだね。 何をして遊ぼうか」
理玖と話しながら居心地のよさを感じていると、ふと聞き慣れない声が結人の耳に届いてくる。

「理玖ー!」

「? あ、未来! 悠斗!」

違うクラスにもかかわらず、教室の中へ堂々と入ってきた少年二人に理玖は手を振った。 
そんな光景を不思議そうに見つめていると、一人の男子が結人に向かって笑顔で口を開く。
「もしかして、君が噂の転校生かー?」
「噂?」
その言葉にキョトンとした表情を見せると、彼はなおも笑顔を絶やさずに言葉を返してきた。
「隣に明るくて元気な男子が来たって、俺のクラスでは騒いでいたんだよ。 まさか理玖と一緒にいたとはな」
「えっと・・・」
一方的に話しかけられ戸惑っていると、その少年も察してくれたのか早速自己紹介を始める。

「あ、俺の名前は未来。 関口未来って言うんだ」

「僕の名前は中村悠斗。 よろしくね」

未来に続けて、彼の隣にいる物静かそうな少年も続けて自己紹介をしてくれた。 これが――――未来と悠斗との、初めての出会いである。
そんな彼らを見てどこか安心した結人は、自分も笑顔で名を名乗った。
「僕は色折結人。 こちらこそよろしく」
名を聞かされた未来は、結人と同じく一瞬でキョトンとした顔を見せる。
「シキオリユイト? 変わった名前だな。 なんつーか・・・女子みたい!」
「それ未来が言うか?」
「未来なんて名前はたくさんいるぞ!」
「いないよ」
笑いながら突っ込んできた理玖。 そんな彼らの会話に、結人は思わず微笑み返した。
「僕のことは悠斗って、下の名前で呼んで。 呼び捨てで大丈夫だから」
二人の話に割り込み、悠斗が優しい表情で言葉を紡いでくれる。
「あ、俺も! 俺のことも未来って呼んで」
「うん、分かった! じゃあ僕のことも、下の名前で呼び捨てでいいよ」
結人も彼らと同じように、そう言うが――――そこで未来が、口を挟んできた。

「んー。 結人でもいいんだけど、名前が悠斗とちょっと被るんだよなー・・・。 そうだ! 結人のことは、ユイって呼ぼう!」

「え、ちょっと待ってよ! 僕たちは下の名前そのままで呼び合おうって約束したのに、それだと結人だけ仲間外れになるじゃんか!」
反論してきた理玖に、未来は構わず言葉を続けていく。
「紛らわしいから仕方ないだろー? ユイだと理玖と同じで二文字だし、呼びやすい!」
「うん、僕は構わないよ」
「えー」
結人が頷くと、理玖はふてくされた態度をとった。
「じゃあ、僕もユイで」
悠斗のその発言にも頷く。 ここで一度話が途切れると、今度は結人から未来たちに質問をした。
「二人は、一緒のクラス?」
「あぁ。 隣のクラスだぜ。 悠斗とは小さい頃から仲がいいんだ」
「そうなんだ」
「もっと言えば、俺たちは0歳の時から一緒にいたんだ!」
「それは流石に言い過ぎだろ」
未来が結人に向かって指を差しながら決まったかのようにそう言うと、すかさず入ってくる理玖の突っ込み。
「言い過ぎじゃない、本当だって! 俺の母さんが言っていたし」
「それはどうかなー」
「なッ、俺の母さんの言うことが信じられないっていうのか!」
「別にそういう意味じゃないけど」
理玖は未来に向かって苦笑した。 彼らのくだらない会話でさえも、結人は心地よく感じる。 そんな理玖を横目に、未来は結人に向かって口を開いた。
「だからまぁ、悠斗とはつまりあれだ! えーっと・・・」
「幼馴染?」
「あぁ、そう! それ! 幼馴染! まだ俺たちは小1だけど、これから先も悠斗と離れる予定はないし、幼馴染みたいな感じかな」

―――幼馴染、か・・・。
―――だったら僕と真宮も、そういう関係になるのかな?

未来と悠斗の関係を羨ましく思うと、続けて結人は理玖に質問する。
「理玖は、未来たちとも仲がいいの?」
「うん! というより、僕と夜月、未来と悠斗の4人で、いつも一緒に遊んでいるんだ」
「そうなんだ」
「休み時間も一緒に遊んでいるし、帰りも一緒なんだよ。 なんてったって、僕たちは幼稚園の頃からずっと一緒なんだからな!」
幼稚園から小学校1年生までの期間は短いが、その言葉に笑みを返す。
「あ、そうそう。 帰りは必ず一緒なんだ。 というより、一緒に帰ることが約束になっているんだ」
「それは、どうして?」

「僕たちの仲が崩れないようにだよ。 たとえこの4人の中で喧嘩が起きたとしても、帰りは絶対に一緒。 誰一人欠けないようにな」

「そっか・・・」
彼らの友情は想像以上で、少し気分が沈んだ。
―――こんなに仲がいい理玖たちの中に、僕なんかが入ってもいいのかな・・・。
4人という偶数のこともあり、そのことについて考え暗い表情になっていると、理玖は察してくれたのかこう言葉を綴ってくる。
「今日から結人も、僕たちと同じグループだぜ! 言っておくけど、僕の言葉には拒否権なんてものはないからな!」
「え、でも・・・」
「おい、いつから理玖の発言が絶対になったんだよ!」
「別にいいだろー?」
返事に困っていると、今度は未来が理玖に突っ込みを入れた。 そんな彼らのやり取りを無視し、結人は先程の言葉を受け入れようとする。
「理玖、本当にいいの・・・?」
「うん、もちろん! 結人なら大歓迎だ!」
「ありがとう!」
そう返してもらうなり、満面の笑みで礼を言った。 横浜の学校へ来て早々、たくさんの友達ができた。 そのことが何より、結人は嬉しく思っている。
「あれ、そういや、肝心の夜月はー?」
突然未来はそう言いながら、教室全体を見渡した。 そんな彼につられ、他のみんなも夜月の姿を探し始める。
「え、夜月いないの?」
「夜月はふらーっとどこかへ行く癖があるから、理玖ちゃんと見張っておけよ」
理玖が、夜月がいないことに素直に驚くと、未来は呆れながら言葉を返した。
「休み時間になったら、いつも夜月から僕のところへ来てくれるんだけどなー・・・。 トイレにでも行ったのかな」
「ま、そのうち戻ってくるかー。 なぁ、ユイは何のスポーツが好き?」
「え?」
突然夜月からスポーツの話題に変えられ、結人は思考が追い付かず言葉に詰まってしまう。
「あ、それはさっき僕が聞いた!」
「なッ!? もしかして理玖、ユイと二人で遊ぼうとしていたのか!」
「だって未来たち、来るの遅いから」
「ちゃんと来ただろ! せめて俺たちも誘ってくれ!」
理玖と未来のやり取りを聞いて、隣で悠斗は小さく笑った。 そんな彼らをよそに、結人は夜月の席へ視線を向ける。

―――夜月、くん・・・。

周りにいる友達が楽しそうに笑っている中、結人だけはその席を不安そうに見つめていた。


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