第十九話 夢
その後、焔は糸が切れたかのように前方に崩れ落ちた。倒れこむ焔をそっと龍二が支える。顔を見ずとも焔は龍二だとわかった。汗でびしょ濡れの体、筋肉の痙攣、自然と龍二の腕には力が入る。
弱々しい声で、焔は龍二に問いかける。
「レッド……アイは?」
「気絶してるよ」
黙々と答える。
「終わったんだな……」
「ああ」
「俺……頑張ったよな」
「ああ……」
「俺……綾香を、皆を……守れたかな……」
「ああ……!! 俺も綾香も皆も無事だ!! 全部お前のおかげだ!! お前が!!……焔が、ここにいる皆を守ったんだ……!!」
次第に龍二の口調が力強くなる。その言葉を聞いた途端、焔の目から涙がこぼれる。
「ありがとう……龍二」
「それはこっちのセリフだ……ありがとう、焔!!」
次第に薄れゆく意識の中、窓が割れたことを思い出し、自然と隣の棟に顔を向ける。
ぼんやりとだが、屋上に2人いるのが見えた。一人はこちらに向けて手を振っていた。
ここで、焔は力尽き目を閉じた。
―――「勝負あったみたいだね」
「『勝負あったみたいだね』じゃねーよ!! お前が石投げて外した時は焦りまくったぜ。お前でもミスすることあるんだな」
「あー、あれ? あれはミスじゃないよ。わざと外したんだ」
「は?……お前まさか、あいつのことを試したのか?」
シンはニヤッと笑う。
「試した……というよりかは、確かめたの方がニュアンス的に近いかな。彼が俺の思い描く人物なら必ずレッドアイの隙を見逃さないと確信していたからね。たとえ一瞬だったとしてもね」
「はー、そうかよ。で、結果的にあいつはお前の思った通りの奴だったってわけか」
「当たらずも遠からじって感じだね。俺、実はもう一個石持ってたんだよね」
「ということは、お前あいつがレッドアイを倒すなんて思ってなかったってことか?」
「重い一撃を入れてくれるとは思ってたんだけどね。まさかアッパーをお見舞いするとはね。正直びっくりしたよ」
シンは苦笑いを浮かべる。レオはため息をつく。
「で、やっぱあいつを誘うのか?」
「ああ、果然興味が湧いたね。判断力の速さ。格上に対しても物おじしない度胸。仲間を絶対に守るという姿勢。そして天性の才能。育てれば、必ず俺たちの力になってくれるよ」
「だが、まだまだ課題は山積みだ。ちゃんと使い物になるようにしろよ」
レオも焔を誘うことに反論はしなかった。むしろ楽しみにしている、そんな顔をしていた。
「もちろんだ……よし、そろそろ帰ろうか」
「そうだな」
そう言うと、シンは耳に付けていた小型の通信機を触った。
「AI(アイ)、任務は終わったよ。今から帰還したい。転送を頼む」
「わかりました。座標確認。転送準備に入ります。10秒後転送開始します」
「了解。あと、一つ仕事を頼みたいんだけど、いいかな?」
「大丈夫ですけど、その仕事っていったい何ですか?」
「ある人物のことを調べてほしいんだ。レッドアイが現れた高校の2年1組のおそらく焔という名前だと思うんだけど……頼めるかな?」
「お安い御用です。では、転送準備が整いました。転送開始します」
すると、見る見るうちに2人の体は消えていった。その際、最後までシンは焔のことを見ていた。
その後、クラスの複数人の生徒が職員室に行き、何が起こったかを先生に伝えた。すぐに警察に連絡。レッドアイは逮捕された。意識が戻らなかったので、念のため警察病院に連れていかれた。焔も、意識が戻らなかったので、近くの病院に搬送された。意識を失っている中、焔はある夢を見た。それは小学4年生の頃、将来の夢について話しているときの記憶だった。